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2018
01.20

恋におちる確率 48

防弾ガラスの窓の中で床に伏せた二人は暫くそのままの状態でいたが、つくしが手にしていたイブニングバッグは床に転がり、中から口紅や携帯電話が飛び出していた。
そして今感じられるのは、緊迫した空気と自分の上に覆い被さっている男の体温と彼独特の匂い。

つくしは一体何が起こったのか分からなかったが、要人警護のプロの判断で車に押し込まれたことだけは理解していた。
そして彼らの判断は一瞬たりとも迷いはない。それは迷いや躊躇いといったものが命取りになることを知っているからだ。

今まで海外出張をこなしてきたが、危険な目に遭遇したことはない。
だがそれは、自分自身でも気を付けていたからだ。そして自分の身の安全は自分で守るということも理解していた。
しかし、今まで自分自身の身の安全を本心から心配したことはなかった。
だが道明寺HDの副社長ともなれば、いざという時の訓練といったものを受けているのだろう。それは身代金目的の誘拐といったものに対して敵から身を守ることもだが、それ以外にもアメリカにいたなら銃を扱う訓練も受けているはずだ。

そしてその身を守るための安全対策は、たとえ目に見えなくても幾重にも巡らされているはずだ。
だから自分の上に覆い被さった男が今もまだじっとしているなら、まだ動かない方がいいと思いじっとしていた。



だが、あれから随分と時間が経ったような気がする。
そして車の外も静かだ。
そんな状況につくしは自分の上からいつまでたっても動こうとしない男を不審に思うと、顔だけをそっと横に向け視線を上向けた。

すると上に乗っている男と視線が合ったが、顔は息がかかるほどの近さにあり、口の両端は笑みが広がるように上向いたのが見えた。と、同時に自分の心臓の音か相手の心臓の音か分からないが、どちらにしてもドキドキというのか、バクバクというのか鼓動が激しく響くのが聞えた。

そして胸に広がるざわめき。
だがつくしにとって殆ど初めてといった心臓の動きに何をどうすればいいのか分からなかった。何しろこれまで経験というのか、身に覚えがないのだから、どんな言葉を口にすればいいのか探しながらとりあえず口を開いた。

「・・あの?」

「なんだ?」

「な、なんだって・・そ、その外の様子は・・。えっと・・」

と、つくしはなんとか言葉を探し言おうとしたが、大きな身体が自分の上にあり、顔がすぐそこにあれば何を言おうとしたのか忘れてしまっていた。
そしてその身体のせいで身動きが出来ないのだから早く降りて下さいと言いたいのだが、言葉は喉の奥に貼り付き出てこなかった。

だが言葉は出なくてもこの状況がいいはずもなく、自分の上に覆いかぶさるその身体を早く取り除きたいのだが、腕も抱き込まれている状況では身動きも突き飛ばすことも出来ず、いや、実際出来たとしてもそれはしないが、どちらにしても今のこの状況を言葉にすれば、副社長の下にいる・・副社長に身体に押さえ込まれているという状況に頬が火照りどんどん赤くなるのが感じられた。

そして今身に付けているのは、今夜のために用意されていたミッドナイトブルーのオフショルダーのドレスと同系色のカシミアのコート。
だが肩に羽織っただけコートは、車に押し込まれた拍子にずり落ち、両肩は剥き出しになり、その片方の肩に感じられる男の暖かい息に背中が震えた。
そして、もしこの状態でドアが開かれ写真でも撮られれば、いったいどういった見出しが付けられるのかといった体勢だ。

『道明寺HD副社長。リムジンの後部座席の床で女性を襲う!』

そんな見出しが踊ったとしてもおかしくはないはずだ。


「なんだ?なんならもうちょっとこうしていた方が良かったが、もうシラフに戻ったか?」

「は?」

「だから、もう少しこのまま床にこうして寝てるのもいいんじゃねぇのかってことだ」

このまま床に寝ているのもいい?
今自分の上に乗っている男のその言葉に脈打っていた心臓が、これまで以上に脈打つのが感じられ、過剰に身体が反応してしまっていた。
だがとにかく早く自分の上から降りて欲しい思いからつくしは再び訊いた。

「お、おっしゃっている意味が分からないんですが?あの音は・・外の状況は大丈夫なんでしょうか?」

と言ったが、つくしを自らの身体で上から包んだ男の視線は攻撃的ではないが、一瞬垣間見えたのは、獣が狙った動物を仕留める前の瞳の煌めき。
だが開かれた口から聞こえたのは和やかな低い声。

