妻が身に付けていたものを一枚一枚剥いだ男は、悪戯が成功した子供のように、ニヤリと笑う。
全てを脱ぎ捨てた身体は開放感に包まれ、ここにあるのは二人の身体と時間だけで、子供たちは邸にいない。
結婚してから今まで、純粋に夫婦二人だけの夜といったものはなく、子供たちの誰かが必ず邸の中にいた。
そして、子供たちが幼い頃は、何かに怯えたように子供部屋を飛び出し、小さな足で両親の部屋へと駆け込んで来たこともあった。そんな時、迷わず布団を捲り、ベッドの温もりの中へと掬い上げるのだが、時に夫婦の営みの最中だったことがあり司も慌てた。
その時、妻が脱ぎ捨てたパジャマを慌てて掴み、何もなかったように着る姿が子供たちの記憶にあるかと言えば、訊いたことがないのだから知る由もないのだが、いつの頃からか、突然両親の寝室に駆け込んで来ることは、なくなっていた。
だが、それでも妻はささやかな抵抗をする。
子供たちが起きてる時間はダメ。
真夜中ならいい。
その時刻が一体いつなのか。
そんなものは有って無いようなもので司は気にはしていなかった。
そして司は妻を説得などしない。
何しろ、欲しくても欲しいとは決して言わない女は、自分から求めることはない。
それに我慢強いと言われる妻を説得などしても無駄だからだ。
遠い昔、あんたが好きなのといった言葉を聞くのにどれだけ時間がかかったことか。
だからいつも司の方から妻を求めていた。
バスルームのタイルの壁の前に立つ男は、他愛もないゲームに勝つと命令した。
俺を愛してくれと。
黒髪が身体をくすぐる。
目の前にひざまずいた女が照れて赤らむ顔は今更だが、躊躇いながらも屹立した目の前の固いものに手を伸ばし、それを掴まれた途端、身体がブルりと震えた。
それは、滅多に自分からはすることがない苦手な行為だと分かっている。
だが一瞬躊躇いを浮かべたその顔が、可愛らしく美しい。
結婚前、長男の航に母親のどこが好きなのかと訊かれたことがあった。
その時こう答えた。
母さんの怒った顔が好きだと。
だがそれは嘘だ。
高校生の息子に、母親が自分を斜め下から見上げる顔が好きなど言えないからだ。だが今、司の前にひざまずき、少し顔を上げた姿が彼の好きな角度であり、閉じた黒い瞳を開き自分を見て欲しいと思う。
身体をタイルに押し付けた姿勢に、背中に感じる冷たさとは逆の気持の高揚さが感じられ、苦痛と快感の両方を与えてくれるが、舌先と唇で尖った肉の塊を舐め含む姿を見下ろせば、タイルに磔にされた人間だとしても、動きたくなる。
だが今は妻に触れることのないように、手のひらはタイルに付けていた。
それは、ある意味己に架した拷問とも言える行為。
時に彼自身が己の貪欲さに呆れることがある。だから今夜は、妻の指先がふとももに伸ばされ己のものを捉えた瞬間、きしむように呻いたが決して妻に触れなかった。
ただ、彼女に愛して欲しかった。
そして司の性器は、柔らかな口腔内の奥深くに呑み込んで貰いたいと訴えるが、彼を食べてはくれず、ただ先を舐めるだけを繰り返す行為に耐えがたくなり、髪の毛をつかみ、喉の奥深くまで含んでくれと、容赦なくその口を自分のものにしたかった。
だが司のそんな想いが伝わったのか、赤い舌が亀頭の先をぐるりと舐め、喉の奥深くまで咥え、袋を片手で弄び始めた。
「・・つくし・・」
今夜は子供たちが居ない。
そのことが妻の開放感を大きくしたことは分かる。
そしていつもなら感じられる羞恥はなく、夫婦としての性愛に積極的になった女がいた。
だからもっと貪って欲しい。
身体の中の体液の全てを絞りつくし、吸い取って奪って欲しい。
それと同時に裸で立つ身体全体で、男とは違う柔らかな胸の膨らみを、ぬめぬめと潤っている深い内側を感じたかった。
だがそれを渾身の力で我慢し、呻いて膝をつきそうになる身体を冷たいタイルに押し付けたまま、己の腰で蠢く黒髪に手を差し入れるのを堪えた。
