私は彼の癖のある黒い髪が風になびくのを見ていた。
その彼のそばには長くて黒い車が止まっている。
「あのね、そのくらい我慢しなさいよね?」
「なんで俺がそんなこと我慢しなきゃなんねぇんだよ」
彼は不満そうに言ってきた。
「いい大人がなに我儘いってるの!」
「我儘じゃねぇよ!当然の権利だろ?」
つくしは少し真剣な表情を見せてみた。
「あんたが遅刻してどうするのよ!人のうえに立つ者はまず己からを律するものでしょ?」
彼女はそのまま話続けた。
「あんた私と会ったのは民間機の中だったでしょ?」
つくしは指摘していた。
「・・・・そうだったか?」
とぼけた様子で彼は言った。
二人の激しい言い争いはやがて職業的な意識に変わっていた。
そしてそのうちに高校生の頃にタイムスリップしたように口喧嘩のレベルまで落ちてきた。
「申し訳ございません!ジェットは整備点検中で飛べるようになるのは早くても明後日になります。ですので・・民間機のご利用をお願いいたします!」
顔をこわばらせて北村さんがそう言ったときの道明寺はそれなら他のジェットをチャーターしろと煩く言って彼を困らせていた。
二人は何年も会わなかったが私達は民間の航空機の中で偶然の再会をしていた。
そして今は離れがたい恋人同士になっていた。
しばし気を静め、道明寺は仕方がないと言うふうに肩をすくめていた。
「おい北村、じゃあなんでもいいから明日の一番早い時間で予約を取ってくれ」
そして今朝、こうして二人とも慌てて服を着て風の強い外へと出て来た。
まだ夜が明けたばかりの薄明りの中で良かった。
秘書の北村さんが迎えにくる時間をすっかり忘れていた道明寺のせいで私まで身支度が中途半端だったから。
本当は彼ともっとゆっくり出来ると思っていた。
今では宿泊に必要な物―――歯ブラシ、シェイバー、着替えのシャツとスーツなどがつくしのマンションに用意されていた。
そして半裸の道明寺が部屋の中をうろうろしていても気にならなくなっていた。
彼はこれからロンドンへ行く。
「牧野、一緒にくるか?」
彼はつくしの目を見つめ、声を和らげた。
「あ、あんたなに言ってんのよ。私だって仕事があるんだからね!」
つくしはきっぱりと答えていた。
「冗談だ」
道明寺は腕時計に視線を向けてから答えた。
その時の彼の顔はすでに企業トップとしての表情をしていた。
二人で過ごす時間が増え、今の彼がどれだけの努力を積んでここまで来たのかが分かるようになった。
身長185センチの身体を高級スーツで包んだ彼はロンドンの金融街にいても人目を惹く存在だろう。
ロンドンにはK社の買収劇の顛末と今後の方針を報道陣に説明に行く。
買収のたびに現地で記者会見を開くのはその国の人間を敵に回すことなく、あくまでもホワイトナイト的な考えを見せる為だ。
特にヨーロッパでの騎士道精神は今でも尊重されている。
日本よりも伝統と格式を重んじる英国においてはプロセスの方が大切だ。
騎士は戦場において捕らえた相手の名誉を称え尊重する。
そうやって騎士道精神にのっとり形ばかりの体裁を整えてみせる。
だが、騎士は最後にはとどめを刺す。
今回のホワイトナイト気取りの買収劇も形ばかりのパフォーマンスに見られるかもしれないが、米国と違い英国ではあからさまな態度は嫌われる。
英国には大型インフラが整備される計画もあり投資も盛んだ。
K社の買収もそのインフラ整備計画に一枚噛ませる為だ。
今でも階級意識の強い英国社会においての道明寺HDの戦略は彼の統制下で進められている。
米国社会とは違い階級間のコネクションが重要視される社会に食い込むには一筋縄ではいかないはずだ。
そして、そんな世界と渡り合える道明寺の優秀さにさぞや母親も喜んでいることだろう・・・
彼の8年間は決して無駄な時間ではなかった。
「じゃあな、行ってくる」
「ん、気を付けてね」
二人、互いの目を見てごく自然に交わした言葉がこんなにも温かく感じられるなんて知らなかった。
そして私は堂々と心に誓っていた。
もう何を言われても何をされても彼と離れたくなかった。
私は恐怖心と不安で押し潰されそうだけどあの人と会ってくる。
彼がふいに見せた笑顔に勇気をもらい心が軽やかに舞い上がっていた。

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その彼のそばには長くて黒い車が止まっている。
「あのね、そのくらい我慢しなさいよね?」
「なんで俺がそんなこと我慢しなきゃなんねぇんだよ」
彼は不満そうに言ってきた。
「いい大人がなに我儘いってるの!」
「我儘じゃねぇよ!当然の権利だろ?」
つくしは少し真剣な表情を見せてみた。
