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2018
02.27

時の轍 1

Category: 時の轍(完)
<時の轍(わだち)>
こちらのお話は明るいお話ではありません。
お読みになる方はその点をご留意下さい。
**********************









「お願いがあります。あなたのお母様の骨を私の父に分けて頂けませんか?」

ある日そう言って尋ねて来たのは、周子と同じ年頃の男性だった。

それは桜の花が咲き始めた頃。
川を渡る風を暖かく感じ始めた3月のよく晴れた木曜の午後だった。








亡くなった母親の骨を分けて欲しい。
その言葉は日本語だが、どこか理解できない未知の言葉のように感じられた。
それは見ず知らずの男性の口から出る言葉としては、どう考えても非常識だからだ。
それに何故その男性の父親が私の母の骨を欲しがるのか分からなかった。
それにもしそうだとしても、骨を分けて欲しいという父親本人が来ればいいはずだ。

それにしても、何故私の母の骨を欲しがるのか。
だが考えられることがあった。
それは身寄りがないと言っていた母の親戚といった血縁者が母を見つけだし、分骨して欲しいといったことだ。それなら目の前に現れた男性は母の血縁者で彼の言葉も納得できるような気がするが、それ以外の理由が思いつかなかった。



母の名前は西野つくしと言う。
5年前56歳で亡くなった。
それは母の誕生日の2週間前。風呂場の脱衣所で倒れているのを見つけたが、その時はすでに遅かった。死因はいわゆる突然死。心不全と言われるものだった。

私の家は代々医者の家系であり、母よりも早く亡くなった父も開業医で私も医者だ。
実家はやはり医者になった兄が継ぎ、私は都内の大学病院で内科医として働いている。
そして母は、兄が結婚したのを機に家を出て、父が残した遺産で近くにマンションを買い一人暮らしをしていた。

何故そうしたのか。
母はそう訊いた私にこう答えた。

「お嫁さんに気を遣わせたくないし、私はひとりの方が気が楽だから」

だがある日、何度電話をしても電話に出ないことから心配して尋ねたところ、倒れている母を発見した。私は医者だが医者でも助けることが出来ない。手の施しようがないことがあるが、母のことはまさにその通りだった。

あの時、生前から母がよく言っていた言葉を思い出した。

「死ぬ時は誰にも迷惑を掛けることなく逝きたいから」

だが実際にその通りになり母の願いは叶えられたのだと思ったが、残された私は寂しかった。そして何故もっと早く連絡を取らなかったのかと悔やんだ。


医者の妻でありながら、質素で地味な生活が身に付いていた母。
よく笑いよく動き回る人で、そして身体が丈夫なのが自慢だと言った母。
とはいえその言葉は果たして本当だったのか。と思うが命の長さがどれくらいあるかということは誰にも分らない。だから母の命はあの日が決められた日だったのだ。

そんな母の骨を別けて欲しいという男性。

「いきなり尋ねて来てこのようなことを言って驚かれたでしょうね。本当に申し訳ないと思っています。ですが、手紙を書こうにもどうも説明するには難しいと思いましてね。それにどちらにしてもお会いしなければ話は進みませんので、こうしてお尋ねしたということです」

ダークスーツを着たその男性は、午前の外来診察が終わり午後の診療が休みの木曜。
カルテの整理をしているとき、医局を尋ねて来くると名刺を差し出した。
背の高い男の立ち姿はサラリーマンとは思えない雰囲気があった。そして細身だがどこか迫力がある身体をしていると感じた。

端正な顔は初対面の相手を圧倒するだけの力があり、ウェーブがかかった黒髪に、突き刺さるような鋭い瞳の色は漆黒。背広も靴も高級品。左手首にはゴールドの薄い時計がはめられていた。

そして名刺を掴む指先はきれいに手入れがされていて、まるで外科医の指先のようだと感じた。もしかすると同業者かと一瞬思ったが、受け取った名刺に書かれていたのは、<道明寺ホールディングス株式会社、代表取締役社長 道明寺悠>。都内の住所と電話番号が印刷されていた。
そしてその男性は、病院内のカフェテリアでテーブルを挟んだ真正面の席に座り私の顔をじっと見つめていた。


「何故私があなたのお母様の骨を分けてほしいか。理由が知りたいと思われるのは当然です。それにあなたが驚かれるのも無理はありません。そういう私も常識に外れたことをしていると思っています。ですがどうしても分けて頂きたいんです。あなたのお母様の骨を」






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コメント
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dot 2018.02.27 06:23 | 編集
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dot 2018.02.27 11:56 | 編集
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dot 2018.02.27 15:28 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
何やら不思議な感覚ですか?
そして予測不可能な角度から話しが進む?(笑)
こちらのお話しは短編ですからすぐに終わりますからね?
ただ、読めないと思ったら無理はしないで下さいね。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.27 22:33 | 編集
か**り様
今年の冬は本当に寒い冬でしたね?
おおっ!楽しかった冬の時代があったんですね?
ゲレンデが私を呼んでいる!?
そして今は啓蟄は私のこと!(≧▽≦)
冬はどうしても活動が鈍くなりますからねぇ(笑)
さて、こちらのお話しは謎が多い。
「轍」二人の人生は交わったのか。
え~っと。泣くのかどうか。う~ん・・。
短編ですからすぐに終わりますからね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.27 22:39 | 編集
ま*こ様
こんにちは^^
えーっとCの付く街でよろしいのでしょうか?
とっても寒い場所ですよね?え?マイナス20度ですか?マイナス14度ほどなら一度だけ経験があるのですが、顔が痛くて耐えられませんでした(笑)
そしてアイスリンクの上を歩くような状況での出勤ですか?本当に命がけですね?
どうぞお気を付けてご出勤なさって下さいね^^

今回の短編。
そうですねぇ。あの映画の雰囲気に近いかもしれません。
短編ですからすぐに終わりますが、ダメだと思ったら無理せずに読み飛ばして下さいね?
御曹司シリーズ坊ちゃんに慰めてもらう(≧▽≦)
でもあの坊ちゃん妄想エロ御曹司ですからねぇ(笑)
拙宅色々な彼がおりますが、あの坊ちゃんキャラ崩壊ですが楽しんで頂けて嬉しいです^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.27 22:52 | 編集
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