太陽は地球の裏側が月に照らされていることを知っているのか。
いや知らないはずだ。太陽と月が同じ空に見えることはないのだから。
だが、全てを照らす太陽が地に沈むと入れ替わりに月が顔を出す。それが世の中の常識だ。
そしてどんなに夜が深く暗くとも、明けない夜はない。夜明けは必ず来る。
それは、時は常に流れ止まることはないのと同じこと。
時代は移り変わることが当然で、変わらぬ何かを求めることは出来はしない。
そして人生は良い時と悪い時がある。
それは、うたかたの夢として自分の身に降りかかるものなのかもしれない。
なぜなら、人生の最期は帳尻が合うようになっているからだ。人は人生という夢を見ている。いや見せられているのかもしれない。そしてこの世がうたかたの夢だとすれば、人生を終えるとき、いったい何を思うのか。最期の瞬間、走馬灯のように頭の中を駆け巡る思いは、景色は何なのか。
一人の人間の人生が終わった。
道明寺貴が世田谷の邸で倒れ亡くなった。
それは叙勲授賞祝賀パーティーが行われた翌日の午後だった。
道明寺財閥のかつての当主であり、道明寺HD前会長である貴の訃報を伝える新聞は、日本経済の発展に寄与したと国から名誉ある勲章を賜った男の突然の死を写真入りで報じ、彼の栄誉を称えた。
経済界の巨星堕つ、と。
まだ60代前半の死は、長寿社会である日本では随分と早いが、死因は急性心筋梗塞と伝えられた。
貴は普段、コレステロール値は気にしていたが、酒も煙草も止めることはなく、亡くなったその時も、手から落ちたグラスの破片が足元に散らばっていた。
楓の前で倒れた貴。
すぐに医者を呼び心肺蘇生を行ったが間に合わなかった。それから真っ先に知らされたのは椿と司だ。二人共その知らせに息を呑んだ。だが楓の声が静かで落ち着いていたこともあっただろうが、姉も弟も冷静さを崩すことはなかった。
だが遺体と対面した椿は涙を流し、父親の死を悲しんだ。しかし司が涙を流すことはなかった。
妻の腕の中で厳かに訪れたであろう貴の死。
楓はそのとき貴の最期の言葉を耳にしたはずだ。
夫婦の間でいったい何が語られたのか。何か言葉が交わされたとしても、その言葉が楓の口から子供達に伝えられることはなかった。
そしてその訃報を聞いたつくしは、複雑な思いを抱えていた。
人生の終わりを迎えた司の父親と分かり合えることはなかった。
つくしは静かに目を閉じ、胸の中で静かに故人の冥福を祈ることしか出来なかった。
司はそんなつくしの胸中を察した。
彼女とまともに口を利く事もなく逝ってしまった父親の心は、最後まで変わることがなかったが、過去に何があったとしても、それは全て過ぎ去ったこととし、忘れてもらいたいと願う。
川の流れが海に向かって流れ、戻ることがないのと同じように、時の流れも戻ることはない。
記憶の中にある多くの思い出も川の流れのように流れ、記憶の大海へと注がれ薄れ、そして海の広さに飲み込まれていく。誰しもそうだが、いつか無くなる記憶もある。過去、彼女の身に起こったことは、彼女の持つ割り切りの早さと、迷いのなさで記憶の彼方へと連れ去ってくれることを望んだ。
「しかし突然だったな。司の親父さん。司にしてみりゃ親だが不俱戴天の敵って男だった訳だよな。その敵が突然目の前から消えたってことだが・・・だけど父親なんだよな・・」
黒いネクタイを締めた男たちが大勢いる葬儀会場のなか、あきらは祭壇に飾られた遺影と、恭しく飾られた勲章に目をやった。額に入れられた勲章は貴の生涯で最高の誉だ。
その授賞祝賀パーティーの翌日に急逝した男は、どんな思いで逝ったのか。
「ああ・・あいつの父親であることは間違いない。それに道明寺っていう一大帝国を確固たるものに築き上げたのは、あの親父さんだ。それを息子に引き渡すことがあの人の使命みたいなもんだったろ?その夢は叶えられたんだから良かったんじゃねぇの?」
総二郎の言葉は、まさにその通りだ。
