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2017
07.22

時の撚り糸 3

もし、あのまま別れずにいたら、どうなっていただろうか。
彼女が去って9年が経っていた。あのとき、たとえ形だけの婚姻関係とはいえ、法律上の妻がいたのだから、司には彼女が去ることを止める権利はなかった。
二人の間にあった4年という付き合いは、恋の波間を漂っていたのだと言われれば、そうなのだろう。そして4年間手放すことが出来なかったのは自分のエゴだと分かっていた。

世間的に言えば非常識な行為と言える二人の関係に、彼女が苦しんでいたことは理解していたつもりだ。
だが司の世界では、世間が非常識だと考えることも、時に常識的なこととして受け入れられる。それは、金持ちの男が愛人を囲っているのが当然の世界だということだ。
けれど、二人の関係に金銭の受け渡しといったものは一切なく、愛人などではなかった。
だからこそ、こうなった以上、二人の関係は対等であって欲しいと。そして、たった一枚の紙で証明される関係ではなく、心が繋がっていればいいと受け入れてくれた4年は、誰かに暴き立てられることもなく終わった。

9年前に終わった二人の愛。
NYと東京を往復する間、考えたこことは、ただひとつ。
行きはこれから会えることへの喜び。帰りは今度いつ会えるかといった思い。
ただその思いだけを胸に抱き過ごした13時間にも及ぶロングフライト。
彼女を愛したいと願いながら別れるのは、今までの人生の中で一番難しく、そして辛かった。
心の一番深い場所に彼女を抱きしめてはいたが、その心が掻きむしられるような思いで過ごしていた。


渡された写真を手にし、懐かしさが甦っていた。
20年前の彼女の姿に、気持ちはあの頃に戻っていた。
彼女はしっかりとした少女だった。どこか頼りない両親の元、彼らに代わって家計を支えていた。そしてそんな両親は、彼女を精神的な支えのようにして生きていた。
未成年の娘を支えに生きる親が、当時の司にしてみれば信じられない想いがしていた。だが家族は共に支えあって生きるものだと知ったとき、なんとなくだが彼らの気持ちを理解していた。

今、彼女はどうしているのか。
別れてから消息を調べることはしなかった。知ればまた会いたいといった思いが募るからだ。
それに別れを選んだのは、彼女だ。彼女が辛いと思ったなら別れてやるのが、男の優しさだと、そして自分が結婚している以上、本当の意味で幸せにしてやることなど出来ないのだからと気持ちを断ち切った。

だが会いたい。
彼女に。
牧野つくしに。
今なら会ってもいいはずだ。
司の中に甦った熱い想い。
もう一度彼女とやり直したい。

だが別れてから9年の時が流れている。
流れた時が二人の状況を変化させているのは仕方がない話しだが、彼女が結婚したといった話しは聞かされていない。お節介な滋がそんなことを告げなかったことが、そのことを確信させていた。

だが滋から思わぬ話を聞き、心が冷たくざわめいた。

「・・あのね、司・・言いにくいんだけどね、つくし、結婚するかもしれないの」

いきなりそう言われ、司は虚をつかれた。
だがすぐに口を開いた。

「誰だ?相手は」

「だ、誰って司の知らない人よ?」

滋が思わず口ごもったのは、司から殺気のこもった眼差しを向けられたからだ。
鋭角的な身体から発せられる研ぎ澄まされた視線と言葉は、ついぞ最近見せたことのないもので、少なくとも友人である滋に対してはなかったが、やはりそうだと思った。
滋は胸に引っかかったことは確認しなければ気が済まない質だ。
先程言ったまだつくしのこと好きなんでしょうの答えを聞いてない。

「あのね、つくしの事、好きだって、付き合ってくれって言って来た人は沢山いたのよ。あの子、年齢の割りにはスレてないし、真面目だから・・」

束の間の沈黙を挟んだのは、どちらだったのか。
それは滋の方だ。司から向けられた視線が、殺気のこもったものから、爬虫類のように、感情のこもらない冷たい視線に変わっていたからだ。
その視線が向けられた意味。それは、つくしに対し風化することなく続く想いを感じさせた。
そして視線に含まれているのは、自分以外の男が彼女に触れることに対する嫉妬。

滋は、今までつくしの近況を司に話したことはない。話せば司が苦しむことは目に見えて分かっていたからだ。そして好きだが、別れを決めてしまった恋人同士といったものは、傍で見ていても苦しいものがあったから。

