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2015
10.22

まだ見ぬ恋人7

司は執務室に戻ると一時間足らずで彼女のことを知る為の情報を手に入れていた。
男が司に報告できた唯一の新しい情報は、牧野つくしに恋人はいないと言うことだった。



司は部屋に入ってきた秘書のほうを見た。
「いったい何を企んでいるのですか?」
西田は言った。
司は答えなかった。
西田は司がなんらかの形であの女性に何かするのではないかと考えていた。
ましてや花沢様があの女性と一緒にいるところを目にされて、司様が平常心でいられるはずがない。
そして西田は道明寺HDの次期トップが犯罪者になるのではないかと懸念していた。
どうか外交問題になるようなことだけは謹んでいただきたい。
ベテラン秘書の彼はとても巧妙とは言えない計画を司が電話で説明するのを注意深く聞いていた。

「だからよ、彼女にSPつけんだよ!」
司が怒鳴った。
「ああ、そうだ」
彼は言葉を切ると灰皿でタバコをもみ消していた。
「あほか。そんなことするわけないだろうが!あくまでも彼女を守るためで・・」
司は説明していた。
「あ?そうか!そう言うのもありだな!」
司はデスクから立ち上がった。

西田はそんな司のことを考えてため息をついていた。


******


二人の男が地下鉄の駅へと向かう長い通路を歩いている。
その日つくしは本国から送り返されてきた書類に目を通すため
遅くまで大使館に残っていた。


大使館を出て一番近い地下鉄への入口までおよそ10分。
つくしは階段を降りるといつもの駅へと向かうべく長い通路を歩いていた。
改札へと向かう静な行列は時間が遅いせいか人もまばらだった。
長い直線の通路はつくしと前を歩く人との距離が遠く離れていることが実感できる。

この駅もこの時間にもなると本当に人が少ないのよね。
でもこの通路で怖い思いをしたことはなかった。
が、そんな彼女の思考を遮るように後ろを歩く靴音が何故だか彼女の歩幅と同じリズムを刻んでいるように思えてならなかった。
意図せずに同じ歩幅で歩くこともある。
でもどう考えてもその靴音は彼女と同調しているとしか思えなかった。
嫌な汗がつくしの背中を流れた。
長い直線の通路の前方はまだ500メートル以上はある。
そしてそこに人の姿は無かった。
靴音はどんどん近くなってすぐそこまで迫っているようだった。
つくしの足に拍車がかかった。

「あっ!」
つくしは小さな段差につま先をひっかけるとよろめいていた。
そのとき、彼につかまえてもらっていなければ顔面から床に倒れこんでいただろう。


「・・・ど、道明寺さん?」
つくしは彼に抱きとめられていた。
「 大丈夫か? 」
司は彼女の目を見て聞いた。


つくしが彼に会うのはこれで3度目だった。
彼女は自分を抱きとめている男を見上げていた。
つくしは彼に会うたびに違う印象を受けていた。
1度目は大使館。2度目は花沢物産がスポンサーになっていたクラッシックのコンサート会場。そして今日。
受ける印象はさまざまだった。
が、彼の目だけはいつも変わらない。
いつも私のことを鋭く見るのはなぜ?
そしてシャツの袖口からののぞく薄い金の時計がとてもお寺の人には思えなかった。

司はつくしを腕に抱きとめて彼女を見ていて分かったことがある。
彼女のシルキーな黒髪と黒くて大きな瞳、かわいらしく上を向いている鼻。
彼女は世に言う美人ではないが、親しみが感じられた。
あきらのヤツ、ビミョーだなんて言いやがって!

 道明寺 ―――― やっぱりおかしな名前。
でもきっと由緒正しいお寺なんだろうな。
「道明寺さん?ど、どうしたんですか?こんなところで・・」
つくしは言った。
「ま、牧野さんこそ・・今仕事帰りですか?」
司はそう言うとつくしの身体から手を離した。
「え、ええ。そうなんですが・・・」
つくしはちょっと間をおいた。
「道明寺さんは?この近くでお寺の行事でもあったんですか?」
つくしは聞かずにいられなかった。


またこれかよ・・・
司は自分を見上げているつくしを見て思った。
お寺だのなんだの・・・類は俺のことをなんて話したんだ?

「花沢さんから聞きました。道明寺さんって大きなお寺で由緒正しいおうちだって。
檀家さんも多くて海外への布教も積極的にされていて各国にも檀家さんが沢山いらっしゃってとても忙しいんだって・・」
つくしは感心したように言った。

「すいません、わたし仏教のことはよく分からないんですが・・・」
つくしは申し訳なさそうに言った。
「道明寺さんって・・・その・・坊主頭にしなくていいんですか?」
と彼女は言った。


クソッ!類のやつ! ちくしょう!!







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コメント
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dot 2015.10.22 06:19 | 編集
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dot 2015.10.22 06:35 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.10.22 15:00 | 編集
ka**i様
> 面白すぎ(笑)
有難うございます。
類くん、意地悪ですねぇ(笑)
そしていつも睨まれていると感じるつくしちゃん。
彼女にはそんな感じに思えているんでしょうね。
まあ、普段笑わない彼ですから仕方ありません。
ほほ笑みの練習も必要でしょうね(笑)
口角を上げる練習をして頂きましょうか(笑)
本日もファイト!つかさ!を有難うございます!(^^)
アカシアdot 2015.10.22 22:24 | 編集
た*き様
なるほど。
「類、冗談にもほどがあるぞ!」
と言うことですね?
いつもリアルなお話を有難うございます。
道明寺HDの資産は幾らくらいなんでしょうねぇ。
アカシアdot 2015.10.22 22:32 | 編集
H*様
拍手コメント有難うございます。
え?笑えました?(笑)
よかった!
朝から笑っていただけて嬉しいです(^^)
アカシアdot 2015.10.22 22:38 | 編集
さと**ん様
じっくりと読んで頂き有難うございます。
シルキー、絹のような光沢と言う意味なのですが司くんにはそう見えたのでしょう。
いつになったらその髪に手を伸ばすことが出来るのでしょうか・・
そしてつくしちゃんのことを呼び捨てに出来るようになるには時間がかかるかもしれません(笑)
坊主姿の司を想像?(゚Д゚;)
ああ、そんなオソロシイ事を皆さまに想像させてしまい、申し訳ございません・・
あんなことをつくしちゃんに言わせてしまい、怒られたらどうしよう!
と思っていたので笑って頂けて良かったです(笑)
アカシアdot 2015.10.22 22:59 | 編集
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