通夜と密葬を経てこれから執り行われる本葬は、道明寺HDの社葬だ。
かつて道明寺財閥という巨大な組織を束ねていた男に相応しく、政財界から大物が多数弔問に訪れていた。それは奇しくも叙勲授賞祝賀パーティーに参加していた人間と同じ顔ぶれだ。
そして通夜には、外遊から帰国したばかりの総理が姿を現し、貴の早すぎる死を悼んだほどだ。
「まあそうだな。司の親父さんはある意味道明寺って家のために生きた男だな」
道明寺貴は、亡くなる間際まで彼らしい姿勢を崩さなかったと言われている。
妻の楓の腕の中で最期を迎えたと聞いたが、身なりは整い、苦しむ苦しまないに関係なく、穏やかな顔だったと聞いた。
「それより司の母親は?いくら赤の他人に近い夫だったとしても哀しんでるはずだよ」
類は密葬で楓と目礼を交わしていたが、その時の楓の表情はどこか憂いを感じさせた。
だが喪服に身を包んだ女性は、すぐにいつもの凛とした姿に戻ると、焼香に訪れる弔問客からの悔やみの言葉に礼を述べていた。
「ああそうだよな・・。いくら鉄の女だとしても、自分の夫が亡くなったんだ。それも自分の目の前で倒れたんだから気も動転しただろうな・・」
司の親友である3人の男たちの思いは複雑だった。
だがたとえ道明寺貴がどんな人物だったとしても、故人を悪く言わないことが礼儀だ。そして自分の父親だった男の葬儀を執り行う葬儀委員長となった男のことを思えば、過去は過去として葬り去ることが正しいと言えるのかもしれない。
全てを水に流す。
それは日本人独特の物の考え方。海外ではそういった考え方はない。
だがそれでいいのかもしれない。過去を捨て、前を向いて歩いていく。それは司と牧野つくしが選択した未来のはずだ。
かつて司は葬儀に赤いバラが飾られていてもいいはずだと思ったことがあった。
だが、だからといって自分の父親の葬儀の祭壇に赤いバラを飾ろうとは思わなかった。
祭壇を飾るのは、純白の大輪の花を咲かせるユリの女王と評されるカサブランカだ。
誇り高い美しさと威厳を見せるその花は、貴に相応しい花なのかもしれない。
納棺のとき、家族は故人が好きだったもの、気に入っていたものを収めるが、楓は横たわる貴の胸元へ封筒をそっと置いていた。
中には子供たちがまだ幼かったころ、家族で写した一枚の写真が入っていた。司はその写真を目にしたことが無かった。写っていたのは赤ん坊の自分と姉の姿。そして自分を抱く父親の姿があった。
生前の貴は、その写真をかつての執務室の自分だけが目にする場所に置いていた。
それは重厚な黒檀のデスクの鍵の掛かった引き出しの中、そしてその奥にある隠し引き出しの中だ。
楓がその存在に気付いたのは貴が亡くなってからだ。
いつも夫が引き出しに鍵をかけてあることは知っていたが、ビジネスに関わるものならそれは当然のことだと思っていた。
重要な書類が収められている。そう思っていた。だが違った。夫が革の椅子に座り、重厚なデスクに向かい、鍵のかかった引き出しの、そのまだ奥にある引き出しの中から取り出していたのは数少ない家族写真。その写真を時おり取り出し眺めていたのだろう。
アメリカ生活の長い人間なら、職場にも家族の写真を持ち込み、飾ることは当然のこと。
だが、貴の執務室にそんな写真は一枚も見当たらなかった。
貴という男も若い頃は家族のことを考えていた。
だが、どこかで歯車が狂ってしまった。
父親から引き継いだ財閥のため、道明寺という会社のため、そればかりを考え始めたとき、それまで持っていた人間らしさが失われてしまった。
そして彼は息子である司の初恋を踏みにじった。
人には器(うつわ)と言ったものがある。
貴には財閥の総帥としての器はあった。
だがその器に人間らしさといったものは無かった。
貴が亡くなり、それまで役員に名を連ねていた連中は全員道明寺を去ることになった。
それは司によって退任に追い込まれたと言った方が正しいだろう。
