冬の雨は気温が下がると雪になった。
雪に慣れてない都会の人間は、足元を気にしながら滑らないように歩く。
そしてその姿はぎこちない身体の動きをする。
都会の雪というのは、大概前日の夜に降り朝になれば止んでいる。
だが今年の冬は思いのほか雪が多く降った日があり、街が真っ白に変わったことがあった。
そんな新雪の上をザクザクと踏みしめる感覚は好きだが、やがて薄日が差し始めると雪は溶け、そこに残した自分の足あとが消えてしまうと、雪が降ったことも忘れてしまう。そして道の端に寄せられていた雪も無くなり春を迎えれば、雪の季節はまた一年先のことになり、季節は移り変わっていく。
灰色の空から降る白い雪が、春になれば桜の白い花びらに変わるように。
昼休み、つくしは会社の近くのカフェで食事を済ませ、会社へ戻るため雪が溶けた道を歩いていた。
そして一つ目の交差点で立ち止まり、信号が変わるのを待っていた。
すると丁度その時、隣に立っていた黒いコートを着た女性が胸を押さえ、しゃがみ込んだ。
それは信号が青に変わり、人々が一斉に動き出した瞬間だった。
「大丈夫ですか?」
女性の一番近くにいたつくしは、その女性の隣にしゃがみ込むと声をかけた。
すると、小さな声で
「大丈夫ですから」
と声がした。
そしてその女性が顔をあげ、つくしを見た。
その顔は人形のように整った顔。ひと目見て誰もが美しいと感じる顔。
色も白く、しとやかさが感じられ唇に塗った桜色の口紅がよく似合うと感じた。
「本当に大丈夫ですから」
そうは言ったが、やがて立ち上ったその女性は、足元がおぼつかない様子で、つくしが差し出した手を掴んだ。
「申し訳ございません。ありがとうございます」
と再び言ったが、心配になりどこかでお休みされてはいかがですか、と声をかけた。
すると女性は大丈夫ですから。それでもご親切にと言い歩き出そうとした。
しかし辛そうに顔を歪め、明らかに具合が悪そうだった。
そんな女性に再び大丈夫ですか、と声をかけたとき、
「ごめんなさい。どこか座るところを」
と力のない声で言われ、その女性を連れ近くの喫茶店に入り、血の気の引いた白い顔に何か暖かいものでもいかがですか?と勧めれば、では紅茶をお願いします。と言われ、ウェイトレスにアールグレイを二つ頼むと運ばれて来るのを待った。
やがて暖房の効いた部屋と、運ばれてきた紅茶を口にしたことで、頬に微かに赤みがさした女性は静かに口を開いた。
「本当にありがとうございました。少しめまいがしてご迷惑をおかけいたしました」
そして見ず知らずの人間にご親切にありがとうございますと言われ、気にしないで下さいと言葉を返した。
正面に座る女性は人形のような顔だと感じたが、言葉遣いも、仕草も品格が感じられ、唇と同じ桜色に塗られた指先の動きも美しく、お金持ちの家のお嬢様といった雰囲気があると思った。そしてその女性は、自分と同じ年頃だとつくしは感じていた。
「私、三条桜子と申します。本当にご親切にありがとうございます。ぜひこのお礼がしたいのでよろしければ次の日曜日、私の自宅へ遊びにいらっしゃいませんか?美味しいお茶をご馳走させて下さい」
と言ってその女性はバックの中から名刺を取り出し是非ともおいで下さいと言い、にこやかにほほ笑んだ。

