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2017
06.07

Collector 70

Category: Collector(完)
最新流行のドレスを身に纏った年上の女性は、いつも飾り気のない言葉でつくしに語りかけてくれていた。高慢でもなく、自惚れることもない司の姉である椿は、出会った頃にはすでに結婚してロサンゼルスに住んでいたが、帰国した際つくしのことを気に入り、彼女が弟と結婚して自分の妹になることを望んでいた。

椿は道明寺家の長女として生まれたが、男性的な面もあり、普通の女性の範疇をはるかに超えた人物だった。英徳学園在学中からその美貌は有名で、知性も豊だと言われていた。そして不在がちな両親に代わって弟を教育してきた。

そんな女性の結婚した相手は、親によって決められた相手。
早くから自分にふさわしい恋人を選ぶことは許されないことを理解した椿は、弟の司から見れば親の言いなりになったと感じていた。

操り人形のように親に操られる人生は嫌だ。
椿もそんなことを考えたこともあったはずだ。それでも今は幸せだと言う。決められた結婚ではあったが、運がいいとしかいえなかった。

そんな姉は冷淡な母親とは違い、愛情深く、温かい心を持つ女性だった。
世田谷の邸の中、姉と老婆だけが司の心を理解してくれた。そして両親が与えてくれるべき愛情を、優しさを、慈しみを与えてくれたのは、姉である椿だ。
それは、つくしと別れ荒んだ人生を歩むようになってからも変わることなく、弟がどれほど愚かであったとしても、決して見放すことはなかった。

そしてそんな姉は、弟から牧野つくしと結婚するつもりだと聞かされ、我が事のように喜んだ。

「つくしちゃん!本当にあなた司と結婚してくれるの?」

周囲の目も気にせず抱きついていた椿は、苦しそうに息を喘がせるつくしを放し、それでも両手を嬉しそうに掴み、黒い瞳を輝かせていた。

「お、お姉さん、あの・・」

「なに?違うの?また司の思い込みなの?この子が一人勝手に言ってるだけなの?ごめんねつくしちゃん。相変らずこの子は何でも勝手に決めちゃって。つくしちゃんがいいって言ってないのに結婚するだなんてあの頃と同じね?司はいつもそう。あの頃だってつくしちゃん欲しさに寝込みを襲ったこともあったわよね?」

語尾まで明瞭で、はっきりと話す椿は、つくしの返事など待たず喋りだしていた。
それは他人の話を聞かず、思い立ったら即行動だったあの頃の椿そのままだ。
そして懐かしそうに過去を振り返っていた。司がつくしをベッドに押し倒したところを目撃したことがあったが、あれは笑い話で済んだ。だが大人になった弟が、自分に相応しいはずの女性を傷つけていることを知ったとき、いったい何が起こっているのかと思わずにはいられなかった。

弟にとって牧野つくしの存在が、人生の全てであると知っていた。だが傷付き、憎しみだけを彼女に向けている弟の心も理解出来るだけに、椿も心を痛めた。
そして傷つけた女性は、弟が一緒に生きるべき女性だけと分かっていたから余計に心が痛んだ。互いに唯一無二の存在だというのに、ただ相手を傷つけることしか出来ない弟に心を痛め、そしてつくしに申し訳ないと思っていた。

本当なら弟を大馬鹿者だと罵りたかったはずだ。そしてどうすれば歪んでしまった弟が昔の心を取り戻せるのかと、二人の関係を昔のような関係に戻すことが出来るかと心を痛めた。だが人間性を失った男は、もはや椿が何を言ったところで聞く耳など持つこともなく、ただ見守ることしか出来なかった。

だが、地獄の底に堕ちた男だとしても、人を見る目はあった。
自分自身に病み、たとえ気晴らしに他の女を抱こうとも、相手の心にあるものだけは、しっかりと見通していた。それは弟可愛さの故の想いなのかもしれないが、心の奥には17歳の少年が見つけたたったひとつの光りがあったはずだ。

男と女の間といったものは複雑だ。そして人の心は簡単に修復できないということもわかっている。ましてや司という人間の性格を理解している椿は、愚かな弟が嘘やまやかしに惑わされることがないことを知っている。そんな男を立ち直らせることが出来るのは、つくしであることも。そして今、椿の前にいるのは、傷付けあったが今は輝いて見える二人だ。
椿にはそう感じられた。



「司!あんたまた一人勝手な思いをあたしに言ったんじゃないの?本当につくしちゃんは結婚してくれるって言ったの?それにあんたつくしちゃんの気持ちを考えてあげたの?本当に幾つになってもあんたって子は!頭の中で思ったことをそのまま口に出すことがいいとは限らないのよ?」

先を急ぐように話すのは昔と同じだ。
そして勝手に結論付けるのもあの頃と変わらない。
だが自己を見失っていた弟が、本来あるべき姿でつくしと共にそこにいることが嬉しかった。たった二人の姉弟だ。誰もいない大きな邸の中、淋しさに負けそうだった頃がある。
そんな時、互いの存在が心強かったこともあった。
司にとって椿は姉でもあり、母でもある存在だったが、椿にとっても弟はやはりかけがえのない存在。同じ血を持つ弟は親子以上に分かり合えるものがあると感じていた。

