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2017
12.30

恋におちる確率 37

第三者がいる前で二人の男が角を突き合わせる姿はこれが二度目だ。
一度目は会員制高級バーだったが、その場にいた男達は見て見ぬ振りを決めていた。
だが今二人の男に向けられている視線は、男たちだけではなく、姦しいと言われる女たちの視線も向けられていた。

何しろ、クリスマスパーティーといった社交の場に道明寺司が現れること自体が珍しいことであり、ましてや女性をエスコートするといった姿に目を見開くのは当然で、そしてそこに、道明寺司と容姿も財力も差異が無いと言われる菱信興産専務の新堂巧が現れ、一波乱ありそうな会話を始めたのだから興味を抱くなと言う方が無理な話だ。
そして二人の男の間に流れる一時の沈黙と無表情さに周りは息を呑んでいた。









新堂巧は司が選んだと言ったドレスに目を細めた。

「・・そうでしたか。道明寺副社長がお選びになられた。・・まるで秘書というよりもあなたの恋人のような待遇ですね?」

巧のその言葉は何もかも承知しているような口振りだ。

「そう思われますか?」

返した司の思いは巧の言葉通りで間違ってはいない。
秘書として連れて来てはいるが、ただの秘書が1000万もするようなドレスに身を包んでいることの意味が分かる相手と巧を見ての行動だ。

「ええ。そう感じます。先日バーに現れたあなたの牧野さんへの態度といい、まるで好きな人を取られまいとしている男のように見えますが違いますか?」

司は、巧が牧野つくしからの素っ気ないメールの返事もだが、司の態度に焦りを感じ始めたのだと感じていた。
気分が悪くなった女を抱え、化粧室へ向かった司を見送る羽目になった男は馬鹿ではない。恋のライバルとなる男の存在に気付いたのは、巧の方が早く、司は己の気持ちに気付くのが遅れた。
だが今の司は、自分の気持ちをはっきりと認めており、牧野つくしを他の男。つまり新堂巧に取られたくない思いに嘘はない。

「もしそうだとしてそれを新堂専務にお話する必要がありますか?」

「いいえ。その必要はないでしょう。ただ、私はそう感じただけですから。それに牧野さんもあなたから好きだと言われても困るでしょうから」


低い声で交わされる男二人の会話は、道明寺HD副社長と菱信興産専務の会話だが、すぐ傍で聞いている人間がいたとすれば、ひとりの女を巡り静かな闘いといった雰囲気が感じられるはずだ。
だが幸いにも彼ら二人の傍に誰も近づこうとしないのは、男たちの周りに流れる空気に近寄りがたいものが感じられるからだ。

そしてそれは、神が二人に向かって意地悪く微笑みかけ、ひとりの女を取り合えと言った結果だとしてもおかしくない。
そんな二人のうちのひとりは、恋をしたことがない男で、女に対してシニカルとも言える考えの持ち主だった。そしてもうひとりは、恋に対して真面目な男。
そんな男が眩しく感じられたこともある司だったが、気付いた時には自身も恋におちていた。


「道明寺副社長。あなたは既得権を振りかざしているように感じられます。私が思っていることが正しいとすれば、私たちはライバルということになります。それについて牧野さんがご存知かどうか分かりませんが、こうしてあなたが選んだ・・用意されたというドレスは、どう考えても秘書が業務上必要とされる服装以上の装いのように感じられますね?」

巧はそう言うと、道明寺司は秘書が好きだと聞かされ驚いた表情を浮かべているつくしを見て意外そうな表情を浮かべた。

そんな新堂巧の目に宿っているのは、一条の執拗さ。しぶとさ。そして粘り強さ。
そして今の二人の男達の間にあるのは際どさ。
二人の男は、同じ年であり、どちらもそれぞれの家が経営する大きな企業の後継者であり、似ているようで似ていない二人の男だが、その立ち姿は、高貴な動物が首をすくっと立てたように睨みあっている。それはひとつ間違えば、一触即発、まさにすれすれの状態とも言えた。

「新堂専務。既得権とは面白い言い方をされますね?まるで私があなたの欲しいものを初めから所有しているような言い方だ。だがもしそうだとしても、それがあなたに関係ありますか?彼女は私の秘書だ。こうして彼女を連れていることが不満だとしても、あなたに何か言われる筋合いはないはずだが?」

司の言い方は、はっきりと己の意思を伝えていた。
そして新堂巧も司の言葉の意味をはっきりと理解した上で、静かな言葉だが互いの考えといったものを闘わせていた。

「ええ。彼女があなたの気持ちを知っているとすればですが、牧野さんの顔を見ればどうやら知らなかったようですね?それにしてもあなたは十分に自分の権利といったものを主張しているように思えますね」