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応援有難うございます。こちらのお話しは短編です。
雪に慣れてない都会の人間は、足元を気にしながら滑らないように歩く。
そしてその姿はぎこちない身体の動きをする。
都会の雪というのは、大概前日の夜に降り朝になれば止んでいる。
だが今年の冬は思いのほか雪が多く降った日があり、街が真っ白に変わったことがあった。
そんな新雪の上をザクザクと踏みしめる感覚は好きだが、やがて薄日が差し始めると雪は溶け、そこに残した自分の足あとが消えてしまうと、雪が降ったことも忘れてしまう。そして道の端に寄せられていた雪も無くなり春を迎えれば、雪の季節はまた一年先のことになり、季節は移り変わっていく。
灰色の空から降る白い雪が、春になれば桜の白い花びらに変わるように。
昼休み、つくしは会社の近くのカフェで食事を済ませ、会社へ戻るため雪が溶けた道を歩いていた。
そして一つ目の交差点で立ち止まり、信号が変わるのを待っていた。
すると丁度その時、隣に立っていた黒いコートを着た女性が胸を押さえ、しゃがみ込んだ。
それは信号が青に変わり、人々が一斉に動き出した瞬間だった。
「大丈夫ですか?」
女性の一番近くにいたつくしは、その女性の隣にしゃがみ込むと声をかけた。
すると、小さな声で
「大丈夫ですから」
と声がした。
そしてその女性が顔をあげ、つくしを見た。
その顔は人形のように整った顔。ひと目見て誰もが美しいと感じる顔。
色も白く、しとやかさが感じられ唇に塗った桜色の口紅がよく似合うと感じた。
「本当に大丈夫ですから」
そうは言ったが、やがて立ち上ったその女性は、足元がおぼつかない様子で、つくしが差し出した手を掴んだ。
「申し訳ございません。ありがとうございます」
と再び言ったが、心配になりどこかでお休みされてはいかがですか、と声をかけた。
すると女性は大丈夫ですから。それでもご親切にと言い歩き出そうとした。
しかし辛そうに顔を歪め、明らかに具合が悪そうだった。
そんな女性に再び大丈夫ですか、と声をかけたとき、
「ごめんなさい。どこか座るところを」
と力のない声で言われ、その女性を連れ近くの喫茶店に入り、血の気の引いた白い顔に何か暖かいものでもいかがですか?と勧めれば、では紅茶をお願いします。と言われ、ウェイトレスにアールグレイを二つ頼むと運ばれて来るのを待った。
やがて暖房の効いた部屋と、運ばれてきた紅茶を口にしたことで、頬に微かに赤みがさした女性は静かに口を開いた。
「本当にありがとうございました。少しめまいがしてご迷惑をおかけいたしました」
そして見ず知らずの人間にご親切にありがとうございますと言われ、気にしないで下さいと言葉を返した。
正面に座る女性は人形のような顔だと感じたが、言葉遣いも、仕草も品格が感じられ、唇と同じ桜色に塗られた指先の動きも美しく、お金持ちの家のお嬢様といった雰囲気があると思った。そしてその女性は、自分と同じ年頃だとつくしは感じていた。
「私、三条桜子と申します。本当にご親切にありがとうございます。ぜひこのお礼がしたいのでよろしければ次の日曜日、私の自宅へ遊びにいらっしゃいませんか?美味しいお茶をご馳走させて下さい」
と言ってその女性はバックの中から名刺を取り出し是非ともおいで下さいと言い、にこやかにほほ笑んだ。

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司*****E様
おはようございます^^
今度はどんな短編か?
なんと桜子が出て来ました。
そして短編ですので結末は早いと思います。
それにしても気温の変化が著しく身体が付いて行きません(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
今度はどんな短編か?
なんと桜子が出て来ました。
そして短編ですので結末は早いと思います。
それにしても気温の変化が著しく身体が付いて行きません(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.03.16 22:15 | 編集

イ**マ様
こんばんは^^
今月から復帰でしたよね?そして半分過ぎましたがお忙しそうですね?
お元気になられて本当に良かったです!
いかがですか?元の感覚が甦って来たでしょうか?
え?忙し過ぎてそれどころではない?そうですよね。あれもこれもしなきゃ!と思うと自分の時間は削られてしまいますよね?
そんな中、一気読みありがとうございます。
コメントしながら寝落ち(≧▽≦)
疲れている時は、寝るに限ります!睡眠不足は本当に堪えます(笑)寝溜めしたいです(笑)
そうなんです。こちらは短編です^^楽しんで頂けるといいのですが...
コメント有難うございました^^
こんばんは^^
今月から復帰でしたよね?そして半分過ぎましたがお忙しそうですね?
お元気になられて本当に良かったです!
いかがですか?元の感覚が甦って来たでしょうか?
え?忙し過ぎてそれどころではない?そうですよね。あれもこれもしなきゃ!と思うと自分の時間は削られてしまいますよね?
そんな中、一気読みありがとうございます。
コメントしながら寝落ち(≧▽≦)
疲れている時は、寝るに限ります!睡眠不足は本当に堪えます(笑)寝溜めしたいです(笑)
そうなんです。こちらは短編です^^楽しんで頂けるといいのですが...
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.03.16 22:27 | 編集
