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2017
06.23

時計回りの風 2

午後の陽射しの中、長い坂道を上った。
あと少しで家に着く。
その道中考えていた。
2日前訪ねて来た西園寺恭介と名乗った青年の話を。





「東京に戻って来てくれませんか?」

晴れた午後に訪れた青年の言葉に心がざわめいた。

「この箱を持って現れた僕のことを誰だと思っていますよね?自己紹介が中途半端にならないうちにお話しておきます。僕の母は西園寺椿と言います。こう言えばもうお分かりですよね?・・道明寺司は僕の叔父にあたります。つまり僕は彼の甥です。僕がここに来たのは、あなたに叔父と会って欲しいからです」

答える言葉が見つからず、つくしはただ黙って話しを聞いていた。
玄関先でのこの話しは、いったいどこへと向かうのか。突然現れたあの人の甥と名乗る青年は、途切れることなく話を継いだ。

「突然現れた僕のこと疑ってますよね?僕が本当に椿の息子であるかどうか。・・でもあなたは簡単に人を信じると聞いてますからもう信じていますよね?・・それに僕は叔父に似てると言われることが多いんですよ?・・あなたもそう感じているのではないですか?」

青年の言葉は、少し前まで感じていた思いを確かなものに変化させていた。
道明寺椿の息子であり、あの人の甥。確かに似ている。そして過剰な自意識とまでは言わないが、青年は自分が叔父に似ていることを自負していると感じられた。それにしても、息子ではなく甥だというのに、こんなにも似てくるものだろうか。少し微笑んだように見える顔は、やはりあの人に似ている。屈託のない笑顔で笑っていたあの人に。

ふとしたはずみで男女の身体が入れ替わる。
そんな映画がこの街を舞台に作られたことがあったが、青年の姿は時空を超え、若い頃のあの人が目の前に現れたように感じられた。見れば見るほどあの人に見えてくる。目の前の青年があの人であるような錯覚を覚えてしまう。そしてあの人の匂いまで感じられるようだ。


もう何年前になるだろうか。
当時高校生だったつくしは、道明寺司と恋におちた。
まるで奇跡のようだと言われた二人の恋。
きっかけは、友人が彼に理不尽な言いがかりをつけられたことだ。
その瞬間スイッチが入った。何のスイッチかといえばそれは正義感。相手が誰であろうと関係なかった。それが学園を牛耳る男だったとしても。


道明寺財閥の一人息子と世間一般によくある家庭に育った少女の恋。
立場が違い過ぎるのは、はじめから分かっていた。だが、気持ちを抑えることは出来なかった。二人の前には、多くの困難が待ち受けていることは、分かっていた。よくある話しだが、立場が違い過ぎることが二人の仲を裂く。そんなこともあったが二人はそれを乗り越えた。

「もちろん牧野さんが会いたくないと仰るなら無理にとは言いません。ですが出来れば会って欲しいんです」


二人は確かに乗り越えた。立場の違いを。
そんな二人が求めたのは小さな幸福だった。だが相手が財閥の跡取り息子となると、そう簡単にはいかなかった。

人生が大きく動いたのは、26歳の時だ。
あの子と別れて欲しいの。そう言って来たのは彼の母親だ。その態度はどこか申し訳なさそうに、あなたからあの子にそう言って欲しいの。と言葉を継いだ。
財閥の経営が思わしくない。そう告げられ財閥のため、そこで働く従業員のため、選択しなければならない時が来たと言われた。
その先の話は聞きたくはなかったが、彼の母親は言った。

「息子が結婚することで、財閥の将来が救えるの。だから別れて欲しいの」




彼に別ればなしをするのは二度目だ。
一度目は高校生の頃。まだ二人が幼く、自分たちのことだけを考えていればよかったと思える世間に対する甘さがあった頃。だがそれでも、自分たちの周りの人間に迷惑をかけることは避けたいと、それなりの努力はしたつもりだった。
だから、あの頃の別れは仕方のない選択だったはずだ。

そして二度目の別れは、一度目よりもっと辛かった。
彼に嫌ってもらう別れ方をするために、再び演技をしなければならなかったからだ。

メープルの1階にあるコーヒーラウンジで待ち合わせをし、別れて欲しいと告げた。
普段から忙しい彼は、日本にいることが少なかった。その間に好きな人が出来た。
他に好きな人が出来た。あなたと付き合いながらその人とも付き合っていたと告げた。
だが、そんな言葉で簡単に納得する人ではなかった。それは既に一度経験した嘘と同じだと感じたのだろう。あの雨の日の別れ『あんたを好きならこんな風に出て行かない』と言った言葉が嘘だと知ったのと同じように。

あの時、さよならと呟いて席を立ちラウンジを出た。そしてすぐさまトイレに駆け込み、蓋を閉めた便器に腰をおろし泣いた。何故、男をふった女が泣かなければならないのか。そう思ったが、涙が後から後から溢れ止まらず、30分近くそのまま泣き続けていた。



「牧野さんと叔父が付き合っていたことは母から聞いています。・・今更だと思われるかもしれませんが分かっています。二人が別れた事情については母から聞かされましたから。それもこれも財閥のごたごたが原因だったということも。そしてそんな中、牧野さんが選んだ道も」


