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2017
05.06

Collector 50

Category: Collector(完)
首都高速を一定の速度で走る車の中にいる男は、人に会うため、ある場所へ向かっていた。
濃い色の遮光ガラスを通して差し込む光は、男の横顔を照らすこともなく、ただ薄暗い影を落としているだけだった。

静かに瞑目する男がいったい何を考えているのか。
秘書はそんな男の隣で、やはり静かにスケジュールの確認をしていた。
スケジュールが変わることは滅多にない。なぜなら男は突然の変更を嫌うからだ。
だが、それは変わりつつあった。一人の女性との再会がそうさせた。

この予期せぬ面会も、相手に断られることを覚悟の上で男が自ら連絡を取った結果だ。
相手が大企業の社長ともなれば、随分先のスケジュールまで決まっており、断られたとしてもおかしくない。だが、突然の面会の申し込みも、相手側の秘書は確認して折り返し電話すると一旦切った。そしてすぐに連絡があり、時間が割かれことがわかった。

先約があったことは承知しているが、それを断ってまで会おうと言ってくれたのは、親友の父親であり花沢物産の社長である花沢雄一だ。
類の父親はこれから会う相手とは経営者として会うのか。
それとも息子の友人に会う父親として会ってくれるのか。

司はつい最近、物産が系列化を目論んでいた会社を、彼らの目と鼻の先をかすめ取るように買収した。あの買収は類への嫌がらせのようなものだった。そのことを社長である類の父親は忌々しく思っているはずだ。
だが会おうと言った。そのとき、果たして厭な顔をしたか、それとも表情を変えることは無かったのか。とにかく、今は会おうと言ってくれたことに感謝するしかない。


道明寺司のような、決意が揺らぐことがないような男にとって、自分の敵が身内であることが会社にどんな影響を与えるか。それを考えない訳ではなかった。
今までの彼なら、会社の利益第一で突き進んできた。だが、これからはあの男と決別すると決めた。そして人間らしい生き方をしようと決めた。

世間は道明寺親子の間に確執があるなど知りはしない。
そしてそのことをわざわざ誰かに知らしめる必要もない。
だが類の父親には知られても構わないと思った。

牧野つくしが花沢の邸に住むことになったとき、息子の行動に疑問を抱いたはずだ。
だが類の父親は、彼女と弟の存在を黙って受け入れた。
我が子を信頼しているのか、それとも好きなようにさせたのか。
幼い頃、自閉症かと思われた息子の意思を拒まないことが子供のためだと考えたのか。
それとも感情の起伏が少ない我が子が欲した女性に興味を抱いたのか。息子が気に入れば結婚させてもいいと考えたのではないだろうか。
どちらにしても、自分の父親とは考え方が違うことは分かっている。


花沢雄一は、道明寺貴同様経済界の大御所だ。二人は年もほとんど変わらない。
花沢家も資産家ではあるが、道明寺家ほど格式ばった家柄ではない。
家同士が特に親しいといった訳ではないが、それでも両家は経済界のトップに君臨する会社の経営者だ。それなりのつき合いはあった。
だがそれは、上流社会の中でのつき合いであり、親友の父親だからといって、親しいおじさんといった訳ではない。

司も類も共に社長ジュニアとして厳しく育てられたが、類の父親は、息子の自由を奪うほど厳しいといった親ではなかった。海外出張も多かったが、司から見れば親としての責任を果たしているように思えた。そして類の家には司の家にはない自由があった。


文学青年的な男と、全く正反対の性格を持ち、肌合いが異なる男がなぜ親友となったのか。
周りの人間は不思議に思うことも多かったが、それでも二人は互いを唯一無二の友人だと認めていた。だがそんな二人の関係も一度壊れかけたことがあった。
しかし、再び二人の男は一人の女性のため、深い感情を交錯させていた。
だが一人の男は、その女性の手が本当に掴みたかった人の手を握ったことを知り、友情だけを二人に捧げると決めた。そして、二人にどんな形であれ、これからもかかわっていくと分かっていた。






通された社長執務室で司は一人の男から出迎えを受けた。
黒い髪の毛だが所々銀色の筋が見え隠れする人物は、にこやかに微笑みを浮かべドアの傍まで近づいて来た。そして右手を差し出し握手を求めると懐かしそうに言った。

「やあ。司くん。随分と久しぶりだね。元気そうでなによりだ。どうぞ、座ってくれ」

類の父親から丁重にソファに案内された司にすれば思わぬ出迎えだった。だが、それは子供の頃、類の邸で何度か会ったことがあってのことだと気付いた。類の父親は司を息子の友人として迎えてくれたのだ。

