つくしにはあまり良いとは思えないけど、類に言われたことを思い出していた。
『 牧野、人生は大きな賭けだよ 』
類はそう言ってくれた。
「おまえが司のことを本当に好きなら、あいつに人生を預けてみたら?
愛されてもいないのにその女性のことを思ってる男と食事してる暇があったら司とちゃんと向き合ってみるべきじゃない?」
つくしはそれが類が自分のことを言っているのだと言うことに気づいていた。
「わかってる」
つくしは沈んだ声で答えていた。
「牧野、今まで俺の気持ちを分かっていても見て見ぬふりをしてくれてありがとう。
そうじゃなかったら俺おまえのこと、どうにかしてたかも」
抑えた照明のなか、うつむきぎみで話す類の表情は見えなかった。
「おまえの今までの人生ってある意味賭けの連続なんじゃない?
俺達みたいに子供の頃から敷かれたレールのうえを走るんじゃなくて、いちかばちかの選択をしてきたんでしょ?
人生なんていつも目の前にあるものを選択しながら進んでいくものでしょ?俺にしても司にしても自分で選べる人生じゃなかったからね。だからある意味で牧野が羨ましいと思ったこともあったな」
つくしは驚いたような表情で類を見た。
「ほら、牧野そんな顔しない!」
顔をあげた類の表情はいつもの類だ。
「そんな顔ってどんな顔してる?」
つくしは静かな口調でそう言った。
「うーん、そうだな世も末って感じ?困った犬みたい?」
類はおかしそうな顔でつくしを見ていた。
「なによ、それ!」
つくしは笑いを押し殺して背筋を伸ばしていた。
******
つくしはこれからの数分間を切り抜けるための勇気が欲しいと思った。
「道明寺、わたし類に言われたの」
彼を見つめ直したつくしの頬には涙の流れた跡が見て取れた。
「人生は大きな賭けだってね。だから、だから私も賭けをしようと思う。
これからの私の人生をあんたに賭ける」
こんな漠然とした答えじゃだめだ。
「ねえ?あんたの人生に私を受け入れてくれるつもりはある?」
これじゃ道明寺が私に言ったことと同じじゃない!
「い、今まではあまりいい考えだと思わなかったけどね、あんたとの賭け・・私の負け。
だって・・やっぱり今もあんたのことが好きだから・・」
つくしは不安に心を揺さぶられながらも心臓はどきどきしているのを感じていた。
そして昨日、類の拳が飛んできたときの道明寺の表情を思い浮かべていた。
彼は一切手荒なことはしなかったんじゃないかと思った。
類の気持ちを知っていてわざと殴らせたんだと思った。
あのときの二人には男同士のプライドのやり取りがあったのかもしれない。
「おまえ、今もって・・もしかして俺のことがずっと好きだったっていいたいのか?」
その声はまるで信じられないという思いが込められている。
彼には8年も前に・・とうの昔に・・心を奪われている。
ふたりになんの共通点もない頃から・・・
8年前の願い。
どうか道明寺が私に会いにきてくれますように・・・
彼を見返すために生きてきたわけじゃないけど、いつかまた会える時が来たら自分に自信を持って彼と会いたいと思ってた。
つくしは張りつめていた心の糸が切れたかのように、また涙が溢れてくるのを止められなかった。
そしてまた袖口で涙を拭おうとしていたとき、肩に彼の手を感じたかと思った時には彼の腕の中に引き寄せられていた。
「おまえ、ガキじゃあるまいしいい大人が袖口なんかで拭くな」
穏やかな口調でそう言われ、つくしが彼の胸にそっと顔をうずめたとき、道明寺はハンカチを押し込んできた。
そして数分の沈黙のあと、道明寺は口を開いた。
「あのとき、電話しようと思っていた。一年か二年そこらで帰れると思ってた」
彼は硬い声でそう言った。
そんな声に信じられないと言う思いとあのときの心を引き裂かれた思いで彼の言葉を聞いていた。

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『 牧野、人生は大きな賭けだよ 』
類はそう言ってくれた。
「おまえが司のことを本当に好きなら、あいつに人生を預けてみたら?
