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2017
10.22

もうひとつの橋 30

*性的な要素が含まれますので、閲覧にはご注意下さい。







遠い昔、雪のように冷たい雨に打たれた二人がいた。
あの日、二人は傘を持っておらずただ、激しく降り続ける雨に打たれながら立ちすくんでいた。あの日の別れは、未成年の少年と少女が親の力に負けたとしか言えなかった出来事だった。
それから起きた司が刺され瀕死の重傷を負い、彼女の記憶を忘れたのは、元をただせばやはり司の母親のビジネス手法が招いた惨劇だ。

強権的な手法でビジネスを進めていた司の母親は、鉄の女と呼ばれ一目を置かれていた。そしてその権力の一端は、司が副社長という立場にいる以上まだ母親にあった。
笑った顔など見た事がないと言われる女だが、一ミリでも顔の輪郭にずれがあれば、その表情はまた違ったものになったはずだ。
だが少年と少女が目にしていたのは、冷たさだけが感じられる人間の姿だった。



結局あの事件から17年間、彼女についての記憶が戻らないまま時が過ぎたが、こうして思い出し、あの時掴めなかった手を取ることが出来たことは、忘れ去られていた初恋が戻ってきたとしか言えなかった。

そして今見えるのは、金沢から東京に戻って来ることを決めた彼女が、一緒に暮らすことに同意してくれたこと。そして結婚に同意してくれたことだ。
だが、その前に越えなければならないハードルがあるとすれば、それはやはり昔と変わらず母親の存在だ。










「つくし。お前本当に大丈夫か?」

「大丈夫よ。それにあたし達、もうあの頃と違うのよ?それに入籍する前のご挨拶をするのはあたり前でしょ?それくらいあんたも分るでしょ?」

「まあな・・」

どこか煮え切らない口調で返事をした司に対し『いい大人なんだから』そんな言葉も聞こえてきそうな彼女の口調だった。

だがそのとき、つくしはそうすることで何らかの不安を和らげようとしているのか、司から婚約の印として贈られたダイヤの指輪に触れていた。
司は、本当は今すぐにでも結婚指輪を嵌めたいくらいだ、と言った。だがまだ入籍をしていないのだから、とつくしは断った。
それは、司の指輪を嵌めることの意味を考えれば、やはり互いの両親に話もしていないのに、そんな勝手なことは出来ないといった思いがあるからだ。



数日前、司のペントハウスに越して来たつくしは、荷物の整理を済ませると、彼の母親である楓に会いたいと言った。勿論、その前に自分の両親に話をし、司を引き合わせていた。
司がかつて知っていた彼女の両親は、母親が賑やかで父親は世間の感覚から少しズレているような人間であり、家庭は困窮していた。だがそんな両親も、今では父親は真面目に働き、母親もパートに出ており、地道な人生を送っていた。

遠い昔、彼らは司と娘が結婚することを望んだが、司が彼女のことを忘れ、その望みが叶わないと知り、自分たちが思い描いた事が儚い夢だということに気付くと、娘が経験した哀しみを受け止めた。
親は我が子の幸せを一番に考える。
親は我が子が嘆く姿など見たくはない。
そして過去など忘れ新しい幸せを見つけることを願うはずだ。

それからは、娘が決めたことに反対をすることが無かったと言う。そして雄一と結婚した理由も知っていたようだった。だが初めは反対したと言う。けれど、とっくに成年した娘を相手に何を言っても、恐らく自分が決めたことはやり通すと思ったのだろう。
一度しかない人生の時間をどう使うかは、自分次第といったところもあるが、自分の娘を信頼していることが、雄一との結婚を理解することに繋がったはずだ。
だが親として気になるのは、娘の今度の結婚が2度目になることだったようだ。そのことをしきりと気にしていたが、司は気になどしていないのだから、返事は至って簡単だった。

「彼女に幾つ結婚歴があろうと構いません。それに今どき離婚をしたことが何かの問題になるとは思えません」


その言葉につくしの両親は、司がそれでいいのなら。と言ったが、かつて二人の間を裂こうと躍起になっていた母親に会うことは出来れば避けたい話だが、結婚するからにはどうしても必要だということは勿論理解している。
けれど、あの母親が彼女のことをどう考えているのか。司が突然仕事をキャンセルし金沢に行った理由も耳に入っているはずだ。
そしてこうして二人が一緒に暮らし始めたことも。
だが今の司が、自分の思い通りに動かせる人間でないことを母親も知っている。

