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2018
03.23

幸せの前ぶれ ~続・雨の約束~ 

「アナタハ カミヲ シンジマスカ?」

つくしは、そう言って声をかけて来た怪しげな人間を無視して手首の時計に目を落すと歩くスピードを上げた。そして隣で歩く女に声を掛けた。

「もう……遅いんだから…何やってるのよ。先方との約束は13時でしょ?化粧直しに時間取られてる場合じゃないでしょ?ほら。早く!」

「だって先輩。これから向かう会社の副社長って凄い有名な人なんですよ?お金持ちで美形で背が高くて、知ってます?足なんて凄い長いんですよ?こーんなに長いんですよ?それにお金持ちの規模だって日本一ですよ?世界でも上位20に入るんですよ?そんな人に会いに行くのに口紅を塗り直すくらいいいじゃないですか。本当ならファンデーションも全部落として初めから塗り直したいくらいなんですからね?それに言わせて頂きますけど、私は先輩のその無頓着さが信じられません!先輩こそ口紅塗り直して下さいよ!そんなんじゃ逆に相手に失礼です。それに、これから人に会うって言うのにどうして昼食にペペロンチーノが食べれるんですか?せめてミートソースにして下さいよ?あれなら匂わないじゃないですか」

足がこーんなに長いと自分の身体を使って男を形容する女は、塗り直し桜色になった唇の形を不満げに変えた。


つくしは、グラフィックデザイナーとして広告代理店から依頼を受け、打ち合わせのためクライアントである会社に向かっていた。
そして彼女の助手として付いて来たのは、同じ事務所で働いている三条桜子。
二人が向かっているのは、目の前にそびえ立つ地上55階建ての道明寺ホールディングス日本支社。春の陽射しを受けたビルは輝いて見えた。


「あのね。ミートソースはソースが飛び散るかもしれないからダメ。だからペペロンチーノにしたの。それに私は顔で仕事をしようなんて考えてないの。いい?桜子。仕事は頭でするもの。顔じゃないの。それに相手だって仕事相手に顔を求めてるわけじゃないでしょ?
いくらこれから行く会社の副社長が美形の男だからって、頭が良くなきゃ副社長なんてやってられないでしょ?それにその人アメリカ帰りでしょ?仕事に性的なことを持ち込めばセクハラになるってことも理解してるはずよ?だから口紅が少しくらい落ちてても何も言わないし、気にしないわよ。それにニンニクの匂いなんて近寄らない限り分からないから大丈夫。それより時間に遅れる方がビジネスにはマイナスよ!だから急いで!」

そう言って桜子を急がせる女は、肩に掛けた鞄をかけ直す仕草をした。

「わ、分かりましたから!それにしても先輩ったら仕事ばっかりで男のことに興味ないんですか?そんなんじゃ行き遅れになりますよ?」

「何言ってるのよ?男なんて星の数ほどいるんだから、そのうち自分に一番合う人に巡り逢うわよ?だいたい桜子は目移りし過ぎなの。いい加減一人の人に決めなさい?あっちもこっちもじゃ、あんたいずれ刺されるわよ?」

三条桜子は、細身だがダイナマイトボディの持ち主で色気がある。
そしてその色気でどんな男も手玉に取ると言われる美貌の持ち主だ。
だから、すれ違う男性の視線は桜子に向けられているが、彼女はそれが当然といった顔で全く気止めることはない。それに桜子は、相手から言い寄られるよりも、自分から仕掛けに行く所謂肉食系女子と言われるタイプで、ここぞという時は、狙った男を完璧に仕留める女だ。

「ご心配には及びません。私は男とは節度をもって付き合ってますから。それにそんなこと言いますけどね?先輩は真面目過ぎて男と付き合わないじゃないですか。言わせていただけば、先輩はもう少し男に興味を持った方がいいと思います。それに先輩は分かったような口の利き方をしますけど、男性経験なんて無いでしょ?後生大事にとは言いませんけど、いつまでもバージンを守ってるようじゃ人生の一番いい時が失われてしまいますからね?それに男がいない人生なんて楽しくないじゃないですか?」

