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2017
05.23

Collector 61

Category: Collector(完)
貴は会長職を退いた。
財閥の経営に大きな影響力を持っていた男の突然の辞任。
司が社長になるまでは、オーナー社長であり、実力のある経営者だった男の突然の行動は、社長から会長職へと退いた以上の驚きだった。それは貴が道明寺の大株主であることもあるが、やはり道明寺貴の名は、政財界に於いて重みがある名前であることを意味していた。その貴が突然辞任したのだ。役員もそうだが彼にかかわりがあった人間は、そのニュースを驚きを持って受け止めた。

そしてついに息子の司が本当の権力の座に就いたと言われた。
だが、常勤役員の大多数は貴が社長だった頃からいる人間だ。例え職を退いたとしても、役員会での話しの内容は貴まで筒抜けだった。つまり、影響力はまだ充分あるということだ。



薄いウイスキーの水割りを呑む男は、東京の邸での司との会話を思い出し、はらわたが煮えくり返っていた。
親を脅迫するとは何事だ。その言葉に返されたのが、『脅迫するなんてとんでもない。注意喚起をしたまでですよ』と言われ、舐めたことを、と思いながら相手の急所を突くことに、熟達した男になったものだと苦々しく思いながらも、息子の非情さを心の中では喜んだ。

親の喉を平気でかっ斬るようなことをする息子を。
そして親子であろうと、平気で対決的な姿勢を取る男となったことを。
貴は、無意識に唇の端を引き上げていた。

牧野つくしの為にそこまでする息子が、その娘と一緒に暮らし始めたと報告を受けたが、驚くことではなかった。
退院した後、行く場所がないあの娘が司と暮らすことは、わかっていた。
だが入籍をしたわけではない。ただ一緒に暮らし始めたといったところに、どちらの意思が働いたのか。それは恐らく娘の方だろう。司なら迷うことなく籍を入れるはずだ。

しかし、一緒に暮らし始めたということは、子供が出来る可能性を考えなければならない。
道明寺家のために後継者は必要だが、あの娘は道明寺の格式に合わない。
司はあの娘に産ませた子供を道明寺の跡取りにすると言ったが、山荘に監禁していた間、妊娠したといった話しはなかった。

娘を自分の元へ縛り付けるため子供を作る。そして親の認めない女との間に子供を作ることで、道明寺という家に復讐してやると言った息子。

それが、妙なる復讐になると_。

だが子供は出来なかった。
司には子供を作る能力はある、と、なるとやはり娘の方に問題があるのか?
あの娘以外と寝る気はないと言い、他の女と子供を作れと言うならパイプカットをすると言った息子は、自分自身を人質にした。そして会社の存続を望むなら、あの娘に手出しするなと脅してきた。


「・・会長。頼まれていたものをお持ちいたしました」

「わたしはもう会長でもなんでもない」

貴は平坦な声で言ったが、秘書から他の呼び名で呼ばれることを考えたことは無かった。
旦那様と呼ぶのは、ビジネスに関係していない使用人だけだ。
NYのペントハウスにいる貴の元へ届けられたのは、牧野つくしの医療記録。
財閥の病院に入院していた人間の医療記録を手に入れることは、貴にしてみれば簡単なことだ。

間接的にしか知らない娘。
写真でしかお目にかかったことはないが、この娘の何がいったい司を惹き付けるのか。
表紙に添えられた写真は、入院中に撮られたものだ。
司に付き添われ中庭を散歩している娘。
黒髪に色が白く、華奢な身体つきの娘。
とてもではないが、男の虚栄心を満足させるような女には見えない。
だが司は高校生の頃からこの娘に心を奪われていた。

貴は受け取った報告書を開いていた。






***






楓は手にしていた書類をデスクの上に投げ出し、机の上に肘をつき、秘書を見上げた。

「それで?司と牧野つくしの件はどうなってるの?」
「はい。退院されたあと、お二人は社長のマンションで一緒に生活を始められました」
「・・そう。それで主人は・・どうしてるの?」
「はい。NYのペントハウスにお帰りになられました。今夜はそちらへ泊られるそうです」
「そう。・・もういいわ。下がって」

楓は司が高校生の頃、付き合い始めた牧野つくしと会っていた。
『俺の大事な女』と言って誕生祝に連れて来た娘。

交際を止めるようにと直接彼女に話をした。だが受け入れようとせず、次に金を提示し、別れさせようとしたが、何者にも負けないといった強い瞳で見返して来た少女は、息子と別れることを断った。
今考えてもあの娘は強い子だった。そして気概のある娘だった。
だが息子の父親によって別れさせられた。