選択しなくてはいけなかったのは、彼の方だったのかもしれない。
だが彼の人生で選択出来るものは少なかった。そんな中にいたつくしは、その選択肢の中から姿を消すことを選び、暫く海外で暮らした。
そして、彼もどこか思うことがあったのだろう。社会に出れば、人生が自分ひとりのものではないと、理解できるようになっていた。ただ若さだけで突っ走る勢いといったものは、年月と共に失われていってしまったのかもしれなかった。
お互いに大人の選択をしたあの日。それからは、わき目もふらず生きてきた。
そしていずれ別れたあの日のことは、忘れて行くだけのはずだった。


「それから今の叔父は一人ですから。・・ご存知だと思いますが2年前に離婚しました。それからです。帰国したのは」


つくしが東京を離れると決めたのは2年前。
道明寺司がNYから帰国すると聞いたからだ。
同じ街にいれば、聞こえて来ることもある。耳にしたくないこともある。
だから遠く離れたこの街での仕事を希望した。ここなら東京の噂が耳に入ることはない。

地方紙の新聞はこの街の日常を伝えるが、遠い街で暮らす男の動向を伝えることはない。
だがふと、思い出すこともあった。
聞えて来る音が、時にあの人の事を伝えて来た。テレビのニュースで流れる経済ニュースは、嫌でもあの人のことを思い出させる。その名前を聞くたび胸を過る思いがあった。だが、胸の扉を開くことはしなかった。
もうあの人とは、別れたのだ。
二度と会うつもりはないと。
そう心に決めていた。





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コメント
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dot 2017.06.23 08:03 | 編集
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dot 2017.06.23 09:03 | 編集
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dot 2017.06.23 09:39 | 編集
ふぁい***んママ様
おはようございます^^
つくしが尾道に!それはやはり司が関係していました。
つくしは彼に会うつもりはありません、と、思うのですが彼の甥の真意は?
そしてつくしを叔父に会わせることが出来るのでしょうか・・。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.06.23 22:50 | 編集
H*様
おはようございます^^
司とつくしの別ればなしは切ないですねぇ。
こちらのお話しはシリアス度高めですが、短いお話しです。
大人になり、別れた二人のその後ですが色々とあったようです。
もう少しだけお付き合い下さいませ。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.06.23 22:58 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
甥でも親子のように似ている。
そんな人たちを知っています。
2年前に帰国した彼は、どうしているのでしょう。
そして西園寺恭介は何故現れたのでしょう。
嫌な予感・・・(笑)

長崎も坂の街ですね?どちらも訪問しましたが、今回は尾道です。
毎日坂を上れば足腰が鍛えられそうですね?つくしちゃんも脚が鍛えられていることでしょう!(笑)
さて、甥である西園寺恭介はつくしを叔父に会わせることが出来るのでしょうか。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.06.23 23:03 | 編集
pi**mix様
西園寺恭介。椿の息子でした。
司出て来い!←(笑)彼は今何をしているのでしょうか。
26歳まで付き合った男と別れる女。哀しい嘘をついて別れました。
つくしが司を嫌いになる。他の男を好きになる。そんなことは無いはずです。
西園寺くんは誰に頼まれて来たのか?それとも自らの意志なのか。
司は離婚してるよ~とお土産つきですねぇ。(笑)
>三文字苗字は気品がある・・
確かに坊っちゃんのお名前も気品が感じられます。
そしてpi**mix様の同級生の方には、珍しいお名前の方もいらっしゃったんですね?
なかなか難しいお名前で一度聞いただけでは、覚えられそうにないお名前ですね?
しかし、やはり三文字苗字には何故か気品が感じられます。
本日も楽しいコメント、有難うございました^^
アカシアdot 2017.06.23 23:11 | 編集
す**様
こんにちは^^
坂の街。そして映画の街として有名な街がつくしの逃げた先でした(笑)
現地で尾道ラーメンを食べましたが、何故天かすが浮かんでいるのかと思えば、それは豚の背脂でした(笑)
なかなか美味しかったです。
猫。確かに多かったです。桜の季節ではなかったのですが、いい所ですね。
つくしもそんな街で2年暮らしました。
さて、司の甥は彼女を叔父に会わせることが出来るのでしょうか。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.06.23 23:21 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.06.24 01:57 | 編集
マ**チ様
おはようございます^^
あの街にいるつくし。そして司が誰かと入れ替わっている。残念ながらそれはありませんでした。

なんと!デ*ちゃん!本当に酷い夫だったんですね?
浮氣でもしたのか?と思っていたのですが、妻にその態度‼
でも本当に超絶イケメンだったんですね?そして彼が恋した先住犬はアカシアも飼っていました。
愛くるしいお顔だったんです。そして彼もイケメンと言われていました。
しかしデ*ちゃん・・奥さんは夫が倒れた後も彼を思いやる気持ちを持ち接していたようですが、彼は最期まで彼女を拒否していたようですね。
そしてデ*ちゃんは謎の多い犬。好きと嫌いがその時々の気分で変わるのかもしれませんね?
無機質な物に対し吠える!その会社の区別がどうして出来るのか?分かるんでしょうねぇ(笑)
スッ**ちゃんは古風な昭和の女性。どんな夫だろうが操を捧げた男は彼ひとり。といった感じで傍にいたんでしょうねぇ・・。
そして今も彼の傍にいる・・。デ*ちゃん来世での犬生では、もう少し優しいイケメンでスッ**ちゃんを愛して欲しいですね。
花金の夜は、日付が変わるまでなんとかでしたが、それからあっという間に眠りに落ちてしましました(笑)
そして清々しい土曜の朝を迎えたところです(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.06.24 06:37 | 編集
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