道明寺という会社の体質を改善するため。今までのやり方を変えるため。そして彼自身も変わりたいと考えている。変わることで会社の収益が低下しても構わなかった。
金が全てといった拝金主義の申し子と呼ばれた男の10年は虚無な世界だったのだから。
貴が地獄へ旅立つのか。それとも天国へ旅立つのか。
弔問客の焼香は途切れることなく続いているが、果たしてその中の何人が本当に貴の死を悲しんでいるのか。どちらにしてもその旅立ちを見送りたいという人間の多さは、表面上の礼儀だとしてもいいではないか。人は死んだときその人の価値が分かると言われている。もしそうなら、これだけ大勢の人間が弔問に訪れるということが、貴という男も日本経済の発展に寄与したことだけは間違いないようだ。名誉を手に大勢の弔問客を祭壇の上から見下ろす貴の遺影は、それだけでも満足のはずだ。
それに死人に口なしだ。今、この場に誰が居ようが、何を言おうが貴の耳に届くことはない。もし仮に届いたとしても、何も言い返すことは出来ない。
司は葬儀委員長として祭壇の前で弔辞を述べだが、それは父親に対してではなく、道明寺HD前会長に対しての労いの言葉。個人的な感情を一切抜きにし、社に発展のため尽くした男への感謝の言葉であり、経営に関しての言葉だけだった。それは全てに対し、強靭であったと言われる経営者としての貴への称賛であり、今後社業発展のため、力を尽くすといった社長としての気持ちを述べるに留まった。
司は挨拶を終え、最前列の席に戻った。
そして、暫くして最後の別れを済ませた親族たちと火葬場へ向かう霊柩車の助手席に乗り込むため、葬儀会場を出ようとした。
これから向かうのは永遠の別れとなる場所。
形あるものも、最後は全てが土に戻ることを示す場所。
そこは遥か天界へと続くのか。それとも地獄へと続く道の入口なのか。
命が尽きた者は、必ずどちらかの道を辿る旅に出るため現世に永遠の別れを告げる場所だ。
貴の寿命は尽きた。天寿を全うした。今、司が思うのはそのことだけだった。
そのとき、暗い顔をしたどこかで見たことがあるような男が、ゆっくりと司の方へ向かって歩いて来た。

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いや知らないはずだ。太陽と月が同じ空に見えることはないのだから。
だが、全てを照らす太陽が地に沈むと入れ替わりに月が顔を出す。それが世の中の常識だ。
そしてどんなに夜が深く暗くとも、明けない夜はない。夜明けは必ず来る。
それは、時は常に流れ止まることはないのと同じこと。
時代は移り変わることが当然で、変わらぬ何かを求めることは出来はしない。
そして人生は良い時と悪い時がある。
それは、うたかたの夢として自分の身に降りかかるものなのかもしれない。
なぜなら、人生の最期は帳尻が合うようになっているからだ。人は人生という夢を見ている。いや見せられているのかもしれない。そしてこの世がうたかたの夢だとすれば、人生を終えるとき、いったい何を思うのか。最期の瞬間、走馬灯のように頭の中を駆け巡る思いは、景色は何なのか。
一人の人間の人生が終わった。
道明寺貴が世田谷の邸で倒れ亡くなった。
それは叙勲授賞祝賀パーティーが行われた翌日の午後だった。
道明寺財閥のかつての当主であり、道明寺HD前会長である貴の訃報を伝える新聞は、日本経済の発展に寄与したと国から名誉ある勲章を賜った男の突然の死を写真入りで報じ、彼の栄誉を称えた。
経済界の巨星堕つ、と。
まだ60代前半の死は、長寿社会である日本では随分と早いが、死因は急性心筋梗塞と伝えられた。
貴は普段、コレステロール値は気にしていたが、酒も煙草も止めることはなく、亡くなったその時も、手から落ちたグラスの破片が足元に散らばっていた。
楓の前で倒れた貴。
