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2018
02.03

恋におちる確率 58

自分だけがルールを守らなくていいと思っていたのはガキの頃の話。
今の司はビジネスに於ける己の役割を理解していた。
だから直ぐにジェットでチューリッヒへ飛んだ。






久し振りにスイスの邸を訪れたのは、母親であり道明寺HDのトップにいる楓から来るように言われたからだ。
世界の巨大金融センターと言われるチューリッヒ。
ヨーロッパに於いては、ロンドンに次ぐ二番目と言われる金融都市であり、多くの国際機関の本部が置かれる街。
当然のことながら、道明寺HDもビジネスの拠点のひとつとして重きを置いている。

ダボスでの国際会議に出席している楓が、ドイツにいる息子を呼び出した理由は一体何なのか。はっきりとした言葉はなかったが、母親であったとしても社長である以上、来いと言われれば、その命令には従わざるを得なかった。それが組織というものだからだ。

国際会議が開催されているダボスに空港はなく、ヘリでの移動が一番手っ取り早く、楓もそうしているが、息子を呼び出しておいて今夜は戻って来る気はないのか。邸は使用人だけがいた。
仕方なく今夜はそのまま休むことにしたが、牧野つくしのことが頭に浮かび、顔には自然と笑みが浮かんだ。

司を下から見上げる様子は、迷子になった犬が困惑顔で飼い主を見上げているように見えた。そんな女はごくひいき目に言っても、容姿は十人並。
だが司には素朴ながらも美しく見え、心の中の思いが溢れやすいのか、奇妙な表情を浮かべることも多いが、それを見ているのが楽しく感じられた。そして牧野つくしは、周りにいなかったタイプの女であることは間違いなく、だがそれが珍しいと感じられたのは初めだけだ。

偶然の接触から、故意への接触へと変えながら、からかってみれば、時にムッとした表情を浮かべることもあったが、自分が秘書だということを忘れることもなく、淡々と仕事をこなそうとする姿に惹かれた。

司には理想の女というのがいない。
だがもしかすると彼女がそうなのかもしれない。
そして彼の容貌にも金にも興味を示さず、職務を全うしようとする態度が司の心を掴んだ。

若い頃に思ったことがある。
もし、自分の容貌が今と違ったら。
もし、自分が貧しい家の子供だったら。

もしそうだったら自分は放っておかれたはずだ。誰も周りに寄り付かなかったはずだ。
好かれたのは表面上の姿や、金といったものであり、それが全て取り払われたとすれば自分を好きになる女はいなくなるはずだと。
だから愛というものを見極めようとすればするほど、相手の瞳の中に浮かぶ様々な欲望といったものが見えた。
それは、金や名誉。そして性的欲望といったものだった。

司は、これから手順を踏んだいい恋愛をすればいい、と言ったが、愛だの恋だのといった言葉は彼の世界には無く、意味のない言葉だったのが事実だ。
実際、愛がなければ女を抱けないという男は世の中にはいないはずだ。だから今まで関係があった女は愛がなくても抱けた。それはマリアのような女のことだが、そもそも、司は自分があんな育ち方をして愛が分るのかといった思いもあった。

それは、幼少期に母親が不在だったことが影響していると言われるが、楓は母親としての愛情が希薄な人間だ。司を産むことは家の存続のためだと言われていたが、産んだはいいが、その子を育てるのは使用人に任せ、自分はビジネスで世界を飛び回るような人間で、子供に対する献身といったものは欠落していた。
だがその分、会社においては圧倒的な専制君主だと言われていた。

そして司の住む世界の住人は、ビジネスのための政略結婚が当たり前で、相手に恋愛感情を持つ者は少ないと言われている。たった一度顔を合わせただけで結婚が決まる。そんなことはザラにあった。
だからそんな状況で育った男に愛だの恋だのといったものを求められても分からなかった。

だが今なら分かる。
不思議だが牧野つくしという女性と出会ってから、恋というものを理解した。
だから他の男が近づいて来たとき、嫉妬という感情を抱いた。
そして彼女を欲しいと思う反面大事にしたいといった気持ちが湧き上がっていた。

だが、それと同時に頭を過るのは、マリアのことだ。
マリアは牧野つくしがドイツ語を理解出来ないことをいいことに、本人の目の前で相手を貶すような女で何を考えているのか分からない。
そして楓は二人の仲を認めていたといった発言をした。
だが母親が婚姻を画策することは無かった。だからマリアの言う言葉は信用出来ない。あの女は平気で嘘をつく。

そんな女に司は突き放すように言葉を返したが、気位の高い女は自分が侮辱されたと思ったはずだ。
それにマリアは嫉妬深く粘着質なところがある。
それが繋ぎ止めておけなかった男に向けられるとは別の、その男の興味が向かった先へ向けられるとすれば、今のマリアの感情が向けられるのは牧野つくしということになる。
だがボディガードは付けているのだから何かあれば連絡があるはずだ。
司は暫くぼんやりと牧野つくしのことを考えていたが、一服二服とふかしていた煙草を灰皿に擦りつけ、今夜は休むかと部屋の灯りを消した。









冬の間は雲っていることが多いチューリッヒのめったにない冬晴れ。
まさにそう言ってもいい天気。
遠くに見える山は雪景色が広がり、空は晴れ上がり澄んだ空から冬の陽射しが落ちてきていた。しかし最寒月である1月のこの街の平均気温はマイナスで、外の空気は凍るほど冷たいはずだ。

そして広大なスイスの道明寺邸の門は一台の黒い車が入ってくると閉められたが、夜中のうちに降ったのだろうか。庭に置かれているブロンズ像も路面も薄っすらと雪に覆われていた。
そしてその中にタイヤの跡が残されて行き、やがて車が正面玄関に横付けされると、ひとりの女が降りてきた。




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コメント
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dot 2018.02.03 10:12 | 編集
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dot 2018.02.03 13:31 | 編集
ふ******マ様
おはようございます^^
きっと来る楓さん(笑)
これは司もつくしも避けて通れない試練なのでしょうか?
え?ヤバかったら豆撒いて逃げるんですね?
節分ですしそれいいですね?(笑)
拍手コメント有難うございました^^


アカシアdot 2018.02.03 22:15 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
スイスに到着したが、楓は不在。
司少しムッとしたかもしれませんね?
楓さんは何をおっしゃるのでしょうね?

DVD予約!これで何度でも見ることが出来ますね?
あ、でも内容的に堂々と見ても大丈夫ですか?
そしてお風邪を召されたとのこと。
来週は寒さが一段と厳しくなるようですので、お大事になさって下さいね。
温かくして身体を休めるのが一番と言われますが、実際にはそうもいかず・・の状況だと思いますが、ご無理はなさいませんようにお過ごし下さい。そしてご心配いただき、ありがとうございます。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.03 22:32 | 編集
か**り様
マリアについて行ったつくし。
そしてスイスの楓の元に行った司。
とりあえず今夜は休みましたが明日は?
え?早く日本に帰ろう?多分まだ帰ることは出来ないのではないでしょうか。
もう少しドイツの冬を過ごすはずです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.02.03 22:39 | 編集
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