服を脱ぎ、髪をまとめるとつくしは鏡の前で自分の顔を見た。
そして鏡のなかの自分に向かってほほ笑んでみせる。
嬉しさを現そうとしたが顔面が麻痺したようなほほ笑みだった。
抜糸も終り、やっとお風呂に入れるようになったのだ。
私は熱いお湯にゆっくりと浸かったあと痛み止めの薬を飲んで寝た。
******
「なんか司が俺に色々と言ってきてるんだけど・・・・」
1年振りに会う類は自分の皿のニンジンをつくしの皿へと移して来た。
「類、道明寺の言うことは話半分でしょ?本気に取らないで・・・・」
つくしはクレソンを器用に類の皿へと移し替える。
「そう? でもあいつわざわざニューヨークで俺に会いに来てまで牧野と結婚するだなんて言ってきた。 牧野と賭けをしてるからもうすぐ指輪を嵌めてやるってさ」
類はこの意味が分かる?といいたげに言った。
「そう・・」
「牧野、司と結婚するの?」
類は好奇心にかられて聞いてみた。
「まさか・・・。そんなこと考えてもいないわよ」
つくしは穏やかな口調で言った。
「牧野、おまえいいの?それで?」
つくしは手にしていたナイフとフォークを皿の上で休ませた。
「類、なにが言いたいの?」
昔から類の思考は鋭かった。
いつもずばりと確信をついてくる。
「本当は今でも司のことが好きなんでしょ?」
「・・・いくら好きでも物事には道理があるでしょ?それを教えてくれたのはあいつの母親」
類は頷き、しばらくして言った。
「そう・・やっぱりね。あの時・・牧野が泣いていた時、何かあったんだろうなって思ってた。単に司がニューヨークに行くくらいでそんなに悲しむ程のことじゃないもんね。会おうと思えばいつでも会えるわけだし・・」
類はこれまで誰にも見せたことのないような柔和な表情でつくしを見ていた。
「道明寺には道明寺としてのあるべき道があるってこと。類ならわかるでしょ?」
つくしは優雅に整えられている店を見渡してみせた。
昔の私なら尻込みをして決して踏み込めるような店じゃなかった。
「あいつは道明寺司で・・・私はただの牧野つくし・・」
「牧野、それがおまえと司の間の一番の障壁なの?」
類は厳しい口調で聞いてくる。
「どうかな・・・今となっては・・・。
でもあいつと8年振りに会って今でも私の事が好きだって言ってくれた時は・・・うれしかった。だから・・・またあいつの事が・・」
つくしは辛そうに類から顔をそむけた。
「類、わたしね・・やっぱりあいつの事が好き。
やっとどうでもいいって思えるようになって来たかと思ったんだけど、そうじゃないみたい」
つくしは泣いていいのかほほ笑んでいいのか自分でも分かりかねるようだった。
******
取引先の企業が選んだレストランは聞いたこともないところだった。
暫く東京を離れていた間にこの街も随分と変わっている。
店に足を踏み入れ案内されたテーブルの、まだその先のテーブルにいる男女に目が止まっていた。
「類、牧野。 随分楽しそうだな」
「 司 ?」
牧野は口を開かなかった。
司はただ怒っていると言うのではなかった。
激怒していた。そして類に対して嫉妬していた。
牧野は俺とは付き合うつもりも結婚するつもりもないと言いながらも類と楽しそうに食事をしている。
「支社長、テーブルの用意が出来ていますので・・・」
秘書の男が後ろから声をかけてきたが、俺は振り返りもしなかった。
類と牧野は突然現れた俺を見て驚いたようだ。
「類、日本に帰って来てたんだな」
「 うん 」
類は短く答えた。
「いつ帰ってきたんだ?」
「 昨日 」
そう言いながら類は椅子を引いて立ち上がった。
立ち上がった類と司の距離は1メートルと離れていない。
「類、おまえ何してるんだ?」
「なにって牧野と食事をしてる」
いつもは何を考えているか分からないような親友は無表情ながらもガラスのような目で刺すような視線を司に向けてくる。
「司、おまえこそ牧野に何してんだよ!」
「俺か?求愛してる」
司は両手をズボンのポケットに突っ込んだまま言い放った。
「おまえ8年間も放ったらかしておいて今更どう言うつもりなんだ?牧野に悲しい思いをさせておいてこいつの8年間を考えたことがあるのか?」