つくしから司と別れたと連絡が来たとき、電話口で泣いているのが分かった。
大粒の涙をぽたぽたと膝に落としながら、無理矢理笑顔を作ろうとしている姿が想像出来た。昔から我慢強い人間ではあったが、何もこんな時、自分を偽ることなどしなくてもいいのに、と思った。そしてもし自分が好きな男と別れたなら、わんわんと声を上げて泣いていたはずだと思った。

だがつくしのその態度は、二人の関係が世間には公に出来ないことが影響していたのではないかと思った。たとえ、二人がそう思わなくても、世間はそれを不倫というのだから、その言葉がつくしの心にどれだけ重くのしかかっていたのかを考えたとき、秘密にしなければならなかった二人の4年間の重さといったものが、哀しみといった感情を抑制させてしまったのではないかと思った。

滋にとって受け入れ難かった二人の別れ。

そして今の気持ちは、高校生の当時、好き合っている二人の行動に苛立ちを感じたことがあったが、その時の感情とよく似ていた。あのとき滋は、二人の恋を応援すると決め、つくしとずっと友達でいると決めた時から、愛とか友情とか、と人がバカにするようなことにも必死になっていた。


「ねぇ、司。司はまだつくしのことが好きなのよね?そうなんでしょう?だったら・・不良中年になったら?あんた今までいい男過ぎたんだから。昔の司に戻ってもいいんじゃない?」

昔の司。
それは、牧野つくしに対し命がけで向かっていた少年。
一人っ子で兄弟のいない滋は、そんな司の一直線につくしに向かっていく姿に、男といった動物が本気で好きになった女に向ける一途さを感じ感動していた。
そしてそのことが羨ましくもあった。
あれほど本気で好きになれる人がいるということが。

滋の言葉に、男のこめかみに一瞬浮かんだのは青い筋。

「滋、誰が中年だ?俺が中年ならおまえもそうだろうが」

と、司は喉元で笑いながら言ったが、その笑いはすぐに消えた。

「それにしても不良中年ってか?面白れぇこと言うな、おまえも」

38歳の男は、中年と言われるにはまだ早いはずだが、若いとは言えないのも事実。
そして滋もいい年して何を言っているのかと自分自身に問いかけたが、恋は遠い日の花火、といった考えはない。それにまだまだ捨てたもんじゃない。
それに、道明寺司という男の持つ精神の強靭さといったものは、並大抵のものではない。
ビジネスに対してもそうだが、好きになった女に対してのその一途さは。


「・・司。実はね、つくし、明日この街に来るの」





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コメント
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dot 2017.07.22 12:45 | 編集
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dot 2017.07.22 13:54 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
さあ、滋の言葉に目覚めた司・・となるでしょうか?(笑)
離婚が成立した司。それに対し、結婚するかもしれないつくし。
手遅れにならないうちに頑張って欲しいですね?
二人を見つめてきた滋のお節介とも言える行動。
すれ違ってしまった二人の人生を取り戻して欲しいといった想いで、自らがお節介を焼くことにしたのでしょうねぇ。
滋はライバルになると手強いですが、友達になれば、心強い女性だと思います。
つくしにはない決断力の強さといったものが羨ましいところですね?

20年という年月は長いと思います。生まれた子供が大人になる年月ですからねぇ。
そして、大人になってからの20年は心の成長もあることでしょうから、あの二人は果たして・・。

お風邪、お大事になさって下さいね。
この週末で少しでもよくなるといいですね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.07.22 22:28 | 編集
pi**mix様
滋言い過ぎだと思って、今日は自粛したんですよ、きっと(笑)
そんな滋は司に不良中年になれとそそのかす(笑)
20年前の自分達を振り返ったとき、そこに何が見えたのか。
10代の頃の自分なんて、もう遠い昔すぎて全然分かりません(笑)
坊っちゃん!不良中年になるのでしょうか?
そして、つくしちゃん、NYには不良中年という珍しい生き物がいるそうです‼
え?滋さんのキャスティングですか?ドラマの影響が強いので思いつきませんが、内田さんは、映画でつくしを演じていらっしゃったので、そちらのイメージがありますが、いいかもしれませんね?
明日の坊ちゃん、また突っ込んでやって下さい^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.07.22 22:52 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.07.23 00:15 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
滋の愛の鞭!ラストの直線でビシビシ入ってます(笑)
ツカサブラックは直線で逃げて差すことが出来るのでしょうか!
結婚するかもしれないつくしは、何のためにNYへ?
滋、一枚噛んでいるはずです。
相手は西田さん?まさか!そうだったんですね?
と、なると大変なことになりそうな予感がします。司が許すはずがありません(笑)
それに司に歯向かうと鯉のエサになる恐れがあるので止めた方がいいと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.07.23 21:41 | 編集
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