*性的表現があります。
未成年者の方、もしくは、そのようなお話しが苦手な方はお控え下さい。
息を止め抱きしめる。
それがこの瞬間の正しい行いに思えていた。
司は自分の心臓の鼓動が早く打つのに驚き軽く笑った。今まで何度抱いてもそうはならなかった己の胸。だが胸に押し当てられた彼女の温もりが、たったそれだけのことだと言うのに、そんなひどく単純な行為が鼓動を早めていた。
これまでの人生の中、ビジネスに於いてどんな状況に置かれようが、心臓が鼓動を早めたことなどなかった。今、彼が感じているそれは、単なる胸の筋肉の収縮ではない。この胸の鼓動は、心の中の気持ちの表れ。少年時代に感じた魂の緊張。そして、そうさせるのは彼女だけ。彼を心底怯えさせることが出来るのも、その魂を揺さぶることが出来るのも彼女だけ。
魂などないと思われていた男でも、心の奥底にはガラスケースに入れられた魂があり、注意深く封印されてはいたが、本音を吐露し続けていた。
淋しいと_。
淋しさで狂ってしまいそうだと_。
だがこの10年、鋼のような心だと言われていた男は、その鋼を刃物とし、他人を傷つけた。
司の人生の言葉に愛といった言葉はなく、棘を含んだ口調に他人を敬う言葉もなく、聞く者を冷たい気持ちにさせる言葉ばかりだった。そして、彼女に言った言葉の数々を思い出し、その言葉にあまりにも嫌悪を感じると、自身を罵倒しなければならないと嘲笑した。
だが今の彼が口にする言葉は、その声は、優しい音色を含み彼自身を幸福にさせる言葉。
それは、この瞬間彼が愛している唯一のものが腕の中にあったからだ。
魂が求めて止まなかった愛し人。
この世で欲しかったたった一人の人。そんな人を抱いているからこの鼓動は起こるのだ。
もし今この瞬間、時を止めることが出来るなら止めてしまいたい。
今夜が身も心も解き放つ夜だとすれば、その夜が永遠に続いて欲しい。
そして出会ってから今日までの日を振り返ることが出来るなら、何を一番に思う?
それは、何度も何度も頭に浮かんだ、さよならと告げられたあの夜。
晴れた午後がいつしか雨雲に覆われ、ザアザアと激しく降る雨となった夜。
世界の全てがどうでもいいと思ったあの雨の夜。
そんな中、感情の全てを剥き出しにし、放った言葉のひとつひとつが思い出されていた。
一人の男として見たことがあるか_。
全てを取っ払って、ただの男として見たことが一度だってあるか_。
高揚していた胸の高まりは、届けられたはずの想いは、雨と共に流されて行った。
そこから先は、ありもしない暗い迷路に自ら滑り込み、そして地の底へと堕ちていった。
人生は虚無だけがあり、後悔も満足もない。やがて好きだった女への憎しみを覚え、そしてそれが渇望へと変わっていた。
どうしても忘れられず、引き寄せられてしまったのは、やはり運命。そして手に入れた女性。今は、ひざまずいて近寄りたいほどの愛しさが溢れ、予想を超す力で、気持ちが彼女に縛り付けられていくのが感じられる。
それは、あの頃以上に彼女を愛しているからだ。
そして愛されていると知ったからだ。
決められていたレールの上を走るのを辞めた男の遅すぎた恋かもしれない。だが、それでも掴んだその手を二度と離したくない。
今ならふたり疑うことなくひとつになれるはずだ。
何を疑うことがないのかと聞かれれば、それは互いを想う気持ちはあの頃と変わらないということだ。
幾度季節が廻ろうと、どれほどの時が流れようと、あの頃の想いは変わらない。
そしてこうしてこのまま、ただ抱きしめていたい。
そう思えど、身体は正直なもので、スラックスの中の、自分の性器がどういう状態であるか確かめなくとも分かっている。
血が騒ぐといえば大袈裟かもしれないが、胸の中がざわめくのが抑えられなかった。
司はつくしの目だけを見て、その思いを伝えた。
おまえが欲しいと。
おまえを抱きたいと。
そして愛したいと。
だが無理矢理抱くことはしたくない。
今まで、無理矢理犯す強姦のかたちをとっていた。肉体だけを弄び、突き立て、それを愉しんでいた。彼女への感情は、男が女に抱く感情以上のものを含んでおり、自分を捨てた女を支配することの楽しさを感じていたこともあった。
復讐心の強さだけがあった山荘での性交。そして、そこにいたのは大きな過ちに気付かず、何を目にしても真実など知ろうともしなかった男がいた。父親と同じ、自分以外の人間を相手にするとき、必ずと言っていいほど心の中に湧き上がる傲慢さを持ち、狩りに失敗したことがない獣の冷淡さを持つ男。それは、今まで誰にも自分の獲物を奪われたことがない、逆に他人の物を奪い取って、栄養としていく獣だ。それが財閥の姿であり司の姿だった。
本当なら、もっと言葉を重ね、時間を重ねるべきだ。
そして傷ついたその身体を労わってやることが必要なはずだ。
だがどうしても、今夜、彼女が欲しい。
この身体を使い、愛を伝えたい。
言葉はなくとも、互いの心の中は、見えている。
この瞬間、二人の心にあるのは同じ思い。それは互いの愛を相手に伝えたいといった思い。
今の司は、あの時と同じ、全てを取っ払って、かつて二人の間にあった幸福な時間ともいえるあの数ヶ月の何分の一でもいいから欲しかった。
そしてその想いは、ようやく叶えられようとしていた。
重ね合わせた唇に、愛の言葉は乗せられていたのだから。
