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2017
06.06

Collector 69

Category: Collector(完)
季節が巡るのと同じように恋をする人間もいる。
そしてその恋が本物であるかどうか確かめるため抱き合う。
だがその恋が本物でなければ傷つく。そして本物の恋を求め再び恋をする。
今度こそ本物の恋だと。
これが最後の恋だと。

恋など幻だ。儚い夢だ、心の迷いだと言う人間もいる。
だがその恋が儚い夢か、心の迷いなのか、本人たち以外に分かるはずもなく、仮に他人が理解しようとしても、恋をしている人間の胸の内を推し量ることは出来はしない。

たった一度の恋なら、迷いもなければ、移ろう想いもない。
その恋には条件付けや誤魔化しはない。心の底からその人が愛おしいと思えるから恋をしたのだ。そしてその人の為なら人生の全てを投げ打ってもいいと思えるから恋をした。
誰も信じないと決めた男の心も、信じあえる人に再び会えたことにより癒された。
他人を拒む冷たさを持つ男が魂も身体も全てが彼女を求め止まなかった。
そしてその人はどんな過去も分かち合うと言った。ここまで自分が変わることが出来たのも、彼女がいたからだ。ようやく恋が確かなものになったのだ。

だが二人がこうしていることは、奇跡なのだ。
だからそこ、この奇跡をより一層現実のものにするためには、これから対峙する相手がどんな人間だろうが、会わなければその先はないと知っている。
彼女にとってその相手は恐怖しか感じないはずだ。
だが過去の亡霊を完全に消すため、乗り越える必要があった。








司はつくしを連れ、父親貴の叙勲を祝うパーティーに姿を見せた。
遠くからでもその存在は目を引くほどで、顏を確かめることなく、影だけでもその人だと分かるほど、存在感は圧倒的だと言われる。そしてその場に立つだけで周囲の空気がピンと張りつめたようになり、流れの全てが彼に従うように感じられる。
つまり、この会場にいる大勢の人間の視線を集めるのは、仲間3人と共にシャンパングラスを傾ける男だ。そしてそんな男の隣に立つ女性が、人々の目を引いたのは間違いない。

このパーティーの主役である道明寺貴の息子であり道明寺HDの社長である男の傍にいるのは、黒髪を頭の後ろで結い上げた小柄の女性。かつてフリルやレースが似合わないと言われていた少女は、大人の雰囲気が感じられる装いで3人の男たちの前に姿を見せた。

身に付けているのは、深い海の色のイブニングドレスだ。
ひと目で趣味がいいと思えるのは、そのドレスを選んだ男のセンスの良さが感じられるからだ。派手なオフショルダーではなく、袖付きのドレスは、胸元がV字に開いてはいるが、それほど深くなくとも、首に飾られたブルーのサファイアの輝きを邪魔することはない。綺麗でかわいいといった表現が当てはまらないのは、彼女から大人の女性としての輝きが感じられるからだ。数ヶ月前の彼女を知る人間からすれば、短い間でこんなにも変わるものかと不思議に思うはずだ。

そんな女性の腰に回された男の手は、最近出来たばかりの傷痕の上に置かれていた。
それは銃による傷痕。怪我は治ったとしても、感覚はまた違うはずだ。一生残る傷痕は司のせいだ。あの時の恐怖が甦り、添えられた手が、その身体を己に引き寄せていた。すると彼女は首を傾げ、隣の男を見上げた。だが何か言う訳でもなく、ただ黙って彼の目を見つめていた。それは信頼を置く人間に対し向けられる眼差し。陰りのない澄んだ瞳が彼を見つめていた。
これから起こることが何であろうと信じていると。
大丈夫だと。
今の二人の間には、互いを信頼し合う心があり、何も疑うことなどないといった思いが感じられた。








「このシャンパンが何かの役に立つとは思えねぇけど牧野、おまえもこのくらい口当たりなら飲めると思うぞ?」

何かの役に立つ。
アルコールの力を借り、緊張をやわらげることが出来るのではないか。
あきらはそう言いたかったはずで、グラスに口をつけ、半分ほどになった残りを飲み干した。

高級シャンパンの味は単純に美味しいと感想を述べることしか出来なくても、久しぶりに飲んだアルコールは口当たりがよく、フルーティーな香りがするはずだ。
だがシャンパンはアルコール度数11%以上の強い酒だ。司は、アルコールに弱い彼女のため、別の飲み物を用意させていた。見た目はシャンパンに見えるが酒ではない。そんな気遣いが出来るのも、彼がどれほど彼女を大切に思っているかの表れだ。
道明寺司の隣に立つ女は、酒も飲めない子供かと思われ、自分は司に相応しくないと思う彼女の気持ちを慮ってのことだ。



だが実際には、つくしは手にしたグラスに注がれたものを口にするまで時間がかかっていた。

「・・うん。でもお酒はあまり欲しくないの・・」

入院生活で落ちていた体重も以前と同じ位に戻り、体力も回復していたが、昔からアルコールを口にすると、ろくでもないことを口にしていただけに、今のこの状況では、飲みたいといった気にはならなかった。

「まあそうだよな。おまえは酒より食い気の人間だったな。やっぱ今でも酒は苦手か。それにしても牧野・・おまえ馬子にも衣装だな。スカートで跳び蹴りしてた女はどこだよ?それに随分と女らしくなったけど司のおかげか?毎晩愛されて女としての自覚が芽生えたか?」

総二郎の顔には、ニヤッと笑みが浮かんだ。
司に向かって跳び蹴りをした少女がそれからどうなったか。その男から必死の思いで逃げた姿を思い出していた。

「牧野も女の幸せを知ったって訳か・・。確かにあの頃の司が牧野つくしにどれだけ惚れてたか。俺らの目の前で繰り広げられたあの騒動からしても相当な惚れこみようだった。・・まあ色々あって別れた訳だがお前らは互いを許し合って絆が深まったっていうか、繋がったってことだろ?その調子で親父さんともどうにかならねぇもんかな?」

