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2018
01.16

恋におちる確率 45

さらりと野崎の口から語られた言葉は、ホテルはコネクティングルームで手配しています。
それは誰の指示だったのか。
そしてその言葉は、誰に向けて言われたものなのか。
つくしの顔に浮かんだ困惑を野崎は理解したように答えた。

「第一秘書の西田さんから連絡があり、牧野さんのお部屋は副社長と直接繋がるようにとのことでした。ただあなたは女性ですから、コネクティングルームに戸惑いがあるかもしれませんが、西田さんにしてみれば、ご心配だったのではないでしょうか?ドイツは治安がいいと言われていますが、それでも最近は国際的な問題も抱え、時に物騒な事件もありますので、警護の関係からも同じお部屋の方が安心だということでしょう」

野崎が口にした国際的な問題。
ヨーロッパでは、数年前からテロが頻発するようになり、そのことを指していることは分かる。そしてドイツ国内に目を向ければ、移民や難民の受け入れに寛容な現政権の政策に反対をする国民も多いと言われ、外国人に対し良い感情を持たない人間が増えたと言われている。

それにしても、野崎の年齢は分からないが、40代前半ではないだろうか。
そんな男が、女がひとりホテルの部屋に泊まることを心配することは時代錯誤といった思いもあるが、女はか弱い生き物であり、守らなければならないといった意識が強い、騎士道精神的考えに基づくものだとすれば、あり得ない話ではない。

だがつくしは、ひとりで海外へ出張をしたことは何度もある。
それに、守ってもらわなければならないほどか弱い女ではなく、自立した生き方をしていた。

だが今それよりも頭にあるのは、副社長の部屋と続き部屋と言う事は、部屋を繋ぐ扉の鍵はどうなっているのかの方が気になっていた。
ただ唯一確かなのは、副社長はそのことを一切気にしていないということだ。
何故なら、野崎の言葉に全く反応を示さず、表情に変化もなく、つくしの隣で平然と書類に目を通していたからだ。
その姿は、つくしのことなど全く気にしていないように思え、まるで自分ひとりが、焦っているようでみっともない気がしていた。

もし久美子がつくしのそんな気持ちを知れば、

『つくし。告白しなさいよ!副社長も絶対あんたの事が好きだから!これであたしがプレゼントした下着が活躍するチャンスが来たってことね!』

と快活に言うはずだ。
そんなことを頭の隅で思いながら、副社長を意識して落ち着きがなくなって行く自分自身が嫌だった。









司は、西田の采配に頬が緩みそうになるのを抑え、片眉を上げた。
宿泊先のホテルでエレベーターに乗り、最上階のスイートに着いたのは、午後6時を30分程回った時間だった。
そして牧野つくしをリビングの中へ通したが、彼女は居心地が悪そうに入口で立っていた。

西田から事前に知らされてはいたが、このホテルの最高級スイートには、コネクトする部屋がある。
そこは、元はスイートの続き部屋だったものが、いつの頃からか扉が設けられ、鍵が取り付けられたという部屋だ。その結果、コネクトすることになった部屋は、後から廊下へ出入りする扉がつけられたという構造だ。そして当然だが二つの部屋を繋ぐ扉の鍵は彼の部屋側にある。

『いくらいくつかのベッドルームを備えた最高級のスイートだとしても、いきなり同じお部屋で宿泊となれば牧野さんは困惑するはずです。ですがコネクティングルームなら扉があります。それは彼女の心の扉とでも言いましょうか。その一枚の扉の意味はとても大きいものです。無理やり開こうとしてはいけません。つまり企業買収と同じで何事にもプロセスが必要ということです』

そう言って銀縁眼鏡の縁を持ち上げた男は、司の過去の女性関係を知る男であり、若かりし頃の悪行も知っている男だ。
そんな西田はある意味お目付け役のような男だった。


司が傍若無人と言われた高校時代。
それは自分の意思を持つ力を失った操り人形のように生きたくなかった男の反抗。
だが今は、欲しいものがあれば与えられるのではなく、その手で掴むことが男としての本能だと知っている。
そんな男は、今まで女に対し何かを求めたこともなければ、自分が決めたルールで関係を持っていた。

それは金も権力もある男に対し、本音を漏らすバカな女はいなかったからであり、愛想笑いを浮かべ、おもねる人間ばかりが彼の周りにいたからだ。だが彼はそんな人間には飽き飽きしていた。言いなりになる人間は欲しくない。 
そして富と権力を持つ人間は、気ままな人生を送ることが出来ないからこそ、自分に与えられた力の使い方は知っている。

そんな男は、まるで仕事上の分析をするように、彼女の思考を読むことをしていた。
そして自分が魅かれている女の反応が手に取るように分かった。
それは、考えもしなかった事態が生じたとき、古今東西女は皆同じ反応を見せると言われる戸惑いと困惑。
そしてそれを鎧で覆うように隠そうとしている。

だが彼女は一度、司のペントハウスに泊まったことがある。
同じ屋根の下で眠ったことがあった。だがあの時は、自らの意志ではなく、酒に酔った状態で連れ帰った結果だ。
それにあの時は、仕事に生きる女そのものであり、男だの女だの考えてはいなかった。
ただ自分の失態を詫びることに気持ちは向いていた。

だが今は、まるで何かを警戒するような態度で部屋の片隅にヤモリのように張り付き、奥まで入ることなく入口で足を止めているが、その様子がまた司にしてみれば可笑しかった。
みずから恋人役とでもいうのか、迷惑な女から防波堤の役割をするといった女にしては、矛盾しているとしか言えなかったからだ。
そして今まで司の周りにいた女は、どれだけ司の関心を引き寄せられるかを競っていたが、彼女はどれだけ近くにいても、それがない。

そしてそんな女は、自分に任された仕事を投げ出すことはしない。
任された以上、二言は無いではないが、どんなことがあってもやり通すといった意思を持つ。
だからその役割を如何なく発揮してもらうつもりでいる。
そして、本物の恋人になるつもりだ。
いや。つもりではない。必ずそうなるはずだ。




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コメント
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dot 2018.01.16 07:51 | 編集
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dot 2018.01.16 11:53 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
コネクティングルームだと言われ、固まるつくし。
意識し始めると意識し過ぎる彼女。
仕事は出来るが恋は下手。
そしてそんな女に恋をした男。西田さんはそんな二人の態度を微笑ましく・・いや。冷静に見ているようです。
司は、つくしが経験のないことを知りません。
まさかその年でねぇ・・といったところでしょう(笑)
そしてそれを知った時、彼はどうするのでしょうね?
この出張で仕掛けるのでしょうか?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.01.17 21:13 | 編集
さ***ん様
西田室長。どこまでも司のことを見抜いている男。
流石です!(笑)
西田にとって司はやんちゃな青年(笑)
まさにその通りですね?何しろ若い頃の男を知る西田にすれば、よくここまでまともに戻ったものだ。と思っているはずです。
そして牧野つくし。ついに爬虫類にたとえられる!本当ですねー(笑)
アカシア、彼女を色々な動物にたとえましたが、爬虫類は無かったような気がします。
久美子のプレゼントは持って来てないと思います(笑)
え?「ご自由にお入りください」の張り紙?
副社長。大喜びですね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.01.17 21:20 | 編集
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