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2018
02.15

恋におちる確率 70

恋愛へ発展するにはいくつかのパターンがある。
友達みたいな流れからいつの間にか恋が始まる。
ただの知り合いや同僚でも好意的に接してくれる人には共感できる。
全く知らない人でも、盛り上がりが感じられる。一緒にいて和むといったところから、この人いいなぁという気持になる。
つまりただの友達。ただの知り合い。そして全く知らない人でもある日突然恋人に変わることがある。そしてどんなことも始まりはひどく他愛のないもの。
恋愛というのは火が付けば一気に燃え上がるのが恋愛と言われている。

だが司は相手に合わせ、時間をかけ進めてもいいと思った。
それは、彼女が初めてだと知ったから。
だが二人の関係は、乾いた木に火を点ければ一気に燃え上がるのと同じだった。
胸が小さくてごめん、と言ったが、女の価値は胸の大きさや外見の美しさで決まるものではない。
だが肌は吸い付くような感触で、華奢ながら抱き心地が良かった。
そして、男にとって価値のある女というのは、心の中にどれだけ優しい気持ちを感じさせてくれるか。そして自分の中に取り込んでしまいたいと思える女だ。


一夜明けたとき、二人は抱き合い同じ布団にくるまれ眠っていた。
いつ寝たのか全く分からなかったが、目覚めたときは薄明りが感じられた。
それは外の天気がいいということだ。

カーテンを開けに立ったが、背後で気持ちよさそうに寝ている女は、身体中が痛むはずだ。
司はベッドに戻り、女の隣に潜り込み、片肘をつき見下ろした。
昨夜、明日は市内観光に行こうと言ったが、夜の行為が身体に及ぼした影響は大きいはずだ。
それなら今日はどこにも行かずベッドの中で過ごしてもいい。
今の司は彼女の身体を第一に考えていた。





「おはよう…司」

目を覚ました女はおずおずと口を開いた。

「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫」
「本当か?」
「本当に大丈夫だから」

と、つくしは笑ったが、いきなり訊かれた言葉の意味は十分理解している。
それは、35歳でバージンの身体が、使い慣れない動きに悲鳴を上げてないかということだ。
大丈夫と答えたが、本当は身体のそこかしこが痛かった。
まず脚が痛い。普段絶対にしないような恰好をしたのだから、それは仕方ない。
それから身体中の筋肉が痛い。そして身体の奥深くに感じられる鈍痛。
それが愛し合った証であることは分かっているが、それでも、まさかこんなに痛むとは思わなかった。それは、隣で上体を起し見下ろしている男性によってもたらされた行為の結果だが、愛しているから抱かれたかった。
愛されたい思いから彼の胸に飛び込む形で抱き合った。
だから後悔はない。

「腹が空いてるだろ?何しろ昨日はあまり食べてない上に、激しい運動をすれば腹も減ってるはずだ」

「えっ?…うん.....今何時?」

つくしは、恥かしそうに布団を首まで引き上げた。
裸でいることに羞恥を覚えたからだ。

「今か?太陽が昇ってる時間だ」
「だから、時計の時間は?」
「どうした?そんなに時間が気になるのか?」
「だって...こんなに明るいのにいつまでもベッドで寝てるなんて出来ないもの。それに今日は市内観光って言ってたでしょ?」

昨日まだ二人がベッドに入る前、明日は市内観光に行こうと言われ、つくしは初めてのウィーンでどんなことをして過ごすのか楽しみにしていた。だから時間が気になった。

「ああ、観光は止めた。だからこのまま寝てろ。昨日はあれだけのことをしたんだ。お前は身体が痛いはずだ。だから寝てろ」

司はつくしの身体を第一に考え、無理をさせたくないとそう答えた。

「あのね、司。ウィーンには一度は来たいと思ってたの。だから予定通り観光に連れて行って?身体は大丈夫だから。ね?」

せっかくウィーンまで来たのだから、街を歩いてみたい。
恋人になって初めてのデートがウィーンだということが嬉しい。
それに日本に戻れば、表向きは副社長と秘書といった関係を保たなければならないが、 ここなら少なくとも周りの人間の目を気にする必要はないはずだ。

「いいや。違うはずだ。今はそうやって寝てるからまだマシなだけだ。歩いてみろ。それこそどう考えても不自然な歩き方になるはずだ。….そうだな。脚の間に何か挟んだ状態のガニ股歩きになるはずだ。見る人間が見れば、いかにも激しいのをヤリましたって恰好だ」

切れ長の目が面白そうに笑う。

「そ、そんなことないわ…ちゃんと歩けるわ」

「いいや。絶対そうだ。おまえ股関節が硬そうだ。あの恰好はひっくり返ったカエルが_」

つくしは傍にある枕を取って司に向かって投げた。

「おい。止めてくれ。俺は事実を言ったまでだ。そうか。そこまで否定するなら今すぐベッドから起き上がって歩いてみろ。お前が普通に歩けるかどうか見てやる」

と、言ってニヤッと笑う。

「そ、そんなこと言われてもき、着るものがないんだから起き上がれないわ」

頬を赤く染めた女は恥ずかしそうに言う。
だが今更何を恥ずかしがる?
と思うが、いくら身体の関係が出来たとしても、彼女は相手の男の前を裸で歩き回る女ではない。
だがその反面、ここで抱いて欲しいと素直に言ったのは、あれは初めて見たオペラの感動に精神が舞い上がっていたと考えてもいいはずだ。