遠い昔の初恋は、たった今、司の腕に大切に抱かれベッドルームへ運ばれた。
「・・まきの・・俺は・・おまえが・・おまえを愛させてくれ・・」
「・・道明寺の胸に触れたい・・触れさせてくれる?」
共に口から出た言葉がおかしく、今更だろといった顔した司。
10年前、彼の世界に思いもよらぬ形で侵入してきた少女の面影を残す女性の顔は、少し恥ずかしそうにほほ笑んだ。
だがあの頃と違い大人になったそのほほ笑みは、かつて童顔だと思われていた顔を年相応に見せた。そして未だどこか成熟しきれてない少女の雰囲気がある、そんな彼女の無垢を容赦なく奪ったのは司だ。優しく愛されるべき女性を無理矢理犯した。
自由を奪い、縛りつけ、奪った。
それはまるで己の人生がそうであるのと同じように自由を奪った。
だが二人の止まったままの時を、止ったままの時計を動かしたい。
触れたいと言った胸のシャツのボタンを外す行為を彼女にして欲しい。
その指先がシャツを滑る姿が見たい。
少しくらいの我儘なら許されるはずだ。
司は少し意地悪な目でつくしを見た。
「・・おまえが外してくれないか?」
既にネクタイは外され、一番上のボタンは外されていた。
離れていたつくしの顔が近づき、25センチ下に見えるつむじと、細い指が上から2番目のボタンにかけられ、ゆっくりと外された。そして次のボタンへと進み、やがてシャツを滑る指先は、スラックスに押し込まれた場所まで辿りつく。
だが、はだけたシャツから覗く、見事に割れた腹筋に、指先はそれ以上進めないと戸惑っていた。
「・・ボタンはまだあるぞ?」
とは言え、それ以上進む勇気がないようだ。
そんな態度に今更だろ、の思いがあるが、これまで行われた行為は、決して合意の上ではなかった行為。それは、愛し合ったものではなく、性による暴力。男の一方的な交わり。
自分自身が許せなかった。だが、そんな疚(やま)しさを抱えた男を受け入れてくれる女は、司にとって何よりも大切な女性だ。
司は、動きを止めた指を掴み、ゆっくりと持ち上げ、口に含んだ。
驚いて逃げようとする指を歯で掴まえ、唇で包み込み、湿った舌で舐め、しゃぶった。
そして愛おしそうにきつく吸った。やがてその行為は5本の指全てに行われ、それは、獣が捕らえた獲物を、どこから喰らおうかといった姿に似ていた。
秀麗な男が女の指を咥えるといった姿を見た人間がいるとすれば、それはつくしが初めてのはずだ。視線はつくしをじっと見据え、指先を愛おしげにしゃぶる姿は妖艶で、身体中の全神経がその指先に集まり、疼きを感じられた。
攻撃的で破滅的な美しさを持つ男。
その気になれば、どんな美女も手に入る男。
富も名声も併せ持つ男。
そんな男が、たったひとつだけ手に入らなかったのは、今彼が愛おしそうに舐める指を持つ女性。司にとっての特別な人は、その指先まで愛おしいのだ。
そして、特別な人から愛された人間は、愛を返すことを知った。
それは愛する人の想いを知ったからだ。
もう決して一人にはならないと知ったからだ。
彼は彼女無く生きていくことは出来ない。
孤独の影は10年間司に付き纏っていたが、今はもう、その影は消えた。
司に吸われ、湿った指は戻ってきたが、つくしの女の部分は濡らされていた。
何度抱かれても、自らが濡れたことなどなかった女の身体。だが、今は自身の内側が熱を持ち、目の前にいる男を欲していた。
スーツの上を脱いだ男は、途中まで外されたワイシャツの最後のボタンを外し、自ら全てを脱ぎ捨てた。
そして、裸になった男の手は、女のカーディガンを床に落とし、ワンピースのファスナーを下ろし、足元に落とした。それからスリップになった女を、切れ長の目で見つめた。
本当にいいのか、と。
その問いに、潤んだ目で返されたのは、スリップの両肩紐を落し、下着も取った姿。
つくしは、戸惑うことなく司の目に裸体を晒した。
丸みのある可愛らしい乳房がツンと上を向き、誇らしげに司を見たが、肌は入院生活の間、陽射しに触れなかった人間の独特の白さがあった。そして身体に残る銃弾による傷が痛々しかった。
司はつくしをベッドに横にならせ、自分も乗り上げた。
初めて抱いたとき、腹部に残る手術の傷痕には気づかなかったが、よく見れば薄く色が残る箇所があった。そこに向かって降ろされた唇は、愛おしげにキスをし、舐めた。
そしてまだ生々しく残る傷痕に唇を落し、優しくキスをした。
「・・つかさ・・」
ベッドで初めて呼ばれた名前。そして彼に向かって伸ばされた細い腕。
司は、つくしの胸に覆いかぶさったが、自分の体重で押しつぶすことがないようにと気遣った。
優しくしたい。苦痛を与えたくない。
本来なら女のはじめては、優しくしなければならなかった。
だが闇の底に暮らしていた男は、彼女のはじめてを、苦痛を与えるだけに変えてしまった。
司は女を抱いて切なさなど感じたことはなかった。だが今、それを感じていた。
身体の傷はやがて消える日が来る。もしそうでなければ、傷痕を消す手術もある。
だが、心に付けられた傷は消えることはない。
だが彼女は言った。
許すと。
過ぎたことを気にしても仕方がないと。
最悪の道明寺はもういないんでしょ?と。
司の唇は、もう二度と彼女を貶めるような言葉を口にすることはない。