すぐに医者を呼び心肺蘇生を行ったが間に合わなかった。それから真っ先に知らされたのは椿と司だ。二人共その知らせに息を呑んだ。だが楓の声が静かで落ち着いていたこともあっただろうが、姉も弟も冷静さを崩すことはなかった。
だが遺体と対面した椿は涙を流し、父親の死を悲しんだ。しかし司が涙を流すことはなかった。
妻の腕の中で厳かに訪れたであろう貴の死。
楓はそのとき貴の最期の言葉を耳にしたはずだ。
夫婦の間でいったい何が語られたのか。何か言葉が交わされたとしても、その言葉が楓の口から子供達に伝えられることはなかった。
そしてその訃報を聞いたつくしは、複雑な思いを抱えていた。
人生の終わりを迎えた司の父親と分かり合えることはなかった。
つくしは静かに目を閉じ、胸の中で静かに故人の冥福を祈ることしか出来なかった。
司はそんなつくしの胸中を察した。
彼女とまともに口を利く事もなく逝ってしまった父親の心は、最後まで変わることがなかったが、過去に何があったとしても、それは全て過ぎ去ったこととし、忘れてもらいたいと願う。
川の流れが海に向かって流れ、戻ることがないのと同じように、時の流れも戻ることはない。
記憶の中にある多くの思い出も川の流れのように流れ、記憶の大海へと注がれ薄れ、そして海の広さに飲み込まれていく。誰しもそうだが、いつか無くなる記憶もある。過去、彼女の身に起こったことは、彼女の持つ割り切りの早さと、迷いのなさで記憶の彼方へと連れ去ってくれることを望んだ。
「しかし突然だったな。司の親父さん。司にしてみりゃ親だが不俱戴天の敵って男だった訳だよな。その敵が突然目の前から消えたってことだが・・・だけど父親なんだよな・・」
黒いネクタイを締めた男たちが大勢いる葬儀会場のなか、あきらは祭壇に飾られた遺影と、恭しく飾られた勲章に目をやった。額に入れられた勲章は貴の生涯で最高の誉だ。
その授賞祝賀パーティーの翌日に急逝した男は、どんな思いで逝ったのか。
「ああ・・あいつの父親であることは間違いない。それに道明寺っていう一大帝国を確固たるものに築き上げたのは、あの親父さんだ。それを息子に引き渡すことがあの人の使命みたいなもんだったろ?その夢は叶えられたんだから良かったんじゃねぇの?」
総二郎の言葉は、まさにその通りだ。
通夜と密葬を経てこれから執り行われる本葬は、道明寺HDの社葬だ。
かつて道明寺財閥という巨大な組織を束ねていた男に相応しく、政財界から大物が多数弔問に訪れていた。それは奇しくも叙勲授賞祝賀パーティーに参加していた人間と同じ顔ぶれだ。
そして通夜には、外遊から帰国したばかりの総理が姿を現し、貴の早すぎる死を悼んだほどだ。
「まあそうだな。司の親父さんはある意味道明寺って家のために生きた男だな」
道明寺貴は、亡くなる間際まで彼らしい姿勢を崩さなかったと言われている。
妻の楓の腕の中で最期を迎えたと聞いたが、身なりは整い、苦しむ苦しまないに関係なく、穏やかな顔だったと聞いた。
「それより司の母親は?いくら赤の他人に近い夫だったとしても哀しんでるはずだよ」
類は密葬で楓と目礼を交わしていたが、その時の楓の表情はどこか憂いを感じさせた。
だが喪服に身を包んだ女性は、すぐにいつもの凛とした姿に戻ると、焼香に訪れる弔問客からの悔やみの言葉に礼を述べていた。
「ああそうだよな・・。いくら鉄の女だとしても、自分の夫が亡くなったんだ。それも自分の目の前で倒れたんだから気も動転しただろうな・・」
司の親友である3人の男たちの思いは複雑だった。
だがたとえ道明寺貴がどんな人物だったとしても、故人を悪く言わないことが礼儀だ。そして自分の父親だった男の葬儀を執り行う葬儀委員長となった男のことを思えば、過去は過去として葬り去ることが正しいと言えるのかもしれない。
全てを水に流す。
それは日本人独特の物の考え方。海外ではそういった考え方はない。
だがそれでいいのかもしれない。過去を捨て、前を向いて歩いていく。それは司と牧野つくしが選択した未来のはずだ。
