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2018
01.26

恋におちる確率 53

黒のリムジンは、司の指示でホテルに戻ることはなく市内を走っていた。
エンジンの音も振動も何も感じられない大型の高級車は、ただ静かに暗闇に包まれた道を走っているが、それはまるで足音を立てず忍び寄る猛獣のような慎重さ。
それは、中に乗っている人物の重要性を知っているからなのか。
運転席の男の隣にはドイツ人のボディーガードがひとり。そして後続の車にもドイツ人と日本人が別れて乗っているが、突然の予定変更に驚きはしなかった。
道明寺司がそうしろ、と言えばそうすることが彼らの仕事なのだから。
そしてリムジンの横を、緊急車両が派手にサイレンを鳴らしながら走って行ったが、その音が遠ざかると、車内には静寂が広がった。








「牧野。話がある」

「な、長いお名前ですね。マリアさん。シュタウ・・なんだか舌を噛みそうなお名前で一度聞いただけでは覚えられませんよね?」

後部座席に隣同士に座る男と女は同時に口を開いた。
だが二人とも互いの顔を見なかった。見れば目の動きと口の動きに気を取られてしまうから、その方がいいのかもしれない。
それに顔を見なければ、表情を知らなければ、互いの声だけに、言葉だけに集中出来るからその方がいいはずだ。

そして再び訪れた気まずい沈黙の時間。
だがそれは今まで何度もあった。
時に視線を合わせたまま、相手が何を考えているのかと思考を巡らせたことがあった。
それについ数時間前のリムジンの床でキスをした時もそうだ。
だがこれまでの二人は、二人の間に流れる意味の分からない沈黙を無理矢理打ち消していた。

しかし今は身体に残る強烈な感覚、それは激しいキスをした感覚が、車中という閉塞感に満ちた場所にいるにもかかわらず、そこに広がる沈黙という空間に耐えられなくなったのか。
二人同時に開いた口から出た言葉は「俺は」と「私は」。
だが「・・どうぞ副社長から・・」と言って譲ったのはつくしの方だ。



司は隣に座る女がどんな表情を浮かべているのか知りたいと思った。
だが今隣を見れば冷静な話が出来ないかもしれないと前を向いたまま口を開いた。
それは、マリア・エリザベート・フォン・シュタウフェンベルグと自分についての関係だ。

「マリアは俺が昔付き合っていた女だ。半年・・付き合ったか?確かそんなものだった。それに付き合ったと言っても真剣だったわけじゃない。互いを縛り付けるような付き合いはしないと言って始まった関係だ」

司がマリアと知り合ったのは、NYのパーティー。
どうでもいいと思うパーティーでも、出なければならないこともあった。
そんなパーティーで紹介されたのがオーストリア人で侯爵令嬢の称号を持つマリアだ。

「そんな関係が半年過ぎた頃からだったか。マリアはミセス・道明寺になりたいと言ってきた」

二人の関係は、はじめから身体だけの関係。
そしてマリアもはじめはそれだけで満足していた。
だが半年が過ぎた頃から、結婚といった言葉を匂わせるようになった。
そして昔からある古典的な罠を仕掛けようとした。
それは妊娠した。司の子供を身ごもったという罠。

だが、避妊に気を配っていた男が彼女の罠にかかることはなかった。
それにもし本当に妊娠したというなら、証拠を出せと言った。そしてそれと同時に、マリアが他の男とも関係していることを知り別れた。そしてNYを離れ日本へ住まいを移した。
それから後、彼女が子供を産んだという話を訊くことがなかったことから、彼女の話が嘘だったことが明確になった。


「マリアは、その美貌で男を手玉に取ることが好きな女だ。一族はオーストリアの侯爵家で先祖から受け継がれた広大な土地と城を持つ。その地位があの女の美貌をより魅力的に見せているのか男が放ってはおかない。それにマリアはもてはやされている自分が好きな女だ。そんな女はいつも最高級品を身に付け、自分が女としていかに魅力があるかということを見せたがる。要は外面的なことを重んじる女ってことだ」