男が好きな女に対しての権利といえば、愛情表現といったものがあるが、今の巧が言いたいのは相手を美しい姿で着飾りたいという思いだ。

「新堂専務。私の気持ちがどうだとしても、それもあなたには関係ない話だ」

司のはっきりとした物言いに、新堂巧は気色ばんだ様子を見せたが、すぐに平然とした口調で言い返した。

「道明寺副社長。おっしゃいますね。私は私の気持ちを初めにお伝えしたはずですから、あなたがライバルならそのお気持ちをお伺したいと思いましてね。ですがどうやら私の前ではおっしゃっては頂けないようですね?・・・まあいいでしょう。どちらにしてもあなたは私のライバルのようだ。それがはっきりした今、牧野さんの気持ちがあなたに向かわないように祈りたい思いです。・・ですが、彼女はどう考えているのか知りたいと思いませんか?」

と言って巧はつくしに視線を向けた。







丁々発止とは言わないが男二人の会話はそれに違いものが感じられた。
そして今まで黙って聞いていたつくしにやっと口を挟む隙間が出来たが、彼女に突き付けられた質問は、あなたは道明寺副社長をどう思っているかという質問であり、求められているのは、上司とその秘書としての答えではなく男と女としての質問だ。

『あなたから好きだと言われても困るでしょうから』

副社長である道明寺司が自分のことが好き?

つくしはまさかといった思いもあるが、久美子からも言われ、新堂巧からも言われ二人の男性・・特に当の本人を前に何と言えばいいのか、まさに答えに窮していた。
だがその前に新堂巧に関して言えば、男性として付き合いたいといった思いはない。
だが今ここでその言葉を口にするのは、差し控えたい思いがある。誰だってそうだが、他人の前で自分の気持ちを否定されることは恥ずかしいことであり、知られたくないことだからだ。

「あの・・。新堂専務。そう言ったお話はここでは・・」

つくしは口を開いたが、言葉に詰まる。
仕事をする上で言葉を濁すことはないが、個人的な思いについては、話しづらさを感じていた。特に恋愛には縁の薄いと思われる女は、プライベートなこと、男女関係になると優柔不断なところが現れる。それは過去の恋愛経験の少なさがそうさせるのか。性格的に恋愛に対して臆病といったことがそうさせるのか。どちらにしても、自分の思いといったものを開けっ広げには出来ない性格だということは分かっている。

けれど、いつかは新堂巧に自分の思いをはっきりと伝えなければならないのだ。
それも直接会って話すことを望んでいたのだから、今がチャンスと言われればそうなのかもしれない。だがそのチャンスが今だとしても、相手の自尊心を傷つけないようにしなければならないといった気が働くのがつくしの優しさだ。

だがこれ以上返事を曖昧にしておくことが、期待を持たせることになるとすれば、それは決していいとは言えないはずだ。
そして、その時思った。新堂巧から思いを伝えられたのは、副社長の前だった。それなら、副社長の前で自分の思いを伝えたとしても、平等なはずだ。
そうだ。副社長には立ち会い人になってもらえばいい。そんな思いからつくしは、ここで巧に断ろうと決めた。
あなたの思いは大変嬉しいのですが、お付き合いは出来ませんと。
だが巧の自尊心だけは、尊重しなければならないと申し訳なさそうな顔をした。

「あの、新堂さん・・私は_」

「新堂専務。そこまでお気づきなら仕方がありません。ここではっきりと申し上げておきます。私と牧野つくしは上司と秘書以上の関係です。ですからこれ以上彼女に思いを寄せるのはお止め頂きたい」

司は言うと、つくしの腰に腕を回しその身体を引き寄せた。





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コメント
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dot 2017.12.30 09:33 | 編集
司****E様
おはようございます^^
戦いの火ぶたが切られた!まさにそのようですね(笑)
しかし肝心のつくしは、恋には鈍感。
新堂巧の気持ちは本人からの告白で分っていましたが、司の気持ちは知りませんでした。
司の態度から分かるようなものですが、分からないんですねぇ(笑)
さて司はつくしが自分の秘書ということからアドバンテージを得ているようですが、ポイントは簡単に取り返されてしまうこともあります。
そんな司から思わぬ発言がありましたが、つくしにしてみれば「え?!」ですよねぇ(笑)
そして巧は司の言葉をどう捉えるのでしょうねぇ・・
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.12.30 21:42 | 編集
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