そんな弟から連絡を受けたのはつい最近だ。
牧野つくしと結婚する。その言葉をどれだけ長い間、待ち望んだことか。
だからこそ、嬉しさの余りつくしに抱きついていた。


「あたしはね、つくしちゃんには幸せな人生を送ってもらいたいの。司、いい加減自分勝手な思い込みは止めなさい?もしあたしがつくしちゃんの立場だったらあんたを殴り倒しているわね。あたしがどれだけつくしちゃんを義理の妹に迎えたいと思ってるかなんて、あんたには100年経ってもわからないでしょうね?まったく男ってのは物事をどこで考えてんだか知れてるわね?」

椿の言葉に含まれるのは、山荘でのことだと分かっている。そしてそれには、椿も心配していたということが暗に含まれていた。

「あの・・お姉さん、そうじゃなくて・・あたしも・・彼と結婚したいんです」

やっと口を挟ませてもらえたつくしは、椿の目をしっかりと見据えた。
大きな黒い瞳は、自分の意志をはっきりと伝えていた。
その言葉に、言葉以上の深い意味があるとすれば、司に対する揺るぎない思い。
言葉が区切られているからこそ、そのことをはっきと認識させられたとも言える。
そして、他人に期待などしたことがない女が、物事を自分の意志で成し遂げようと決めた瞳に迷いはない。

「やっぱりそうなの?司と結婚してくれるのね!」

椿の嬉しそうな声に頷いたつくしは、未来の義理の姉に望まれていることが嬉しかった。
つくしも司との結婚を考えていた。そして、母親からは認められていた。
10年前、虫けらのように追い払われようとした少女は、息子が道をこれ以上踏み外すことを良しとしない母に、ありのままのあなたを受け入れましょうと言われた。

司はつくしの顔に視線を注ぎ、それから椿を見た。
姉がこんなにも嬉しそうにしている姿を久しく見た覚えがない。
それは自分のせいだと分かっているが、いつも自分を見守ってくれた姉にはもうこれ以上心配をかけるつもりはない。

「牧野は俺と結婚するって言ってくれた。だから姉ちゃんの妹になるのは間違いねぇな。こんなろくでもない弟じゃなくて可愛い妹が出来て姉ちゃんも本望だろ?」

つくしの言葉で裏付けが取れたはずだと、司は唇を自嘲的に歪め、姉を見た。

「そうなのね!?本当にそうなのね!つくしちゃんがあたしの妹になるなんて!あーもう信じられない!司。あんたつくしちゃんを幸せにしなさいよ!いくらろくでもない弟でもあたしの弟なんだから、あたしにだってあんたを育てた責任ってのがあるんだからね!」

「そんなモン、言われなくてもそうするつもりだ」

「それからつくしちゃん!返品お断りだからね?ろくでもない男だけど、性根だけは座ってるから。それだけはあたしが保障するわ。どんな状況だろうとこの子は負けることがないから司のことをお願いね?」

姉と弟は、どちらも牧野つくしに対しての結びつきは、自分の方が上だと考えていた。
だがそのとき司は気付いた。椿の顔に慈愛に満ちた表情が浮かんだのを。
それは心から滲み出た優しい表情。これでやっと弟も幸せを掴むことが出来るとでも思ったのか。だが、今、この場所にいるのは、これから先の幸せを掴むことが出来るかどうかを決定するためにいる。そのためにも姉には力を貸してもらいたい。

「・・姉ちゃん・・それよりも力貸してくれるんだろ?」

「・・お父様のことね・・あたり前じゃないそんなこと。あたし以外に誰が力を貸すのよ?分かってるわ・・・それにつくしちゃんが何を一番苦に感じているか。お母様から聞いたわ」

もちろん椿は父親と牧野親子との関係も知っていた。
だが本人を目の前にして、口憚られる言葉もある。全てを話すことはなくとも、事情は理解していた。

「司。今更だけど、あの人は、あたし達の父親はあたし達にかかわる人間の将来性を計算するわ」

それは姉の結婚相手にしてもそうだ。今現在相手の持てるものと、将来に持つことが出来るものまで考える。道明寺家と財閥に不利な状況をもたらすような相手は結婚相手として認められるはずがない。

「あの人は人柄なんて関係ない人よ?自分本位なところがあるわ。自分が思うように相手が動かないことが許せない人なの。何でも自分に置き換えて判断する人よ。だから自分がこうなら相手も自分と同じ考え方であることを当然のように思う人。分かるでしょ?あんたなら」

椿はあの男は自分のコピーを求めていたと言いたいのだ。あの男の考えを実践する息子が欲しかった。己のDNAを受け継ぎ、道明寺家と財閥のために働く男を求めた。
だから息子が自分の意に沿わない女と付き合うことを許さなかった。