その手も身体も、もう二度と彼女を傷つけることはない。
そして、愛のないセックスは、もう必要ない。
だがその代わり、彼女を全身全霊で愛することは出来る。
「・・あっ・・・」
喉の渇きを潤したい。
スラックスの中で、とどめていた生き物は、はっきりとした意思持ち彼女を欲しがった。
だが今夜は、彼女に快楽の忘我を味合わせることが目的だ。そして彼女を喜ばせたかった。
司が繰り返して来た行為は、男のエゴ。本来なら彼女にそれを押し付けることは、するべきではなかった。と、思えど、彼女に手を触れないでいることは出来ないのだから、なすべきことは決まっていた。
歓びだけを、本来ならそれだけを受け取るべき身体を愛したい。
体温の高い男は、白い身体が徐々に赤味を増していく姿を愉しんだ。
決して押しつぶさないようにと、だが確実に身体を固定するように、閉じられていた脚の間に身体を置き、唇を重ね、その首に舌を這わせた。そして、抱え込まれるように掴まれた頭を徐々に下げた。肩を甘噛みし、唇でなぞり、やがて舌が左右の胸の頂きをなぶり、唇が含み、吸った。そして噛んだ。
「はっ・・あっ・・ん・・」
途端、女の身体を震わせる波がおき、その波は下半身へと伝わった。
そして白い乳房を食べ、頭をゆっくりと下へ動かし、両手は柔らかく曲線を描く身体をゆっくり下へと這った。尖らせた舌先で、臍を舐め、そしてまろやかな丸みを持つ臀部を掴み引き寄せた。両ひざの裏に手をかけ、脚を大きく開かせ膝を曲げ、胸元まで持ち上げ隠されていた全てをさらけ出す。
「ああっ!!・・ダメっ・・!!そんなこと・・っ!!」
司はその声を聞きながら、何も言わなかった。
唇がつくしの下半身の一番柔らかい場所を味わっていたからだ。
その場所は、彼自身を何度も包み込んだ柔らかい襞がある温もり。
大切に守るべき果実が実り、それがわずかな舌の動きにも反応すると、震えながら甘い蜜を流す場所。そして女らしい濃厚な香りがする場所。
その場所を、巧妙に舌をくねらせながら、じっくりと味わった。
「やぁ・・ああっ・・ああっ!」
過去にもその場所に口づけたことがある。だがそれは、やさしさの欠片もない、女を煽るだけの野蛮な行為。よじる身体を、腰を押さえつけ凌辱ともいえる行為。
だが今は違う。春の雨が草木を芽吹かせるように、その場所にある花芽を咲かせたい。
そして子供を産むことが出来ないかもしれないと言ったつくしを慰め、癒したい。
そんな思いから指で寛げ、蜜が溢れる芯をなめまわし、吸い上げ、敏感な突起を転がした。
「・・あ・・んっ・・あっ!!・・だめぇ・・」
駄目だと上がる声が、司に何をして欲しいとは言わなくとも、彼には分かる。
決してそれが過去の女との経験のせいではない。
他の女にそんなことをしたことはない。
だが、彼女には、牧野つくしには望んで求めていた。
彼女の全てが欲しい。
世界で一番欲しい人。
もっとその声が聞きたい。
そして彼女が快楽に震える姿が司に歓びを与えていた。
舌はその声を上げさせるために、さらに強く動く。
「ああっ!!・・や・・ダメ・・・やっ・・つか・・!!」
あの頃、こうして抱き合う夢を見たことがあった。
それは少年の夢想とでも言えばいいだろう。
だが、初心な彼女を無理矢理抱くことが出来るはずもなく、ただ手を握るだけでも良かった。
重ねた手の温もりと、その小ささに守るべき人は彼女だと知った時でもあった。
そしてぎこちなく、寄せられた唇が嬉しかった。
青いと言われた二人の恋。
遠回りしたが、もう決して離れることはない。
芯から溢れてくる蜜をさらに味わおうと、2本の指を差し入れ、きつく絞められる感触を楽しみ、敏感な突起を吸い上げた。
「・・・・っ・・ああっん・・ああん・・ああっ!!」
「・・欲しいか?」
下半身から聞こえた声は、羞恥に赤く染まった女の顔をさらに赤くした。
口をつく呼吸は、喘ぎとなり、返事にはならなかった。
「・・つくし・・・俺が欲しいか?」
本来の機能を果たしたいと待つ高まりは、彼女の中に入りたがっていた。
返事は無いが、荒い息遣いと見つめる目が訴えていることは、ひとつだけ。
あの頃と変わらず初心な女は、言葉にして出すことを躊躇っていた。
だが、男を駆り立てる仕草はなくとも、その目が、その口が、そして彼女の全てが伝えていた。
あんたが欲しいと。
目の前で艶めかしく濡れ、男を誘う香りが立ち昇るその場所が、先ほどまで舌で味わった甘美な場所を、欲しいと求める己の分身が、ほんの少しだけでもと先を急ぐ。
だが今夜は己の欲望のためでなく、彼女に最大の歓びを与えたい。
「・・つかさ・・」
やがて小さな声が遠慮がちに名前を呼ぶ。
「・・おねがい・・司が・・欲しい・・」
今まで抱いたどの女も口にしたその言葉。
女にしてみれば、金があり、地位があり、美貌があればそれでいい。求めるのはそれだけで、心を求められた訳ではない。その言葉通り望むものを与えることをしたが、それは動物的行為で男の生理を解消するだけの行為。
性を結合するだけの関係は誰でもよかった。
だが、心を繋ぎ合わせることは簡単ではない。
司の心を掴んで離さなかった少女。
だが今はひとりの大人の女性。
その女性が欲しいと言っていた。
その表情は心からの想い。
心から好きな人と結ばれる人間は、世界中でどれだけいるのか?