かつて司は葬儀に赤いバラが飾られていてもいいはずだと思ったことがあった。
だが、だからといって自分の父親の葬儀の祭壇に赤いバラを飾ろうとは思わなかった。
祭壇を飾るのは、純白の大輪の花を咲かせるユリの女王と評されるカサブランカだ。
誇り高い美しさと威厳を見せるその花は、貴に相応しい花なのかもしれない。
納棺のとき、家族は故人が好きだったもの、気に入っていたものを収めるが、楓は横たわる貴の胸元へ封筒をそっと置いていた。
中には子供たちがまだ幼かったころ、家族で写した一枚の写真が入っていた。司はその写真を目にしたことが無かった。写っていたのは赤ん坊の自分と姉の姿。そして自分を抱く父親の姿があった。
生前の貴は、その写真をかつての執務室の自分だけが目にする場所に置いていた。
それは重厚な黒檀のデスクの鍵の掛かった引き出しの中、そしてその奥にある隠し引き出しの中だ。
楓がその存在に気付いたのは貴が亡くなってからだ。
いつも夫が引き出しに鍵をかけてあることは知っていたが、ビジネスに関わるものならそれは当然のことだと思っていた。
重要な書類が収められている。そう思っていた。だが違った。夫が革の椅子に座り、重厚なデスクに向かい、鍵のかかった引き出しの、そのまだ奥にある引き出しの中から取り出していたのは数少ない家族写真。その写真を時おり取り出し眺めていたのだろう。
アメリカ生活の長い人間なら、職場にも家族の写真を持ち込み、飾ることは当然のこと。
だが、貴の執務室にそんな写真は一枚も見当たらなかった。
貴という男も若い頃は家族のことを考えていた。
だが、どこかで歯車が狂ってしまった。
父親から引き継いだ財閥のため、道明寺という会社のため、そればかりを考え始めたとき、それまで持っていた人間らしさが失われてしまった。
そして彼は息子である司の初恋を踏みにじった。
人には器(うつわ)と言ったものがある。
貴には財閥の総帥としての器はあった。
だがその器に人間らしさといったものは無かった。
貴が亡くなり、それまで役員に名を連ねていた連中は全員道明寺を去ることになった。
それは司によって退任に追い込まれたと言った方が正しいだろう。
道明寺という会社の体質を改善するため。今までのやり方を変えるため。そして彼自身も変わりたいと考えている。変わることで会社の収益が低下しても構わなかった。
金が全てといった拝金主義の申し子と呼ばれた男の10年は虚無な世界だったのだから。
貴が地獄へ旅立つのか。それとも天国へ旅立つのか。
弔問客の焼香は途切れることなく続いているが、果たしてその中の何人が本当に貴の死を悲しんでいるのか。どちらにしてもその旅立ちを見送りたいという人間の多さは、表面上の礼儀だとしてもいいではないか。人は死んだときその人の価値が分かると言われている。もしそうなら、これだけ大勢の人間が弔問に訪れるということが、貴という男も日本経済の発展に寄与したことだけは間違いないようだ。名誉を手に大勢の弔問客を祭壇の上から見下ろす貴の遺影は、それだけでも満足のはずだ。
それに死人に口なしだ。今、この場に誰が居ようが、何を言おうが貴の耳に届くことはない。もし仮に届いたとしても、何も言い返すことは出来ない。
司は葬儀委員長として祭壇の前で弔辞を述べだが、それは父親に対してではなく、道明寺HD前会長に対しての労いの言葉。個人的な感情を一切抜きにし、社に発展のため尽くした男への感謝の言葉であり、経営に関しての言葉だけだった。それは全てに対し、強靭であったと言われる経営者としての貴への称賛であり、今後社業発展のため、力を尽くすといった社長としての気持ちを述べるに留まった。
司は挨拶を終え、最前列の席に戻った。
そして、暫くして最後の別れを済ませた親族たちと火葬場へ向かう霊柩車の助手席に乗り込むため、葬儀会場を出ようとした。