「花沢社長。大変ご無沙汰しております。本日はお忙しい中、ご無理を申し上げ申し訳ございません」

「いや、気にしなくていい。司くんに会えることなんて滅多にないことだからね。私の方からアポを取ろうにも、君はいつも忙しそうだ。いつだったかロンドンの日本大使館でのパーティーで見かけたが、話すことが出来なくて残念だったよ。ご存知のように私は今ロンドンで過ごす時間が多いからね。だがイギリスがEU(ヨーロッパ連合)離脱を決めてから、花沢の拠点をドイツに移そうかと考えているところなんだがね?司くんのところはどうなんだね?ああ、君のところは既にデュッセルドルフに拠点があったんだったね?」

ドイツ西部にある経済都市はヨーロッパでは3番目、ドイツでは最大の日本人街があり、多くの日本人が暮らしていた。今までイギリスに拠点を置いていた多くの日本企業は、イギリスがEUから離脱すると決めたことにより、EUに加盟するヨーロッパ諸国への輸出に関税がかかることを懸念し、活動の拠点をEU圏内に移す考えを持つ企業も多い。

「しかし国の政治情勢が変わると我々企業もその対応に追われるが、まさかとは思うがEUが崩壊するようなことになれば、ヨーロッパでのビジネスの方法も考えなきゃならん。どうだね?司くんもそう思わんかね?」


秘書がコーヒー運んで来るまでの間、他愛もない話しをしていたが、秘書が退室すると、笑顔を消すことはなかったが、口調が少しだけ変わった。
そして正面に座る司を凝視した。

「・・で、司くん。今日はどういった話しかね?君の訪問は道明寺の社長としてなのか?それとも類の友人として私に会いに来たのか。どちらなのかね?」

類とよく似た薄茶色の瞳は司の返答によってはその表情を変えるのだろうか。それとも類と同じで無表情を装うのか。類は何を考えているのか分からないと言われるポーカーフェイスだが、やはり父親もそうだ。
その表情は親子だと思った。
自分が父親の貴に似ているのと同じように。
息子は父親に似てくるのだ。
司は雄一の瞳を真っ直ぐ見返した。

「・・本日こちらをお訪ねしたのは、道明寺の社長としてお詫びを申し上げたいと思いお伺い致しました」

「お詫び?それはいったいどういった意味だね?」

司の思わぬ言葉に雄一の目が少しだけ細められた。

「先日うちは御社が系列化しようとした化学メーカーを買収いたしました」

「ああ。あれか。あれは類に任せていたんだが、見事に司くんにやられたね」

道明寺が花沢物産を遥かに上回る条件を出したと言われる買収劇。
短期間で行われたその買収には道明寺子飼いの国会議員が関与していた。
そしてあの買収はあきらかに悪意に満ちた買収だ。まさに司の類に対する激しい嫉妬といった個人的感情だけで行われた買収だった。

「あの会社をお返しする訳には行きませんが、別の会社ならどうです?うちが買収を計画している会社があります。その会社は御社にとって利益をもたらすはずです」

「・・司くん。それはどういう意味だね?言っている意味が分からないんだが_」

雄一は自分の考えが混乱してしまったように言った。
道明寺司は息子が英徳学園の幼稚舎から高等部まで一緒に学び遊んだ無二の親友であることは知っているが、ビジネスに於いては、例え相手が親友だろうが容赦しない対応を取ることも知っている。事実、物産の仕事を邪魔された。

「道明寺で買収予定の会社を花沢物産にお譲りします。うちが買収に名乗りを上げている以上、他の会社が手を挙げることは、まずないでしょうから必ず御社のものになります」

司の言葉は正しい。彼が目をつけた会社は、間違いなく彼のものになっていた。
理由は言わずもがな。彼に勝てるわけがないからだ。

「それはいったいどういう意味だね?」

「花沢社長。先程も申し上げたようにこれは先日のお詫びです。私は先日類が、いえ専務が長い時間をかけた買収工作を潰しました。そして御社を不利益が生じるような立場に追い込んでしまった。私の申し出はその件に関しての詫びだと思って頂きたいのです」