愛されてもいないのにその女性のことを思ってる男と食事してる暇があったら司とちゃんと向き合ってみるべきじゃない?」
つくしはそれが類が自分のことを言っているのだと言うことに気づいていた。
「わかってる」
つくしは沈んだ声で答えていた。
「牧野、今まで俺の気持ちを分かっていても見て見ぬふりをしてくれてありがとう。
そうじゃなかったら俺おまえのこと、どうにかしてたかも」
抑えた照明のなか、うつむきぎみで話す類の表情は見えなかった。
「おまえの今までの人生ってある意味賭けの連続なんじゃない?
俺達みたいに子供の頃から敷かれたレールのうえを走るんじゃなくて、いちかばちかの選択をしてきたんでしょ?
人生なんていつも目の前にあるものを選択しながら進んでいくものでしょ?俺にしても司にしても自分で選べる人生じゃなかったからね。だからある意味で牧野が羨ましいと思ったこともあったな」
つくしは驚いたような表情で類を見た。
「ほら、牧野そんな顔しない!」
顔をあげた類の表情はいつもの類だ。
「そんな顔ってどんな顔してる?」
つくしは静かな口調でそう言った。
「うーん、そうだな世も末って感じ?困った犬みたい?」
類はおかしそうな顔でつくしを見ていた。
「なによ、それ!」
つくしは笑いを押し殺して背筋を伸ばしていた。
******
つくしはこれからの数分間を切り抜けるための勇気が欲しいと思った。
「道明寺、わたし類に言われたの」
彼を見つめ直したつくしの頬には涙の流れた跡が見て取れた。
「人生は大きな賭けだってね。だから、だから私も賭けをしようと思う。
これからの私の人生をあんたに賭ける」
こんな漠然とした答えじゃだめだ。
「ねえ?あんたの人生に私を受け入れてくれるつもりはある?」
これじゃ道明寺が私に言ったことと同じじゃない!
「い、今まではあまりいい考えだと思わなかったけどね、あんたとの賭け・・私の負け。
だって・・やっぱり今もあんたのことが好きだから・・」
つくしは不安に心を揺さぶられながらも心臓はどきどきしているのを感じていた。
そして昨日、類の拳が飛んできたときの道明寺の表情を思い浮かべていた。
彼は一切手荒なことはしなかったんじゃないかと思った。
類の気持ちを知っていてわざと殴らせたんだと思った。
あのときの二人には男同士のプライドのやり取りがあったのかもしれない。
「おまえ、今もって・・もしかして俺のことがずっと好きだったっていいたいのか?」
その声はまるで信じられないという思いが込められている。
彼には8年も前に・・とうの昔に・・心を奪われている。
ふたりになんの共通点もない頃から・・・
8年前の願い。
どうか道明寺が私に会いにきてくれますように・・・
彼を見返すために生きてきたわけじゃないけど、いつかまた会える時が来たら自分に自信を持って彼と会いたいと思ってた。
つくしは張りつめていた心の糸が切れたかのように、また涙が溢れてくるのを止められなかった。
そしてまた袖口で涙を拭おうとしていたとき、肩に彼の手を感じたかと思った時には彼の腕の中に引き寄せられていた。
「おまえ、ガキじゃあるまいしいい大人が袖口なんかで拭くな」
穏やかな口調でそう言われ、つくしが彼の胸にそっと顔をうずめたとき、道明寺はハンカチを押し込んできた。
そして数分の沈黙のあと、道明寺は口を開いた。
「あのとき、電話しようと思っていた。一年か二年そこらで帰れると思ってた」
彼は硬い声でそう言った。
そんな声に信じられないと言う思いとあのときの心を引き裂かれた思いで彼の言葉を聞いていた。

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Comment:2
コメント
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た*き様
いつもコメントを有難うございます。
コメントを拝見して思わず笑ってしまいました。
そうなんですね?
ずっと絡まっているんですね?(笑)
貴重な情報を有難うございました!
見たいような見たくないような・・・|д゚)
彼もアレは例えで言ったような気がするんですが、ダメですか?
でも凄いかもしれませんよね( *´艸`)
同じく根拠はないですが、そんな気もします。
いつもコメントを有難うございます。
コメントを拝見して思わず笑ってしまいました。
そうなんですね?
ずっと絡まっているんですね?(笑)
貴重な情報を有難うございました!
見たいような見たくないような・・・|д゚)
彼もアレは例えで言ったような気がするんですが、ダメですか?
でも凄いかもしれませんよね( *´艸`)
同じく根拠はないですが、そんな気もします。
アカシア
2015.10.06 22:22 | 編集