胸が締め付けられた。こうして抱き合うことを夢見ていた。
「・・・俺を・・・俺を全部・・やるよ・・」
二人の時はこれから始まる。
あの日、一度は終わった関係は、これからまた始まる。
首に回された細い腕は彼の身体を抱き寄せた。
既に何度も繰り返された行為だが、こうして強く求められるのは初めてのこと。
司は自身の先端が、まるで意志を持ったようにその場所を求めているのを感じていた。
だが呻きたくなる声を抑え、脚をさらに広げ抱え上げると、先端を深くうずめた。
「ああっ!!」
ぐっと締め付けられたが、暫く動かず彼女に呼吸をさせ、じっと見つめていた。
身勝手に奪ったことを思い出し、あの時彼女の顔に現れた悲痛を思い出し、苦しい息づかいをコントロールし、動き出すことをしなかった。
「・・あのときのこと・・許してくれるのか?」
再び聞かずにはいられなかった。許すとは言われたが、それでも無理矢理奪ったことへの後悔はある。
「・・愛してる・・道明寺・・だから道明寺は・・道明寺でいてくれたらいい・・」
囁かれた言葉が自分らしく生きればいいと言っていた。
それは司の顔に浮かんだ、苦悩を感じてのことなのか、それともまた別の意味なのか。
だが今はどちらにしても、彼女の瞳はもう何も言わないで愛してくれたらいい。太陽の輝きにも似た黒い大きな瞳は、そう言っているように思えた。
司は慎重にゆっくりと動きだし、やがて腰を勢いよく打ちつけ始めた。
息を荒げ、キスを繰り返しながら二人だけが訪れることが出来る世界へ向けて。
だがそれは欲望ではなく、愛のため。彼女の中に愛を注ぎたい。ただその想いだけ。
そして彼女に歓びを与えるためだけに。
「・・・あっ・・ああ・・・・あ・・」
肩をつかむ指が食い込んだ。
強く、決して離さないと。
歓びを与えようとした男は、逆に彼女から歓びを与えられていた。
深く突くたび、もう離したくないと襞が司自身を咥えこみ離そうとしない。
「・・く・・・つくし・・」
これは夢ではなく現実。
心も身体も全てをさらけ出し、互いの汗が混じり合い、唾液も体液も全てが混じり合いひとつになる。二人して溶け合ってしまってもいいとさえ思えるほどの甘美な拷問。司はいっそう激しく突き始めた。
「・・・愛してる!・・つくし・・・おまえに・・会えて・・よかった・・」
激しい息遣いの中、放った言葉は、自分を求めてくれる、ただの男として求めてくれる女性に向けた感謝の言葉。そして、そんな女性に再び巡り合えたことを神に感謝していた。
かつて自分を捨てたと女を憎み、激しい執着心を持っていた男は、自分の中に閉じ込めていたあの頃の少年と出会っていた。
司の10年は、失意と孤独に囲まれ暗闇に暮らしたが、どんなに時が経とうが変わらぬものはただひとつ。
牧野つくしだけを愛していたこと。
彼女以外欲しくなかったこと。
そして、彼女も他の誰も愛さなかったこと。
身も心も解き放つ夜といったものを感じたのは、はじめてだ。
今なら長い間、分からなかったことも全てが分かる。
自分に死が訪れるときまで、付き合わなければならない押し付けられた運命は必要ない。
降りしきる雨のなか、なすすべもなく立ち尽くしていた男の10年は、今夜終わった。

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息を止め抱きしめる。
それがこの瞬間の正しい行いに思えていた。
司は自分の心臓の鼓動が早く打つのに驚き軽く笑った。今まで何度抱いてもそうはならなかった己の胸。だが胸に押し当てられた彼女の温もりが、たったそれだけのことだと言うのに、そんなひどく単純な行為が鼓動を早めていた。
これまでの人生の中、ビジネスに於いてどんな状況に置かれようが、心臓が鼓動を早めたことなどなかった。今、彼が感じているそれは、単なる胸の筋肉の収縮ではない。この胸の鼓動は、心の中の気持ちの表れ。少年時代に感じた魂の緊張。そして、そうさせるのは彼女だけ。彼を心底怯えさせることが出来るのも、その魂を揺さぶることが出来るのも彼女だけ。
魂などないと思われていた男でも、心の奥底にはガラスケースに入れられた魂があり、注意深く封印されてはいたが、本音を吐露し続けていた。
淋しいと_。
淋しさで狂ってしまいそうだと_。
だがこの10年、鋼のような心だと言われていた男は、その鋼を刃物とし、他人を傷つけた。
司の人生の言葉に愛といった言葉はなく、棘を含んだ口調に他人を敬う言葉もなく、聞く者を冷たい気持ちにさせる言葉ばかりだった。そして、彼女に言った言葉の数々を思い出し、その言葉にあまりにも嫌悪を感じると、自身を罵倒しなければならないと嘲笑した。
だが今の彼が口にする言葉は、その声は、優しい音色を含み彼自身を幸福にさせる言葉。
それは、この瞬間彼が愛している唯一のものが腕の中にあったからだ。
魂が求めて止まなかった愛し人。
この世で欲しかったたった一人の人。そんな人を抱いているからこの鼓動は起こるのだ。
もし今この瞬間、時を止めることが出来るなら止めてしまいたい。
今夜が身も心も解き放つ夜だとすれば、その夜が永遠に続いて欲しい。
そして出会ってから今日までの日を振り返ることが出来るなら、何を一番に思う?
