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2017
07.30

時の撚り糸 10

焼け付くような陽射しのなか、空港に着いた二人は、迎えの車で別荘へ向かっていた。
強力なエンジンを持つドイツ車は、スモークガラスが使われ、強い陽射しを遮る効果は十分あり問題ない。

島の観光と言えば、きらめく白い砂浜が有名だが、18世紀後半から19世紀後半までデンマークの植民地だったこともあり、その時代の建造物が数多く残されていた。
その中には要塞や、カリブ海のどこかの島が発祥の地と言われるラム酒の工場もあり、見学することが出来る。カリブ海の海賊の物語に必ず登場するラム酒は有名で、サトウキビが原料だが、カリブの島にサトウキビは自生しておらず、ヨーロッパ人が持ち込んだものと言われていた。

司の隣で視線を外へ向けた女は、色付きのガラスから見える景色を眺めているようだが、口数は少なかった。やはり何かが違う。9年の歳月が彼女を大人の女性へと成長させたとしても、大人し過ぎるような気がしていた。



別ればなしが切り出されたとき、いつまでもこんなことしてちゃダメと言われたが、その言葉には嫌いになったといった言葉は含まれていなかった。それに、相手を傷つけまいとして、遠回しの言葉を選んだとも思えなかった。あの時、司は彼女の求めに応じ別れた。それは彼女の置かれた状況が苦しいなら、といった思いからだった。そして、あの言葉はまさに彼女の本心だったと思う。

司は、今の自分が抱えている思いが決して独り善がりな思い過ごしだとは考えてない。
彼女も同じ気持ちでいるはずだ。まだ愛していてくれるはずだ。
もし、既に愛が無くなったというのなら、はっきりそう言えばいい。だが確かにいきなり現れた元恋人を前に、どんな話しをすればと思うだろう。
そして、その恋人は、当時他の女と結婚していたのだ。だが今は離婚も成立し、独身となった。それなら何が気になるというのか。


殺人的なスケジュールを無理やりこじ開け、勝ち取ったともいえる休暇は10日しかない。
そして、それが終れば彼女も日本に帰国してしまうが、本音を言えば帰したくない思いがある。またあの頃のように、ビジネスにかこつけ、彼女と会うといったことは、したくない。
一緒にNYで暮らして欲しい。だがそれを口にするのは、まだ早いのかもしれない。
しかし、最終的にはそうするつもりだ。





車が街の中心部に入り、信号待ちで止まったとき、隣に青いオープンカーが並んだ。
若い男女が乗っており、女が運転席に座る男の肩に頭をもたせかけた。
すると、男は女を引き寄せ、キスをした。信号が変わったが、暫くそのままでいた二人に、後続車からクラクションが鳴らされていた。

愛し合う男女が離れたくないと、いつまでも唇を重ね合わせた姿。
それはかつて二人も経験した光景。今日のように眩しい光りの中、ドライブへ出かけ、信号待ちで止り、隣に座る彼女の唇にキスをしたことがあった。

「俺たちにもああいった頃があったな」

「え?・・うん・・」

二人は同じ光景を見ていた。
懐かしそうに口を開いた司に対し、つくしの言葉は、どこか心ここにあらずと言った感じだ。
やはり、と司は思った。口数が少ないのだ。昔の男に再会し、突然旅に連れ出されれば、言いたいことは幾らでもあるはずだ。だがそういった文句もなく、大人しくしていることが、司にしてみれば、彼が知っている牧野つくしという女性とは違った印象を与えていた。


「・・牧野。おまえ、どうして大人しくジェットに乗った?昔のおまえならこんなこと許さなかったよな?」

勝手に何でも決めないで、と怒られたこともあった。
だが嫌だと言ったところで、連れて来ていたはずだ。
このチャンスを逃せば、彼女と一緒に10日も過ごすチャンスなどないのだから。

「・・なんでって・・・仕方ないじゃない。身の周りの物は全部飛行機の中だし、あそこであたしが何を言ったところで、滋さんと・・あんたに敵うとは思えないもの」

「ああそうだ。おまえが俺に敵うわけねぇな」

と、言葉を返してみたが、返事はなかった。
彼女が多弁とは言わないが、それでも昔はもっと話しをしていた。そんな女の口数が少ないことを訝しく感じていた。だが思い返せば、何を聞いても物事の本質を語ろうとしないことがあった。それは何か悩み事があれば、いつも一人で抱え込むことが普通だったからだ。それなら今の牧野つくしは、何か悩んでいるということか?だがそれは見合い相手のことではないはずだ。