だがやがて妻の指が触れる感覚と、舌と唇の感触だけでは我慢出来なくなった。
だから妻の頭を掴み、濡れた口から熱く硬い塊を一度引き抜き、顎に手を当て、己を見上げるのに丁度いいと言われる角度に顔を上げさせた。
「・・ん・・あっ・・」
そこには、バラのように染まった頬と、あまりの大きさに、含むたびに溢れる生理的な潤いと、司自身の体液を乗せた唇が開かれてはいるが、太い分身の全てを含むことは無理だ。
そして司は、これまでにないほど硬く太くなった自身を口の中で解放するよりも、本来収めるべき場所へ受け入れさせることに決め、少し戸惑ったような表情を浮かべた妻の身体を両腕で持ち上げた。
天井の灯りを落した寝室は、片隅に置かれたオレンジ色の間接照明の灯りがぼんやりと部屋の中を照らしていた。
「つくし・・愛してる」
何度も繰り返すその言葉を、キスと共に落す細い鎖骨の窪みと滑らかな肩のラインは、若い頃と変わらない。
かつて一歩も引かないといった態度で司に向かってきた少女は、見つけられて、捕らえられたとき、真っ直ぐな瞳で彼を見つめ虜にしたがそれも今でも変わらない。
だから彼はその気持ちを伝えたかった。
今でも心の底から愛してると。
この世の中で一番好きなのは妻で、彼女の存在があるから司は生きていける。
彼女の愛によって救い上げられた男は彼女がいるから穏やかでいられる。
そして司が惚れた女は柔らかくか細いが、その身体の中には鋼の芯が通っていて、大きな黒い瞳の中に強い意思となって現れる。
司はそんな彼女の瞳が好きだ。
彼女の瞳に見つめられれば、優しい気持ちになれる。
だが愛するときは容赦がない。
時に荒々しく、時に優しく一晩中愛することを止めない。限界まで貪る。
そしてベッドの中の行為はバスルームとは逆転し、司が妻を貪った。
乳房を執拗に愛撫し、同時に口を近づけては乳首を甘噛みし、舐め、転がした。
「あぁ・・・」
すでに十分濡れていることは分かっているから、大きな手は細い腰を抱き上げ、先走った汁を湛え我慢できなくなった昂りを濡れそぼった場所に擦りつけ、潤いを広げ奥まで突き入れた。その瞬間柔らかな肉の襞が司を包み込み耐えがたいほど締め付けた。
「・・つかさ・・」
愛しげに名を呼ばれた司は、いつもより激しく動くと細い身体が昇り詰めるスピードに合わせ身体をぶつけ、妻を苛めるように愛して誰に遠慮する必要がない声をあげさせた。
「ああっ!」
「・・つくし。愛してる。俺の気持は今もあの頃と同じだ」
そう言って触れる温かな大きな手と濡れた柔らかな唇の感触。
それは50代の男のものとは思えないほど甘く切ない言葉。
二人が初めて愛し合ったのは、10代の頃。
ふたりの初めての時は痛みが少ないものにしたかった。
あの時は、あまりの気持よさに司は離れたくなかったが、彼女は苦痛に涙を流した。
共に初めての相手だとしても、男は本能で愛し方を知っている。
司はその間、ただ彼女を抱きしめ、愛してるという言葉を囁き続けた。そして慎重に彼女の中で動き、苦痛の波を取り去ろうとした。
だが翌朝シーツに着いた血の染みは大きかった。
夜の闇よりも黒いと言われる切れ長の瞳は、あの頃を思い出し、ただ一人の女を見つめていたが、組敷いた身体が弛緩すると、荒い息遣いと汗で濡れた身体で強く抱きしめ、唇を額に押し当てた。
そして温かい息が漏れる口元へキスを繰り返し、渇いているはずの喉に唾液を送った。
だがたとえ残滓なきほど吐き出し開放感を感じたとしても、身体は遠慮を知らず、汗まみれになった身体をなお一層激しくぶつけ、吐き出した己のモノと中から溢れる甘い蜜が何度混ざり合ってもまだ欲しかった。
それは愛に賞味期限などないのだから、いつまでも男と女でいたいと思う男の願いと欲望。
だから腰を浮かせることもなく、いまだに妻の中に身体の一部を留め繋がっていた。
そして両手を彼女の頭の両脇につき、見下ろす顔は、息を切らしながらも、満足げにふわりと微笑んだ。
