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2018
02.28

時の轍 2

Category: 時の轍(完)
母の骨を分けて欲しいと言って来た道明寺悠。
その人物が社長を務める会社は周子にもすぐに分かった。
道明寺HDと言えば、日本だけでなく世界展開をする大企業で誰もが知る会社だ。
そして道明寺悠という名前も訊いたことはあるが、顔はよく知らなかった。
だが目の前に現れた本人は、理知的な顔立ちで頭の良さを感じさせた。そして二枚目という言葉があるが、その言葉は彼のためにある言葉だと感じた。


「どうみょうじ…さんですか」

珍しい名前だがよく知られた名前を声に出し読み、相手の顔をじっと見つめた。

「申し訳ない。私は先ほどからあなたのお母様の骨を分けて欲しいを口にするだけで理由を申し上げるのが後回しになってしまった」

そう言って道明寺悠は少し黙ったが、それからすぐに口を開いた。

「私の父にあなたのお母様の骨を分けて頂きたい。その理由は父とあなたのお母様が昔….二人が高校生の頃ですが付き合っていたからです。つまり二人は恋人同士だった。だから父はあなたのお母様の骨が欲しいと、亡くなったかつての恋人の骨を、ほんの少しの骨でいいから分けて欲しいと望んでいるんです。ですがこんな話をされても気味が悪いはずだ。
それに昔の恋人の骨が欲しいと言う男など、私があなたの立場だとしても簡単にはい分かりましたと言えるはずがない。ですから私も正直なところここに来ることを迷いました。ご家族がどう思われるか考えました。ですが、やはり父の想いを汲んでやることが私の仕事だと、息子である私の勤めだと思いこうしてお願いに上がりました。ああ、申し遅れましたが私の父の名前は道明寺司と言います」


突然聞かされた母の昔の恋人の話。
それも相手は道明寺財閥の道明寺司。
道明寺悠の父親なのだから、道明寺司が父親なのだろうとは思っていたが、正直驚いた。
何しろ道明寺と言えば大企業であることは勿論だが日本で一、二を争う財閥。
日本経済の重要な部分を占める産業には必ずその名を頂く会社が含まれている。
そして日本だけではなく、世界的な規模の会社であることは間違いないのだが、一時財閥の経営状態が急速に悪化したことがあったという。だがその時、他に頼ることなく自主再建の道を選び、苦しいながらも再建を果たし、財閥の危機を救ったのが道明寺司だ。
その道明寺司は数年前第一線を退き、今目の前にいる息子に後進を譲った。それ以来表に出て来ることが無くなった。
そんな男性と母がかつて恋人同士だったとは正直信じられない思いがするが、目の前の男性はそうだと言う。


「ここに手紙があります。これはあなたのお母様が私の父に送った手紙です。
御覧のように色が変わって来ていますから、もう随分と昔の手紙ですが父は大切に保管していました」

そう言ってテーブルの上へ置かれた封筒には、今は見かけることのない金額の切手が貼られ、道明寺司様と書かれ、時の流れを感じさせるように黄ばんでいた。
そしてその手紙が何であるか。はっきりとは言わなかったが、恋人だった男女の間に交わされた手紙だというなら、所謂ラブレターのようなものなのだろう。
そしてそれを二人の関係を証明するものとして持参したというのだろうか。

「この住所は鎌倉にあるうちの別荘のものです。父はこの別荘が気に入っていました。5年前に社長の座を退いてからはずっとそちらで暮らしています。それは恐らくあなたのお母様との思い出があるからでしょう」

母との思い出がある場所。
だがその場所にいったいどんな思い出があるというのか。
ただでさえ突然現れた男性に、あなたの母親は自分の父親とかつて恋愛関係にあり、その父親が恋人だった母の骨を欲しがっていると言われ戸惑っているというのに、二人の想い出の場所の話をされ何をどう答えればいいのか分からなかった。
そして社長の座を息子に譲った5年前と言えば母が亡くなった年だが、何か関係があるのだろうか。
そんな私の思いが伝わったのか、彼は言った。

「5年前社長の座を退いたのはあなたのお母様がお亡くなりになったからです。彼女が亡くなった事がこたえたとしか思えませんでした。ある日私を呼び、社長の座を降りると言い世田谷から鎌倉へ住まいを移すと言いました。元々父は仕事以外の場所ではひきこもることが多かった。孤独を愛する人でした。ですから以前からよく一人で鎌倉の別荘へ足を運んでいましたが、あなたのお母様が亡くなってからは都内で暮らすよりも鎌倉の方が気持ちも落ち着くのでしょう。すっかり隠居して鎌倉の御大と呼ばれるようになりましたが、父はそれで良かったようです」

道明寺司が社長の座を退いたのが、1人の女性の死がきっかけだということは、にわかには信じがたい話しだが、身近にいる息子が言うならそうなのだろう。

「それから娘であるあなたにはショックかもしれませんがこちらの封筒の消印からして、あなたのお母様と父との付き合いは、あなたのお父様と結婚してからも続いていたようです」

どうぞ。
と言った彼は、封筒を手に取ることなくじっとしている私に読むように勧め、少し席を外しますのでと言い立ち上がった。





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コメント
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dot 2018.02.28 08:27 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
えーっと、疑問符が沢山出てきた(笑)
多くは語れませんが、短編ですのですぐに終わります。
道明寺悠と西野周子によって語られる二人の人生が垣間見えるといいのですが・・。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.28 22:24 | 編集
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