「ああそうだったな。お前のバスローブはあんな所に落ちてる。誰かに持って来てもらうしかねぇよな?」

司は言いながらニヤニヤ笑いが止まらない。

「ねえ。それなら司が持ってきて!だって司はバスローブを着てるじゃない。あたしは何も身に付けてないのよ?」

バスローブは、ベッドから4メートルほど離れた床に落ちていて、朝の光りが差し込む部屋で裸の身体を晒すのが恥かしいのか、黒い目大きく開き、そう訴える女は首まで引き上げた布団を更に上へ引き上げようとしていた。
司はそんな女に意地悪をしたくなった。
それは、まるで小学生が好きな女の子をからかう姿。

「そういやぁお前、最中に色々と口走ってたぞ?」

「く、口走る?」

「ああ。なんて言ってたか教えてやろうか」

「な、なによ?あたし何も口走ってなんかないわ」

「『司そこはダメ。息が出来ない。重い。もっとお願い、司いい!』だったか?」

「そ、そんなこと言う訳ないじゃない!」

あの道明寺司が声色を真似て喋る姿を見るとは、つくしも思わなかった。
それにもっとお願いとは絶対に言ってない。あれ以上愛されたら身体がバラバラになるような気がしたからだ。

「へぇ。お前言ってないって?随分と自信があるようだが確かなんだろうな?」

「…確かって…」

そこまで言われたら自信がない。

「じゃあ反対に訊くけど、あたしが言ったこと覚えてるなんて随分と冷静ね?一生懸命さが足りなかったんじゃない?夢中になってたら相手の言葉なんて覚えてないんじゃない?」

つくしは自分でも何を言ってるの。と思いながらも口にしていた。
セックス初心者の自分が、世界中の女に欲しがられる男相手にそんな口を利くことは、喧嘩を売っているようなものだ。だが口をついてしまった言葉は取り消せない。

「そうか….。一生懸命さが足らなかったか。それは悪かった。俺は女に愛し方が足りないと言われたのは初めてだが悪かったな。お前が初めてだから遠慮したのが悪かったってことか。俺は女と愛し合うときは容赦しないほど激しいと言われてるんだが、手加減したのが悪かったってことか。道具も使わなかったし、縛りもしなかったからな。だがこの街でも道具はすぐ揃う。今夜からキツイのをやってやろうか。なあ、つくし?」

司はわざと声のトーンを落とし、残忍な顔を作った。
それは黒い微笑を浮かべた支配者の顔。
そしてつくしが首まで引き上げている布団を引き離そうと手をかけた。
だが彼女は必死の形相で布団を掴んでいた。その様子は何するのよ!と大きな瞳が訴え、ともすれば泣きそうな顔になる。
司は愛する人を泣かせることはしたくない。それに初めてを終えたばかりの女にセックスを強要したいとは考えてない。それにサディスティックな趣味もない。だがまさか自分の恋人がそういった趣味の持ち主だと知り、ショックを受けたような顔になるとは思いもしなかった。


「冗談だ。冗談。つくし、冗談だ」

司は、布団を首の位置で握っているつくしの手を掴み笑った。

「そんなに硬くなるな。俺はお前の意思がない限り、お前を抱こうとは思わねぇ。いくら恋人同士でも無理やりやって楽しい訳ねぇだろ?それは愛し合うとは言わねぇはずだ。それに言っとくが俺にはああいった趣味はない。だから心配するな」


仕事は出来るが恋に奥手の女。
30過ぎた女の純真さとでもいうのか。
司の恋人は素直で一直線。だが時に生意気なことを言う。

そんな女が愛おしく、睫毛に触れるか触れないあたりまで唇を近づけ「俺はお前を大切にしたい。それに守ってやりたい」と小声で言い「そんなヘンな顔するな。困った犬だぞ、その顔は。...ああ分かった。お前がどうしても観光がしたなら昼メシ食ってから出かけるとするか」と言って笑い眉間に寄った皺にキスをした。




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コメント
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dot 2018.02.15 08:10 | 編集
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dot 2018.02.15 21:46 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
つくしの身体を心配する司。でもつくしは大丈夫だから観光したいと言う。
そんな二人のピロートーク。
少し生意気なことを言う女をからかう男。
そして一生懸命さが足りないと言われこれから頑張るのでしょうか?(笑)
そうなるとつくしが大変ですね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.15 23:19 | 編集
と*****ン様
ピロートーク(笑)
こんなのなかった?!
生々しいではないですか!(≧▽≦)
それは....もしかして激しすぎて話しをする元気がなかったのではないでしょうか?
司は一生懸命さが足りないと言われ、これから頑張るのでしょうかねぇ?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.15 23:25 | 編集
L**A(坊****愛)様
昔の女との行為に『愛し合う』
この司、サディスティックな愛の運び手を気取ったようです。
「愛してやるからこっちへ来い」といった男でしょうか?
つくしに会うまでは本気で愛した女はいないようですよ?^^
それにあの話は、冗談だと言ってますからねぇ。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.15 23:38 | 編集
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dot 2018.02.15 23:54 | 編集
さ***ん様
【 一生懸命さが足りなかったんじゃいない? 】(≧▽≦)
生意気を言う女ですねぇ(笑)本当に初心者の分際で何を言うんでしょうね、このつくしは。
そしてそんな女にサディスティックな面を見せる男。
そしてギョッとする女。
大人の余裕を持ちながら愛を語る男は、ドン・ジョヴァンニの素質があるかもしれません。但し、口説く相手はつくしだけ。
つくしのバスローブが4メートル離れた場所に飛ばされていたのは何故?(笑)
う~ん(笑)司が目覚めたとき、ベットの近くにあったものをわざと遠くに飛ばした?
アカシアもよく分かりません(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.17 20:25 | 編集
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