「だから、自分の意に沿わない人は認めない人間よ。それから自分が気になることは全てを把握していなければ気がすまない人よ」

わかっている。
そんな父親の元に生まれた姉と弟は、その男に人生を左右された犠牲者だ。
そして親子の間に溝があることは遠の昔から分かり切ったこと。家族の中の誰もその溝を埋めようなど考えたこともなく、その結果、椿と司という姉と弟の絆を深めたことにもなるのだが、母親の楓の態度が少しだけ変わったことを認めない訳にはいかなかった。



「姉ちゃん!俺らのこと忘れてるだろ?」

「あら、やだ。あんた達いたの?」

椿は今更ながら驚いた顔で司の幼馴染3人の顔を見た。

「いたのじゃねぇよ。姉ちゃん相変わらず目の前のことしか目に入ってねぇんじゃねぇの?」

「うるさいわね!総二郎はごちゃごちゃ言わないの!少しは類を見習って大人しくなさい!」

「姉ちゃん、類だって言いたいことは思いっきり言うぞ?ああ見えて毒針並の事も言うぞ?それに相手に致命的な傷を与えるようなことも平気で言う男だぞ?天使の顔した悪魔だなんて言われたこともあったんだぞ!」

あきらはいつも類がいい子に思われることが癪だとばかり、強い調子で椿に言った。

「わかってるわよ!総二郎もあきらも類も、あんた達みんな司とつくしちゃんの為にここにいるってことくらいね!もう!あんた達がうるさいからつくしちゃんとの話が全然出来ないじゃない!」

「・・姉ちゃんが一番うるさいんじゃない?」

ボソッと呟いた類は椿からジロリと睨まれていた。

そのとき、会場内に男の声が響いた。

『お集まりの皆様。本日は道明寺貴、叙勲授章祝賀パーティーへようこそお越しくださいました』


主役の登場を待つ舞台は整ったのか。
司会者が開式の挨拶を始めた。

つくしの胸は、しだいに動悸が打ち始めた。






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コメント
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dot 2017.06.07 09:55 | 編集
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dot 2017.06.07 16:25 | 編集
pi**mix様
70話まで来ました。
お祝いありがとうございます。
物語のタイトルですが、坊っちゃんの事です。
坊っちゃんが集めているのは?まずは、つくしちゃんを捕獲。そんな司は当初鬼畜でした。かなり歪んだ男でした。
そんな司が欲しいものはたったひとつです。
時に二人を取り巻く登場人物にスポットをあて、掘り下げていますが、主役はあくまでも司です。
花男キャラコレクター、という訳ではないのですが、皆さん集まって来ました(笑)
本日学校行事だったんですね?お疲れ様でした。
さて、神イケメンと言って頂いた坊っちゃん。
つくしちゃんの為なら、地獄の底まで追いかけ行く坊っちゃんですから、神にも悪魔にもなるでしょうね。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.06.07 23:05 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
椿さん登場しました。二人がまた一緒になってくれ、凄く嬉しそうですね。
はっきりとした言葉で話す椿。竹を割ったような性格です。弟とつくしちゃんの幸せを望む椿は、つくしちゃんにとって心強い存在でしょう。
やはり同性、そして少し年上の女性は頼りになると感じられます。
いよいよ父親登場。二人共頑張って!ですね?
アカシアも頑張りたいのですが、週半ばは、なかなか・・(汗)←お察し頂けると有難いです(笑)
給食、懐かしい響きです。ソフト麺が好きでした(笑)
コメント有難うございました。^^
アカシアdot 2017.06.07 23:35 | 編集
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dot 2017.06.08 00:12 | 編集
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dot 2017.06.08 01:10 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
椿お姉さんは本当にいいキャラですよね?
そして原作には殆ど姿がない司パパ。このパパ恐ろしい人ですね?
二人を認めない司パパ。由緒ある財閥の男の考え方は偏見に満ちているかもしれませんね。
錦織くん負けてしまったようですね?最近ジョコが弱くなったように思えるのは気のせいでしょうか?テニス観戦好きですが、何故か力が入るのは何故でしょう?あの気合いが入ったサーブのせいでしょうか?(笑)
最近夜更かし同盟脱落してます(笑)目、肩、腰に力が入りません!!
そんなアカシア、栄養ドリンク片手に頑張ります!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.06.09 21:27 | 編集
チ**ム様
こんばんは^^
道明寺邸は世田谷。
やはり富裕層の方が多く住む有名なエリアがありますので、道明寺邸もそちらですね?(笑)
椿お姉さん、爽やかなお姉さんですね?こんなお姉さんなら欲しい(笑)わかるような気がします。司も恐らく椿お姉さんは大好きですよ。幼い頃から自分を守ってくれた姉ですからねぇ。
母であり姉であった椿さんには頭が上がりません。
本日金曜日です。少しホッとした今宵でした。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.06.09 21:28 | 編集
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