「ああ。外の問題は解決してるはずだ。それに俺の言葉の意味か?男と女が一緒に横になる意味ならこれしかないだろ?」

その言葉と共に下りて来たのは上弦を描いた形のいい薄い唇。
それがつくしの唇に重なった。











銃声のような乾いた音。
それは車のバックファイアーであり、銃声ではなかった。
司はつくしを上から抱きしめながら、その事実を運転席からは独立した後部座席に取り付けられたスピーカーからドイツ語で告げられていた。
だがそれを彼女に告げることはなく、唇を重ねていた。
それから暫くたって状況を説明し、真っ赤な顔をして自分を見上げる顔にニヤッと微笑みを浮かべ、

「少しくらい髪が乱れたのも、紅潮した頬も俺たちの関係が本物だって世間に知らせることが出来るだろ?何しろこれから俺たちは恋人同士として台本なしの即興劇を演じるわけだ。だからこれは差し詰めこれから始まるドラマの前戯だ」

と言った。




今夜のこの会は、デュセルドルフ市長の主催であることから、行政関係者は勿論だが、地元企業の関係者も多く招待されている。
当初、地元企業であるバルテン社が外国資本の企業に買収されたとき、会社はどうなるのか?雇用はどうなるのか?といった不安が市民の間に広まった。

だが、道明寺HDがこの地に新たな工場を建設することが発表されると、市は多方面に渡り協力を申し出た。
そこには都市部に於ける工場建設の立地規制緩和といったものが含まれるが、それはあくまでも法律の許す範囲内だが、大型の投資である工場の建設は、多くの雇用も生み出すことになり、税収も見込まれ市の財政が潤うことは間違いない。

司は、つくしを恋人として伴い現れたが、その姿は堂々としており、世界的企業の副社長として、また市に莫大な投資をしてくれた企業の副社長として、あたたかい歓迎を受けた。
そしてビジネスとしてカメラ向きの笑みを浮かべ、写真に収まっていた。




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コメント
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dot 2018.01.20 06:09 | 編集
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dot 2018.01.20 07:53 | 編集
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dot 2018.01.20 11:36 | 編集
と*****ン様
ついにチューした二人。
そして司のなんと言う言い訳(笑)
この男。自分の魅力を最大限使うことを決めたのでしょうか?
でもそう簡単にいくのか?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.01.20 23:04 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
バックファイアーと銃声。
つくしは、咄嗟に車に押し込められ、てっきり銃声だと思いましたが、違いました(笑)
そして、そのことを知っていながらも、つくしを放さなかった男。
自分の都合のいいように物事を運ぼうとしています(笑)
そしてアタフタするつくし。冷静さを失いつつも、なんとか気を取り直し、といったとことでしょうか。
このキスで自分の気持を前に進めることに決めるのか。それともまた勘違いするのか。
ぐるぐる思考の彼女。やはりこんな彼女を引っ張って行くには、強引さが必要です!
そしてとりあえずは、今夜を乗り切れるといいですね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.01.20 23:12 | 編集
さ***ん様
はい。事件は車外ではなく、車内の床の上で起きたようです。
え?西田企画のドッキリサービス?(≧▽≦)いいですねぇ~。
そしてつくしにのしかかったまま動かない男。
獲物を捕らえた猛獣(笑)まさにそんな感じでしょうねぇ(笑)
そしてのしかかりながら何を考えていたのか!
ニヤつきながら、いえ、ほほ笑みを浮かべながらキスをする男。
そんなことをされれば、間違いなく心臓が止まりそうになるはずです。
そんなヤモリつくし。逃げることは出来ませんでした。
さあ、これから二人はどうなるのでしょう。
副社長は架空の女の存在を盾にもっと迫るのか?
そして、つくしはどうするのか?恋の火種は抱えているようですから、あとは燃えるのみなんですがねぇ・・。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.01.20 23:27 | 編集
H*様
おはようございます^^
動いて来た・・。
そろそろ司も行動に出たということでしょうか。
でも相手は真面目なつくしですから、そう簡単には行くとは思えません(笑)
そして恋はそう簡単に手に入るものではない。
それにつくしは今まで相手にしてきた女とは違いますからね?(笑)
司、頑張ってつくしを落して下さいね。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.01.20 23:38 | 編集
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