「・・どうした?」
「・・ん・・」
荒い呼吸を繰り返しながら答えた短い返事。
「言いたいことがあるなら言えよ?」
「ん・・司の誕生日、子供達たちが見せてくれたアレ、懐かしかった・・」
それは、遠い過去から届けられた思い出。
司の誕生日に子供たちが演じた彼らの高校時代のエピソード。
二人の瞳の中に映し出されていたのは、校内を自由に駆け回る少年と少女の姿。
「お前を守ってやる」
と言えば
「守られるだけの女じゃない」
と返され恋に不器用だった少年の初恋は前途多難だった。
そんな二人が手に手をとって共に歩むまでは長い時間が流れたが、今は笑顔を浮かべ、子供たちに囲まれた日々を過ごすことが当たり前となった。
そして愛する心を隠す事も、感情も言葉も誤魔化すことをしなくなった二人。
だがあの頃だって司は自分の感情を隠さなかった。
彼女が自分の名前を呼んでくれれば、真夜中だろうが、どこにいようが駆けつけていた。
彼女しか見えなくて、彼女しか欲しくなくて、ひと言彼が欲しいと言ってくれればそれだけで良かった。
だから今でも必ず彼女に言って欲しい言葉それは、司を求める言葉。
それは『あんたが欲しい』
二人っきりの東の角部屋で交わされる夫婦としての会話に感じられるのは愛だけ。
だが時に己の執着の深さが恐ろしいと感じられることもあった。
二人でシーツに包まり幾度となく繰り返してきた行為と、妻を求める尽きない気持ちは異常だと言われるかもしれないが、決してそうではない。
それは、愛しているから出来ることであり、愛のない行為など司には出来なかった。
そして優しく響くバリトンで甘美な興奮を高めるが、組敷いた女の指先が触れれば筋肉が収縮し、未だに繋がったままでいる身体が硬度を増す。何度も求めてしまうのは、相手が妻だからで他の女では絶対にこうはならない。
だから出来ることなら朝から夜まで愛に溺れていたい。
二人は、今日のこの日まで人生を共に楽しんできた。
失った時間が流れはしたが、愛に囲まれた今はその時間も受け止めることが出来る。
何故なら失っていた時間は、いつか旅立つ天国へつづく道の途中で起きたハプニングであり、赤い糸はもつれたり、からまったりしたが決して切れることはなかった。
そして司が彼女のことを忘れていた時間があったとしても、心の片隅には彼女だけのスペースがあったはずだ。だが、それに気付くのが遅かっただけだ。
時に優しすぎることもあり、ときに恐ろしいほどのこともある彼女。
彼女のことを思い出した時は、思い出すのが遅いと大層怒られた。
そんな女に、
「我儘に生きてもいいんだぞ?」
と言えば、
「何言ってるのよ?我儘なのは司だけで充分よ?」
と返された。
そして
「おい、つくし」
と、何気なく名前を呼んで振り向く姿はいつもと変わらない笑顔があった。
そして夫婦の間にもルールがある。
脱いだ下着は必ず洗濯かごに入れること。
子どもに小遣い以上のお金を渡してはダメ。
プレゼントは誕生日とクリスマスと家族の記念日だけ。
だから家族の記念日を増やすことをした。
はじめてデートをした日。
はじめてキスをした日。
はじめて抱き合った日。
子どもたちの歯が生えた日。
テストで100点を取った日。
とにかく何でもいいから記念日を作ったが、そんな夫を冷たい目で見た妻がいたのも事実だ。
司は隣でまどろむ妻の手を取ると、甲にキスをした。
そして妻は、夫の癖のある髪に両手を埋め愛おしげにクシャリと掴む。
それは、妻の前では我儘な子供のようになる男に対しての母性とも言える愛情表現。
やがて疲れ切った二人は、抱き合ったまま眠りにつく。
心の中に互いの心を抱いて。
二人の心はひとつで、気持ちも鼓動もひとつ。
そんな二人の世界は愛に満ちているはずだ。
時が終るその時まで。

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全てを脱ぎ捨てた身体は開放感に包まれ、ここにあるのは二人の身体と時間だけで、子供たちは邸にいない。