これから向かうのは永遠の別れとなる場所。
形あるものも、最後は全てが土に戻ることを示す場所。
そこは遥か天界へと続くのか。それとも地獄へと続く道の入口なのか。
命が尽きた者は、必ずどちらかの道を辿る旅に出るため現世に永遠の別れを告げる場所だ。
貴の寿命は尽きた。天寿を全うした。今、司が思うのはそのことだけだった。
そのとき、暗い顔をしたどこかで見たことがあるような男が、ゆっくりと司の方へ向かって歩いて来た。

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Fu**e様
おはようございます^^
衝撃的な展開となりました。
楓さんは夫を説得出来ないと分かった後、貴が倒れたことにより、あのような選択をしました。
楓さんにとって夫と子供のどちらが大切か。そう考えたとき、子供と親子でいることを選択しました。
それでも、夫に対し全く愛がなかった訳ではないと思います。
たとえ道明寺夫妻のような関係だとしても、楓さんの心にあったのは、夫を思いやる心だったような気もします。何しろ咄嗟の判断・・その時の心の動きは複雑だったことでしょう。
Fu**e様もご不幸があったのですね?お悔やみ申し上げます。命は限りあるものです。その中で精一杯生きることが、その人の人生の価値を高めてくれるような気がします。毎日を一生懸命生きたいものです。
教えて下さったお話。とても素敵ですね。やはり楓さんは凛とした美しさを持つ女性だと感じました。
原作ではあんな感じ(笑)ですが、つくしと分かり合えたとき、その潔さが際立つような気がします。
「いつか晴れた日に」が一番お好きですか?どうも有難うございます^^
勿論、コメントをお寄せいただいたことも覚えています。その節は有難うございました。
そして長文コメントOKです(笑)こちらこそ、どうぞ宜しくお願い致します。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
衝撃的な展開となりました。
楓さんは夫を説得出来ないと分かった後、貴が倒れたことにより、あのような選択をしました。
楓さんにとって夫と子供のどちらが大切か。そう考えたとき、子供と親子でいることを選択しました。
それでも、夫に対し全く愛がなかった訳ではないと思います。
たとえ道明寺夫妻のような関係だとしても、楓さんの心にあったのは、夫を思いやる心だったような気もします。何しろ咄嗟の判断・・その時の心の動きは複雑だったことでしょう。
Fu**e様もご不幸があったのですね?お悔やみ申し上げます。命は限りあるものです。その中で精一杯生きることが、その人の人生の価値を高めてくれるような気がします。毎日を一生懸命生きたいものです。
教えて下さったお話。とても素敵ですね。やはり楓さんは凛とした美しさを持つ女性だと感じました。
原作ではあんな感じ(笑)ですが、つくしと分かり合えたとき、その潔さが際立つような気がします。
「いつか晴れた日に」が一番お好きですか?どうも有難うございます^^
勿論、コメントをお寄せいただいたことも覚えています。その節は有難うございました。
そして長文コメントOKです(笑)こちらこそ、どうぞ宜しくお願い致します。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.06.14 22:52 | 編集

ま**ん様
> こ、怖いですっ!
危険信号が鳴り続けていますか?
そうなんです。何やら不穏な空気が漂っています。
どうしましょう!
大変なことにならなければいいのですが・・。
色々とあると思いますが、もう少しだけお付き合い下さいませ。
コメント有難うございました^^
> こ、怖いですっ!
危険信号が鳴り続けていますか?
そうなんです。何やら不穏な空気が漂っています。
どうしましょう!