類は穏やかだが、きっぱりとした口調で言い切った。
「どういうつもりも俺は牧野のことが好きだ。だからこいつを奪いに来た」
司はゆっくりと言った。
「司、いったいなにから奪うって言うの? 牧野の仕事?牧野がここまでなるのにどれだけ努力してきたか司は知らないでしょ?」
「類、やめて!」
その場の光景は少なくとも怒鳴り合いとは言えなかったが、今にも殴り合いになりそうな様子に見えた。
「司、言ってなかったけど俺は牧野に初めてのキスをした」
「そうかよ。俺はこいつを女にした」
司は切り返していた。
「類!道明寺!やめて!」
つくしははじかれたように椅子から立ち上がって叫んでいた。
「このひとでなしが!」
類は押し殺したような声でそう言うと司に向かって殴りかかっていた。
司は拳をかわすと反射的に左手で繰り出されていた類の右腕を掴んでいた。
一瞬のうちにその場は騒然となった。
傍から見れば私達三人の関係はどんな関係に見えるのだろうか。
夢なのか現実なのか・・・つくしは大きく目を見開いたままで立ち尽くしていた。

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そして鏡のなかの自分に向かってほほ笑んでみせる。
嬉しさを現そうとしたが顔面が麻痺したようなほほ笑みだった。
抜糸も終り、やっとお風呂に入れるようになったのだ。
私は熱いお湯にゆっくりと浸かったあと痛み止めの薬を飲んで寝た。
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「なんか司が俺に色々と言ってきてるんだけど・・・・」
1年振りに会う類は自分の皿のニンジンをつくしの皿へと移して来た。
「類、道明寺の言うことは話半分でしょ?本気に取らないで・・・・」
つくしはクレソンを器用に類の皿へと移し替える。
「そう? でもあいつわざわざニューヨークで俺に会いに来てまで牧野と結婚するだなんて言ってきた。 牧野と賭けをしてるからもうすぐ指輪を嵌めてやるってさ」
類はこの意味が分かる?といいたげに言った。
「そう・・」
「牧野、司と結婚するの?」
類は好奇心にかられて聞いてみた。
「まさか・・・。そんなこと考えてもいないわよ」
つくしは穏やかな口調で言った。
「牧野、おまえいいの?それで?」
つくしは手にしていたナイフとフォークを皿の上で休ませた。
「類、なにが言いたいの?」
昔から類の思考は鋭かった。
いつもずばりと確信をついてくる。
「本当は今でも司のことが好きなんでしょ?」
「・・・いくら好きでも物事には道理があるでしょ?それを教えてくれたのはあいつの母親」
類は頷き、しばらくして言った。
「そう・・やっぱりね。あの時・・牧野が泣いていた時、何かあったんだろうなって思ってた。単に司がニューヨークに行くくらいでそんなに悲しむ程のことじゃないもんね。会おうと思えばいつでも会えるわけだし・・」
類はこれまで誰にも見せたことのないような柔和な表情でつくしを見ていた。
「道明寺には道明寺としてのあるべき道があるってこと。類ならわかるでしょ?」
つくしは優雅に整えられている店を見渡してみせた。
昔の私なら尻込みをして決して踏み込めるような店じゃなかった。
「あいつは道明寺司で・・・私はただの牧野つくし・・」
「牧野、それがおまえと司の間の一番の障壁なの?」
類は厳しい口調で聞いてくる。
「どうかな・・・今となっては・・・。
でもあいつと8年振りに会って今でも私の事が好きだって言ってくれた時は・・・うれしかった。だから・・・またあいつの事が・・」
つくしは辛そうに類から顔をそむけた。
「類、わたしね・・やっぱりあいつの事が好き。
やっとどうでもいいって思えるようになって来たかと思ったんだけど、そうじゃないみたい」
つくしは泣いていいのかほほ笑んでいいのか自分でも分かりかねるようだった。
******
取引先の企業が選んだレストランは聞いたこともないところだった。
暫く東京を離れていた間にこの街も随分と変わっている。
店に足を踏み入れ案内されたテーブルの、まだその先のテーブルにいる男女に目が止まっていた。
