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2018
03.18

雨の約束 3

「あら。牧野さんもお酒を嗜むのかしら?お茶じゃなくてお酒の方がよければ、ウィスキーの水割りでも作りましょうか?」

「いえ。私はお酒を飲みませんのでお茶の方がありがたいです」

つくしはバーカウンターの傍にいたが、三条桜子の申し出を断るとソファまで戻り腰を下ろした。
それにつくしはお酒が苦手だ。だから忘年会や送別会といったものでも、初めの一杯だけは付き合い程度に口をつけるが、二杯目からは遠慮している。

「そう?じゃあお茶にしましょうよ。ね?牧野さん。それから今日はどうしてもあなたに会いたいという方がお見えなの」


そう言った三条桜子の後方の扉が開き現れたのは、目の鋭い背の高い男性。
一瞬でその場の空気が変わるという言葉があるが、それはその人が持つ雰囲気、つまり風格がそうさせるのだが、まさにオーラがあるという言葉がその男性にはピッタリだった。
そして女二人しかいなかった広い部屋は、その男性が現れた途端空気が変わったように感じられた。

「あなたでしたか。うちの秘書の具合が悪くなったところを助けて下さったのは」

しっかりした足の運びで近づいて来たスーツ姿の男性は、つくしの前まで来ると、真正面の椅子に腰を下ろした。

「あの….」

「いきなり申し訳ない。私は道明寺司と言います。彼女の、三条の上司です。三条は元々身体が弱かったこともあり、貧血を起こすことがありましてね。助けて頂いた日も立ち眩みを起したそうですが、あなたは三条の我儘に付き合い暖かいお茶をご馳走して下さったそうですね。社に戻った三条は、見ず知らずの自分に親切にしてくれたことにいたく感激していましてね。私にもあなたのことを話してくれたんです。それなら私も彼女の上司としてあなたにお礼を申し上げたいと思い、今日こうしてこちらへ足を運ばせて頂きました。いや。突然私のような者が現れてはご迷惑ではと考えましたが、やはりご迷惑でしたか?」

「いえ。そんなことは…..」

そうは言ったが、突然現れた道明寺司に驚いた。
各界に著名人と言われる人物は数多くいるが、目の前に現れた人物はビジネス界では最たるものだ。
本人を間近に見るのは勿論初めてだが、その圧倒的な存在感は今まで感じたことがなく、身体がすくむではないが動くことが躊躇われるほどだ。
それに扉から現れた時、鋭い目に怖さを感じた。だがつくしの真正面のアームチェアに腰を下ろした男は、低くよく通る声の持ち主で、それは思いもしなかった優しさを感じさせる口調だった。
そして自分を見つめる真っ直ぐな視線をかわすことは出来ず、否応なく見つめ合う形になっていた。

「道明寺副社長。牧野さんが緊張していらっしゃいますよ。彼女私がお話しした通り可愛い方でしょ?とても私と同じ年だとは思えませんよね?」

「ああ。そうだな。牧野さんはまだ20歳くらいに見える。とても君と同じ33歳だとは思えないよ」

「まあ道明寺副社長。随分と失礼なことをおっしゃいますね?私だって見方によっては20歳にだって見えますから」

三条桜子は道明寺司の隣のアームチェアに腰を下ろし、運んで来た磁器製のポットから、紅茶をカップに注いたが、立ち昇る香りはあの時と同じアールグレイだった。
そして可愛いと言われてつくしは困惑した。手渡されたカップの茶色い液体に自分の顔が映っているとすれば、赤くなっているはずだ。

そして副社長と秘書の会話は和やかで、感じたのは、このふたりは恋人と呼べる関係ではないかということだ。
人形のように美しい顔した女と、モデルのように抜きんでた容姿を持つ男。
旧華族の家柄の女と、大財閥の家の男。二人とも世間が夢見る要素を持つ人間。
そう言えば、先ほどマントルピースの上で手をとったライターに刻まれていたイニシャルは『T・D』だった。それは彼のイニシャルだと思った。男がライターを忘れ、そのままになっていると感じた。

「牧野さん。道明寺副社長は時々酷いことを言うんですよ?でも気にしないで下さいね。私に対して口が悪いのは昔からなんですよ。さあ、どうぞ召し上がって。お茶は熱いうちに召し上がらないと冷めては美味しくないもの」

