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2017
05.30

Collector 65

Category: Collector(完)
今の二人は本来の自分たちを取り戻していた。
雨の日に別れてしまったあの頃と違い、大人になった二人は心に深く思い残すものがあったとしても、互いに伝えなければならないことは、伝えることが出来るようになっていた。


つくしは司の口から語られる言葉を静かに聞いていた。
それは、司の父親である道明寺貴の叙勲祝賀パーティーに彼と一緒に出るという話だ。
司の母親である楓からの召集令状とまでは言わないが、出席を求められたつくし。
彼女が楓に会ったのは、10年前息子と別れて欲しいと大金を持って現れたことがあったがそれ以来会ってはいない。
だがもちろんテレビや新聞、雑誌で見たことはあった。

初めて楓に会ったとき、その攻撃的な態度は、彼女がこうと決めたことは、完遂されなければならないといった硬い決意が感じられた。

息子とその恋人を別れさせるため、ありとあらゆる手を尽くす。

そして目的は達成されなければ気が済まないといった姿勢が感じられた。それは息子である司にも言えることで、つくしに対しての姿勢がそうであったように、道明寺家の人間の特徴なのだろうかと思えるほどだった。

それにしても、何故楓はつくしをパーティーに同伴するよう求めたのだろうか。
あの頃、散々嫌われ、嫌がらせを受けたというのに何故?
それは、何かが変わったということだろうか?







テーブルに並べられた料理が片づけられ、二人はソファに腰を下ろし、食後の珈琲を飲んでいた。料理は司が庶民の味と称したものが並べられ、
「相変らずおまえの料理は訳の分かんねぇものがある」
と、言いながらも箸を運んだのは、懐かしさがあってのことかもしれないが、それでもつくしは嬉しかった。そしてこれが家庭の団欒といったものであると、司が理解してくれたと思えばそれだけでも良かった。


「ねえ・・どうしてお母さんはあたしをパーティーに同伴しなさいだなんてことを言ったの?」

当時魔女だと思えた女性からの命令とも言える言葉の意味が知りたいと思っていた。
あの頃、身の程知らずと誹られた少女は、今は大人になったが、それでも投げつけられた言葉は今でも心の奥に残っていた。

「いや、俺にも理由は分かんねぇ。あの女が俺たちに何を求めてるんだか知らねぇが、おまえの身に起こったことも、俺がして来たことも全てお見通しなんだとよ・・で、おまえに会いたいそうだ。おまえ、どうする?会うつもりは無いっていうなら、会う必要ねぇぞ。それにあの女のことだ、またおまえに何か言って、おまえが俺の前から消えるようなことがあったら困るからな・・まあ、そうは言っても今のおまえがここから抜け出せるとは思えねぇけどな」


確かに二人が暮らし始めたマンションの警備は厳重だ。
通院の為外出することがあるが、つくしが一人だけで外出することは無い。
それに司がどれほどつくしのことを大切に思っているかということを、彼女自身も充分理解していた。

それにしても、つくしに会いたいと言ってきた司の母親。
その真意を測りかねていた。

「で、どうするつもりだ?嫌なら断ってもいいんだぞ?」

つくしにとって道明寺楓という人物は、計り知れないほどの権力を持つ女性だ。
元華族の家から道明寺家に嫁いで来たと聞いていた。それだけに、あの態度も納得できるものでもあるが、再び会うことを考えれば、戸惑うなという方が無理だ。
だが、今になれば楓の気持ちも理解出来た。つくしも今は何も知らない少女ではない。
道明寺財閥という巨大な企業を統率する男の妻に、ひとり息子の恋人が気に入らないと言われても、それはある意味仕方がないことだと思えた。
それに、どこの家庭の母親でも多かれ少なかれ、そう思うのはあたり前だ。