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その時、妻が脱ぎ捨てたパジャマを慌てて掴み、何もなかったように着る姿が子供たちの記憶にあるかと言えば、訊いたことがないのだから知る由もないのだが、いつの頃からか、突然両親の寝室に駆け込んで来ることは、なくなっていた。
だが、それでも妻はささやかな抵抗をする。
子供たちが起きてる時間はダメ。
真夜中ならいい。
その時刻が一体いつなのか。
そんなものは有って無いようなもので司は気にはしていなかった。
そして司は妻を説得などしない。
何しろ、欲しくても欲しいとは決して言わない女は、自分から求めることはない。
それに我慢強いと言われる妻を説得などしても無駄だからだ。
遠い昔、あんたが好きなのといった言葉を聞くのにどれだけ時間がかかったことか。
だからいつも司の方から妻を求めていた。
バスルームのタイルの壁の前に立つ男は、他愛もないゲームに勝つと命令した。
俺を愛してくれと。
黒髪が身体をくすぐる。
目の前にひざまずいた女が照れて赤らむ顔は今更だが、躊躇いながらも屹立した目の前の固いものに手を伸ばし、それを掴まれた途端、身体がブルりと震えた。
それは、滅多に自分からはすることがない苦手な行為だと分かっている。
だが一瞬躊躇いを浮かべたその顔が、可愛らしく美しい。
結婚前、長男の航に母親のどこが好きなのかと訊かれたことがあった。
その時こう答えた。
母さんの怒った顔が好きだと。
だがそれは嘘だ。
高校生の息子に、母親が自分を斜め下から見上げる顔が好きなど言えないからだ。だが今、司の前にひざまずき、少し顔を上げた姿が彼の好きな角度であり、閉じた黒い瞳を開き自分を見て欲しいと思う。
身体をタイルに押し付けた姿勢に、背中に感じる冷たさとは逆の気持の高揚さが感じられ、苦痛と快感の両方を与えてくれるが、舌先と唇で尖った肉の塊を舐め含む姿を見下ろせば、タイルに磔にされた人間だとしても、動きたくなる。
だが今は妻に触れることのないように、手のひらはタイルに付けていた。
それは、ある意味己に架した拷問とも言える行為。
時に彼自身が己の貪欲さに呆れることがある。だから今夜は、妻の指先がふとももに伸ばされ己のものを捉えた瞬間、きしむように呻いたが決して妻に触れなかった。
ただ、彼女に愛して欲しかった。
そして司の性器は、柔らかな口腔内の奥深くに呑み込んで貰いたいと訴えるが、彼を食べてはくれず、ただ先を舐めるだけを繰り返す行為に耐えがたくなり、髪の毛をつかみ、喉の奥深くまで含んでくれと、容赦なくその口を自分のものにしたかった。
だが司のそんな想いが伝わったのか、赤い舌が亀頭の先をぐるりと舐め、喉の奥深くまで咥え、袋を片手で弄び始めた。
「・・つくし・・」
今夜は子供たちが居ない。
そのことが妻の開放感を大きくしたことは分かる。
そしていつもなら感じられる羞恥はなく、夫婦としての性愛に積極的になった女がいた。
だからもっと貪って欲しい。
身体の中の体液の全てを絞りつくし、吸い取って奪って欲しい。
それと同時に裸で立つ身体全体で、男とは違う柔らかな胸の膨らみを、ぬめぬめと潤っている深い内側を感じたかった。
だがそれを渾身の力で我慢し、呻いて膝をつきそうになる身体を冷たいタイルに押し付けたまま、己の腰で蠢く黒髪に手を差し入れるのを堪えた。
だがやがて妻の指が触れる感覚と、舌と唇の感触だけでは我慢出来なくなった。
だから妻の頭を掴み、濡れた口から熱く硬い塊を一度引き抜き、顎に手を当て、己を見上げるのに丁度いいと言われる角度に顔を上げさせた。
「・・ん・・あっ・・」
そこには、バラのように染まった頬と、あまりの大きさに、含むたびに溢れる生理的な潤いと、司自身の体液を乗せた唇が開かれてはいるが、太い分身の全てを含むことは無理だ。