それは、何度も何度も頭に浮かんだ、さよならと告げられたあの夜。
晴れた午後がいつしか雨雲に覆われ、ザアザアと激しく降る雨となった夜。
世界の全てがどうでもいいと思ったあの雨の夜。
そんな中、感情の全てを剥き出しにし、放った言葉のひとつひとつが思い出されていた。
一人の男として見たことがあるか_。
全てを取っ払って、ただの男として見たことが一度だってあるか_。
高揚していた胸の高まりは、届けられたはずの想いは、雨と共に流されて行った。
そこから先は、ありもしない暗い迷路に自ら滑り込み、そして地の底へと堕ちていった。
人生は虚無だけがあり、後悔も満足もない。やがて好きだった女への憎しみを覚え、そしてそれが渇望へと変わっていた。
どうしても忘れられず、引き寄せられてしまったのは、やはり運命。そして手に入れた女性。今は、ひざまずいて近寄りたいほどの愛しさが溢れ、予想を超す力で、気持ちが彼女に縛り付けられていくのが感じられる。
それは、あの頃以上に彼女を愛しているからだ。
そして愛されていると知ったからだ。
決められていたレールの上を走るのを辞めた男の遅すぎた恋かもしれない。だが、それでも掴んだその手を二度と離したくない。
今ならふたり疑うことなくひとつになれるはずだ。
何を疑うことがないのかと聞かれれば、それは互いを想う気持ちはあの頃と変わらないということだ。
幾度季節が廻ろうと、どれほどの時が流れようと、あの頃の想いは変わらない。
そしてこうしてこのまま、ただ抱きしめていたい。
そう思えど、身体は正直なもので、スラックスの中の、自分の性器がどういう状態であるか確かめなくとも分かっている。
血が騒ぐといえば大袈裟かもしれないが、胸の中がざわめくのが抑えられなかった。
司はつくしの目だけを見て、その思いを伝えた。
おまえが欲しいと。
おまえを抱きたいと。
そして愛したいと。
だが無理矢理抱くことはしたくない。
今まで、無理矢理犯す強姦のかたちをとっていた。肉体だけを弄び、突き立て、それを愉しんでいた。彼女への感情は、男が女に抱く感情以上のものを含んでおり、自分を捨てた女を支配することの楽しさを感じていたこともあった。
復讐心の強さだけがあった山荘での性交。そして、そこにいたのは大きな過ちに気付かず、何を目にしても真実など知ろうともしなかった男がいた。父親と同じ、自分以外の人間を相手にするとき、必ずと言っていいほど心の中に湧き上がる傲慢さを持ち、狩りに失敗したことがない獣の冷淡さを持つ男。それは、今まで誰にも自分の獲物を奪われたことがない、逆に他人の物を奪い取って、栄養としていく獣だ。それが財閥の姿であり司の姿だった。
本当なら、もっと言葉を重ね、時間を重ねるべきだ。
そして傷ついたその身体を労わってやることが必要なはずだ。
だがどうしても、今夜、彼女が欲しい。
この身体を使い、愛を伝えたい。
言葉はなくとも、互いの心の中は、見えている。
この瞬間、二人の心にあるのは同じ思い。それは互いの愛を相手に伝えたいといった思い。
今の司は、あの時と同じ、全てを取っ払って、かつて二人の間にあった幸福な時間ともいえるあの数ヶ月の何分の一でもいいから欲しかった。
そしてその想いは、ようやく叶えられようとしていた。
重ね合わせた唇に、愛の言葉は乗せられていたのだから。
遠い昔の初恋は、たった今、司の腕に大切に抱かれベッドルームへ運ばれた。
「・・まきの・・俺は・・おまえが・・おまえを愛させてくれ・・」
「・・道明寺の胸に触れたい・・触れさせてくれる?」
共に口から出た言葉がおかしく、今更だろといった顔した司。
10年前、彼の世界に思いもよらぬ形で侵入してきた少女の面影を残す女性の顔は、少し恥ずかしそうにほほ笑んだ。
だがあの頃と違い大人になったそのほほ笑みは、かつて童顔だと思われていた顔を年相応に見せた。そして未だどこか成熟しきれてない少女の雰囲気がある、そんな彼女の無垢を容赦なく奪ったのは司だ。優しく愛されるべき女性を無理矢理犯した。
自由を奪い、縛りつけ、奪った。
それはまるで己の人生がそうであるのと同じように自由を奪った。
だが二人の止まったままの時を、止ったままの時計を動かしたい。
触れたいと言った胸のシャツのボタンを外す行為を彼女にして欲しい。
その指先がシャツを滑る姿が見たい。
少しくらいの我儘なら許されるはずだ。
司は少し意地悪な目でつくしを見た。
「・・おまえが外してくれないか?」
既にネクタイは外され、一番上のボタンは外されていた。
