FC2ブログ
2017
08.09

時の撚り糸 18

司は、隣に立つほっそりとした身体を引き寄せたかった。
この手の届くところに彼女がいるのだ。身体を抱きしめ、心を抱きしめたい。
だがその前に彼女の唇を奪っていた。思わず動いてしまった身体は、ただ立ち尽くして待つのが嫌だったから。二人の間にあった時の流れを忘れたかったから衝動に従っていた。

こうして9年ぶりに会い、二人だけで船に乗っていることが、内心では信じられない思いでいた。
幾ら司が強引な男だとしても、そして滋の協力があったとしても、彼女も子供ではない。
自立した立派な女性だ。連れて来られることを拒もうと思えば出来たはずだ。
だが拒まなかった。その意味を理解するのは簡単なはずだ。


二人で生きていこうと決めたときからずっと彼女を守りたかった。
だが自分との4年の関係が、つくしを傷つけていたことに、良心が疼いた。
法律では結ばれない男との関係が、彼女の心の負担になったことが、別れるきっかけになったことは十分承知していた。だが、こうして離婚が成立した今、あの頃出来なかったことを彼女にしてやりたい。そして与えたいもの全てを抵抗なく受け取れるようにしたい。

あの当時、彼女へプレゼントしたいものは、幾らでもあった。
だが受け取ろうとはしなかった。
それが、つくしなりのケジメとでもいうのか。それとも昔と同じで対等でいたいといった気持ちでいたのか。元来高価なプレゼントを好まない女は、高校生の頃贈ったジュエリーだけを大切に身に付けてくれていた。

司はつくしが口を開くのを待った。
だが、彼女はただ手すりを握ったまま何も言おうとはしなかった。
何かが二人の間にある。司はそう感じていた。
だからこそ、それを知る必要がある。








セントトーマス島は、カリブ海クルーズの定番の寄港地になっており、多くの観光客で賑わっていた。アメリカ領ヴァージン諸島の首都でもあるこの島の中心地、シャーロット・アマリーは、タックスヘイブン(租税回避地)のため免税で買い物できることもあり、メインストリートには多くの店が立ち並び、ブランド品や、高級腕時計、高価なジュエリーを安く手にいれようと、クルーズ船を降りた買い物客で賑わっていた。

だが二人がまず初めに向かったのは、パラダイスポイントと呼ばれる小高い丘の上にある展望台。そこからは、エメラルドグリーンの美しい海や、街の景色を眺めることが出来た。
そして次に司が向かったのは、美しい光景とリラックスを求め、首都から車で20分ほどの場所にある世界一美しビーチに選ばれたこともあるメイゲンズベイ。美しい白い砂浜が広がり、海水浴とシュノーケリングが出来る場所。だが二人はビーチにあるカフェレストランのテラスに腰を下ろした。そこは、白く大きなパラソルが陽射しを遮り日陰を作っていた。

「なんだよ?せっかくカリブ海に来たのにもったいねぇな」

「なんだよって・・じゃああんたが入ればいいじゃない。あたしは止めとくわ。だいたい今回の旅行はNYに行く計画で、海に入る予定はなかったから水着なんて持ってきてないわよ。それにあたしの年で水着になれるわけないじゃない・・それにこの年で日に焼けたらシミになるもの」

海に入るかと聞かれ、つくしは断った。
NYのはずがカリブ海に司といることが、予定外なのは当然だが、水着になることなど考えていなかったからだろう。
司にしてみれば、カリブ海のリゾート地に水着は必須だといった思いで、つくしのクローゼットにもあれば、クルーザーにも用意してあった。そして水着姿の彼女を見たいと思った。

「俺に言わせれば休暇に計画が必要だとは思えねぇな。予定ってのはあってないようなものだ。それにおまえの年で水着になるのに抵抗があるなんておかしいだろ?こっちじゃ水着を着る年齢なんて関係ねぇぞ?」

欧米では何歳になろうが、体型が若いころとは随分変わっていたとしても、水着になることを躊躇う人間は少ない。そして、バカンスがあたり前の国々では、夏に肌を露出することに躊躇いはない。特に北欧諸国のように日照時間が少ない国では、好んで肌を焼きたがる。それはビタミンDが不足しているといったこともあり、太陽が出たらあたってビタミンを作ることを目的としていることもある。

そしてイタリアやフランスのように、小麦色に焼けた健康的な肌を見せることが、ひとつのステータスのような国もある。日焼けしている、イコール優雅なバカンスを海ですごしたという解釈をするからだ。化粧品にしてもだが、日本では美白が当たり前となっているが、海外では日焼けした肌に見せるためのファンデーションもあるほどだ。

だがつくしの肌は白く、日に当たれば赤くなるが、黒くなることはない。
そして司は彼女の白い肌が好きだ。華奢な肩と細い腕が離さないで、としっかり背中に回され、しがみついて来た時のことは今でもはっきりと覚えていた。
あれはキャンドルを灯し、愛し合ったクリスマスの夜。上気し、バラ色に染まった肌が、黄金色に光り美しかった。