司は若い頃からそんな女を何人も見てきた。
自分が生まれた環境にいる女は皆そうだった。
そんなマリアとも、はじめに身体だけの関係だと決めて付き合い始めたものであり、彼女が結婚という言葉を口にするとは考えもしなかった。

それにマリアとの付き合いは司が望んだものではなく、向うが強く望んだことであり、ましてや男女関係でマリアのように世間の注目を集めることを望んではいない。
そして司には数多い恋人がいたと言われているが、マリアが言ったように彼女と寝ながら他に女がいたこともなければ、同時に何人もの女と付き合った覚えもない。
それに悪い男というわけでもない。
ただマリアから見れば、エキゾティックな東洋の男であり、今まで付き合ったことのない男として映った。そして金がある男。
そんな男だから付き合いたかったということに過ぎないはずだ。

だが今夜突然現れたマリアは何を考えているのか?
彼女を美しいともてはやす男ならこのヨーロッパには大勢いるはずだ。
そしてマリアは気まぐれな猫のように気分が変わる女だとも言われ、付き合うなら自らが主導権を握ることを望む。

しかし司との場合それは土台無理な話でありベッドの中の行為にも無かった。
だがマリアという女は、開放的であり奔放な女だった。だからこそ、マリアの言った『あなたを取り戻すからと彼女に伝えてちょうだい』という言葉が気になった。


「俺とやり直したいと言ったあの女は、じっとして男を待つような女じゃない。舵を取る、男を自分の思うままに動かそうとする女だ。それにあの女は手に入らないものを欲しがる。手に入らないと思うと欲しくなる。そんな女だ」

司はそんな女が危険な女だと感じていた。
自分を見たあの瞳もだが、隣にいた牧野つくしを見た緑の瞳は悪意が感じられた。
鋭い爪を持つグリーンの瞳の白い猫は、船底にいるネズミを捕るのではない。
高貴な白い猫は頭を使い獲物をおびき寄せることをする。
牧野つくしは仕事は出来る女だが恋には疎い。
だから猫に弄ばれるネズミになって欲しくない。

だから自分の気持を伝えなければならない。
そして伝えたところで彼女をマリアから守らなければならないと感じていた。
何しろ牧野つくしは、引き受けた仕事はやり通すといった女だからだ。
ただ、マリアに対してのそんな行動は必要ないと伝えるつもりだ。


「牧野。お前は俺の恋人役として盾になる。防波堤になるつもりだろうが、あの女はやっかいな女だ。さっきのようなキスで誤魔化せる女じゃない。あの手の女には思慮分別ってのが欠けてる。だからさっきのキスはお前が盾になるつもりでしたならそんなキスは今後は必要ない」

司はそこでつくしに顔を向けたが、彼女はじっと前を向いていた。
だが彼が自分を見た事で、彼女は不思議そうに司の方を見た。
そして口を開き、
「なぜ_」
と言いかけたところで、司の言葉が遮った。

「俺はお前のことが好きだ。だからキスするなら本気でしてくれ。それから俺がお前にするキスは全て本物のキスだ」





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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.01.26 07:42 | 編集
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dot 2018.01.26 21:37 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
二人とも気まずい雰囲気(笑)確かにそうですよね。
キスしたが、それは仕事?でも違う?色々な気持ちが湧き上がる二人。
じれったいですね?(笑)

背中が低温火傷。大丈夫ですか?
まだ寒さが続きそうですので、カイロは欠かせませんが、気を付けて下さいね。
ドラマ決定。アカシアもあちらのお話は初めの頃だけ読みましたが、もう随分と読んでいません。
坊ちゃんの登場があれば、と思うのですが、ドラマでも出演してくれるといいですねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.01.26 23:22 | 編集
と*****ン様
気持は言葉にしなければ、相手には伝わりません。
やっと言ってくれました(笑)
『好きだ』この言葉は特別な言葉。確かにその通りです。
この言葉を言われて嫌な人はいないと思います。
そして言葉は不思議。そうですよね。
『好きだ』は心に響く言葉のひとつですよね?
え?一生使わない人がいる?|д゚)
そして、その中の一人が?それは困りましたね?きっと恥ずかしく言えないんですよッ(^^)
これから言わせましょう!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.01.26 23:33 | 編集
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