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2018
02.12

恋におちる確率 67

急速に深まった二人の関係。
つくしは司が自分の過去を打ち明けてくれたのは、嬉しかった。
しかし今度は逆につくしが自分の過去を話さなければならない日が来る。
だがそれを話すべきなのか。それとも話す必要はないのか。
それは、この年になっても男性経験がないことだ。

まさか嘘だろ?どうして?と驚かれることは目に見えている。
それに初めての女が彼のような男を満足させられる自信はない。
だがいつか話さなければと思う。

それにしても、
『お前も分るだろ?男ってのはやっかいなもので女が欲しくなる時がある』
といった言葉がなんの躊躇いも無く出るということは、つくしに経験がないとは考えてもいないはずだ。
だが全く知識が無い訳ではない。男の生理といったものも理解しているつもりだ。だがその知識も久美子から聞く話に限られている。
だがこれから二人は普通の恋人同士で、手順を踏んだ時間の過ごし方をすればどうにかなるはずだ。







ウィーンは東京と同じ23区から成り立っている街。
ヨーロッパ有数の世界都市だが東京とこの街では当然だが時間の流れが違う。空気が違う。
東京の街しか知らない人間なら、この街はクラッシックで保守的だと感じるかもしれない。
そしてこの街は政略結婚により広大な領地を獲得し、ヨーロッパの数か国を支配したハプスブルク家の栄華が色濃く残る街。日本にある侘びとは正反対の華やかな宮殿がある街。
ところどころに公園があり音楽の都の名のとおり有名作曲家の彫像が数多く立つ街。
その街にちょっと寄ってこうと言った恋人。
だが何故この街に?



「でもどうしてウィーンに?」

そう訊いたつくしに、

「オペラを見るためだ。お前はオペラを見たことがあるか?」

「…『オペラ座の怪人』なら見たことがあるけど、オペラは見た事ないわ」

つくしがオペラとつくもので見たことがあるのは、『オペラ座の怪人』と言うミュージカルでオペラではない。それに、オペラと言えばクラッシックと同じ高尚なイメージがあり、イタリア語で上演されるものが多く理解出来ないといったことがあり足を運んだことがない。

「そうか。オペラはいいぞ。言葉が分からなくても演劇とオーケストラの演奏で構成される舞台芸術は初めて見た人間でも感動するらしい。だからお前もきっと感動するはずだ」

つくしは、道明寺司クラスの人間になれば、オペラくらい行ったことがあるのは当然だと納得できるが、それでも音楽に興味があるということが意外だった。
だが聞けば幼いころから英才教育を受けており、その中のカリキュラムとしてピアノがあったと言う。そして音楽といえば、クラッシックが好きだというのだからそれも意外だったが、育ちの良さと品というものは、どんなに荒れた少年時代だったとしても失われることはなかったということだ。

「ねえ。今でもピアノは弾けるの?」

そう訊いたのは、この人がピアノを弾く姿は美しく絵になるだろうと思ったからだ。

「ピアノか….。大昔の話だが練習すればなんとかなるかもな?」

と言ってゆっくりと笑顔を作った司はつくしの掌を掴むと、膝の上で握りしめた。

それは秘書としてではなく、恋人としてのつくしの手を掴んだ大きな手。
男らしく逞しく、指は長く爪の形まで美しかった。
もしピアニストになっていたら、この手はどんなメロディを奏でたのか。
その姿を想像するのは簡単で、ダイナミックなベートーヴェンから繊細なショパンの調べまで、曲のイメージそのままに完璧に弾きこなすことが出来るはずだ。

それにしても、この手はどんな風に女性を愛するのだろうか。
ふと、そんなことが頭に浮かび、つくしは顔が赤らむのが感じられ、取られている自分の掌を引き抜こうとしたが離してもらえず、男の顔を見れば甘い顔で見つめられていた。

「どうした?」

「あ、あのね。手….」

「手がどうした?」

「だから手を握らなくてもに、逃げないから!」

「当たり前だ。なんで逃げる必要がある。それにキスはいいが手を握るのは駄目か?」

「いや、そうじゃなくて…」

機内で自分からキスしたのは、下着の話をされたから。今までも何度も口にされた下着についての会話。スカートのファスナーが開いている。胸もとのボタンが外れている。そしてどちらの時も色はベージュ。あの事は忘れたと思っていたのに、何故それを口にするのか。もう言わないでといった思いから口を塞いでいた。
だがキスしたかったからキスをしたのは正直な気持ちだ。そしてそれから重ねられた唇は優しかった。