離れていたつくしの顔が近づき、25センチ下に見えるつむじと、細い指が上から2番目のボタンにかけられ、ゆっくりと外された。そして次のボタンへと進み、やがてシャツを滑る指先は、スラックスに押し込まれた場所まで辿りつく。
だが、はだけたシャツから覗く、見事に割れた腹筋に、指先はそれ以上進めないと戸惑っていた。
「・・ボタンはまだあるぞ?」
とは言え、それ以上進む勇気がないようだ。
そんな態度に今更だろ、の思いがあるが、これまで行われた行為は、決して合意の上ではなかった行為。それは、愛し合ったものではなく、性による暴力。男の一方的な交わり。
自分自身が許せなかった。だが、そんな疚(やま)しさを抱えた男を受け入れてくれる女は、司にとって何よりも大切な女性だ。
司は、動きを止めた指を掴み、ゆっくりと持ち上げ、口に含んだ。
驚いて逃げようとする指を歯で掴まえ、唇で包み込み、湿った舌で舐め、しゃぶった。
そして愛おしそうにきつく吸った。やがてその行為は5本の指全てに行われ、それは、獣が捕らえた獲物を、どこから喰らおうかといった姿に似ていた。
秀麗な男が女の指を咥えるといった姿を見た人間がいるとすれば、それはつくしが初めてのはずだ。視線はつくしをじっと見据え、指先を愛おしげにしゃぶる姿は妖艶で、身体中の全神経がその指先に集まり、疼きを感じられた。
攻撃的で破滅的な美しさを持つ男。
その気になれば、どんな美女も手に入る男。
富も名声も併せ持つ男。
そんな男が、たったひとつだけ手に入らなかったのは、今彼が愛おしそうに舐める指を持つ女性。司にとっての特別な人は、その指先まで愛おしいのだ。
そして、特別な人から愛された人間は、愛を返すことを知った。
それは愛する人の想いを知ったからだ。
もう決して一人にはならないと知ったからだ。
彼は彼女無く生きていくことは出来ない。
孤独の影は10年間司に付き纏っていたが、今はもう、その影は消えた。
司に吸われ、湿った指は戻ってきたが、つくしの女の部分は濡らされていた。
何度抱かれても、自らが濡れたことなどなかった女の身体。だが、今は自身の内側が熱を持ち、目の前にいる男を欲していた。
スーツの上を脱いだ男は、途中まで外されたワイシャツの最後のボタンを外し、自ら全てを脱ぎ捨てた。
そして、裸になった男の手は、女のカーディガンを床に落とし、ワンピースのファスナーを下ろし、足元に落とした。それからスリップになった女を、切れ長の目で見つめた。
本当にいいのか、と。
その問いに、潤んだ目で返されたのは、スリップの両肩紐を落し、下着も取った姿。
つくしは、戸惑うことなく司の目に裸体を晒した。
丸みのある可愛らしい乳房がツンと上を向き、誇らしげに司を見たが、肌は入院生活の間、陽射しに触れなかった人間の独特の白さがあった。そして身体に残る銃弾による傷が痛々しかった。
司はつくしをベッドに横にならせ、自分も乗り上げた。
初めて抱いたとき、腹部に残る手術の傷痕には気づかなかったが、よく見れば薄く色が残る箇所があった。そこに向かって降ろされた唇は、愛おしげにキスをし、舐めた。
そしてまだ生々しく残る傷痕に唇を落し、優しくキスをした。
「・・つかさ・・」
ベッドで初めて呼ばれた名前。そして彼に向かって伸ばされた細い腕。
司は、つくしの胸に覆いかぶさったが、自分の体重で押しつぶすことがないようにと気遣った。
優しくしたい。苦痛を与えたくない。
本来なら女のはじめては、優しくしなければならなかった。
だが闇の底に暮らしていた男は、彼女のはじめてを、苦痛を与えるだけに変えてしまった。
司は女を抱いて切なさなど感じたことはなかった。だが今、それを感じていた。
身体の傷はやがて消える日が来る。もしそうでなければ、傷痕を消す手術もある。
だが、心に付けられた傷は消えることはない。
だが彼女は言った。
許すと。
過ぎたことを気にしても仕方がないと。
最悪の道明寺はもういないんでしょ?と。
司の唇は、もう二度と彼女を貶めるような言葉を口にすることはない。
その手も身体も、もう二度と彼女を傷つけることはない。
そして、愛のないセックスは、もう必要ない。
だがその代わり、彼女を全身全霊で愛することは出来る。
「・・あっ・・・」
喉の渇きを潤したい。
スラックスの中で、とどめていた生き物は、はっきりとした意思持ち彼女を欲しがった。
だが今夜は、彼女に快楽の忘我を味合わせることが目的だ。そして彼女を喜ばせたかった。
司が繰り返して来た行為は、男のエゴ。本来なら彼女にそれを押し付けることは、するべきではなかった。と、思えど、彼女に手を触れないでいることは出来ないのだから、なすべきことは決まっていた。
歓びだけを、本来ならそれだけを受け取るべき身体を愛したい。
