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2018
01.25

恋におちる確率 52

二人を乗せたリムジンは、晩餐会の会場だったホテルを出ると、宿泊先へと向かったが、10分足らずの道のりですぐに到着するはずだ。
そして車内では、濃厚なキスに顔を火照らせ頭の中が混乱し、眩暈を起しそうになった女が自分の鼓動に耳をすませ、隣に座った男の態度を気にしていた。
だが男は黙ったままで、二人の間には沈黙が流れていた。







つくしは、副社長がマリアと呼んだ女性との会話が理解出来なくても、彼女が迷惑な女性だと確信していた。
いくら男関係が希薄だと久美子に言われても、その女性と副社長との間に何かがあったことは、女性の態度から感じられるものがあるからだ。

それは、手をのばし男の腕に触れようとした態度もだが、つくしに向けられた視線は、同性ならではの相手を値踏みする視線であり、見下すような視線だったからだ。
そしてその視線を向けられたつくしは、マリアにとっては取るに足らない存在なのだろうか。
口元には薄笑いが浮かんでいたように思えた。


マリアは背が高く、ウエストや手首が細く、胸は形のいい張りがあった。
そしてドレスの裾が長く見えなかったが、足首も細い女性だと確信していた。
だいたい美女というのは、今挙げたことが概ね該当している。
そしてそれは、つくしには永遠に手に入れることが出来ない体型だ。

本来なら比べるのもおこがましいことではあるが、オランダ人やドイツ人といった体の大きな女性の隣に立てば、彼らの子供よりも低いと言われる身長で胸も大きくはない。
それに欧米人が思うステレオタイプの日本女性、つまり素直でしとやかで、従順といった女性ではない。そんな女にチャームポイントを言えと問われれば、一体何を挙げればいいのかとさえ思う。
そんな思いを知ってか知らでか、マリアという女性はつくしのことを笑っているように見えた。


それにしても、副社長の好みのタイプというのは、ああいった女性なのだろうか。
だとすれば、自分のような女では箸にも棒にも掛からないと溜息が出そうになる。
そしてそれ以前の問題として、着飾るような美しさといったものはつくしにはないのだから。


けれど、こうして一緒に過ごす時間が増えれば増えるほど、どんどん惹かれていくのが分る。
だからあの女性の前でのキスも、迷惑な女を遠ざけるためには、やらなければならないのだと理由をつけたに過ぎず、本当はリムジンの中で触れたあの唇にもう一度触れたいと思っていた。だが思った以上に激しく唇を求められ、自分は一体どうなるのかといった気にさせられた。

だが自らキスをするという行動が、この状況を楽しんでいると勘違いされたかもしれない。
何しろ、かりそめの恋人役を買って出るほどなのだから、あの積極的な行為は演技だと思われているはずだ。

と、なるとあの激しく濃厚なキスは、つくしの演技に応え、副社長も演技に身が入り過ぎたということなのだろうか。
考えたくはないが、もしそうならこれから先、マリアというあの女性が副社長に近づいて来る度にキスを繰り返さなければならないのだろうか。
そしてその度、副社長の演技に合わせなければならない自分が愚かな女だと感じてしまうはずだ。
どちらにしても、好きになった男は、神よりも金持ちだと噂される人物であり、そんな男の人生に平凡な秘書が入り込む余地はないからだ。


そしてそんな男は、やはりマリアのような女性が好みなのだろうか。
つくしは今のこの沈黙に、居心地の悪さを感じて口を開いたが、声が高くなるのは緊張のせいなのか。それとも激しい口づけで血圧が上昇してしまったのか。
とにかくつくしは訊いておかなければならなかった。

「・・あの。副社長。先ほどの女性が迷惑な女性でしょうか?」

少しの沈黙のあと、返された言葉は、

「あの女はマリア・エリザベート・フォン・シュタウフェンベルグ。2年前NYで別れたオーストリア人だ。だが俺とやり直したいそうだ」









司は革のシートに深くもたれ、口を開き、次の言葉を継いだ。

「だが俺はそのつもりはない」

牧野つくしから訊ねられた迷惑な女。
それは司が2年前NYを去るとき別れた女。
正直に言ってまさかその女が突然目の前に現れるとは思いもしなかった。

司はチラリと隣に座る女に目をやった。
ドレスの上にコートを羽織った女は、真っ直ぐ前を向いていた。
だがその顔は、平静さと何気なさを装っているが、心は別のことを考えているはずだ。
そして積極的にキスをしてきた状況に驚かされたが、それが女の言う自らが迷惑な女への防波堤となる行為であることは分かっている。
だが彼女と大っぴらにキスが出来ることに、その状況を素直に楽しんだ。
しかし彼の秘書は、舌を入れた途端、身体が固まり、見つけ出そうとした女の舌は、まるでその存在は消えて無くなってしまったように隠れ、己の身を司の身体から離そうと必死になっていた。
それは彼女の理性が戻った瞬間。だが離すものかと力を込め抱きしめたが、マリアの言葉に渋々といった具合に彼女の身体を離した。

だがあの時のマリアとの会話がドイツ語だったのは良かったはずだ。
それは、耳に入れたくない言葉もあったからだ。
それに好きな女の前で、別れた女と話などしたくはない。

いずれにせよ、あの女が現れたことで、司がついた嘘が嘘ではなくなり、牧野つくしとの関係を進展させるスパイスとなるなら暫く放っておくという手もあるが、あの女の態度は今の司にとっていらだちの種でしかない。

そしてマリアの行動を気にかけなければならない。
それは、あの女の言葉が本気なら牧野つくしの身に何かあるかもしれないからだ。
だから彼女が傷つくような状況になることだけは、避けなければならない。
それに話しておくべきことは、話しておいた方がいいのかもしれない。
あの女の事もだが、司が彼女を、牧野つくしを好きだということを。
だが車は間もなくホテルに到着する。
司は運転手にもう暫くどこかその辺りを走ってくれと言った。





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コメント
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dot 2018.01.25 08:43 | 編集
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dot 2018.01.25 08:57 | 編集
と*****ン様
はじめての告白!(笑)
ちゃんと言えるかな?(笑)
そしてつくしは?
それにしても、本当に寒いですね?
この寒波は、司がドイツに行っているから?(笑)
確かにそうかもしれません。熱い男。只今日本に不在ですからねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.01.25 22:31 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
マリアの出現に色々と考えてしまう二人。
でも本当は二人とも両想いなんですけどねぇ(笑)
気持が噛み合わないといいますか、思い込みや固定観念といったものが大きいと、それを取っ払うのが大変です(笑)
司は想いを伝え、そしてつくしはその想いを受け取る。
素直にそうなればいいのですが・・・。
マリアが何か仕掛けて来る前に、本当の恋人に‼

それにしても寒いですねぇ。
朝は足元が氷のように冷たく感じられます。
カイロ、背中に貼るのが一番です!
本当に無理は禁物ですよねぇ。
そして月末・・。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.01.25 22:47 | 編集
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