2018
03.14

確かなこと ~恋におちる確率 番外編~

先輩秘書視点のお話しをとリクエストを頂きました。
よろしければどうぞお読み下さいませ。
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恋をするに遅いも早いもないと申しますが、それは口先だけで本当に恋をすればいい年をして何を考えているのよ。と言われるのが世間一般の意見です。

わたくし野上雅子は、道明寺HD日本支社の秘書課に勤務するベテランと言われる秘書でございます。結婚歴はございません。ですが、それなりの経験といったものはございます。

若い頃は道明寺楓様の秘書として仕え、それから何人かの役員の秘書を務めました。
あの当時、仕えていた役員から息子の嫁にならないか。取引先の企業の息子さんが君に興味を持ったようだと真剣に交際を求められたこともございました。ですがわたくしは、若い頃の恋に破れてからは、仕事一筋の人間でしたので結婚には興味がありませんでした。そして専務秘書となり12年が経ち今に至ります。

そんなわたくしは、秘書室で微笑ましい写真を手にしております。
思い出します。あれは今から2年前。食品事業部・飲料本部・飲料第二部・コーヒー三課から牧野様が秘書課に異動になられると、日本支社の支社長である道明寺司様はお変わりになられました。

道明寺司様と言えば、スラっと背が高く、お顔はお母様の楓様と、既にお亡くなりになられたお父様の一番いいと言われるところを受け継がれ、深みのある声質に、独特の雰囲気を纏った方です。そして笑わないと言われていたお方です。

少年の頃は、やんちゃなお坊ちゃまといった印象が強かった方です。
あの頃の楓様を存じ上げておりますが、我が子を構うことが出来ないことに心を痛めていらっしゃいました。大人になった司様は、颯爽としたお姿が印象に残る方ですが、それでも子供の頃と変わらないどこかやんちゃな部分もお持ちの方です。
女性とお付き合いをしても、心を開くことはなかったお方です。
これは、年長の者だから言えることですが、本当の愛に飢えているといった部分もあったのでしょう。どこか女性を信用できない部分もあったのでしょう。何しろ司様の周りには、お金や地位といったものに重きを置くような女性ばかりがいたのですから仕方がありません。

そのような方がどう変わったのかといいますと、以前の司様の嫌いなものは、仕事の出来ない社員。意思決定の遅い人間。無意味な笑顔。そして女性秘書と申しておりました。
そんな司様がご自分の秘書である牧野様と結婚し、今では一児のお父様になられました。
それは、社内の誰もが驚くことですが、お近くで見ていたわたくしからすれば、当然のことではないでしょうか。

司様が日本支社支社長に着任した頃、いつも硬い表情でいらっしゃいました。
そして帰国した司様に初めに付いた女性秘書は、不味いコーヒーを淹れるといった理由もございましたが、女を前面に出すということですぐに異動になり、それから司様がNYから呼び寄せたのが秘書室長である西田です。何故わたくしが西田と呼び捨てにするのかと言いますと、わたくしと西田卓也は熟年の恋といったものを育んでいるからです。

ええ。皆様も大変驚かれたことでしょう。
司様も牧野様もそれは驚かれました。
ですがそれ以上に驚いたのは、わたくし自身です。
まさかわたくしも自分が恋に落ちるとは思いもしませんでした。

わたくしは52歳。西田卓也は54歳。
そんな二人が恋に落ちるなど誰が思うでしょうか。
それはほんの些細なきっかけなのですが、司様と牧野様がドイツ出張からお帰りになられたとき、お二人の関係が以前とは全く違うものだと気付きました。
何故なら遠い昔。わたくしも感じたことがある男と女の間に流れる得も言われぬ空気といったものがお二人の間にあったからです。


わたくしは、以前から二人は恋に落ちると感じておりましたが、まさかドイツで関係が一気に進展するとは思いもしませんでした。
ですから、以前に比べ親密さが増したことは間違いないのですが、司様の牧野様に、いえ今は結婚されましたので奥様と呼ばせて頂きますが、何故急に奥様に対する態度が、ああも親密に変わったのでしょうかと西田卓也に訊きました。すると奥様がドイツで司様の昔の恋人に酷い目に遭わされたということを訊かされ、そこから何があったのか話しをしているうちに、若い人たちはいいですわね。といった話から意気投合いたしました。
それは天使たちがわたくし達の頭上で祝福のトランペットを鳴らした訳でもなければ、胸騒ぎがしたのでもありません。ただ、自然になんなくと言えばいいのでしょうか。
それが説明としては一番的確なはずです。

それにしましても、まさかこの年になって恋をするとは思いもしませんでした。
わたくし達はふたりとも、好きだという気持を表現することが苦手なのですが、互いを思いやるといった気持ちは間違いなくございます。

そう言えば、奥様が出産のため入院することになり、司様からぬか床を預かって欲しいといった要望があったと西田から訊きました。ですが、わたくしが道明寺家のぬか床に手を入れることなど出来ません。
もちろん、西田からも止められました。ええ。二人とも分かっていました。
ぬか床というのは、奥様の司様に対する愛情の箱だということを。

ですからご友人からも、ぬか床のお世話を断られた司様は、自らぬか床のお世話をなさったようですが、それはそれで新しい発見というものがあったようで、奥様が退院されてからも、時にぬか床の世話をすることがあると伺っております。

それにしても、司様は奥様と結婚されてから本当にお変わりになられました。
食事などご興味がなかったあの方が、今では奥様の手料理だけは本当に美味しいとおっしゃいます。そして奥様の手作りのお弁当をお持ちになることもあります。
それを執務室で美味しそうにお召し上がりになる姿を想像しますと、わたくしも自然と頬が緩み、笑みが零れそうになります。