「あたし、会うわ。お母さんに・・」

無言のうちに数秒が過ぎていた。
その沈黙の意味は何なのか。

つくしは司が黙った意味が分かっていた。無理をするな。いつの日か会う事になるとしても、今は無理して会う必要はない。そう言いたいのだということが伝わって来た。
だが前を向いて歩くことを決めた。だから進まなければならない道があるなら、避けて通ることなく進まなければならないはずだ。

人は相手が自分を嫌っていることは、わかるものだ。だから嫌われているなら、嫌っているその人に自ら近づく必要はないのではないか。そう言われればそうかもしれない。だが会いたいと思った。強くなることも必要だが、人に対して優しさを持つことも必要だ。相手がこちらを嫌っていたとして、だからと言って同じように嫌う必要があるとは思えなかった。
それにまだ少女だったつくしには、大人だった司の母親について理解できなかった部分もあったはずだ。

かつて射るようにつくしを見た目には、蔑みが感じられ怖かった。
だが、道明寺楓は司の母親だ。好きな人の母親を嫌いでいることは難しい。
それにいくら楓が幼少期に息子を顧みることがなかったからといって、全く心をしめていないと言えば嘘になるはずだ。子煩悩とは言えないとしても、子供のことが全く心の中にない親はいないはずだ。

だが今でも蔑みを持って見られるのだろうか。
息子が選んだ相手が気に入らないといった目で見られるのだろうか。
でも会いたいと思った。
自分のことを認めて欲しいと思うからではない。共に10年の年月を経た今、道明寺楓という人物が昔のままなのか。それが知りたいと思った。

そして、楓の目から見える自分の姿はどうなのか知りたかった。
何を言われるとしても構わない。二人一緒に歩いて行くと決めたのだから、何を言われたとしても、受け入れるつもりでいる。

「おまえ、本当にいいのか?あの女は昔のままだぞ?思いやりとか理解とかって言葉は持ち合わせてねぇ。あの女は物事は自分のやり方でやることが当然だと考えてる女だ。・・ったく何を考えてパーティーにおまえを同伴しろなんて言ったのか知らねぇが、何か魂胆があるはずだ」

強大な力を持って財閥を動かして来た司の両親。だが父親はトップの座から降りた。
しかし楓は父親より若い50代で鉄の女は健在だ。そしてメープルの経営を任され采配を振っており、したたかな女で力がある。幼い頃からそんな女の母親としての態度など見たことなどなく、生まれて真っ先に触れたのが本当にあの女だろうかと思うことさえあった。

「それに、あの女は自分の言動が他人にどう影響を与えるかなんて頭にない女だ。つくし・・俺はまたあの女が何か言っておまえが傷つくのは見たくねぇ」

司はつくしに傷ついて欲しくなかった。
髪の毛一本でさえも。
今の彼女は決して何ものにも負けないだけの強さを持つとしても、彼にとってはダイヤモンドの輝きを持つ女性だとしても、これ以上傷ついて欲しくなかった。
だがつくしは会うという。

「・・あたしあの人に会ってみたいの。会ってあたしの今の気持ちを伝えたいの。あの頃と変わらないって・・。それにあたしね、あんたのお母さんがそんなに言うほど悪い人だとは思えないの。どんな親でも子供に対しての愛情は絶対あるから・・ただそれを上手く表すことが出来ない人もいるはずよ」

「つくし・・あの女が俺に愛情を持ってるかっていえば、そんなモン端っから無かった。それに何を考えてんだか知らねぇが、俺がこれ以上不幸になるのを見るのは忍びない・・そんなことを突然言い出した。どう考えてもおかしいだろうが。子供に対する愛情が急に湧き上がったっていうなら、それがどうかと思うのが普通だ」

つくしは過去を思い出していた。
確かに道明寺楓という女性は、我が子に対して愛情深いといった女性ではなかった。
強い女性だとは感じたが、温かみより冷たさが感じられる女性だと、人を寄せ付けようとしない頑なさを感じたことは記憶にある。
そしてあのとき、二人の間にあるものが、とてつもなく大きな川に感じられた。
決して渡ることが出来ない激しく流れる川。
そんな川の向うとこちら側では見える景色が違うのと同じで、二人には全く別の物語が用意されていたはずだ。