雄一は自分の耳を疑うような顔で司を見ていた。
鋭い牙を持つ野性の動物が、仕留めた獲物を他の動物に与えようとしていることが信じられないといった表情だ。

「・・司くん、君はそれを本気で言ってるのかね?いくら君が社長だからといって好き勝手出来る問題ではないだろう?君の父上は_」

「私は自分で判断が出来るだけの能力があります」

司が言った言葉は、父親の意見は必要ないと言っていた。
そしてその表情はあの男に自分の意見を否定させないと言っていた。

「いや。だが貴さんは・・」

「社長は私です。道明寺貴には私の決定に意見を言わせるつもりはありません」

雄一の話を遮った声は断固たる思いが感じられた。
道明寺貴の声は息子より低い声で錆声と言われるが、息子の声も低くハスキーな声だ。容貌とビジネスの才覚だけではなく、声まで父親譲りの青年は、いったい何をするつもりなのか。

若いとはいえ、会社の社長を務める男の言葉に偽りはないはずだ。
一度口にしたことを簡単に覆すようでは、経営者として信頼を得ることなど出来はしないのだから。

だが目の前の青年に経営者の資質が備わっているかどうかと聞かれたとき、どう答えるだろう。息子の類も取締役待遇で入社し、親の七光りと揶揄されたが、この青年はあの当時なんと言われていた?子供の頃からの唯我独尊も甚だしいと言われていたが、やがて父親譲りのビジネスの才覚を示し、今では父親以上だと言われている。
そして目的のためなら手段を選ばない男と言われるまでになっていた。そんな男は自分自身のことを非情と言っていた。ビジネスは結果が全てだと。だが、何かが彼の心を変えたことが感じられる。
それは、あの女性のことが関係しているのだろう。
10年間、類が傍にいた女性が。


なんと言葉を返していいのか定まらないまま口を開いた雄一は、司の言葉に押し黙っていた。
そして、この場に流れる空気が重みを増したような気がしていた。





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コメント
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dot 2017.05.06 09:51 | 編集
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dot 2017.05.07 07:22 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
本当ですね。
初めは読み切り短編だったのですが、気付けば50話まで来てしまいました^^
いつもお付き合いいただき、ありがとうございます。
類くんの父親は、司が息子の親友であったことは分かっていますが、大人になった二人の間には色々とあったことも察していましたので、複雑な心境で会ったような気がします。
以前見かけた司とは、雰囲気が変わったと感じていると思いますが、自分の息子である類くんの雰囲気も変わったと思っていることでしょうね。
親はとても敏感ですよね(笑)
GWも終わりましたね。また明日からいつもの日常が戻ってきますが、その方が落ち着くような気がします(笑)
御曹司ですよね(笑)ごめんなさい!なかなか余裕がありませんでして・・・(笑)
また近いうちに・・と思っています。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.07 17:04 | 編集
pi**mix様
こんにちは^^
「マスク」のお話し。聞いたことがあります。
最近の若者に多いらしいですね?そうなると表情が読めませんので、何を思い、何を感じているのかが分かりません。
お年頃ですから、色々とあると思いますが、ある一定の次期を過ぎると変わるといいますので、長い目でお願いします。
ゆとり世代(笑)その世代の皆さんは、そうですね・・・世代ギャップがあるのは当然なのですが、時代と言えば時代なんですよね。そういった教育を受けて来たのですから仕方がないと言えばそうなのかもしれませんが、難しいですね(笑)
知っていて当然では?そう感じることがあっても、そこは大人対応です(笑)
司と類の両親は何世代なんでしょうね・・。
坊っちゃんがマスク世代でなくて良かった(笑)確かにイケメンさんにはマスクは不要ですね?(笑)
類くんのパパ。一応会社経営者ですから、厳しいところもあると思いますが、紳士ですね。
司のパパとは随分と違うような気がします。類パパはリベラル派といった感じですね。
さて、人間らしさを取り戻した坊ちゃんです。会社のことも考えつつ、行動しているように思えます。
そうなんです。パパを吊るし上げる、イコールそれは自分。合わせ鏡のような親子関係かもしれません。
怖い?(笑)大丈夫だと思いますが・・。う~ん(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.07 17:19 | 編集
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dot 2017.05.08 01:20 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
類のパパは穏やかなで紳士的な方ですね。
対し、司パパは恐ろしい人です。道明寺家の男性はどこかで何かを間違えると、パパみたいになるのかもしれません。
司はつくしと出会って良かったと思います。
ワンちゃんのお話し、楽しみにしています^^
どんな出会いがあったのでしょう。ひと目会ったその日から、恋の花咲くこともある。
このフレーズ、古いですね?(笑)
GWも終わり、また新しい週が巡ってきましたね。
気合いを入れるんですね?
しかし、今夜は頭が働きません。既に眠いです(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.08 21:47 | 編集
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