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2017
05.26

Collector 63

Category: Collector(完)
人は意識的に外に見せているものと、内側は違う。
それは誰でも言えるはずだ。
人の本当の心を知ろうとすれば、相手の懐のより深くに身を置かねば知ることはない。
今までそんなことをして来たことはなかった。それは我が子に対してもそうだ。
そして彼女自身されたこともなかった。

だがそれを知ってなんの意味があるのだろう。他人に見せようとしない心を深く知る意味はなんなのか。そして、見せたくないものを、無理矢理知ろうとするのは何故なのか?
それは、多分愛と呼ばれる感情なのだろう。自分でない誰かを愛する。それが人生の全てのように思う人間は世間に多い。だがそれに囚われてしまったばかりに、人生を駄目にする人間が多いのも確かだ。そして人の心は移りやすい。いつまでも同じ人間に固執する人間の方が稀なのではないだろうか。
だが、息子は、固執した。
ただひとつの愛に。





楓は、家同士の約束で貴と結婚し、望まれていた男の子を産んだ。
財閥の中のホテル部門の経営を任されているが、司の母親でもある。
これまでの楓にとって手に負えない難題は何であったかと聞かれれば、ホテル経営ではなく、息子である司のことだった。

親のいない子供時代を過ごした息子が、一人の少女と出会った。
牧野つくしという名の少女に。そしてその少女に恋をした。
貧しい家庭に育った少女は、産まれながらに手にしていたものが何かあったのかと問われれば、親の愛情ではないだろうか。あの子の両親も少なくとも若いころは、金に貪欲とは言えない暮らしをしていたはずだ。そして、結婚したばかりの若い夫婦というのは、家族を増やす夢を見るはずだ。

家族を増やし、そしてその子供らに愛情を注ぐことが本来の家庭の在り方だろう。
だが金銭的な面での苦労が絶えない家庭だった。
あの少女は貧しい家の土に育った雑草だと自分を揶揄したが、痩せた土からでも育つ雑草は、明るく前向きに生きることを是非とし、何かいさぎよい勢いを持った少女だった。
そんな少女に大きな瞳で見返された時のことを、今でも思い出すことが出来る。

世の中にあるありとあらゆる最高の物を手にすることが出来る息子の選んだ相手は、道端の石にも等しい少女。そんな少女を好きになった息子は、それまでの生き方を変えようとした。
あの子は、司はあの頃、牧野つくしと出会ってから、意志の闘いを挑んで来た。
彼女のためなら道明寺の家を捨てていいといった態度。楓はその闘いに応じた。
そして二人の恋を終わらせようとした。だが出来なかった。

だが夫が二人を別れさせることに成功し、その後の息子は、夫の期待通りの人間として財閥のトップを担える男へと変わっていた。冷酷非情な男としてビジネスの世界を生き抜いて来た。
そして、道明寺という大きな企業を担う男には、そのパートナーとなる妻は選ばれた人間でなくてはならない。そんな考えは夫にもあった。

渡米して間もない頃、スイスの大手製薬会社社長令嬢が、司の子供を妊娠したことがあった。
産まれることは無かったが、血筋の良さでは問題ない娘だと言われていた。
あの製薬会社は多くの特許を有し縁組は願ってもないことだった。だがあの子が結婚する気がないのはわかっていた。司にとって女は性の捌け口であって、家柄がとんなに良くても、容姿が優れていても評価の対象にさえならなかった。

牧野つくし以外は。


あれからもう10年が経つ。だが息子はあの少女を忘れることがなかった。
司もあの娘、牧野つくしもあの頃の想いを抱えたまま大人になり、再会した。ただし、その再会の方法は問題になりかねない犯罪行為だ。
牧野つくしを監禁し、彼女に子供を産ませようとしていた。異常とも言える行為は、気が狂ったとしか言えなかった。まさに狂気とも言える恋だ。

世田谷の邸の地下に監禁した牧野つくしに会おうとしたが、会う事は出来なかった。
あれから息子の行動の報告を受けていたが、牧野つくしを世田谷の邸から山荘に移し、度々訪れていたのは知っている。
そんな中、彼女は狙撃された。
そしてそれから司のあの娘に対する気持ちは変わっていた。

息子の人生の重要なページといったものが、10年前、二人が共に過ごした短い時間だとすれば、この10年の人生は、破り捨てたいはずだ。

あの子にとってのこの10年はいったい何だったのか。
あてのない虚無の世界を漂っていた10年だったのかもしれない。
それは、支配者の配下にある場合のみ生存出来る世界。
道明寺財閥という巨大な支配者の下にいた男の10年だったはずだ。







帰国した楓は数日後、司に会う約束を取り付けた。
親子であれ、どちらも忙しい身分。実の息子であっても、秘書の頭越しに本人と会う約束を取り付けることは出来なかった。そしてそれは、ともすれば時間を割くつもりはないのかと思えるほど待たされた末の面会だった。