「それなら握らせてくれ。こうやって手を握ると温かい気持ちになれる。それはこの手がお前の手だからだと思うがな」

そんな風に言われれば、嫌とは言えずそのままずっと握られていた。

そして堅苦しい呼び方は止めろと言われ、二人の会話がごく普通の言葉使いになったのは、ジェットを降り車に乗ってから。

「プライベートで副社長と呼ぶのはやめてほしい」
「じゃあなんて…..」
「名前でいい」
「名前?」
「ああ。司だ。司と呼んでくれ」

だがまだどうしても司と呼び捨てにすることは出来ずにいた。





ウィーンに着いたのは昼過ぎで、それからオペラを見に行くためのドレスを買うと言われ、世界的に名の知れた高級店が軒を連ねる通りのブティックに連れて行かれ、つくしの背の高さでは合うサイズがないと思っていたが、用意されていたのは、彼女の背丈に見合うものばかりだった。それを何故?と疑問に思うことは愚問であり、資本主義の国で金を使うことは経済を活性化させることになるから気にするなと言われれば、それはそれで納得していた。

当然だがドレスは有名デザイナーのもので、値段を訊いたとしても払えるはずがないのだが一応訊いてみた。

「ねえ、このドレス高いでしょ?あたし、いいから。そんなドレスばかりいいから。日本から持ってきたのがあるし、ほら。晩餐会で着たドレスがあるから買わなくていいから」
と言えば、
「あれはあれ。これはこれだ。それに好きな女に服を買ってやるのが悪いことか?いいからつべこべ言わず受け取れ」
と言われた。

そしてオペラと言えば、ミラノのスカラ座やパリのオペラ座が有名だが、今夜ウィーンの国立オペラ座で演じられる『ドン・ジョヴァンニ』はこの国が生んだモーツアルトの作品だ。
司はドイツ語で演じられるそのオペラを見るためつくしをウィーンに連れて来た。

物語は、女たらしのスペイン貴族ドン・ジョヴァンニが主人公。
ドン・ジョヴァンニとはイタリア語の呼び名で、スペイン語ではドン・ファンと言い、今ではプレイボーイの代名詞として使われている。


物語の主人公であるドン・ジョヴァンニは悪い男で、老若、身分、容姿を問わず次々と女を誘惑する中で、ひとりの貴族の娘に夜這いをかけモノにしようとするが、抵抗し助けを求めた娘の父親に見つかり、殺されそうになり逆に彼を殺してしまう。だがその後も女を誘惑する行為は続き、人を殺した後悔はない。
そして墓場で、自分が殺した父親の石像の側を通りかかったとき、その石像を戯れに宴会へ招待したが、本当にその石像が亡霊として現れ、ドン・ジョヴァンニに悪行を悔い改めろと迫るが、拒否した男は石像によって地獄に引きずり込まれ死を迎えるという内容。
つまり悪いことをすれば、地獄に堕ちるといった話。

だが何故司はそのオペラをつくしに見せたかったのか。
別に大した意味はない。演目は何であろうと構わなかった。
ただ、一緒の時間が過ごしたかったから。
彼女と一緒に楽しい夜が過ごせることを望んだから。

そして司の親友にまさにドン・ファンと呼ばれる男がいる。
その男は大勢の女と付き合うが本気の恋はしない。だが、憎めない男で手を出す相手は見極めている。そして全ての女を平等に愛している。そんな男の話を笑い話としておかしく話してやるつもりだ。

それにドイツ出張で散々な目に遭わせたのだから、東京へ戻る前に二人でゆっくり過ごしたい気持ちがある。
だがどこか緊張している姿に恋に不慣れな女だと分かった。
だから急ぐつもりはない。
今夜は二人でゆっくり過ごせればそれでいい。

だがキスより先に進めていいならそうするつもりだ。




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コメント
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dot 2018.02.12 00:28 | 編集
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dot 2018.02.12 18:05 | 編集
司*****E様
こんばんは^^
更新時間!間違えました(笑)朝起きて驚きました(笑)
変更はございません。大変失礼いたしました(低頭)
休日ということで早めに書き終え保存したのですが、間違えていたようです。

ウィーンでオペラを見ることになった二人。
演目は何でもよかった。『ドン・ジョヴァンニ』はプレイボーイの男の話。
つくし、楽しめたのでしょうか?
司は幼少の頃習ったピアノが今でも弾けるのでしょうか?是非弾いてもらいたいですね?
そしてクラッシックが好き。今の彼からは想像が出来ないかもしれませんね?(笑)

つくしも自分からキスをしてみたり、司との情事を想像したり。
今まで他の男性には感じたことがない気持ちが湧き上がってきました。
さあ司。ありのままのつくしを受け入れて下さいね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.12 23:02 | 編集
さ***ん様
男の知識は久美子の話限定。
う~ん。どんな話しをしたのでしょうねぇ。
司のピアノのタッチから、あちらのタッチを想像する女!(笑)
ピアニスト道明寺司!いいかもしれません。
リサイタルは女性ばかりでしょうね?
それにしても、自分からキスしておいて手を握られて緊張する女(笑)
本当にこの人は、そっち方面は初心ですね?(笑)
ウィーンでオペラ鑑賞。つくしがオペラを鑑賞する隣で司はつくしを鑑賞。
司はドン・ファンではありませんから、この演目はどうでもいい。
だけど、オペラ鑑賞という大人の楽しみを二人でしたかったようです。
そして夜はまだこれから?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.12 23:29 | 編集
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