体温の高い男は、白い身体が徐々に赤味を増していく姿を愉しんだ。
決して押しつぶさないようにと、だが確実に身体を固定するように、閉じられていた脚の間に身体を置き、唇を重ね、その首に舌を這わせた。そして、抱え込まれるように掴まれた頭を徐々に下げた。肩を甘噛みし、唇でなぞり、やがて舌が左右の胸の頂きをなぶり、唇が含み、吸った。そして噛んだ。
「はっ・・あっ・・ん・・」
途端、女の身体を震わせる波がおき、その波は下半身へと伝わった。
そして白い乳房を食べ、頭をゆっくりと下へ動かし、両手は柔らかく曲線を描く身体をゆっくり下へと這った。尖らせた舌先で、臍を舐め、そしてまろやかな丸みを持つ臀部を掴み引き寄せた。両ひざの裏に手をかけ、脚を大きく開かせ膝を曲げ、胸元まで持ち上げ隠されていた全てをさらけ出す。
「ああっ!!・・ダメっ・・!!そんなこと・・っ!!」
司はその声を聞きながら、何も言わなかった。
唇がつくしの下半身の一番柔らかい場所を味わっていたからだ。
その場所は、彼自身を何度も包み込んだ柔らかい襞がある温もり。
大切に守るべき果実が実り、それがわずかな舌の動きにも反応すると、震えながら甘い蜜を流す場所。そして女らしい濃厚な香りがする場所。
その場所を、巧妙に舌をくねらせながら、じっくりと味わった。
「やぁ・・ああっ・・ああっ!」
過去にもその場所に口づけたことがある。だがそれは、やさしさの欠片もない、女を煽るだけの野蛮な行為。よじる身体を、腰を押さえつけ凌辱ともいえる行為。
だが今は違う。春の雨が草木を芽吹かせるように、その場所にある花芽を咲かせたい。
そして子供を産むことが出来ないかもしれないと言ったつくしを慰め、癒したい。
そんな思いから指で寛げ、蜜が溢れる芯をなめまわし、吸い上げ、敏感な突起を転がした。
「・・あ・・んっ・・あっ!!・・だめぇ・・」
駄目だと上がる声が、司に何をして欲しいとは言わなくとも、彼には分かる。
決してそれが過去の女との経験のせいではない。
他の女にそんなことをしたことはない。
だが、彼女には、牧野つくしには望んで求めていた。
彼女の全てが欲しい。
世界で一番欲しい人。
もっとその声が聞きたい。
そして彼女が快楽に震える姿が司に歓びを与えていた。
舌はその声を上げさせるために、さらに強く動く。
「ああっ!!・・や・・ダメ・・・やっ・・つか・・!!」
あの頃、こうして抱き合う夢を見たことがあった。
それは少年の夢想とでも言えばいいだろう。
だが、初心な彼女を無理矢理抱くことが出来るはずもなく、ただ手を握るだけでも良かった。
重ねた手の温もりと、その小ささに守るべき人は彼女だと知った時でもあった。
そしてぎこちなく、寄せられた唇が嬉しかった。
青いと言われた二人の恋。
遠回りしたが、もう決して離れることはない。
芯から溢れてくる蜜をさらに味わおうと、2本の指を差し入れ、きつく絞められる感触を楽しみ、敏感な突起を吸い上げた。
「・・・・っ・・ああっん・・ああん・・ああっ!!」
「・・欲しいか?」
下半身から聞こえた声は、羞恥に赤く染まった女の顔をさらに赤くした。
口をつく呼吸は、喘ぎとなり、返事にはならなかった。
「・・つくし・・・俺が欲しいか?」
本来の機能を果たしたいと待つ高まりは、彼女の中に入りたがっていた。
返事は無いが、荒い息遣いと見つめる目が訴えていることは、ひとつだけ。
あの頃と変わらず初心な女は、言葉にして出すことを躊躇っていた。
だが、男を駆り立てる仕草はなくとも、その目が、その口が、そして彼女の全てが伝えていた。
あんたが欲しいと。
目の前で艶めかしく濡れ、男を誘う香りが立ち昇るその場所が、先ほどまで舌で味わった甘美な場所を、欲しいと求める己の分身が、ほんの少しだけでもと先を急ぐ。
だが今夜は己の欲望のためでなく、彼女に最大の歓びを与えたい。
「・・つかさ・・」
やがて小さな声が遠慮がちに名前を呼ぶ。
「・・おねがい・・司が・・欲しい・・」
今まで抱いたどの女も口にしたその言葉。
女にしてみれば、金があり、地位があり、美貌があればそれでいい。求めるのはそれだけで、心を求められた訳ではない。その言葉通り望むものを与えることをしたが、それは動物的行為で男の生理を解消するだけの行為。
性を結合するだけの関係は誰でもよかった。
だが、心を繋ぎ合わせることは簡単ではない。
司の心を掴んで離さなかった少女。
だが今はひとりの大人の女性。
その女性が欲しいと言っていた。
その表情は心からの想い。
心から好きな人と結ばれる人間は、世界中でどれだけいるのか?