そして司は、これまでにないほど硬く太くなった自身を口の中で解放するよりも、本来収めるべき場所へ受け入れさせることに決め、少し戸惑ったような表情を浮かべた妻の身体を両腕で持ち上げた。
天井の灯りを落した寝室は、片隅に置かれたオレンジ色の間接照明の灯りがぼんやりと部屋の中を照らしていた。
「つくし・・愛してる」
何度も繰り返すその言葉を、キスと共に落す細い鎖骨の窪みと滑らかな肩のラインは、若い頃と変わらない。
かつて一歩も引かないといった態度で司に向かってきた少女は、見つけられて、捕らえられたとき、真っ直ぐな瞳で彼を見つめ虜にしたがそれも今でも変わらない。
だから彼はその気持ちを伝えたかった。
今でも心の底から愛してると。
この世の中で一番好きなのは妻で、彼女の存在があるから司は生きていける。
彼女の愛によって救い上げられた男は彼女がいるから穏やかでいられる。
そして司が惚れた女は柔らかくか細いが、その身体の中には鋼の芯が通っていて、大きな黒い瞳の中に強い意思となって現れる。
司はそんな彼女の瞳が好きだ。
彼女の瞳に見つめられれば、優しい気持ちになれる。
だが愛するときは容赦がない。
時に荒々しく、時に優しく一晩中愛することを止めない。限界まで貪る。
そしてベッドの中の行為はバスルームとは逆転し、司が妻を貪った。
乳房を執拗に愛撫し、同時に口を近づけては乳首を甘噛みし、舐め、転がした。
「あぁ・・・」
すでに十分濡れていることは分かっているから、大きな手は細い腰を抱き上げ、先走った汁を湛え我慢できなくなった昂りを濡れそぼった場所に擦りつけ、潤いを広げ奥まで突き入れた。その瞬間柔らかな肉の襞が司を包み込み耐えがたいほど締め付けた。
「・・つかさ・・」
愛しげに名を呼ばれた司は、いつもより激しく動くと細い身体が昇り詰めるスピードに合わせ身体をぶつけ、妻を苛めるように愛して誰に遠慮する必要がない声をあげさせた。
「ああっ!」
「・・つくし。愛してる。俺の気持は今もあの頃と同じだ」
そう言って触れる温かな大きな手と濡れた柔らかな唇の感触。
それは50代の男のものとは思えないほど甘く切ない言葉。
二人が初めて愛し合ったのは、10代の頃。
ふたりの初めての時は痛みが少ないものにしたかった。
あの時は、あまりの気持よさに司は離れたくなかったが、彼女は苦痛に涙を流した。
共に初めての相手だとしても、男は本能で愛し方を知っている。
司はその間、ただ彼女を抱きしめ、愛してるという言葉を囁き続けた。そして慎重に彼女の中で動き、苦痛の波を取り去ろうとした。
だが翌朝シーツに着いた血の染みは大きかった。
夜の闇よりも黒いと言われる切れ長の瞳は、あの頃を思い出し、ただ一人の女を見つめていたが、組敷いた身体が弛緩すると、荒い息遣いと汗で濡れた身体で強く抱きしめ、唇を額に押し当てた。
そして温かい息が漏れる口元へキスを繰り返し、渇いているはずの喉に唾液を送った。
だがたとえ残滓なきほど吐き出し開放感を感じたとしても、身体は遠慮を知らず、汗まみれになった身体をなお一層激しくぶつけ、吐き出した己のモノと中から溢れる甘い蜜が何度混ざり合ってもまだ欲しかった。
それは愛に賞味期限などないのだから、いつまでも男と女でいたいと思う男の願いと欲望。
だから腰を浮かせることもなく、いまだに妻の中に身体の一部を留め繋がっていた。
そして両手を彼女の頭の両脇につき、見下ろす顔は、息を切らしながらも、満足げにふわりと微笑んだ。
「・・どうした?」
「・・ん・・」
荒い呼吸を繰り返しながら答えた短い返事。
「言いたいことがあるなら言えよ?」
「ん・・司の誕生日、子供達たちが見せてくれたアレ、懐かしかった・・」
それは、遠い過去から届けられた思い出。
司の誕生日に子供たちが演じた彼らの高校時代のエピソード。
二人の瞳の中に映し出されていたのは、校内を自由に駆け回る少年と少女の姿。
