俺は胸の内ポケットの中で振動している携帯電話を取りだした。
表示画面を確かめる。
誰だ?知らない番号だ。
俺のプライベート携帯の番号を知る人間は少ない。
発信者は諦めたのか電話は静かになった。
すると今度は机の上に投げ出されていた仕事用の携帯が唸り始めた。
「支社長!どうして電話に出て下さらないんですか!」
そう喚いてきたのは秘書の男だった。
「北村か。なんでおまえプライベートの方にかけてくるんだよ」
「そんなの急いでいたからに決まっているじゃないですか!」
電話の向こうで慌てたような口ぶりで男の秘書は話している。
「俺のプライベートの携帯にかかってくる電話は牧野からの電話以外は出ないことにしてるんだよ」
まだかかってきた事はないけどな。
「支社長、帰国は三日後でしたよね?少し早くお帰りになることは出来ませんか?」
秘書の男は切迫した様子で話してきた。
「ニューヨークの仕事を放り出して帰国しろと言うんだからよほど緊急事態なんだろうな?」
何かを言い淀んでいるような口ぶりに俺は声を荒げていた。
******
道明寺はまだローターが回転しているヘリコプターから飛び降りるとつくしを探して病院の中へと足を踏み入れていた。
その後ろを秘書の男が追いかけている。
「おい、牧野つくしの怪我は?酷いのか?」
仕立ての立派なスーツの下で肩で息をしながら彼は不安げな表情で病院関係者と思わる人間を見つけると手あたり次第に聞いていく。
「まきの・・つくし…さんですか?」
間のびしたようなその答えに言葉が荒らんでくる。
「そうだ、牧野つくしだ!ここに運ばれたはずだ!」
怒鳴られるように問われた女性は自分の目の前にある端末のキーを慌てて叩き始めた。
「まきの・・つくしさん・・・あ、ありました。牧野つくしさんですね?」
「何度も同じことを言わせるな!」
女性はごくっと唾を飲み込んで慌てて言った。
「そ、その方でしたら2階の整形外科の外来で治療をされてます!」
彼は目の前にあるエレベーターのボタンを何度も押していた。
「だめです!そのエレベーターは病院関係者専用です!一般の方は・・」
「ここは俺の病院だ!」
そう怒鳴った男の顔には絶対的権力があることが表れている。
そして彼はエレベーターに乗ると苛立たしげに2階のボタンを押していた。
処置室のリノリウムの床に据えられているベッドには誰もいなかった。
「おい北村、牧野は入院してるんだろ?部屋はどこだ?」
彼はぶっきらぼうに言った。
やっとの思いで追いついた秘書の男は息を切らせながら言ってきた。
「ま、牧野様は・・入院はなさらずに・・ご・・ご帰宅されたそうです」
「なんだと?担当した医者はどこの誰だ!今すぐ連れてこい!」
道明寺に怒鳴られた北村は慌てふためいて担当医を探しに行った。
激怒にかられ、本来の性格であるその激しさが抑えきれなかった。
8年たっても牧野のことに関しては抑えきれない感情があった。
現れたのは小柄で年配の女性医師だった。
道明寺はそんな女性を睨みつけている。
女性医師は彼の頭の先から足先までさっと見回した。
「道明寺さん、私が牧野さんの処置を担当した石田です。覚えていらっしゃいませんか?
昔あなたがよく喧嘩をして怪我をしてはお邸の方に連れられてこられていた時に治療を担当した者です」
「今はそんな話はどうでもいい。それよりどうして牧野を帰宅させた?」
彼はうなっていた。
「道明寺さん、ご心配なさらなくても大丈夫ですよ。腕を数針縫っただけです」
医師はため息をついていた。
「牧野は気を失ったそうじゃねえか!これから牧野を連れてくる。もっとしっかり調べろ!」
道明寺は噛みつくように言うと医師を押しのけて出て行った。
あいつのマンションまで普段なら1時間はかかるところを30分で走破していた。
運転手はかなりのスピードを出したか、信号無視をしたのかと思われるほどだった。
そして車がマンション前の縁石に寄せて止まると俺は飛び出して行った。

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そう喚いてきたのは秘書の男だった。
「北村か。なんでおまえプライベートの方にかけてくるんだよ」
「そんなの急いでいたからに決まっているじゃないですか!」
電話の向こうで慌てたような口ぶりで男の秘書は話している。
「俺のプライベートの携帯にかかってくる電話は牧野からの電話以外は出ないことにしてるんだよ」
まだかかってきた事はないけどな。
「支社長、帰国は三日後でしたよね?少し早くお帰りになることは出来ませんか?」
秘書の男は切迫した様子で話してきた。
「ニューヨークの仕事を放り出して帰国しろと言うんだからよほど緊急事態なんだろうな?」
何かを言い淀んでいるような口ぶりに俺は声を荒げていた。
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道明寺はまだローターが回転しているヘリコプターから飛び降りるとつくしを探して病院の中へと足を踏み入れていた。
その後ろを秘書の男が追いかけている。
「おい、牧野つくしの怪我は?酷いのか?」
仕立ての立派なスーツの下で肩で息をしながら彼は不安げな表情で病院関係者と思わる人間を見つけると手あたり次第に聞いていく。
「まきの・・つくし…さんですか?」
間のびしたようなその答えに言葉が荒らんでくる。
「そうだ、牧野つくしだ!ここに運ばれたはずだ!」
怒鳴られるように問われた女性は自分の目の前にある端末のキーを慌てて叩き始めた。
「まきの・・つくしさん・・・あ、ありました。牧野つくしさんですね?」
「何度も同じことを言わせるな!」
女性はごくっと唾を飲み込んで慌てて言った。
「そ、その方でしたら2階の整形外科の外来で治療をされてます!」
彼は目の前にあるエレベーターのボタンを何度も押していた。
「だめです!そのエレベーターは病院関係者専用です!一般の方は・・」
「ここは俺の病院だ!」
そう怒鳴った男の顔には絶対的権力があることが表れている。
そして彼はエレベーターに乗ると苛立たしげに2階のボタンを押していた。
処置室のリノリウムの床に据えられているベッドには誰もいなかった。
「おい北村、牧野は入院してるんだろ?部屋はどこだ?」
彼はぶっきらぼうに言った。
やっとの思いで追いついた秘書の男は息を切らせながら言ってきた。
「ま、牧野様は・・入院はなさらずに・・ご・・ご帰宅されたそうです」
「なんだと?担当した医者はどこの誰だ!今すぐ連れてこい!」
道明寺に怒鳴られた北村は慌てふためいて担当医を探しに行った。
激怒にかられ、本来の性格であるその激しさが抑えきれなかった。
8年たっても牧野のことに関しては抑えきれない感情があった。
現れたのは小柄で年配の女性医師だった。
道明寺はそんな女性を睨みつけている。
女性医師は彼の頭の先から足先までさっと見回した。
「道明寺さん、私が牧野さんの処置を担当した石田です。覚えていらっしゃいませんか?
昔あなたがよく喧嘩をして怪我をしてはお邸の方に連れられてこられていた時に治療を担当した者です」
「今はそんな話はどうでもいい。それよりどうして牧野を帰宅させた?」
彼はうなっていた。
「道明寺さん、ご心配なさらなくても大丈夫ですよ。腕を数針縫っただけです」
医師はため息をついていた。
「牧野は気を失ったそうじゃねえか!これから牧野を連れてくる。もっとしっかり調べろ!」
道明寺は噛みつくように言うと医師を押しのけて出て行った。
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