つい先日も、奥様がお作りになられたビーフシチューのご自慢を西田にされたそうです。
かつて奥様は、食品事業部の中にあるコーヒー三課と呼ばれる部署にいらっしゃいましたが、コーヒーに対する愛情がとても深い方です。
つまりご自分のお仕事に誇りを抱いていたということです。
ですから、奥様はビーフシチューにもコーヒーを使うというお方です。

牛肉を赤ワインとコーヒーに漬け込み、肉にコクを出すといった使い方をされるそうですが、わたくしもそれは存じ上げませんでした。
そしてその漬けタレをベースにソースを作るとおっしゃるのですから、コーヒーに対する愛情は並々ならぬものをお持ちのようです。

「柔らかな牛肉を噛みしめた後、まろやかに広がるコーヒーの味がなんとも言えない」

と司様がおっしゃられたと西田が申しておりました。
誤解のないように申し上げておきますが、西田が何でもわたくしに話すことはございません。西田もわたくしも会社の重責を担う人物の秘書でございます。
ですから、例え二人の間がどんなに親しくても、見境なく喋るといったことはございません。

それにしても、西田から訊くお二人はとても幸せそうです。
とにかく司様は奥様のことが心から好きでたまらないといったことは、誰の目にも明らかです。そして二人の間には、深い愛情と信頼があることも存じ上げております。


わたくしが手にしているのは、お二人がご結婚された時のお写真です。
これは、奥様が秘書課の仲間であったわたくしと他の秘書に下さったものです。
真っ白なウエディングドレス姿の奥様と、同じく白のタキシードをお召しになられた司様は本当に素敵です。ただ奥様は、ご自分の年齢からウエディングドレスは恥ずかしとおっしゃいました。ですが司様は年齢など関係ないと一蹴され、このドレスを奥様にお召しになるようにおっしゃいました。

そんな奥様がなんとも言えず微笑ましく見えるのは、わたくしが奥様の母のような気持で見ているからでしょうか。
牧野様のご両親様は、お亡くなりになられていたこともあり、差し出がましくも、わたくしが勝手に思っていたことですが、今は楓様という立派なお母様がいらっしゃいます。
そして椿様という素敵なお姉さまもいらっしゃいます。
では、わたくしのことは、年の離れた従姉ということにして頂ければと思います。

あら。外が騒がしいようです。
どうやら奥様がお子様と一緒にいらっしゃったようですね?
それでは、わたくしもお坊ちゃまに会いに行きたいと思います。

それにしましても、奥様は次のお子様を身ごもられたということで、またご出産の時には、司様がぬか床のお世話をなさるということでしょう。

そして、ぬか床とは別の確かなことがございます。
それは今ではすっかりいいお父様になられた司様は、どんなことがあっても奥様とお子様を守るということです。
不確かなことが多い世の中ではございますが、それだけは確実に言えることでございます。

どうぞ、これからも奥様とお子様と末長くお幸せにお過ごし下さいますよう秘書一同お祈り申し上げます。





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コメント
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dot 2018.03.14 06:32 | 編集
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dot 2018.03.14 23:46 | 編集
司*****E様
おはようございます。
野上さん視点のお話。
優しい目で見ている野上さんは、母のような、姉のような、そして親戚の叔母さんのような感じなのでしょうね。
そして二人目を妊娠したつくしは、子供を連れて55階に現れました。途端賑やかになるフロア。楽しそうです(笑)
え?野上と西田の間に子供ですか?いゃあ(笑)無理しない方がいいですね?

忙しいですねぇ。3月は皆様同じではないでしょうか?今日はヨロヨロしています(笑)
そして光栄な言葉に面映さを感じながら恐縮しております。
コメント有難うございました。
アカシアdot 2018.03.15 21:23 | 編集
ふ*******マ様
野上雅子さんへの暖かい言葉をありがとうございます。
え?熟年二人のデートとか痴話喧嘩ですか?(≧∇≦)
今後の二人がどうなるのか?
う~ん。きっと二人ともいい感じで年を取っていくのではないでしょうか?あの二人どんな夫婦になるのか気になるところですが、あまり掘り下げると怖い気もします(笑)
拍手コメント有難うございました。
アカシアdot 2018.03.15 21:33 | 編集
s**p様
西田に下の名前があった!(笑)
なんと卓也だったんですね?
野上雅子さんと西田卓也さん。この二人の恋におちる確率は主役の二人より高かった?
今はどちらのカップルも幸せで何よりです。
熟年の二人はどんなセリフで愛を語ったのか。興味はありますが、西田さんのセリフとしては、怖いです(笑)
拍手コメント有難うございました。
アカシアdot 2018.03.15 21:43 | 編集
さ***ん様
『恋確』この呼び方、とてもいいですね!
野上さん、若い頃の司を知っている。そして変わっていく彼を眩しく見ている。恐らくそうでしょうねぇ。
雅子52歳。卓也54歳。
熟年の恋は、天使の知らせではなく、なんとなくでした。このカップルが結婚するのかしないのか。
すると思います!(笑)

司が混ぜるぬか床のぬかになりたい!(笑)
優しく混ぜ、表面をソフトに整える。しかし、残念ながらその手は、つくしと我が子のための手でしょう。
そして二人目を妊娠!そんなつくしを優しく見守る野上さんでした。西田卓也と野上雅子の色々はひっそりと妄想お願いします(≧∇≦)
コメント有難うございました。
アカシアdot 2018.03.15 22:01 | 編集
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