「いったい何の用があってわざわざ東京くんだりまで来たんだか知らねぇが、あんたのその顔は何でもお見通しって顔だな」

社長執務室に現れた母親に対し、冷やかな声の開口一番がその言葉。
司は執務デスクの椅子に腰掛け脚を組み、煙草を吸い、楓を睨みつけていた。
どんなに離れていても、その女性から漂ってくるのは、揺るぎない自信と気高さ。
普通の親子関係ではない二人の間に流れる空気は冷たく、緊張感が感じられた。

司は数ヶ月前、世田谷の邸を訪れた楓に会っていたが、目の前にいる母親が何をしに来たのかとは問わなかった。
つくしが銃創を負い、そして一緒に暮らし始めたことが、知られているのは当然のこと。今まで何も言ってこなかった方が不思議なくらいだ。
だが彼が言いたいことは決まっていた。

「あんた、あいつが銃で撃たれたこと知ってたんだろ?今まで何も言ってこなかってことは、知ってて高みの見物ってところか?あんたもあいつが死ねばいいと思ってた口か?それにあんた知ってんだろ?誰があいつを狙わせたか。それともあの男が失敗したから今度はあんたが何かするつもりか?・・あんたらどこまであいつが気に入らねぇって?」

牧野つくしが五月蠅い虫のようだと、目をくれようともしなかった。
いつも自分たちの仲を邪魔してきた母親が、今度はいったい何をするのか?
そう考えるのは当然だ。そして次に口を開いたとき、母親の口から放たれる言葉は決まっているはずだ。

『そのとおりよ。気に入らないわ。あんな女とは別れなさい』と。

「黙ってねぇで言いたいことがあるなら言えばいい。その為にここに来たんだろ?あんたもあの男も、牧野つくしに対して気に入らねぇことばかりだろうからな」

久し振りに会った母親だとしても、喜びなど微塵もない刺々しい冷淡な態度。
人を威圧する態度はどちらもそうだが、司のその態度は、楓の上をいっていた。

「司。聞きなさい。わたくしは何もするつもりはないわ。それにもしあれが、あの人の指示だとしても、わたくしは関与などしていません」

何もするつもりはない・・
以外な言葉に司は耳を疑った。

「信じられねぇな」

「わたくしは良い事だろうが悪いことだろうが嘘は言いません」

「フン。どの口が言ってんだか分かったもんじゃねぇな。あんた、10年前あいつに対して何をしたか忘れたわけじゃねぇよな?」

10年前、まず二人の交際に反対し、仲を裂こうとしたのは母親だ。
身分が違う、氏素性の知れない貧しい家庭の娘など言語道断だと切り捨てた。
司の姉は、親が決めた相手と結婚した。相手はロスに住む大金持ちの男性で、利害関係が一致し、メリットがある相手だ。それは戦略的な婚姻。そんな結婚は、司の住む世界ではあたり前のこととして受け止められていた。

それに対し牧野つくしは、財閥に利益などもたらさない貧しい家の娘。絶対に認めるわけにはいかないと、楓は言い放った。

それから二人の交際に対しての妨害が始まった。やがて母親の手に負えなくなれば、父親が乗り出して来た。将来の財閥当主の運命に道端の石は関係ないと、つくしの周りの人間にまで怒りがぶつけられることになり、金に目が眩んだ女が司を捨てたといった印象を与えると、女に対し憎悪を植えつけることをした。そしてそのことを信じた男は、彼女を憎みながら生きてきた。我が子の心を捻じ曲げるあの男の行動が、果たして父親と言えるのだろうか。
平気で我が子の恋を打ち砕く、冷淡な男に対する今の感情は、憎悪以外なにものでもない。



楓は司の問いに答えなかった。
だが別の言葉が口をついていた。

「あなた、あんなことをしたのが自分の父親だとして、今後もその男とかかわりたいと思うかしら?それにその家族との関係はどう考えてるのかしら?」

「その家族ってのが自分のことを言ってるなら、俺には家族なんて初めからいなかったんだ。かかわりもなにも関係ねぇんだわ。それにあの男にこれ以上かかわるつもりはない」

「そう。わかったわ。では正直に言いましょう。流石に今回のことは、正直驚きました」
貴のとった行動は、楓の理解を越えていた。
「まさかあの人が・・牧野さんを殺そうとするとは思わなかったわ。・・もちろん、USBメモリのこともあるでしょうけど、わたくしは道明寺楓であり、企業人であるけど、あなたの母親です」

楓の口から出たあなたの母親といった言葉。
司にしてみれば、今更優しい言葉をかけたりする行為は通じない。

「たとえあなたがわたくしとの血の繋がりを否定したくても、あなたはわたくしの血を別けた子供です」

父親も同じことを言った。
おまえの身体はわたしの血で出来ていると。

「司・・あなたはあの人の血だけを受け継いでいるわけではないわ。わたくしの血も受け継いでいる。こんなことを言っても今更だと思うかもしれないわね。でもあなたがこれ以上不幸になるのは見たくないわ。・・あなたはわたくしがお腹を痛めて産んだ子ですもの。それにあなたの父親は、あなたとは血の繋がりがあってもわたくしとは血は繋がってない。わたくしとあの人は、所詮他人・・。一番近いところにいる他人よ。わたくしの言いたいことは分かるかしら?」