と、あきらは軽いため息とも取れるように最後の言葉を吐き出した。

「そうだな。お前らは許し合って身体の方も繋がったんだしな。まあ司の場合許されるも許すもなく繋がったんだろうけど」

相変わらずの総二郎の軽口にその場にいた男たちは司が口を開くのを待った。
遠い昔、牧野つくしと出会う前、狂気に根ざした狂暴性といったものを持っていた男は、自制を知らないと言われていた。だがその男も成長した。仲間内で交わされる会話に目くじらを立てることなく聞き流したのは、今はそんな会話もつくしの緊張をやわらげる為になるのではないか。そう感じたからだ。


外見は落ち着いて見える。
だがその落ち着きとはうらはらに、酷く緊張しているはずだ。
これから会う人物は、彼女の人生にとって避けて通ることが出来ない人物だからだ。

それは司にも言えることだ。
牧野つくしとの交際に反対し、彼らを引き離すことに成功したのは父親だ。
そしてその行為が元になり、彼女の父親に財閥が政治家に対し行った贈賄の証拠を握られ、脅される結果となった。そのこともあり道明寺貴は、牧野つくしの存在を許そうとしないのか。父親の罪は娘の罪なのか。父親のことを考えただけで、緊張が戻った。


「司、地雷原を歩くことになるとすれば、どこに爆弾が埋まっているか分かってるよね?このパーティーでおまえの親父さんが何かするなんてことはないと思うけど、牧野を会わせるなら十分気を付けて」

そこではじめて類が口を開いた。
昔から何を聞いても動じることのなかった男は、牧野つくしのことだけは違っていた。

「自分の親のことだからよく分かってると思うけど、恐ろしい人だから」

分かっている。血の繋がりがあるだけに、言われなくとも感じ取れることはある。
危険な場所へ足を踏み入れなければ、何も手に入らないとすれば、その危険を冒すつもりでいる。それは彼女の心の中から不安を取り除くということだ。司の父親が牧野つくしを理解しない限り、いつまで経とうが彼女の不安は拭えないはずだ。

「おまえは牧野に関しては、困難なことや障害があるほど、意欲的になる男だ。・・なんだかあの頃が懐かしいよ。おまえと牧野を取り合った頃が。変な話だけど、今頃になって当時のことが甦るよ」

「類・・」

確かに二人はひとりの女性を巡って争ったことがあった。
強い視線を放つことが出来る少女のその瞳に囚われた。彼女の目の輝きがどんなに二人の男の心を捉えたことか。そしてその少女が選んだのは司だ。

「とにかく、二人が一緒にいることがおまえの為でもあり、牧野のためだ。特におまえは牧野がいないと人間じゃなくなるから周りが迷惑なんだよ」

類は突き放した口調で言ったが、決して本心ではない。
それは類独特の表現。そしてそれを理解出来るのは、幼い頃から共に過ごした仲間だ。

「類よくぞ言った!確かに司は牧野がいないと人間止めてたな。まさに人間失格だ。俺らも近寄れねぇくらい冷酷非情。やっぱ牧野がいねぇと全然ダメだ。この男はな!・・けど類、おまえもしつこい男だな。もういいじゃねぇか。司はもう十分反省したんだし、そんなにネチネチ言うなって。司もこれから大仕事をする訳だ。俺らで援護してやれることがあればしてやろうじゃねぇか」

「ちょっと仕返ししただけだよ。司は昔から俺の大切なものを平気で奪ってくんだから」

大人げない会話だが、それはこの4人だから出来るのだ。




牧野つくしを父親に会わせることが大仕事。
そしてもうこれ以上、彼女と自分との間を邪魔させないことを、はっきりと認識させる。
そうでなければ、高い代償を払うことになることも。




「つくしちゃん!」

その声に振り向いた瞬間、両手を差し出して満面の笑みでつくしを抱きしめた女性。

「つくしちゃん!元気だった?でもやっとわたしの願いが叶うのね!妹が欲しいってずっと思ってたわ!」

突然現れた司の美しい姉はつくしの身体を強く抱きしめ離さなかった。






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コメント
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dot 2017.06.06 15:51 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
F3とのひととき。総二郎とあきらのからかいはいつもの光景です。
10年間の二人を思いながらの会話なんでしょうね。
二人が一緒にいてくれることが、嬉しいんでしょうね。
そして椿さん登場。お姉さま、やっと出番が来ました。
椿さんはつくしちゃんだから妹に欲しかったんだと思います。
気持ちの大部分は嬉しいさが溢れているのではないでしょうか?
弟思いの姉でしたから、二人が一緒にいてくれるだけで嬉しいんだと思います。
弟ですが、我が子のように考えていたかもしれませんね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.06.06 23:38 | 編集
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dot 2017.06.07 00:45 | 編集
pi**mix様
みんなつくしちゃんが好きです。
守ってもらう必要ないと言っても、相手は強大な権力者です。
つくしちゃんをエスコートする司の気持ち。自慢したい気持ちもあるでしょうねぇ。
イケメン坊っちゃんが、唯一傍に置きたい女性。
遠くから見つめる女性たちは、さぞ羨ましいことでしょう。しかし、ここは司の父親のパーティー会場です
そんな女性たちは司の目には映りません。
そして椿さん登場です。椿さんは楓さんとはまた違ったパワーがあります。そのパワーでいい方向へ進みますように。
コメント有難うございました。^^
アカシアdot 2017.06.07 22:19 | 編集
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