大変なことにならなければいいのですが・・。
色々とあると思いますが、もう少しだけお付き合い下さいませ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.06.14 22:59 | 編集

チ**ム様
こんにちは^^
貴パパ、逝ってしまわれました。火宅を離れてしまわれました。
そして立派な社葬で送られる貴パパです。
どんな人生だったのかを考えたとき、やはりビジネスに生きた男だった。
ただ息子に対する思いは歪んでいました。
こちらのお話しの雰囲気、何か起きそうな雰囲気がしますか?
そうですね・・起こりそうです。
お昼休み。短いですよね?あっという間に終わりますよね?
沢山息抜きして下さいね。
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
貴パパ、逝ってしまわれました。火宅を離れてしまわれました。
そして立派な社葬で送られる貴パパです。
どんな人生だったのかを考えたとき、やはりビジネスに生きた男だった。
ただ息子に対する思いは歪んでいました。
こちらのお話しの雰囲気、何か起きそうな雰囲気がしますか?
そうですね・・起こりそうです。
お昼休み。短いですよね?あっという間に終わりますよね?
沢山息抜きして下さいね。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.06.14 23:11 | 編集

司×**OVE様
こんにちは^^
貴さんの葬儀も滞りなく・・・。←意味深です。
貴さんの持っていた家族写真は、赤ん坊の司を抱く姿の自分です。
家業を受け継ぎ、色々なことを考えて行くうちに、人格や考え方も変わってしまったのかもしれませんね?
今の司は、父親が亡くなったことで感情が揺れ動くことは、なさそうです。
つくしちゃんは、一度は貴さんと、きちんと話しをしたかったのではないでしょうか?
楓さんは多くを語りません。そこが楓さんです。
最後に出て来た男性・・・。
続きをどうぞ!!
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
貴さんの葬儀も滞りなく・・・。←意味深です。
貴さんの持っていた家族写真は、赤ん坊の司を抱く姿の自分です。
家業を受け継ぎ、色々なことを考えて行くうちに、人格や考え方も変わってしまったのかもしれませんね?
今の司は、父親が亡くなったことで感情が揺れ動くことは、なさそうです。
つくしちゃんは、一度は貴さんと、きちんと話しをしたかったのではないでしょうか?
楓さんは多くを語りません。そこが楓さんです。
最後に出て来た男性・・・。
続きをどうぞ!!
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.06.14 23:20 | 編集

さと**ん様
誰でしょう?
えっ?ゴルゴ?|д゚)
ライフルぶっ放しに来た?
まさか!え?誰?
・・続きで明らかになると思います!
コメント有難うございました^^
誰でしょう?
えっ?ゴルゴ?|д゚)
ライフルぶっ放しに来た?
まさか!え?誰?
・・続きで明らかになると思います!
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.06.14 23:24 | 編集

このコメントは管理者の承認待ちです

pi**mix様
家族写真。貴さん一人になった時に取り出し、眺めていたんですね?
どんな気持ちだったのでしょうか・・。そこには家族に対する何らかの想いがあったと思いたいです。
司はその写真の話にどんな反応を示したのか。今は何も思わなくとも、いずれ思う日が来るのではないでしょうか。
貴さんの葬儀に参加して来たんですか?(笑)そしてヤバい奴な雰囲気を纏っている訪問者を見たんですね?
いかがでした?アカシアも何か不穏な空気を感じました。
坊ちゃん逃げて!!あ、もう間に合わない?
コメント有難うございました^^
家族写真。貴さん一人になった時に取り出し、眺めていたんですね?
どんな気持ちだったのでしょうか・・。そこには家族に対する何らかの想いがあったと思いたいです。
司はその写真の話にどんな反応を示したのか。今は何も思わなくとも、いずれ思う日が来るのではないでしょうか。
貴さんの葬儀に参加して来たんですか?(笑)そしてヤバい奴な雰囲気を纏っている訪問者を見たんですね?
いかがでした?アカシアも何か不穏な空気を感じました。
坊ちゃん逃げて!!あ、もう間に合わない?
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.06.15 21:48 | 編集
