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2015
10.19

まだ見ぬ恋人5

大使館の前で一人の男が建物を見上げていた。
約束の時間、11時のはるか前から司はその場所に立っていた。
早くからここに来たが待てない理由は無かった。
彼女に会うまで1ヵ月かかったんだ。
あれから数日のうちに司は大使館の査証課へのアポイントメントを取り付けていた。
なぜなら窓口申請は完全予約制だったからだ。

*****

「査証課の牧野さんは?」
司は聞いた。
「失礼ですが、お約束は?」
警備の男は胡散臭そうに聞き返した。
「ああ、ビザの申請の件だ」
「そうですか。ではこちらの用紙にお名前を記入してください。それからそちらの入口からお入りください」

司は大使館の中へと足を踏み入れた。
「11時からの約束だ。道明寺、道明寺司だ」
「道明寺さんですね?そちらへおかけになって少しお待ち頂けますか?」
そう言った女がドアを開け奥へと戻ろうとしていたちょうどその時、入れ替わるように彼女が現れた。
「お待たせいたしました。道明寺さんですね?」
「あ、ああ」
彼女だ!牧野つくしだ!落ち着け俺。冷静にやるんだぞ。
司は悪友たちに言われた言葉を思い出していた。

『 いいか司、最初が肝心だからな 』
『 司、おまえのその性的魅力を忘れんなよ。今こそその魅力を使え!』
『 今までが宝の持ち腐れっていうもんだ 』
『 色んな意味でおまえの持ってるものは超一流なんだからな!』
『 どんな女だっておまえになびかないはずがない 』

「では、こちらへどうぞ」
彼女が下げているIDカードにはT.MAKINOと書かれていた。


『 人を見かけで判断してはだめよ 』
彼女の母親はいつもそう言っていた。
はじめて彼を見たのは大使館の自分の職場で、ビザ発給申請のために訪れたときだった。
つくしはその男を観察していた。仕事柄どうしてもそのような目で見てしまう。
書類に記載されている発給要件は満たされている・・・
裕福なビジネスマンらしさが彼の態度に見て取れた。
背が高く、均整のとれた身体つきをしていた。
そして温かみのない冷たい目をしているように感じられた。
そして何故か睨まれているように感じていた。
このひと、どうしてそんな目でわたしを見ているの?

道明寺さんか。
実家はお寺かな?
つくしは彼から提出された書類を広げて見ていた。
「はい。では道明寺司さん。書類はすべて揃えていただいていますね?」
つくしはそれから数分間、彼に質問をしていた。
「ビザは商用ですね?」
つくしは聞き返した。
「そうです」
司は応じた。
「最後にひとつお伺いしますが、お仕事はどのようなことを?」
つくしは目を通していた書類から目を上げた。
「自営業です」
司は低い声で答えていた。
そうか・・・もしかしてお寺って自営業?
「そうですか。どんな内容のお仕事か聞いてもいいですか?」
「手広くやってます」
司は答えた。
「そうですか。ご繁盛されているんですね」
つくしは書類に目を戻した。お寺も多角経営の時代だものね・・・
彼女は愛想笑いを浮かべた。
「では、申請書類は受付致しましたので。審査期間は約1ヵ月くらいかかります」
そして彼女はにっこりほほ笑んで言った。
「ご苦労さまでした」


*******



「おい、司どうだった?」
あきらがポケットからタバコを取り出しながら言った。
「なんか話しはしたか?」
総二郎はテーブルの反対側にいる司に言った。
「いや、ダメだ・・」
司はウイスキーの入ったグラスを置き、真顔で言った。
「仕事は何してるか聞かれて自営業だって答えちまった」
「なんだそれ?世界に名だたる道明寺HDをつかまえて自営業だと?まあ、あながち間違いでもないけどな。で、おまえの名前を聞いても反応なしか?」
あきらは乾杯の仕草をするようにグラスを掲げてみせた。
「 ああ 」
司はあきらが掲げたグラスに答えるように、グラスを手にすると掲げてみせた。
「道明寺って聞いて寺だと思ったんじゃねえの?」
「はぁ?牧野つくしって日本人だろ?それにおまえの名前を聞いてもピンとこないってどういう女だよ?」


「いやいや逆に面白いよな、つくしちゃんって!」
総二郎はそう言うと笑った。
「総二郎!なに勝手に名前で呼んでんだよ!」
「そんなに怒るなよ司」
あきらがたしなめた。
「で、どうすんだよ?」
「ああ、ビザが降りるにはあと1ヵ月はかかるそうだ」
司は淡々と答えた。
「それまでに・・なんとかしないとな司!だって次に堂々と彼女に会えるのは1ヵ月後ってことだろ?」
会話が途切れたところで司はため息とともに頭を抱えていた。


「なあ総二郎、『地下鉄の女』あらため『大使館の女』ってどうだ?」
「なんかサスペンスドラマみたいだな?」
「 だろ? 」
あきらがにやりと笑みを浮かべた。

『犯人はあなたね!道明寺っ!』
『そうだ、俺が殺したんだ。よく見破ったな牧野っ!』

こいつら二人してなにクネクネしてんだ!
小芝居してる場合かよ・・・おまえらぶっ殺すぞ。
「おまえら笑うんじゃねえよ!」
司は再び頭を抱えていた。








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コメント
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dot 2015.10.19 05:36 | 編集
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dot 2015.10.19 06:27 | 編集
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dot 2015.10.19 13:57 | 編集
た*き様
いつも鋭いコメント有難うございます。
そうですよね。初めて道明寺って聞いたらお寺だと思っちゃいますよね?
大使館勤めのつくしちゃんには押し掛けて行くわけにはいかずの状況を作ってしまいました。
うーん、司くんのツテ、あるのでしょうか?(笑)
アカシアdot 2015.10.19 22:01 | 編集
ka**i様
> 全く相手にされない司(笑)
笑えますよね?
一目惚れの片思い・・
俺様どうするんでしょうか?
つくしちゃん地下鉄の駅での出会いは全く覚えていません(笑)
相手は大使館職員ですので、迂闊なことは出来ません。
なんだか自らハードルを上げてしまったようです(笑)
アカシアdot 2015.10.19 22:14 | 編集
あ**う様
はじめまして。
コメント有難うございます。
え?そうなんですか?(°Д°)
拙家はマイナー路線ですので、後回しでいいですよ!
また、過度な期待も禁物でお願いします(笑)
そして労りのお言葉を有難うございます。
こちらこそよろしくお願いいたします(´∇`)
アカシアdot 2015.10.19 22:29 | 編集
ゆ*ん様
つくしちゃんの微笑みの理由・・。
なんでしょう?(笑)
あまり深く考えないで下さいね。
アカシアdot 2015.10.19 22:47 | 編集
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