楓は、司が牧野つくしを世田谷の邸に監禁してから、息子の動向を報告させ、状況を把握していた。
あの子は10年間あの娘と会うことはなかった。だが再会してからは、異常な執着を見せ、邸の地下に監禁し、そして山荘に監禁した。
やがて命を狙われるまでになっていた。

あの人がどんな手を使っても、司と牧野つくしを別れさせようとしたのは知っている。
あの娘が命を狙われたのも、あの人の指示だ。

同じ街に住む夫婦と言えど、家族としての機能は無く、ビジネスパートナーとしての関係しかない貴と楓。家同士が決めた結婚をし、濃密な関係などなく、水のない井戸のように乾ききった関係だ。
だが道明寺貴は優秀な人間だ。優秀で用心深い。
それはビジネスだけではない。人を動かす術も熟知している。政治家や官僚、国家権力に至るまで幅広い影響力を持っている。それには金が絡んでいることは間違いない。賄賂の受け渡しがあったことは容易に想像がつく。なにしろ、財閥と政治家との癒着は昔からあった。そしてそのことの一端が露呈しようとしたとき、何らかの手を打ったはずだ。それがなんであったとしても、あの人は説明することはない。

それはリスクの拡散を防ぐ意味もあるはずだ。
知られたくない秘密が漏れるのを防ぎたいと思うなら、人に話さないことが一番だからだ。
だがいくら用心深くても、漏れるときは漏れる。役員室が並ぶ最上階で、怪文書が出回った話しが耳に入った。その内容は本当の話だろう。そしてその文書を貼り出したのは司だ。
あの子が手を打ったに違いない。あの娘の為に。

あの頃、あの娘の為なら道明寺の家を捨てるとまで言った息子。あの頃の言葉を実践してはないが、10年後の再会は、思わぬ形であの子の願いを叶えたようだ。今は共に暮らしていると報告を受けた。

楓は数ヶ月前、世田谷の邸で司と交わした会話を思い返した。
あの娘に自分の子供を産ませると言い放ち、道明寺の家を継がせると言った。
あのときの目は牧野つくしを憎み、親を憎む目だったが、少なくとも今は、あの娘に対する目は違うはずだ。17歳の頃から二度と笑わず、誰も愛さず、この先何が起ころうが関係ないといった目つきになった息子。ビジネスだけは親の望み通りの働き、いや、それ以上の働きだったが、人ではなかった。だが今は、ひとつだけ明らかなことがあるはずだ。

楓は秘書に通じるボタンを押し、伝えた。

「東京に行くわ。支度をして頂戴」





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コメント
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dot 2017.05.23 08:09 | 編集
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dot 2017.05.23 08:14 | 編集
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dot 2017.05.23 13:30 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
貴さんとは呼べない司パパ(笑)
確かに名前で呼べる人間ではありませんね?
楓さんは司がつくしちゃんを世田谷のお邸に監禁したとき、息子の動向を知らせるように、と指示を出していました。どうやら司パパとはまた別のルートのようですね?
楓さんと貴さんはビジネスパートナーのようなものです。
司という道明寺の跡取りを作る為、結ばれた男女ですからねぇ。
色々と疑問もあると思いますが、徐々に・・でしょうか。
>いつまでも奥さんを妊娠させる自身がある!(笑)
素晴らしいですね!海外、特に欧米ではそういった方も多いと聞きます。
司くんも同じような自信があるかもしれませんね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.23 22:37 | 編集
す*ら様
おはようございます^^
>治療を諦めたとたん自然妊娠・・
仰るとおり、そういったお話もよく耳にします。
こればかりは、授かりものですから、「コウノトリのご機嫌に任せる」しかないと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.23 22:39 | 編集
pi**mix様
「アイアンマン、マ」←上手い!(笑)
鉄の女と呼ばれる楓さん。車をゴルフクラブでガンガン壊された楓さん。
あの車はどうなったのか気になるところですが、廃車でしょうね?(笑)
楓さんの帰国の目的はなんでしょうね?
そして貴さん。何を考えているのか分かりません!
坊っちゃん我慢してたモノを我慢しなくてよくなり、アレコレ忙しい(笑)
邪魔すんじゃねぇよ!・・と怒りそうです。
まあ、坊っちゃん、少しご褒美もあったということで、また頑張りましょう。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.23 22:49 | 編集
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