夫は他人。
だが家族。
家族の定義とは、いったいなんであるのか?
子はかすがいという言葉はあるが、道明寺楓にとって貴は単なるビジネスパートナーだ。
その貴が取った行動は、あまりにも常軌を逸している。牧野つくしを殺そうとするなど、財閥の会長であった男が考えることではないからだ。それにもし、牧野つくしに何かあれば、司自身が壊れてしまうかもしれない。そんな想いが感じられるようになったのは、司がつくしを失いそうになった時の状況を聞かされたからだ。手に入れた彼女を再び失うことになれば、今度は後を追ってしまうのではないか。そう感じさせる何かがあった。
そして、息子が自分の父親を殺めてしまう恐れがあると感じていた。楓とて我が子を犯罪者にしたくない。

「・・俺のことを不幸だなんてよく言えるな?てめぇが不幸の元凶を作ったんだろうが」

道明寺の家に生まれ堕ちたことが不幸そのものだ。時を戻せるものなら、ごく普通の少年時代が送れる環境に生まれたいと願う。この数ヶ月、そんな気持ちに何度も陥った。過去を振り返っては、自分の生きて来た人生を考えた。いったい自分はこの10年何をして来たのか。

「司。牧野さんのこと・・そうね、女性としてデリケートな問題を抱えているのは知っています」

いきなり母親の口から語りだされた言葉。
司はどうして知っているのかとは聞かなかった。
財閥の病院へ入院していれば、医療記録を手に入れることは簡単だからだ。

「卵巣がひとつしかなくても妊娠は出来るはずよ」

「・・あんた、いったい何が言いたい?まさか俺とあいつの結婚の仲立ちでもしようってか?」

楓はいったい何が言いたいのか?
まさかとは思うが、母親として己の息子に懺悔でもしようとしているのか?
喜怒哀楽を表情に乗せることなど滅多となく、能面のような顔をした女が母親であり、感情などない鉄の女。その女がいったい何を考えているかなどわかるはずもないのだが、その口から語られる言葉に耳を疑った。

「赤ん坊が生まれると言うことはそれだけで周りを変えることが出来る。赤ん坊が生まれると奇跡が起こることがあるわ。すべてが許される・・そんなことがあるの。それを起こすことが出来るのは母親しかいないわ。今度メープルでパーティーがあります。それに二人で参加なさい。そしてあの人に・・父親に、彼女を会わせなさい」





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コメント
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dot 2017.05.26 12:10 | 編集
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dot 2017.05.27 01:31 | 編集
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dot 2017.05.27 08:09 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
楓さん、経営者の顔ではなく、母の顔でしたね?
さすがに貴さんの行動は理解できない事のようです。
母親と父親では、考えることは違います。母親はやはりお腹を痛めて産んだ我が子。
血と肉を分け与えた子供といった思いがあるはずです。楓さんも色々と考えていたと思います。
二人でパーティーに参加しなさいと言った楓さんの想いは・・・。
読み返し、ありがとうございます(低頭)
そして「情景」と「いつか晴れた日に」も再読有難うございます。
御曹司も久しぶりに書こうと思っていましたので、そろそろ出番です、エロ坊っちゃん(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.27 21:45 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
楓さん、母でした!今まで貴さんのことも、司のことも報告は受けていたようです。
クールな楓さんですが、やはり母です。息子が不幸になることは、望んでいません。
あまり多くを語らない楓さんには、楓さんの想いがあるようです。
マ**チ様の注目を浴びる楓さん。今後はどう出るのでしょうか。
週末思いっきり夜更かし!!(笑)流石です!!
アカシア週末金曜はヘロヘロでした(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.27 21:52 | 編集
pi**mix様
楓さん、帰国されました。
満を持しての帰国でしょうか。しかし、忘れられていたような気が(笑)
「そう。わたくしのことなんて、貴女には関係ありませんものね?」by 楓
そして楓さん、子育ては難しいと感じていることでしょうね。
そんな楓さん、坊っちゃんの変わりゆく様を感じていたと思います。初めは高校生の頃。そして今回。
大人になった坊っちゃんは、自分の味方になる人間なら、過去の確執は関係ないのかもしれません。
楓さん、何を考えてつくしちゃんをパーティーに同伴しなさいと言ったのでしょうね?
『ギリギリで生きていたい人』(笑)坊っちゃんもある意味ギリギリで生きて来た人ですね?
そして楓さんのリアルフェイスは、果たして・・
坊っちゃんの思春期も色々とありましたので、誰にでも大なり小なり色々とあると思います。
自我はもう充分確立されたお年頃。あとは周りの環境によって人生の変化が見られる年齢ではないでしょうか?
母様、今はこんなものなのね・・と、見守ってあげて下さいね!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.27 22:22 | 編集
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