「あんたが遅刻してどうするのよ!人のうえに立つ者はまず己からを律するものでしょ?」
彼女はそのまま話続けた。
「あんた私と会ったのは民間機の中だったでしょ?」
つくしは指摘していた。
「・・・・そうだったか?」
とぼけた様子で彼は言った。
二人の激しい言い争いはやがて職業的な意識に変わっていた。
そしてそのうちに高校生の頃にタイムスリップしたように口喧嘩のレベルまで落ちてきた。
「申し訳ございません!ジェットは整備点検中で飛べるようになるのは早くても明後日になります。ですので・・民間機のご利用をお願いいたします!」
顔をこわばらせて北村さんがそう言ったときの道明寺はそれなら他のジェットをチャーターしろと煩く言って彼を困らせていた。
二人は何年も会わなかったが私達は民間の航空機の中で偶然の再会をしていた。
そして今は離れがたい恋人同士になっていた。
しばし気を静め、道明寺は仕方がないと言うふうに肩をすくめていた。
「おい北村、じゃあなんでもいいから明日の一番早い時間で予約を取ってくれ」
そして今朝、こうして二人とも慌てて服を着て風の強い外へと出て来た。
まだ夜が明けたばかりの薄明りの中で良かった。
秘書の北村さんが迎えにくる時間をすっかり忘れていた道明寺のせいで私まで身支度が中途半端だったから。
本当は彼ともっとゆっくり出来ると思っていた。
今では宿泊に必要な物―――歯ブラシ、シェイバー、着替えのシャツとスーツなどがつくしのマンションに用意されていた。
そして半裸の道明寺が部屋の中をうろうろしていても気にならなくなっていた。
彼はこれからロンドンへ行く。
「牧野、一緒にくるか?」
彼はつくしの目を見つめ、声を和らげた。
「あ、あんたなに言ってんのよ。私だって仕事があるんだからね!」
つくしはきっぱりと答えていた。
「冗談だ」
道明寺は腕時計に視線を向けてから答えた。
その時の彼の顔はすでに企業トップとしての表情をしていた。
二人で過ごす時間が増え、今の彼がどれだけの努力を積んでここまで来たのかが分かるようになった。
身長185センチの身体を高級スーツで包んだ彼はロンドンの金融街にいても人目を惹く存在だろう。
ロンドンにはK社の買収劇の顛末と今後の方針を報道陣に説明に行く。
買収のたびに現地で記者会見を開くのはその国の人間を敵に回すことなく、あくまでもホワイトナイト的な考えを見せる為だ。
特にヨーロッパでの騎士道精神は今でも尊重されている。
日本よりも伝統と格式を重んじる英国においてはプロセスの方が大切だ。
騎士は戦場において捕らえた相手の名誉を称え尊重する。
そうやって騎士道精神にのっとり形ばかりの体裁を整えてみせる。
だが、騎士は最後にはとどめを刺す。
今回のホワイトナイト気取りの買収劇も形ばかりのパフォーマンスに見られるかもしれないが、米国と違い英国ではあからさまな態度は嫌われる。
英国には大型インフラが整備される計画もあり投資も盛んだ。
K社の買収もそのインフラ整備計画に一枚噛ませる為だ。
今でも階級意識の強い英国社会においての道明寺HDの戦略は彼の統制下で進められている。
米国社会とは違い階級間のコネクションが重要視される社会に食い込むには一筋縄ではいかないはずだ。
そして、そんな世界と渡り合える道明寺の優秀さにさぞや母親も喜んでいることだろう・・・
彼の8年間は決して無駄な時間ではなかった。
「じゃあな、行ってくる」
「ん、気を付けてね」
二人、互いの目を見てごく自然に交わした言葉がこんなにも温かく感じられるなんて知らなかった。
そして私は堂々と心に誓っていた。
もう何を言われても何をされても彼と離れたくなかった。
私は恐怖心と不安で押し潰されそうだけどあの人と会ってくる。
彼がふいに見せた笑顔に勇気をもらい心が軽やかに舞い上がっていた。

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Comment:1
コメント
た*き様
そのようです。
そして原作にすら出てこないあの人ですね?
どんな人物なのでしょうね。
皆様はどんな人物像をお持ちなのでしょうね。
まとめると書いておきながらまだまとまらず、ダラダラと読んで頂き有難うございます。
もう少しだけお付き合い下さいね。
そのようです。
そして原作にすら出てこないあの人ですね?
どんな人物なのでしょうね。
皆様はどんな人物像をお持ちなのでしょうね。
まとめると書いておきながらまだまとまらず、ダラダラと読んで頂き有難うございます。
もう少しだけお付き合い下さいね。
アカシア
2015.10.08 23:15 | 編集