つくしは、足早に歩きながら桜子の言う節度を知りたいとは思わなかったが、隣を歩く女の言葉に決然と言った。

「別に男がいなくても楽しいわよ?男だけが人生じゃないもの」

「またそんなこと言って。先輩は人生の半分を無駄にしてます。
いいですか?人生の半分は睡眠ですが、それを除いた残り半分の時間はとっても大切な時間ですよ?それを仕事ばかりしてどうするんです?この前だって休日を返上して仕事したんじゃないですか?それはデートする相手がいないからですよね?いいですか、先輩。人は愛し愛されるからこそ楽しい人生を送ることが出来るんです。先輩もその気になれば恋が出来るはずです。だからその気になって下さい。なんなら私が誰かお世話しましょうか?男と対等に働きたいって気持ちも分りますけど、先輩は女なんですからね?時に男を頼ってもいいんですからね?」

また始まった。
つくしは桜子の説教とまでは言わないが、恋をしろという言葉は耳にタコが出来るほど訊かされていた。それに桜子の言う通り29歳のつくしはバージンで、男と女の関係については疎い。けれど別にそのことが悪いとは思ってはいない。
それにいつか運命の人に出会えることを夢見ている。
だがそれを桜子に言えば笑われるに決まっている。だから言わなかった。


いつかきっと会えるから。

誰と会えるのか分からないが、時々夢に現れる人が言うその言葉が好きだった。
そしてその人と出会えば、名前など知らなくても、二人とも互いが互いに求めている人だと分かるはずだ。

つくしが密かに夢の中の恋人と呼んでいる人の顔は分からないが、低く優しい声をしていた。そして近くに行くことは出来なかったが、背の高い人だということは分かる。

いつかきっと会えるから。

その人がそう言うのだから、いつか会う日が来ると信じていた。
きっと二人は出会うことが約束されているはずだから。










二人は道明寺ビルのロビーに足を踏み入れたが、そこでつくしの足が止った。

「桜子。ごめん。ちょっとこれ持ってて」

と言われた桜子は、つくしが肩から掛けていた鞄を受け取った。
そしてつくしがスーツの上着の左右のポケットに手を入れ何かを探す様子を見ていた。

「先輩どうしたんですか?何か忘れ物ですか?」

「うん。無いのよ?おかしいな.....確かここに入れたはずだったんだけど」

「何を入れたんですか?」

「うん。これから向かう場所を書いた紙。おかしいわね?確かにここに入れたんだけど」

「先輩。それならどこかの会議室じゃないですか?それにたとえ場所を忘れたとしても、受付けで聞けばどこで何があるか教えてくれますから大丈夫です。先輩って変んなところでおっちょこちょいというか、慌てますよね?大丈夫ですから。さあ行きましょう」

そう言われ、それまでつくしが先を歩いていたが、そこから先はまるでつくしが後輩か付き添いかといった風に桜子が前を歩き出し、つくしが後ろを歩き出そうとしていた。
その時だった。
後ろから風が吹き、自動ドアが開いたのか感じられた。
そしてふわりと春の風が吹き込むと同時に深呼吸した瞬間、感じられた微かな香り。
それまでロビーに満ちていた声はどこかに吸い込まれるように消え、その場にいた人間の視線がつくしの後方に動いたのが感じられた。
だからつくしも振り向いた。するとひとりの男がこちらに向かって歩いて来ていた。
そしてその後に続く大勢の男たちがいた。

だが誰もがひとりの男に注目していた。
それは先頭を歩く背の高い男。
印象的な切れ長の瞳と癖のある黒い髪が特徴的。
長い脚で力強く歩く姿は自信に満ち、自分の前に立ちはだかる人間はなく、神のように振る舞うことを許されたといった態度。
そしてつくしはその男と目が合った。
それは数秒という短い一瞬。
だがその瞬間、何かが甦った気がした。
不思議な気持ちがした。
世界が広がった気がした。

そして男も彼女に視線をしっかりと合わせた。
その表情は平静で瞳は彼女を見ているようで、見ていないように感じられた。
だが次の瞬間、男の表情が変わった。
笑ったのだ。
だがそれは、僅かに唇の両端を上げた程度。