あの頃、付き合うことを何度も妨害され、理不尽な別れを余儀なくされたこともあった。
まるで般若のような顔をしていた女は、牧野つくしを道明寺家の敵としてみなし、彼女だけでなく、友人や家族までも標的にしたことがあった。
だがそんな女であっても、愛する人の母親なら会うことに躊躇いはないと言うつくしは、やはりあの頃と変わらない強さといったものを持ち合わせていた。

自らを雑草だと呼んだ女の強さ。
それは司が望んでいた彼女らしさだ。









孤独だった無数の夜があっという間に消えた夜。
それは部屋の隅に置かれた間接照明の明かりが、白いシーツをオレンジ色の海へ変えるとき。
司は、照れて赤らんだつくしの頬に口づけをし、彼女が身に付けていたものを一枚一枚脱がせていた。自分で脱ぐからと言われたが、脱がしたかったのだ。それは大切な贈り物の包みを剥がす行為を彷彿とされるが、まさに司にとってはその通りなのだから。

その最中、いい年をして笑われるかもしれないけど経験がないの、と言った彼女に負い目を感じた司がいた。
それは、かつて好きな女以外に触れることが汚らわしいと言っていた男の罪悪感とも言える思い。その思いを彼女に伝えたいと思ったが何も言えなかった。

司は経験の浅い男ではない。彼女だけを思って眠れない思いを抱えていた男ではない。
女を誘う手続きが必要なかった男の過ぎた年月は、既に知られている。
だが出来ることなら、NYでの出来事は無かったことにしたいと思う。
あの頃の自分に出会うことが出来るなら、きっと刺々しい視線を向けてくるだろうが、それでも過去を思い出せときつく言い、そして自分自身に向かって罵りの言葉を吐くはずだ。
だが過去は変えることは出来ない。
その代わり共に未来を。
これから先二人は永遠に一緒なのだから。








「こんなに女の身体を知ったことはない」

司が呟いたその言葉は、女を抱いたことはあってもそれは愛のためではない。
もし愛情を持って抱けと言われれば、抱くことなどなかった男の言葉としては、最高の賛辞。

そしてこれから抱くのは、単なる男の生理的な欲望や征服欲ではなく、この世でたったひとり欲しかったと望んだ女性だ。
それは純粋な愛の行為。それを知ろうとする男は、彼女に何を与えればいいのか。
もちろん、愛以外何物でもないことは分かっているが、女にとってはじめて愛し合う行為が、最高のものでなければならないと思うのは、彼女が相手だからだ。

そして、本当に心から欲しいものを手に入れたとき、誰にも触れさせないようにと、大切に飾っておきたいといった思いと共に、自分の色に染めたいといった思いが交錯する。
これから先の人生、大切な物は何かと聞かれたとき、今これからの瞬間が司にとってかけがえのない宝物になる。

かつての司にとって自信に満ちた行為も、その唇がつくしの身体の全てを味わい、息が荒くなり、深い窪みを求め、自身の突起をその部分に埋めたいと望んだとき、それが単なる快楽を求めるのではなく、心から愛している人が欲しいといった気持ちから来るものだと知った。


「はじめは痛いかもしれねぇけど、我慢出来るか?」

今まで誰かにそんな言葉をかけた事などない男の口調は、限りなく優しい。

「・・うん・・大丈夫・・その代わり離さないで・・」

漆黒の闇のような黒い瞳は、彼女の顔を両手で挟み、額に唇を落し、そのまま瞼へと触れた。そして頬へと這わせ、最後に唇へ口づけをした。

「心配するな・・・離すわけねぇだろ・・二度と離さねぇから・・」

完璧な美しさと言われる男の身体が求めるのは、華奢な小さな身体。
そしてあの日、掴めなかった小さな手は、司の背中に縋りつき、二度と離れたくないと言っていた。


硬く熱い塊が求めるのは、柔らかな花芯の奥にある女の最も深い部分。
その場所へどこまでも奥深く入り込みたいと身体がぶるり、と震えた。
だが決して大切なものを奪い取る行為ではない。むしろ与えたいものがある。
自分が持っている全てのものを彼女に与えたい。
それが己の血の最後の一滴だとしても全てを彼女に。