「牧野、言いたいことがあるなら言ってくれ。おまえは昔から肝心なところで黙っちまう癖があっただろ?それは今も変わってねぇようだが今さら俺に遠慮してもしょうがねぇだろ?俺に対して言いたいことがあるなら言ってくれ」

いつも冷淡で何事にも動じないと言われる男も、彼女の前では違う。
今は他人の間柄だとしても、これから先そのつもりはない。彼女の全てを知っておきたいと思うのは、愛しているからだ。不安があるならその不安を取り除いてやりたいと思う。
だが無理矢理話をさせようとしたところで、話しはしないだろう。案の定、彼女は押し黙ってしまった。

「・・そうか。言いたくないか・・まあそれならそれでいい。何しろ俺とおまえには時間がある。10日間は二人で過ごすことが出来るんだ。その間に話しをする気になったら教えてくれ」


10日間。
捉えようによっては、長くもあり短くもある。

「・・俺は今でもおまえの事が好きだ。あれから9年経ったが気持ちは変わってない。9年もおまえを待たせる羽目になって悪かったと思ってる。本来ならもっと早く離婚を成立させておまえを迎えに行くつもりだったが出来なかった」

つくしも滋から聞かされていた。
相手の女性が別れようとしないと。

「牧野。俺はおまえとやり直したい。朝起きて思うのはいつもおまえのことだ。ガラス窓に雨が打ちつけるたび、思い出すのはおまえのことだ。・・ひとりになってから雨が降るたび思い出すのはあの日の光景だ」

それは、二人の人生の中で初めて経験した大きな別れ。
あの時、二人の愛は終わったかと思われていた。だがそうはならなかった。
だから、もう一度やり直せるはずだ。

「俺はおまえを思い出にしたくない。俺におまえが苦しんだ4年を償わせてくれないか?それからの9年もだ」

9年で全てが移り変わっていたとしても、彼女の心を取り戻したい。
いや。取り戻してみせる。
彼女が俺を信じてくれるなら。

「おまえ、休み取って来たんだろ?それなら俺とこの島で休暇を過ごしてくれ。俺が休暇を取るなんてことは今までなかったんだ」

司の休暇は10日間。
今まで何があっても休暇を取ることなどなかった。
それは、つくしとごく普通に交際していた頃を合わせても無かった話だ。
だがどんな事にも初めてはある。
それに、牧野つくしは、世界にたった一人の愛しい女だ。
代わるものなどない唯一の存在だ。
もう二度と手放さないと決めた女だ。
彼女を手にいれるためなら、どんなことでもするつもりだ。





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コメント
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dot 2017.07.30 10:37 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
つくしちゃんの事ならどんな微妙な変化も気づく司。
9年ぶりに会った彼女は、少し口数が少ないようですねぇ。
また何やら考えている・・そんな気がします。
司の目標は明確です。彼女と結婚することです。
約束は守る男ですから、一度決めたことはやり遂げてくれるはずです。

御曹司!例のお話、少し考えるお時間を下さい^^
何しろ、一話完結スタイルですので、どうまとめるかが問題です(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.07.30 23:11 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.07.30 23:46 | 編集
pi**mix様
今日はアイツ仕事してたのかもしれません。日曜出勤ですね?(笑)
さて、こちらの二人は信号待ちのカップルに何を思ったのか・・。
司は懐かしさでいっぱいでしたね?吹っ切れた不良中年は止まりません(笑)
司が晴れやかな気持ちなのは、間違いありません(笑)
信号は青!本当に司の中ではそうですね。
長い間赤信号で止まっていましたから、もう一度再び・・という思いです。
ただお嬢さんが(笑)

人混みが苦手・・分かります。
アカシアも最近人混みは疲れます(笑)夏を感じる・・この暑さに辟易する毎日です(笑)
司たちは、今、カリブ海です。いいですねぇ。2人だけの別荘。
そこにあるのは大人の二人の恋でしょうか(笑)
海。お気をつけて行ってきてくださいね。
コメント有難うございます^^
アカシアdot 2017.07.31 22:18 | 編集
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