「・・あのね。それは道明寺だから言えるの。庶民は休みも計画を立てて取るの。それに行くところも計画を立てていかなきゃ予定が立たないでしょ?あんたみたいに行き当たりばったりで目的地を変えるなんてこと出来ないの!それに海に入るなら女性は色々と準備があるの!」

「ああ・・そうだったな」

司は機械的に言った。そしてつくしを見つめ、遠い過去の記憶に触れていた。
男には理解できない準備をした身体へ、日焼け止めを塗ることが楽しみだったことを。
腕に脚に、そして背中へとゆっくりと撫で付けるようにすりこんでいく行為は、これ幸いといつの間にか別の行為へと変わっていったことがあった。

「・・それにしても相変らずだな、おまえは」

司の声は笑っていた。

「何がそんなにおかしいのよ?そんなの普通でしょ?女性は色々とあるんだからね!」

今もし司の頭の中に描かれていることが、つくしに知られたらと思うと笑みが浮かんだ。
そして司の行き当たりばったり的行動がおかしいといった女は、視線を海へと向けた。

「・・海、綺麗よね」

船の中から見た海にもそう呟いていた。
そしてあの時、つくしの横顔に思慮する様子を感じた。

「・・それにしてもイグアナがいたのには驚いた」

「ああ。カリブ海の島にはあちこち普通にいるらしいぞ?」

駐車場で車を降り、カフェまで歩いて来る途中もだが、展望台でも見かけた。
動物園で見る以外、イグアナなど見た事がなかったつくしは、岩の上で日光浴をしている個体に目を大きく見開き、驚きを隠さなかった。そして気付けば足元近くまで来ていたものもいて、思わずきゃあっと驚きの声を上げ、司の腕にしがみついていた。

「・・自然に暮らしてるイグアナなんて初めて見た。・・道明寺は野性のイグアナを見た事あった?・・あんなのがいきなり目の前に現れたらびっくりするわよね?」

「ふん。あんなデカいトカゲくらいどうってことねぇよ」

「動物が嫌いな人が何言ってるのよ?あんただってびっくりしてたじゃない?」

「アホか。あれはあいつらが急な動きをするからだ」

「それを驚いたっていうのよ?」

と、楽しそうに笑った。




二人は船を降りてから、こうしてごく普通に会話を交わしていた。
そして、つくしがこの旅を楽しむことにしたのか、それとも単に受け入れたのか。
どちらにしても、嫌々といった態度は感じられず、当初は硬いと思われていた表情も随分とまろやかになり、はじめて見る風景に目を輝かせていた。
だがほんの一瞬の隙をつくように見せる表情が、何かを感じさせた。それは再会してからずっと感じていた思い。会話が弾めば、まるで遠い昔の二人の会話が再現されるのだが、どこか違っていた。


その時、ひとりの女性が二人に声をかけてきた。






にほんブログ村

応援有難うございます。
関連記事
スポンサーサイト




コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.08.09 10:18 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.08.09 11:56 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
カリブ海のリゾートでのひとコマ。
遠い昔の邪な思い出が過った司は、やはり不良ですね?(笑)
つくしに何か思うところがあると感じながらの穏やかな時の流れ。
そんなところへ声をかけて来た女性は何者なのか?
彼らの運命は如何に!←大袈裟ですね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.08.09 23:51 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.08.10 00:10 | 編集
さと**ん様
そうなんです。北欧の皆様が日光浴に励むのは、健康を軸にした面があります。
日照時間が短い国の皆様、太陽に飢えていらっしゃいます。
日光にあたることも大切です。
そしてイグアナの予想できない動きにびびる司。
大きさは様々ですが、この島で二人が足許に見たのは、20センチくらいでしょうか?
足許に何気にいると、怖いと思います(笑)つくしじゃなくてもキャーです(笑)

つくしが一瞬見せる表情には何が隠されているのか。
昔と違う何か。
二人の前に現れたのは・・・はい、続きは明日です^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.08.10 00:15 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
つくしに対して何かが違うと感じている司。
そうなんです、何か違うんです。そして声をかけてきた女性は!誰?
司に残された時間を考えれば本当はもっとガンガン行きたいのですが、何かが違う・・。
野性の本能がそう訴えています。大人の恋は色々と大変なようです(笑)

そして、事件が起きた・・いえ、起こしたんですか?
え?何でしょうか!とても気になります!
是非劇場上映お願いします‼はい、待ちます。お待ちしております!
楽しみです(*^^*)
アカシアもちょっぴり夜更かしです。今週はあと一日ですから!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.08.10 00:24 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.08.10 01:29 | 編集
pi**mix様
18話。カタカナが多かった(笑)
そしてジェントル司がエロって来た(笑)
そうですよね・・過去を思い出しニヤッとしたかもしれません。
そしてつくしちゃんと司との距離はpi**mix様が感じている通りです。
距離を縮めてきているようで、つくしちゃんは遠い。
すでに次のお話へと進んでいるので、事情はお察し頂けていると思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.08.10 22:31 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top