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2018
02.06

恋におちる確率 61

「マ、マリアさん?!」

怒りに酔った目。
つくしの腕を掴んだのはそんな目をした女だった。
身体が大きく背の高い美しい女性は、自分より背が低い東洋人の女の言動が気に入らなかったのだろう。つくしが化粧室から出て来るところを待ち伏せ、腕を掴み、彼女の身体を振り向かせた。

「あなたさっきは分かったような口を利いたけど、一体自分を何様だと思ってるのよ?それにあなたまだツカサと寝てないんでしょうけど、それは自分が大切にされていると思うなら大きな間違いよ!いい?ツカサはね?子供みたいな身体の女なんて抱く気がしなかったからあなたを抱かないのよ!それにあなたのことなんて本気じゃないわ。そうよ・・そうに決まってるわ!」

いきなり一方的に、そして捲し立てるように話はじめたマリアの斜め上から見下ろす表情は暗く、ドス黒い憎悪といった感情がつくしに向かって流れて来た。
そして彼女の息は、明らかにワインの飲みすぎだと分かるが、腕を掴んだその手にぎゅっと力が入ると恐怖が感じられ、つくしはたじろぎ、手をふりほどこうとしたがマリアの力は強かった。

「マ、マリアさん、あの・・」

「何がマリアさんよ!どうせ心の中じゃ捨てられた女だとでも思っているんでしょ?!心の中じゃ可哀想にって笑ってるんでしょ?私はね、男に捨てられてことなんて今までなかったわ?いつも男に別れようって言うのは私の方なの!男に別れようなんて言われたことはなかったわ!ツカサに捨てられた以外なかったのよ?私は侯爵令嬢よ?その私を簡単に捨てるなんて・・それも子供みたいな女の為に!」

酔っている。
マリアはどう見ても酔っていた。
だがその声は力強く、自信に満ちているがつくしには意味が分からなかった。
マリアと司が別れたのは2年も前の話であり、つくしは二人が別れたころ副社長に出会ってもいなければ、その存在すら目にしたことがなかった。それに当然だがマリアという女性と副社長の関係も知らなかった。

そして今のマリアから感じられるのは、アルコールの匂いと熱い息づかい。
視線はつくしを見ているが、怒りに酔ったその目は何も映していないように見え、理性と狂気との感情の境目といったものがあるなら、マリアは明らかにその境目を越えている。そしてつくしの掴んだ腕を更に強く締め付けるように握った。
その瞬間、つくしの腕に痛みが走った。

「マリアさん・・お願い冷静になって・・私は2年前にはまだ・・」

「お黙んなさい!どうせツカサと二人で私のことを話して笑ってるんでしょ?侯爵令嬢が・・侯爵令嬢のマリアは金に困ってる女だってね!」

マリアは恫喝するように語気を荒げつくしの言葉を制し、怒りに満ちた顔をしていた。
今までつくしはひとりの男を巡って争ったことなどない。こんな経験、つまり修羅場と言われるものは初めてだが、マリアの言いたいことは十分伝わっていて、ただ冷静さを欠いたマリアの姿は恐怖以外の何ものでもなく、明らかに酔っぱらっているマリアをなんとか落ち着かせようとした。

「そ、そんなことありません!私と彼はあなたのことを笑ったりしてませんから。それにあなたがお金に困ってるなんてことも知りませんから」

と言ったがマリアは甲高い声を上げ笑う。

「ふふ・・あはは!・・ミスマキノ。あなたどこまで私をバカにすればいいの?どうして私が東洋の泥棒猫に自分の男を取られなきゃならないのよ?どう考えてもおかしいでしょ?あなたみたいな女に彼を取られるなんて!」

「マリアさん。落ち着いて下さい。私はあなたから副社長のことを取ったりしてません!それに私はあなたをバカになんてしてません!」

つくしはマリアの言葉を否定し、彼女を落ち着けようとしたが非難する声は止まなかった。
そして笑いながら赤い唇の両端を持ち上げた。

「私ね。あなたみたいな女が一番嫌いなの。ツカサがすぐに手を出さないから大事にされてるって思ってるんでしょ?真面目な顔して大切にされてますって顔。そんな顏をしている女が一番嫌いよ?それにね?一族の財産を守るのは私の勤めなの。だからどうしてもツカサが欲しいの。それに彼のことが忘れられないのよ?分るかしらあなたに?まだ彼と寝たことがない子供のようなあなたに!」

ガッシリと腕を握られたつくしは、離れることが出来ず、ただマリアの話を訊いていた。
そして一瞬だが緩やかにほほ笑みを浮かべたマリアは、やがて少しずつその顔が厳しいものに変わった。

「なによ?その顔は!私に同情しようって言うの?フン・・冗談じゃないわ。どうして私があなたに同情されなきゃならないのよ?私だって昔はツカサに愛されたのよ!それに私には貴族の娘としてのプライドがあるの。だからどうしてもツカサが欲しいのよ!」

緑の瞳はそれから瞬きもせずつくしをじっと見つめ、今度はゆっくりとした猫なで声が言った。

「・・・だからね、ミスマキノ。邪魔しないで欲しいの」








***








司が楓から受け取った封筒の中には牧野つくしとマリアが一緒に写った写真と共に、一枚の紙が入っていた。それはマリアについての報告書。
そこに書かれていたのは、マリアはアルコール依存症だと記されていた。
そんな女の手に握られているのはワイングラス。
中身は赤い液体。それが意味するのは、中身は酒であり水ではないということだ。
そしてその事実が何を意味するのか。

アルコール依存症は脳が麻痺していて、アルコールを飲み始めると、ここで止めようといった制御が効かない。自分の意思で飲酒をコントロールできない。となれば、マリアがワイングラスを手放すことはない。そして酔った女は誤った思考判断をする。極度の思い込みや被害妄想といったものが強くなる。やがて飲酒量が増え、暴言を吐き暴力を振るようになる。

「司?あなた彼女に警護をつけているの?今のマリアはあなたが付き合っていた頃の彼女とはかなり違うはずよ?」

楓は牧野つくしを称賛も否定もしなかった。
偏った先入観といったものも持たなかった。
ただ事実だけが分かればいい。息子が彼女のことを真剣だと知った以上、知らせてやるのが親の務めだといった態度を取った。
そして楓の言葉を即座に理解した男は執務室を飛び出し、使用人に大声で叫び駆け出していた。

「すぐにジェットの準備をしろ!」




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コメント
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dot 2018.02.06 06:33 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
アルコール依存症のマリア。
そうなると彼女の行動は予測不可能かもしれませんね?
そして今は素面ではありません。
マリア、つくしに相当嫉妬をしているようです。
これ以上何か言うと逆上しそう?確かにそれは言えるかもしれませんね?
司。大変です!早く行かないと!早く!早く!^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.06 21:50 | 編集
H*様
マリア。そうなんです。
アルコール依存症になっていました。
どうしてそんなことになったのでしょうね?
そしてマリアから見れば日本人は扁平で性的な魅力に欠けるようです。だから何故司がつくしを好きなのか理解出来ません。
でも司が好きなのはつくしなんですから、マリア、諦めて下さいとしか言えないんですよねぇ。
何しろ惹かれるときは、惹かれるんですものね?^^
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.06 22:00 | 編集
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