「お前を守ってやる」
と言えば
「守られるだけの女じゃない」
と返され恋に不器用だった少年の初恋は前途多難だった。
そんな二人が手に手をとって共に歩むまでは長い時間が流れたが、今は笑顔を浮かべ、子供たちに囲まれた日々を過ごすことが当たり前となった。
そして愛する心を隠す事も、感情も言葉も誤魔化すことをしなくなった二人。
だがあの頃だって司は自分の感情を隠さなかった。
彼女が自分の名前を呼んでくれれば、真夜中だろうが、どこにいようが駆けつけていた。
彼女しか見えなくて、彼女しか欲しくなくて、ひと言彼が欲しいと言ってくれればそれだけで良かった。
だから今でも必ず彼女に言って欲しい言葉それは、司を求める言葉。
それは『あんたが欲しい』
二人っきりの東の角部屋で交わされる夫婦としての会話に感じられるのは愛だけ。
だが時に己の執着の深さが恐ろしいと感じられることもあった。
二人でシーツに包まり幾度となく繰り返してきた行為と、妻を求める尽きない気持ちは異常だと言われるかもしれないが、決してそうではない。
それは、愛しているから出来ることであり、愛のない行為など司には出来なかった。
そして優しく響くバリトンで甘美な興奮を高めるが、組敷いた女の指先が触れれば筋肉が収縮し、未だに繋がったままでいる身体が硬度を増す。何度も求めてしまうのは、相手が妻だからで他の女では絶対にこうはならない。
だから出来ることなら朝から夜まで愛に溺れていたい。
二人は、今日のこの日まで人生を共に楽しんできた。
失った時間が流れはしたが、愛に囲まれた今はその時間も受け止めることが出来る。
何故なら失っていた時間は、いつか旅立つ天国へつづく道の途中で起きたハプニングであり、赤い糸はもつれたり、からまったりしたが決して切れることはなかった。
そして司が彼女のことを忘れていた時間があったとしても、心の片隅には彼女だけのスペースがあったはずだ。だが、それに気付くのが遅かっただけだ。
時に優しすぎることもあり、ときに恐ろしいほどのこともある彼女。
彼女のことを思い出した時は、思い出すのが遅いと大層怒られた。
そんな女に、
「我儘に生きてもいいんだぞ?」
と言えば、
「何言ってるのよ?我儘なのは司だけで充分よ?」
と返された。
そして
「おい、つくし」
と、何気なく名前を呼んで振り向く姿はいつもと変わらない笑顔があった。
そして夫婦の間にもルールがある。
脱いだ下着は必ず洗濯かごに入れること。
子どもに小遣い以上のお金を渡してはダメ。
プレゼントは誕生日とクリスマスと家族の記念日だけ。
だから家族の記念日を増やすことをした。
はじめてデートをした日。
はじめてキスをした日。
はじめて抱き合った日。
子どもたちの歯が生えた日。
テストで100点を取った日。
とにかく何でもいいから記念日を作ったが、そんな夫を冷たい目で見た妻がいたのも事実だ。
司は隣でまどろむ妻の手を取ると、甲にキスをした。
そして妻は、夫の癖のある髪に両手を埋め愛おしげにクシャリと掴む。
それは、妻の前では我儘な子供のようになる男に対しての母性とも言える愛情表現。
やがて疲れ切った二人は、抱き合ったまま眠りにつく。
心の中に互いの心を抱いて。
二人の心はひとつで、気持ちも鼓動もひとつ。
そんな二人の世界は愛に満ちているはずだ。
時が終るその時まで。

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司*****E様
おはようございます^^
初日からこんな調子でこの先の10日間どうするんでしょうね?(笑)
つくし足腰立たなくなることは、確実ですね?(笑)
道明寺家は記念日以外プレゼント禁止。
え?彩ちゃんに彼氏が出来た日を記念日に?
それはチャレンジャーですね?(笑)
「いつか晴れた日に」
番外編やその後を楽しんで頂けて嬉しいです。
次は航くんに子供誕生の話!