決して交わることがなかった二人の人生が。

だが人生は交差し、新しい物語が始まった。その物語がハッピーエンドで終わることを望むなら、物語の登場人物全員が幸せであって欲しいと願いうのはおかしいのだろうか。

「あのね、これから二人の全てが始まるなら、けじめはきちんとつけたいの。誰にだって人生の物語があるはず。お母さんにだってお母さんの人生があったはず・・だから今が昔と違っていると思わない?あたしにはそう思えるの。だから会ってくる、お母さんに」

司はつくしの言葉に顎を引き締め、厳しい表情になった。
そして言い出したら聞かない頑固な女の顔に表れたものを見た。

『お人好しだって言われてもいい。あたしは自分の信じることを信じるの』

つくしの目はそう言っていた。それはあの頃も見たことがある目。
かつて見慣れたその表情。強い意思が感じられ、言い出したら聞かないところがあった少女の凛とした眼差し。
目の前にいる女は、司には分からない何かがある。理解出来そうで出来ない何かが。
それは昔からそうだった。司の知らない何か確固したものがつくしにはいつもあった。
牧野つくしという女には_。


「・・そうか。おまえがそこまで言うんなら会ってこい。会ってあん時の恨みがあるなら言ってやれ。よくも愛しい男と引き離すようなことをしてくれたってな。俺の親だからって気にするな。まあ昔のおまえはそうだったけどな」

ニヤッと笑った顔は不遜そのもの。
本来なら余程のことがないと感情が出ることがない男と言われていた司。
だが今では、つくしの前では感情そのままが出るようになっていた。

「いいか。もうおまえは小娘じゃねぇんだ。あの頃と違う。それにおまえには俺がついてる。言いたいことがあるなら言ってこい」


あの頃と同じ傲慢さを持つ男は、立ち上り、つくしの傍まで来ると軽々と彼女の身体を抱えキスをした。
それは不意打ちではない口づけ。
愛を重ねることに躊躇はないはずだ。
無意識に開いたつくしの唇は司の唇を受け入れていた。





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コメント
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dot 2017.05.30 08:19 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
穏やかに過ごす二人ですね。愛を育んで欲しいですね。
好きな人の母親を嫌いになることは出来ない・・そう思えるつくしちゃんは芯が一本通ってますね?
ただ、10年前のことを思えば、何故今会いたいと言ってきたのか。そう思うのは当然だと思います。
今の司は彼女を守ることが出来ます。それだけの力はあります。

月末は忙しいですねぇ(笑)いつものことです(笑)
1日が過ぎていくのが早く感じられますか?
年を重ねるごとに益々早く感じられるようになります(笑)
本日、とても暑い一日でしたね。まだ夏には遠いはずですが、この暑さにバテそうでうす。
司×**OVE様もお身体御自愛下さいませ^^
そして水分補給はしっかりとなさって下さいね。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.30 22:07 | 編集
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dot 2017.05.31 00:45 | 編集
pi**mix様
本当に暑いですね。
身体はまだ夏仕様ではありませんが、もう既に夏バテ気味かもしれません。
大人になったつくしちゃんは冷静さも併せ持つ女性になっていました。
愛されるということは、そういうことかもしれませんね。
大人への階段を上ったことですし、苦労もしてきました。その苦労が人生をひとつ前へ進める勇気となったはずです。
つくしちゃん、楓ママと会いたいと思いました。好きな人の母親を嫌いになれないところが、つくしちゃんですね(笑)
どんな人にも良い面と悪い面がある。そう思うのでしょうね。性善説のお嬢さんでしたから。
坊っちゃん休戦中(笑)
それならば女の闘い!となるのでしょうか(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.31 21:51 | 編集
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