そう言われカップを口元へ運びひと口飲んだが、昔からと言った三条桜子の言葉に、この二人はやはり長い付き合いなのだと思った。
そして口へ運んだ紅茶は、心が弾む幸福な香りがした。だからその思いをそのまま口にした。

「美味しい・・これ本当に美味しいです」

「そうでしょ?美味しいでしょ?」

「ええ」

「このアールグレイ。特別な農園で作られたお茶の葉を使っているの。そうですよね?道明寺副社長?」

「ああ。これは特別な農園で特別な人の為だけに栽培された葉を使った」

つくしを真っ直ぐに見つめながら放たれた言葉。
そして特別な人の為だけに栽培された葉という言葉に心が動いた。
その意味を知りたいと思う気持が押し寄せて来たが聞かなかった。
やはりこの二人は恋人同士なのではないかといった気がしたからだ。
だが男が放った言葉のニュアンスは、三条桜子が彼の言う特別な人には感じられなかった。それならこの二人は恋人関係ではなく、ただの上司と秘書ということだろうか。

そしてその時、感じた。
テレビや雑誌では見た事がある男性は、初めて会う相手だが、どこかで見かけたことがある。
曖昧ではあるがどこかで会ったことがある。具体的なことは分からないが、何か引っ掛かるものが確かにある。
そう思いながら熱い紅茶をゆっくりと口にしたが、ベルガモットの柑橘の香りと、すっきりとした味わいが感じられ本当に美味しいと感じられた。

「ねえ。牧野さん。突然だけどあなたお付き合いしている人はいるの?」

「え?」

「だから牧野さんお付き合いしている人はいるの?」

いきなりプライベートなことを訊かれ、答えに躊躇した。
偶然知り合った三条桜子。そしてそういった個人的なことを訊くほどの関係ではない相手への質問としては適切とは言えないはずだ。だが目の前の女性はつくしの躊躇と困惑を消し去ろうとするような柔らかな笑みを浮かべたが、その微笑みは多くの男性を虜にする笑みだ。恐らく彼女ににこやかにほほ笑みかけられれば、どんな男性でも気持ちが動くはずだ。何でも彼女の言う通りにするはずだ。そして女性であるつくしも何故か簡単に答えを返していた。

「いえ。…いません」

「そうなの?でも牧野さん可愛いからいたでしょ?それとも、もしかして最近別れたとか?」

「あの。そういったことではなく、私誰かと付き合おうといった気にならなくて…」

そう曖昧に答えながら、真正面に座る男性の瞳を意識しない訳にはいかなかった。
どこかで見た瞳。どこかで会った気がする。それがいつどこだったのか。
そんなことを考えながらカップを口に運んだが、それから少しすると眠気が感じられ、真正面に座る男の顔が横に流れたように歪んでいた。





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コメント
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dot 2018.03.18 09:04 | 編集
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dot 2018.03.18 13:26 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.03.18 16:17 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
えっ?ミステリーで妄想を許さない話?
そんなことはないですよ(笑)
分ったらすぐにコメント下さるんですね?
楽しみにお待ちしております!
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.03.18 21:10 | 編集
H*様
おはようございます^^
「?」が沢山なんですね?
司の登場で盛り上がるといいのですが、果たしてご期待にお応えできるお話しになるのか....
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.03.18 21:16 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
色々と疑問がありますよね?
でもこちらのお話しは短編ですからすぐ終わります。
つくし命の桜子!そうですよね。彼女つくしのためなら何でもしてくれますね?

3月。全般的に忙しい月ですので、山場は...え~今週来週でしょうか。
睡眠時間は大切ですよね?若い頃は無理が出来ても、年齢を重ねるごとに睡眠不足は身体に堪えます。
そして寒暖差が激しいのも堪えます。
司*****E様もお身体ご自愛下さいませ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.03.18 21:26 | 編集
か**り様
>3話になってもミステリアスな空気。
色々と疑問がありますよねぇ。
そして何やら怪しい展開ですか?(笑)
しかし、こちらのお話し短編ですからすぐそこに...
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.03.18 21:35 | 編集
イ**マ様
えっ?不思議な展開?(笑)
でもこのお話しは短編ですからすぐに終わります!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.03.18 21:42 | 編集
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