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2015
09.28

キスミーエンジェル28

ジャケットのなかで携帯電話が鳴った。
「 司? 」
電話に出ないわけにはいかない。
類は通話ボタンを押した。
「おい、類。今どこにいる?」
「・・どうしたの司。こんな朝っぱらから・・」
「類、おまえ今どこにいる?」
「今? ウォルドルフでお茶飲んでる」
「そうか、これからすぐ行く」
「だけど司これから・・・」
司は電話を切っていた。


日本で支社長を任されたと言ってニューヨークを後にした司だけど相変らず自己中男だな。

類は幼い頃、学校にあがる前から司とは付き合ってきた。
司と類、そして総二郎とあきらの4人は一緒に遊び、けんかもし、兄弟のような関係だった。
8年前のあの時のことは別にして今でもこの4人は固い絆で結ばれていると思っている。

8年前、まだ高校生だった俺達の前に現れた一人の少女に恋をした司はいつも傍にいた俺達から見てもおかしいくらいに彼女に夢中になっていた。
でもその恋はある日突然終焉を迎えることになったけど。

その少女のことは類にとっても忘れることの出来ない思い出だった。
俺達が18歳でその少女は17歳。

牧野と知り合った頃、俺は彼女には興味がなかった。
でもいつの頃からか牧野に惹かれていたんだ。そんな俺と同じように司も牧野のことを好きになっていた。
結局彼女が選んだのは司だったけど、上手くはいかなかった。
司は突然ニューヨークに行くことになり、牧野は・・捨てられた。
いや、捨てられたって言い方はおかしいな。
あの二人は付き合うとか言う前の段階だったはずだ。

でも司が突然ニューヨークへ行ってしまい、牧野が非常階段でうずくまって泣いているところに出くわした俺は彼女の手を握り、肩を抱いてなぐさめた。
彼女が泣くのを止めるまでは長い時間がかかったのを覚えている。

そしてその後は・・・



そんなに酷いことにはならなかった。
牧野は自分のことを雑草女と呼ぶだけのことはあった。
司がいなくなって数ヶ月もたつと雑草も新しく芽を出したのか牧野は猛勉強を始めたかと思ったら奨学金制度のある国立大学の入学許可を得ていた。
それも女子生徒の少ない土木工学関係の学部だった。

あの頃の牧野は司に対して激怒することはあっても二度と涙を見せることなんてなかった。
だんだんとどうでもよくなっていった感じに思えていた。


でも、司は違ったみたいだね。
週刊誌や新聞に載っていた記事をみれば、あいつは牧野のことを忘れ去っていたわけじゃないってことか。
ま、マスコミの流す話なんて信じているわけじゃないけどね。


「類!待たせたな」
ウォルドルフのティールームに颯爽と入って来た司はご機嫌な様子で類の背中を叩いてきた。
「俺、別におまえと会うなんてひと言も言ってないけど?」
「まあそう言うな」
「で、司。なに?」
類は切り出した。
「おまえ、牧野つくしのことを覚えているか?」
類は司のことをじっと見つめた。
「もちろん、覚えているよ」
覚えているもなにも、今でもメールのやり取りをするくらいの付き合いはある。
司は嬉しそうに「あ、コーヒーをくれ」とウェイターに言うと類にもそのほほ笑みを向けてきた。
「類、おれ牧野と結婚するぞ!」


たまげた。


類は後にも先にも司のそんなほほ笑んだ顔を見たことがなかった。
そしてあまりにも突拍子もない司の言葉に類の頭に浮かんだのは
「つ、司、本気で言ってるの?」
思わず言葉に詰まりそうになった。
それって牧野の気持ちを確認してるのかなぁ。
それに自分の母親のことを考えてるの?あの母親だよ?

「ああ、もちろん本気だ」
類はひとり盛り上がっている司のことがだんだん鬱陶しく感じられてきた。
「ねえ司、牧野の気持ちはどうなの?司と牧野って8年も前に終わってるでしょ?」
「終わってなんてねぇよ!」
さっきまでのほほ笑みはどこへ消えたのか、司は人ひとり殺しそうな視線でにらみつけてきた。
あ、牧野と出会う前の司だ。
「でも司、牧野って・・」
司は先ほどの人ひとり殺しそうな視線のままで歪んだほほ笑みを張り付けると、類に向かってこう言った。
「俺、牧野と寝た」



類はちょうど目の前のテーブルに運ばれてきた司のコーヒーを見ながら、このウェイターは日本語が理解できるのかどうかと聞きたくなった。

「・・・そう。よかったね」
類は他に言う言葉が見つからなかった。
なんで俺にそんなことを報告してくるわけ?それって俺のことを牽制してるの?
「ほら、なんだ?焼けぼっくいに火が付く?」
「・・・司、難しい日本語をよく間違わずに言えるようになったね」
司は嬉しそうに声をあげ、ネクタイを緩めにかかっている。
「そうか?類、俺もいい歳だしよ、そろそろ経験しとかないとあいつにも迷惑がかかると思ってよ」
司は満面の笑みを浮かべながら嬉しそうだった。
「うん。よかったね」
司ってポーカーフェイスが出来ない人間なんだよね。
あいつに迷惑って意味が分かんないし・・・もう牧野に迷惑を掛けたってことでしょ?
何が嬉しいんだか。
類は適当に相づちを打っていた。

「なんだよ類、機嫌でも悪いのか?」
「べつに」
類は話がどんどん見えなくなってくるのはいつものことだとばかりに聞いていた。
そして司の話が長くなりそうだと感じた類はウェイターに合図して、紅茶のおかわりを促していた。









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コメント
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dot 2015.09.28 05:42 | 編集
た*き様
いつもコメントを有難うございます。
ちょっとシリアスに走ってますので
類といる時の司は少年の頃の面影が感じられるようにしてみました。
どんどんシリアスになって来ちゃいました(笑)
タイトルは甘いのにお話には甘さが足りませんね(笑)
どうしましょう!!
アカシアdot 2015.09.28 23:08 | 編集
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