そうですよね~司の誕生日に東京に来ることが出来なかった航は、妻が妊娠中でしたからねぇ(笑)
こうなったら勢いでしょうか!(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
初日からこんな調子でこの先の10日間どうするんでしょうね?(笑)
つくし足腰立たなくなることは、確実ですね?(笑)
道明寺家は記念日以外プレゼント禁止。
え?彩ちゃんに彼氏が出来た日を記念日に?
それはチャレンジャーですね?(笑)
「いつか晴れた日に」
番外編やその後を楽しんで頂けて嬉しいです。
次は航くんに子供誕生の話!
そうですよね~司の誕生日に東京に来ることが出来なかった航は、妻が妊娠中でしたからねぇ(笑)
こうなったら勢いでしょうか!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.03.07 23:20 | 編集

s**p様
おおっ!朝からお汁粉!
甘いですねぇ。
凄いですねぇ。
アカシア本日朝から胃が痛い状態でした(笑)
両親の寝室に飛び込んだ子供たちは何を見たのか?(笑)
さあ、何でしょうねぇ?
慌ててパジャマを着るつくし・・・。
子供たちは覚えていないはずです。
そして「秋日の午後」再読ありがとうございます!
拍手コメント有難うございました^^
おおっ!朝からお汁粉!
甘いですねぇ。
凄いですねぇ。
アカシア本日朝から胃が痛い状態でした(笑)
両親の寝室に飛び込んだ子供たちは何を見たのか?(笑)
さあ、何でしょうねぇ?
慌ててパジャマを着るつくし・・・。
子供たちは覚えていないはずです。
そして「秋日の午後」再読ありがとうございます!
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2018.03.07 23:28 | 編集

ま*こ様
こんにちは^^
50代のエロス(笑)
司の体力と情熱は妻を前に衰えることはないようです(笑)
「いつか晴れた日に」ここの所、あの道明寺ファミリーの話を書いていますが、アカシアも懐かしいです。
航くん。いい青年に育ってくれました。
そしてこの司とつくしは孫に囲まれて長生きして欲しい!(笑)
はい。この二人は長生きすると思いますよ(笑)
「キスミーエンジェル」(笑)恥ずかしくて読めません。
初期作品は加筆修正したいところが沢山あるのですが、時間がなくホッタラカシ状態です。
ストーカー規制法に引っ掛かる男(笑)原作からしてそうですからねぇ。
そして今の司はつくしのことが命より大切な男のようです。
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
50代のエロス(笑)
司の体力と情熱は妻を前に衰えることはないようです(笑)
「いつか晴れた日に」ここの所、あの道明寺ファミリーの話を書いていますが、アカシアも懐かしいです。
航くん。いい青年に育ってくれました。
そしてこの司とつくしは孫に囲まれて長生きして欲しい!(笑)
はい。この二人は長生きすると思いますよ(笑)
「キスミーエンジェル」(笑)恥ずかしくて読めません。
初期作品は加筆修正したいところが沢山あるのですが、時間がなくホッタラカシ状態です。
ストーカー規制法に引っ掛かる男(笑)原作からしてそうですからねぇ。
そして今の司はつくしのことが命より大切な男のようです。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.03.07 23:41 | 編集

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さ***ん様
熟R(笑)
愛に賞味期限はないという男。確かにその通りなんですが、50代でもコレですからねぇ(笑)
え?もう一人?いや、もう無理でしょう。
しかし、どんなに年を取ろうと、二人は愛し合っているはずです。
何しろ離れていた時間が長かっただけに、その埋め合わせではありませんが、求めて止まないということでしょう(笑)
抱き合って眠る二人。
司の髪に両手を入れクシャリと掴む女は、口では言い表せない気持ちを表現しているようです。
コメント有難うございました^^
熟R(笑)
愛に賞味期限はないという男。確かにその通りなんですが、50代でもコレですからねぇ(笑)
え?もう一人?いや、もう無理でしょう。
しかし、どんなに年を取ろうと、二人は愛し合っているはずです。
何しろ離れていた時間が長かっただけに、その埋め合わせではありませんが、求めて止まないということでしょう(笑)
抱き合って眠る二人。
司の髪に両手を入れクシャリと掴む女は、口では言い表せない気持ちを表現しているようです。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.03.08 22:36 | 編集
