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2015
08.06

いつか見た風景 6


「お前なんで類と一緒にコーヒー飲んでた?」

二人はエンパイアステートビルディングの展望台でニューヨークの夜景を見ていた。
どうしても行ってみたいと言った女。いくら警護の人間がついているとは言え、さすがに夜、女ひとりを外出させることには躊躇いを感じていた。

ちょうどそのとき、妻となった女が自分の親友と楽しそうに話しをしている、そんな報告を受けた男は何故かイラついていた。それならこの機会に聞くことにするかと司は同行することにした。

花沢類に対してのそのイラつきはいったいなんなのか?
司は今まで感じたことのないイラつきに自分自身に腹を立て、妻となった女が質問に答えないことに対しても苛立ちが募っていた。

予定外の女と結婚してしまった男。
婚前契約書を交わすというビジネスでの結婚だというのに、イラつき、気になる二人の関係。牧野つくしと類のことなど、どうでもいいはずだというのに気になっていた。

「うわー凄い!キレイだねぇ。ちょっと道明寺、見てよアレ!」

女が指さす方向に見えるのは「DOMYOJI」のロゴが入った本社ビル。
こんな夜景なら俺の部屋から見える風景とたいして変わらねぇ。
ウチのビルの執務室からのパノラマの方がよっぽどいいぞ。そう口に出そうとした途端、女の口から語られた言葉に耳を傾けていた。

「花沢類?うん、偶然ね、会ったの。不思議だよね?こんなに広いニューヨークで会うなんてね?」

瞳に浮かぶ表情から読み取ると、その話は嘘ではないと司は思った。
女と目が合い、司はそこに戸惑いの色を見たような気がした。だが、その色はすぐに消え、目の前に広がる景色に見惚れていた。

「あんたんちの本社ビルも凄いね」

広がる景色に、しきりにひとりで感心する女。
そんな女に司は聞いた。

「お前なんでこのビルに来たかったんだ?こんな夜景が見たいんなら、俺の執務室からも見えるぞ?何もこんな寒い場所で見る必要なんてねぇぞ?」

「ここじゃないとダメなのよ。あのね、映画の舞台になった所なの。だから一度ここに来て見たかったの」

その途端、女はくしゃみをした。
司はここぞとばかり言った。

「おい、もういいだろ帰るぞ、これ以上こんなところにいたら風邪ひくぞ」
「うん、そうだね、付き合ってもらって悪かったわね」

女はそう言いながらも名残惜しそうにしていた。


司は世界でも指折りの人間たちとつき合いがある。その中には当然多くの美女も含まれている。それなのに、意図せず彼の妻となった女はどう見ても平凡な女。だがなぜかそんな女が気になる。今までつき合った女の中には完璧な美貌を誇るような女もいた。
だが、どうしてこの女のことがこんなに気になるのか。痩せて、小柄な女。黒い瞳は大きく、肌は白いがどちらかと言えば地味な顔。


司は自らの苛立ちの原因は、この女のあっけらかんとした態度だと思っていた。
今まで充実した人生だと思っていたところへ突然現れた女の存在にイラついている。
そう考えていた。



***



ペントハウスに戻った二人は、少し遅い夕食を口にしていた。
目の前の女は実に美味そうな表情をしてよく食べる。
司の周りには、常にダイエットを気にしているような女が大勢いた。ナイフとフォークが置かれていても、フォークしか使わない女が多かった。その理由はサラダしか食べないからだ。別に食事制限などしなくてもいいのに、食べない女たち。そんな女たちを大勢見て来たあとだけに、何でも遠慮なく口に入れ、美味そうに食う女が珍しく思えた。

「おまえ、よく食うな?」
「えっ?だって本当に美味しいんだもの。道明寺は食べないの?」

いつの間にか、自分の呼び名は道明寺になっていることに司は気づいた。
結婚した相手から苗字で呼び捨てにされていることが、何故か笑える。

「俺はいいんだよ。そんなに腹減ってねぇし。普段からあんまし食わねぇんだ」
「そうなんだ・・。もったいないね?せっかくこんなに美味しい料理を作ってくれるシェフさんがいるのにね?」
「おまえ、欲しいなら食え」
司が自分の皿を勧めれば嬉しそうに受け取る女。
「ほんと?いいの?ありがとう!」

食欲がある女を見るのが珍しいということではない。だが司にしてみれば、肉の塊を切って口に運ぶ女は実に健康的だと感じていた。
沢山食っても太らない体質なのか、そんなことを思っていたが、どうしてこの女が自分と結婚することにしたか、聞きたと思った。別にきっかけを求めていたわけではないが、何故か今ならそんな話も出来るように感じていた。

「おい、おまえはこんな結婚していいのか?」
司の問いかけにつくしの手はとまった。

「こんな結婚?」
つくしは穏やかな声で言った。
「おまえ滋の代わりとか言いやがって、そんなんでいいのか?」
何か言い返す言葉を探すようにつくしはゆっくりと答えた。
「・・・そうねぇ・・・」

ナイフとフォークをテーブルの上に戻した女はにっこりと柔らかく微笑みを浮かべた。
おまえ大丈夫か?昔の俺がおまえの事が好きで、追いかけ回して求愛行動をしていたらしいが、今の俺にはそんな記憶なんて欠片もねえ訳で、そんな俺に今更だろ?
 
「あたしの事は当然調べがついているのよね?あたしは高校時代あんたに追い回されて、あんたの色んな事情に巻き込まれまくって、それでもお互い気持ちが通じ合ったと思った時には、あんたは私を忘れてね。そりゃあもう悲しかった。だから、それならこっちも忘れてやるって思ったのよ? あんたはお母さんに連れられてニューヨークに行っちゃうし、私にはどうしようもなくて、それでも生きて行かなきゃ、何が悲しくてへこんでなんていられないじゃない?あたしは自分で自分を食べさせて行くってのが目標になったから、それなりに頑張った。で、やっと落ち着いた今の生活を送っていたら、滋さんがね、あんたと結婚しなきゃならなくなったって言ってきてね。でも滋さんも本気で好きな人がいたの。家の事情でなんて話、今更じゃない?でさ、教会の祭壇にあんた一人残して、捨てられた花婿なんてさすがに出来ないじゃない?だからね、私にその花嫁をって事でね・・・」

つくしは、喉を潤すようにテーブルから用意されていたワインを飲み干すと、ドンと音を立ててグラスをテーブルに戻した。
そして、おもむろに立ち上がって司の所へ歩いて行き、こう言い放った。


「あたしがあんたを幸せにしてあげる!そう決めたから。道明寺も覚悟して」




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コメント
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dot 2015.08.06 08:01 | 編集
mizu** mit***様

ご訪問有難うございます。
そして楽しみにして頂き、嬉しさでいっぱいです。
海外版は見たことが無いので内容を存じ上げないのですが
イメージは原作と日本版のドラマ、映画を起点としています。

いいですよね!青春ドラマ!
確かにテンションが上がりますね。
いかに自分を盛り上げて行くかも必要かもしれませんね。

ご期待に沿えるように頑張りますので、また覗きに来てみて下さいませ。
アカシアdot 2015.08.06 14:30 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.08.07 01:32 | 編集
の*様
ご訪問有難うございます。
そんな素直な司くんが見てみたいですね(笑)
つくしちゃんに甘えて幸せにしてもらえばいいのに
それがなかなか・・上手くいくのでしょうか?(笑)
アカシアdot 2015.08.07 19:50 | 編集
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