「・・けど、痛かったら言えよ?」

「・・うん・・わかってる・・だから・・そんなに・・心配しないで・・」

掠れた声で息を継ぐが、その声さえ呑み込んでしまいたいと思う。
17年という時が流れ、今は大人となった二人。
求めるのは互いの肉体。だがそれには心も伴っていた。
そして身体と心の思いが同じだからこそ、愛し合うことの素晴らしさを感じることが出来るはずだ。

「・・つかさ・・」

「・・・つくし・・好きだ・・」

どんな女にも感じたことがない欲望が、目の前にある小さな身体の全てを欲しがり、震える脚を押し開き抱え上げた。隠されていた入口からトロトロと溢れ出る液体と、ひっそりと隠された小さな果実。
女の全てを晒す行為に、顔を真っ赤にしているが、その恥じらいとはまた別の表情がある。

それは欲しいものを求める迷いのないといった表情。

誰にも開かれなかったその身体は、全てに於いて真摯に取り組むことが当たり前の女からすれば、好きでもない男と関係を結ぶことが無かったということだ。
司はそれが、自分のことを思っていたからと知れば、途端に己の身体が汚らわしいもののように感じた。

だが人は、ひとたび恋をすれば、たとえ何歳であろうと、少年と少女の心に戻る。まさに今の司は、心はあの頃の少年のような思いでいた。だが身体は、あの頃以上に目の前の女を欲し、己のものにしなければといった思いに囚われていた。

女の秘めた場所を見つめたことなどなかった男が、つくしの身体だけは、全てを目に焼き付けておきたいと見つめるが、司の怒張は、すでに舌先で味わった未成熟な部分を自らも味わいたいと、これ以上ないほど硬く張りつめていた。
そして、その思いが切ないほど溢れるのか、先走った汁を頂いた昂りは、自らの意志を持ち、より一層前へ突き出されていた。

「・・俺はお前を離さねぇからな・・しっかり掴まえてやる」

自らの身体で濡れた堅い扉を押し開き壊す行為。
組み敷いた身体がのけ反ったが、狭い径路を躊躇なく進んだ。
慣れない異物の侵入に、押し返そうとする力が働くが、まだ誰も訪れたことがない場所へ辿り着いた途端、脳が痺れるような感覚に身体はもっと深い部分を求め、奥へ奥へと侵入を試みた。そして深い場所で締め付けられるたび、もっと欲しいと渇望が込み上げる。
暫くじっとしていたが、動かずにいることに耐えられなくなると、ゆっくりと律動を始めた。

「・・ああッ・・はぁ・・ああっ・・」

身体を動かすたび上がる声が愛おしく、そして締め付ける襞の温かさが司を快楽の絶頂へ連れて行こうとするが、かつて彼がこんなにも切なげに眉根を寄せ、女を見つめる姿があっただろうか。
それは、これほどぴたりと嵌まる肉体が過去にあったはずもなく、唇を塞げば感じる柔らかさと温かさは、他の女では感じたことなどなかったからだ。

「・・つくし・・愛してる・・お前だけを愛してる・・」

お前じゃなきゃダメだ、と叫んだあの日から己の命より愛おしと欲した女。
過去に身体を重ねた女はいたが、心など求めたことはなく、重ねたのはただの肉の塊でしかなかった。
だが今は違う。身体の全てを触れ合わせたい。
唇も頬も頭の先から爪先まで全てを。

「・・俺はもっと奥まで入りたい。お前の・・全てが欲しい」

その思いに応えるように、小さな身体がギュッと締め付ける。

「・・いいわ・・もっとちょうだい・・あんたを・・」

「・・ああやるよ・・一番奥まで・・入ってやる・・」

司の目の裡に黒い炎が宿り、男の原始的本能とも言える行為は、むさぼるように彼女を求めた。そして今は百万の言葉より、最も深い部分まで侵入して己の全てを与えたい。
かつて好きな女のいる場所なら、たとえ地獄にでも追いかけて行くと言った男は、今でもその思いは変わることはない。
他の女とでは決して上げることなどなかった野性の叫び声と言える咆哮を上げることが出来るのも彼女だからだ。
そして彼女と真摯に愛を交すことは、歓び以外の何ものでもなく、背中に回された腕と、離さないでと言って背中に食い込む爪の痛みが、彼女の身体の痛み以上になればいいと願う。