胸が締め付けられた。こうして抱き合うことを夢見ていた。
「・・・俺を・・・俺を全部・・やるよ・・」
二人の時はこれから始まる。
あの日、一度は終わった関係は、これからまた始まる。
首に回された細い腕は彼の身体を抱き寄せた。
既に何度も繰り返された行為だが、こうして強く求められるのは初めてのこと。
司は自身の先端が、まるで意志を持ったようにその場所を求めているのを感じていた。
だが呻きたくなる声を抑え、脚をさらに広げ抱え上げると、先端を深くうずめた。
「ああっ!!」
ぐっと締め付けられたが、暫く動かず彼女に呼吸をさせ、じっと見つめていた。
身勝手に奪ったことを思い出し、あの時彼女の顔に現れた悲痛を思い出し、苦しい息づかいをコントロールし、動き出すことをしなかった。
「・・あのときのこと・・許してくれるのか?」
再び聞かずにはいられなかった。許すとは言われたが、それでも無理矢理奪ったことへの後悔はある。
「・・愛してる・・道明寺・・だから道明寺は・・道明寺でいてくれたらいい・・」
囁かれた言葉が自分らしく生きればいいと言っていた。
それは司の顔に浮かんだ、苦悩を感じてのことなのか、それともまた別の意味なのか。
だが今はどちらにしても、彼女の瞳はもう何も言わないで愛してくれたらいい。太陽の輝きにも似た黒い大きな瞳は、そう言っているように思えた。
司は慎重にゆっくりと動きだし、やがて腰を勢いよく打ちつけ始めた。
息を荒げ、キスを繰り返しながら二人だけが訪れることが出来る世界へ向けて。
だがそれは欲望ではなく、愛のため。彼女の中に愛を注ぎたい。ただその想いだけ。
そして彼女に歓びを与えるためだけに。
「・・・あっ・・ああ・・・・あ・・」
肩をつかむ指が食い込んだ。
強く、決して離さないと。
歓びを与えようとした男は、逆に彼女から歓びを与えられていた。
深く突くたび、もう離したくないと襞が司自身を咥えこみ離そうとしない。
「・・く・・・つくし・・」
これは夢ではなく現実。
心も身体も全てをさらけ出し、互いの汗が混じり合い、唾液も体液も全てが混じり合いひとつになる。二人して溶け合ってしまってもいいとさえ思えるほどの甘美な拷問。司はいっそう激しく突き始めた。
「・・・愛してる!・・つくし・・・おまえに・・会えて・・よかった・・」
激しい息遣いの中、放った言葉は、自分を求めてくれる、ただの男として求めてくれる女性に向けた感謝の言葉。そして、そんな女性に再び巡り合えたことを神に感謝していた。
かつて自分を捨てたと女を憎み、激しい執着心を持っていた男は、自分の中に閉じ込めていたあの頃の少年と出会っていた。
司の10年は、失意と孤独に囲まれ暗闇に暮らしたが、どんなに時が経とうが変わらぬものはただひとつ。
牧野つくしだけを愛していたこと。
彼女以外欲しくなかったこと。
そして、彼女も他の誰も愛さなかったこと。
身も心も解き放つ夜といったものを感じたのは、はじめてだ。
今なら長い間、分からなかったことも全てが分かる。
自分に死が訪れるときまで、付き合わなければならない押し付けられた運命は必要ない。
降りしきる雨のなか、なすすべもなく立ち尽くしていた男の10年は、今夜終わった。

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司×**OVE様
おはようございます^^
二人の想いが通じてから初めての行為。
司の胸のときめきは、何年ぶりでしょうか・・・?
本当に愛している人とだと、そうなるんでしょうねぇ。(笑)
確かに罪の意識もあると思います。何しろ無理矢理でしたからねぇ。
つくしちゃんは責めないと思います。ただ司くん一人自己嫌悪かもしれません(笑)
本当にここ数日暑いですね。急に気温が高くなり、身体が付いて行きません。
太陽が暑過ぎます(笑)
へばり気味(笑)同感です。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
二人の想いが通じてから初めての行為。
司の胸のときめきは、何年ぶりでしょうか・・・?
本当に愛している人とだと、そうなるんでしょうねぇ。(笑)
確かに罪の意識もあると思います。何しろ無理矢理でしたからねぇ。
つくしちゃんは責めないと思います。ただ司くん一人自己嫌悪かもしれません(笑)
本当にここ数日暑いですね。急に気温が高くなり、身体が付いて行きません。
太陽が暑過ぎます(笑)
へばり気味(笑)同感です。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.05.23 22:04 | 編集

こ**る様
こんにちは^^
何度も読み返し?えっ?そんな・・有難うございます(低頭)
司の孤独の10年。なんとか浄化されたようです。
ブラボー有難うございます^^
そして、こちらこそ、いつもお読みいただき有難うございます。
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
何度も読み返し?えっ?そんな・・有難うございます(低頭)
司の孤独の10年。なんとか浄化されたようです。
ブラボー有難うございます^^
そして、こちらこそ、いつもお読みいただき有難うございます。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.05.23 22:07 | 編集

とん**コーン様
愛のある行為は素晴らしい!!同感です!
え?この司に抱かれたい?(笑)
愛し方が蛇みたいかもしれません。絡み付く愛・・
舌の使い方が特に・・(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
愛のある行為は素晴らしい!!同感です!
え?この司に抱かれたい?(笑)
愛し方が蛇みたいかもしれません。絡み付く愛・・
舌の使い方が特に・・(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.05.23 22:09 | 編集

pi**mix様
タイトル「くれよ・・」おまえをくれよ?でしょうか?
こちらの司。罪を感じながらも、求める男でした。
許し合いながら抱きしめ合える二人。大人ですね?
いつでもどこでも盛ってる坊っちゃんと大違い!(≧▽≦)御曹司ですね?(笑)
あの司は、そればっかり!!(笑)仕事してませんね?(笑)
今日の坊ちゃん、ネトネトしてエロ過ぎ←(笑)
舌使いでしょうか?(笑)でもそれをしたのは、つくしちゃんだけですからね?
ネトネト坊っちゃんに責められるつくしちゃん・・・(笑)
色々想像してしましました(笑)少しアブノーマルな坊っちゃんが頭を過りました(笑)
コメント有難うございました^^
タイトル「くれよ・・」おまえをくれよ?でしょうか?
こちらの司。罪を感じながらも、求める男でした。
許し合いながら抱きしめ合える二人。大人ですね?
いつでもどこでも盛ってる坊っちゃんと大違い!(≧▽≦)御曹司ですね?(笑)
あの司は、そればっかり!!(笑)仕事してませんね?(笑)
今日の坊ちゃん、ネトネトしてエロ過ぎ←(笑)
舌使いでしょうか?(笑)でもそれをしたのは、つくしちゃんだけですからね?
ネトネト坊っちゃんに責められるつくしちゃん・・・(笑)
色々想像してしましました(笑)少しアブノーマルな坊っちゃんが頭を過りました(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.05.23 22:46 | 編集