「類、牧野。 随分楽しそうだな」
「 司 ?」
牧野は口を開かなかった。
司はただ怒っていると言うのではなかった。
激怒していた。そして類に対して嫉妬していた。
牧野は俺とは付き合うつもりも結婚するつもりもないと言いながらも類と楽しそうに食事をしている。
「支社長、テーブルの用意が出来ていますので・・・」
秘書の男が後ろから声をかけてきたが、俺は振り返りもしなかった。
類と牧野は突然現れた俺を見て驚いたようだ。
「類、日本に帰って来てたんだな」
「 うん 」
類は短く答えた。
「いつ帰ってきたんだ?」
「 昨日 」
そう言いながら類は椅子を引いて立ち上がった。
立ち上がった類と司の距離は1メートルと離れていない。
「類、おまえ何してるんだ?」
「なにって牧野と食事をしてる」
いつもは何を考えているか分からないような親友は無表情ながらもガラスのような目で刺すような視線を司に向けてくる。
「司、おまえこそ牧野に何してんだよ!」
「俺か?求愛してる」
司は両手をズボンのポケットに突っ込んだまま言い放った。
「おまえ8年間も放ったらかしておいて今更どう言うつもりなんだ?牧野に悲しい思いをさせておいてこいつの8年間を考えたことがあるのか?」
類は穏やかだが、きっぱりとした口調で言い切った。
「どういうつもりも俺は牧野のことが好きだ。だからこいつを奪いに来た」
司はゆっくりと言った。
「司、いったいなにから奪うって言うの? 牧野の仕事?牧野がここまでなるのにどれだけ努力してきたか司は知らないでしょ?」
「類、やめて!」
その場の光景は少なくとも怒鳴り合いとは言えなかったが、今にも殴り合いになりそうな様子に見えた。
「司、言ってなかったけど俺は牧野に初めてのキスをした」
「そうかよ。俺はこいつを女にした」
司は切り返していた。
「類!道明寺!やめて!」
つくしははじかれたように椅子から立ち上がって叫んでいた。
「このひとでなしが!」
類は押し殺したような声でそう言うと司に向かって殴りかかっていた。
司は拳をかわすと反射的に左手で繰り出されていた類の右腕を掴んでいた。
一瞬のうちにその場は騒然となった。
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夢なのか現実なのか・・・つくしは大きく目を見開いたままで立ち尽くしていた。

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コメント
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た*き様
いつもコメントをお寄せ下さり有難うございます。
真相・・・(沈黙)
あまり期待をしないで下さいね。
そろそろまとめに入りたいと思っています。
いつもコメントをお寄せ下さり有難うございます。
真相・・・(沈黙)
あまり期待をしないで下さいね。
そろそろまとめに入りたいと思っています。
アカシア
2015.10.04 22:31 | 編集

k***i様
コメント有難うございます。
いつもお読み頂いているそうで有難うございます。
類くん色んなことに対して怒っていたみたいです。
人でなし発言(笑)複雑な気持ちが言わせたのかもしれません。
だってあんな風に自慢げにつくしちゃんや自分の前で言われたら嫌ですもの。
類くんなに気に策士ですものね。
彼の意図・・・・?
えっと・・自ら墓穴を掘ったかもしれません(笑)
そろそろ2人に寄り添って頂きたいと思っています(笑)
コメント有難うございます。
いつもお読み頂いているそうで有難うございます。
類くん色んなことに対して怒っていたみたいです。
人でなし発言(笑)複雑な気持ちが言わせたのかもしれません。
だってあんな風に自慢げにつくしちゃんや自分の前で言われたら嫌ですもの。
類くんなに気に策士ですものね。
彼の意図・・・・?
えっと・・自ら墓穴を掘ったかもしれません(笑)
そろそろ2人に寄り添って頂きたいと思っています(笑)
アカシア
2015.10.04 22:54 | 編集