「・・つくし、おまえを離さねぇからな・・」

初めはゆっくりだった行為も、やがて緩急をつけ何度も繰り返しながら快楽の頂点を目指す。だが耐えがたいほどの締め付けは、まるで司の身体の水分をすべて搾り取ろうとしているようだ。けれど、司の身体と心が欲するものは、彼女の身体の中にだけにあり、離れることなど出来なかった。そして勿論離れようなど考えもしなかった。出来ることなら一生でも繋がっていたいと思うほど彼女が欲しかった。

そこは自分だけの庭。誰ひとり侵入しなかった自分だけの花が咲く場所。
その場所へ初めて脚を踏み入れた獣の雄が見たのは、今まで知らなかった男と女の世界。
それは身体を交えていたとしても純愛ともいえる感情だ。
遠い昔、手を握ることさえ恥ずかしがった女の全てを手に入れたことが嬉しかった。


やがてもっと奥まで入りたいと繋がりを深め、激しく腰の振りを繰り返し、女が絶頂を迎えるのを見届けると、獣のごとく咆哮し白い粘液を吐き出した。











息も絶え絶えといった状況が、初めての女に大きな負担を与えたとしても、呼吸が荒い以外問題はないはずだ。
司は枕に片肘をつき、つくしの額にかかった髪をそっと掻き上げた。

「・・つくし・・大丈夫か?」

口を開くが声も出せない様子で頷く姿が愛おしく、司は額に口づけを落した。
だが体力を使い果たしたのか、半睡状態に陥った顔は小さく笑っただけで、やはり何も言わなかった。しかしそれが性交の後の安らいだ顔だとすれば、夢の中に堕ちて行く姿が愛おしいと感じられた。

これまでの女との関係では考えられなかったとろりとした気分。
決して体力を使い果たした訳ではないが、司にも眠りの波が訪れようとしていた。

やがて腕の中から軽やかな寝息が聞えれば、司は二人の上に上掛けを引き寄せ、身体を優しく抱きしめた。
そして満ちてきた眠りの波に自らの身を任せた。





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コメント
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dot 2017.10.22 13:28 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
やはり楓さんの存在が!
親ですからねぇ。どんな親でも親です。そしてどんな子でも我が子です。
血の繋がりは、どんなに切ろうとしても切ることは出来ません。
つくしもそのことは十分理解していますので、親を蔑ろにするといったことはしません。
それに楓さんは愛する人の母ですから。
つくしのことを思い出した司が、NYでの生活に罪悪感を感じるのは、彼らしいでしょうね。
しかし、司がいつまでも過去を気に病むことをつくしは望みませんし、過去ばかり見ても人生は、楽しくありませんからねぇ。
それに司は猛反省した後は、そんなこともあったか?といった態度に出そうな気がします(笑)

台風は風雨が激しいです。
しかし、この季節に台風とは。
明日は交通機関が乱れることが予想されますね?
学校も難しいかもしれませんね?
大きな被害が出ないことを祈りたいと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.10.22 21:51 | 編集
s**p様
坊ちゃんの咆哮!(笑)
どんな声を上げたんでしょうねぇ?(笑)
え?そしてやはり「頑張れ坊ちゃん!」になってしまったのですね?(笑)
そしておみくじ!なるほど・・
「遅くなるが必ず来る」それは坊ちゃんが引いたものなのか、それともつくしが引いたものなのか・・。

台風は風が強く、ガラス窓に激しく雨が打ちつける音がしています。
どちら様にも被害が出ないことを祈るしかありません。
そして、ご心配いただきありがとうございます。
s**p様も被害が出ませんように。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.10.22 22:03 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.10.24 13:06 | 編集
さと**ん様
「・・ああやるよ・・いちばん奥まで・・入ってやる・・」
一番奥・・坊ちゃん大人ですね(笑)
やっと結ばれた二人。経験の差は・・仕方がありませんね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.10.24 23:24 | 編集
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