「牧野先輩!先輩!早くして下さい。打ち合わせ始まっちゃうじゃないですか!遅れるって心配してたのは先輩でしょ?ほら早くして下さい!エレベーター閉まちゃいますから!」

「えっ?う、うん。い、今行くから!」

気付けば桜子はエレベーターの前でつくしを呼んでいた。
そしてつくしの横を通り過ぎようとしていた男は、何故か突然彼女に近づくと耳元に口を近づけ言った。

「お前、ニンニク臭いな。あの店のマルゲリータは美味いが仕事前にペペロンチーノは止めた方がいいな」

「え?」

それは一瞬の出来事。
きょとんとした顔をした女は、遠ざかって行く男の背中を見送った。









二人の人生が過去から綴られているなら、それは幾億もの夜を越え繋がっている。
そしてそれを運命というのなら、過去が哀しみや切なさが溢れたものだったとしても、これからの二人の間には、穏やかで幸せな時の流れがあるはずだ。


恋は何度してもいい。
それが過去から決められているなら、なおさらいい。
それにたとえ問題があったとしても、それを乗り越えることが恋の醍醐味だ。
だから二人はこれから恋をする。
少なくとも男の方は既に恋におちていた。

そしてそれは、二人は永遠の恋におちると前世から決められた運命だから。
二人の運命の歯車は、たった今、回り始めた。





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コメント
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dot 2018.03.23 07:25 | 編集
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dot 2018.03.23 11:32 | 編集
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dot 2018.03.24 01:00 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
こちらのお話しは「続」ですがこれにて終了です。
この先はご想像にお任せします!(笑)
美容と恋愛に煩い桜子。
仕事に邁進するつくし。
そして過去の記憶を持った(?)男、司。
生まれ変わった3人は楽しそうです!(笑)
アカシアdot 2018.03.25 00:51 | 編集
s**p様
生まれ変わったふたり。
そして司はつくしを見つけました。
今度はニンニクパワーで長生き!(≧▽≦)
きっと今度は長生きです!
今月は短編月間です!もうね、今は考える頭がないんです(笑)


アカシアdot 2018.03.25 00:55 | 編集
ま**ん様
生まれ変わったふたり。あ。桜子もですね?(笑)
新しい世界で生きているふたりは、これから運命の恋が始まるようです。
今度は共白髪まで(笑)
はい。きっと大丈夫です。
え?ペペロンチーノはダメ?そうですよね?
やはり匂いますよね?
司に笑われたようですが、彼は過去の記憶があるようです(笑)
これはつくし、逃げられませんね!(笑)
アカシアdot 2018.03.25 01:00 | 編集
H*様
はい「続」は未来のお話しです。
ふたりは生まれ変わり新しい人生を歩んでいるようですが、出会いました。
そして桜子も一緒です(笑)
桜子はつくしの無頓着さに呆れているようですが、恋を応援することでしょう。
生まれ変わっても必ず出会い恋をするふたり。
運命の恋人同士ですからねぇ(笑)
ふたりの恋は永遠ですね?^^
アカシアdot 2018.03.25 01:05 | 編集
さ***ん様
運命の人と出会ったふたり。
でもつくし気付かず。司は前世の記憶があるのか?(笑)
「あの店のマルゲリータは美味いが」といった台詞が出ました。

なるほど、なるほど。
気付いていたのは、そういったところからだったのですね?
小出しにしていきましたが、疑念は深まるばかりだったということですね?
司から電話は出来るがつくしからの電話は繋がらない。
もし繋がったとすれば、どこに繋がっていたのでしょうね・・。
あちらの世界のどこかで呼びたし音が鳴り続ける。
それを取る男は姿がない。
あれ?どんどんホラー化しているような・・。
でも司のことですから、どこの世界にいても彼女を求めるんでしょうねぇ(笑)
このようなお話しになりましたが、こちらこそ楽しんでいただけて嬉しいです。
何度でも同じ人と恋をするふたり。
今後もそんなふたりが出て来るかもしれません(笑)
その時は、あまり多くを語らないアカシアがいるかもしれません(笑)
アカシアdot 2018.03.25 01:17 | 編集
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