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2017
05.01

時をこえて 4


道明寺家の菩提寺である寺は、鎌倉にある歴史のある古い寺だ。
そぼ降る雨に栄える立派な寺。
あなたはこの場所を訪れたことがあったのでしょうか?
あなたのご先祖が眠るこの寺には、あなたのお父様とお母様も眠っています。
お母様はあなたがいなくなってから4年後に倒れ、亡くなったのです。
鉄の女と呼ばれ、強い女性と言われた人でしたが、それでもたったひとりの息子がいなくなってしまったことが、何らかの影響を及ぼしたのかもしれません。
寒い日の朝、お邸にある執務室で倒れているのを発見されたが手遅れだったと聞いています。



誰かが手向けた花が活けてあった。そして線香が焚かれている。
いったい誰がと訝がることなくお姉さんだと思った。

お墓に供えるには不釣り合いと言われる花だが、3月の彼岸と9月の彼岸にも同じ花が活けてある。菊に混じって一本だけ手向けてある赤い花。それはあなたが好きだったバラだ。NYのお邸にも見事なバラの庭があったのを覚えている。

あれはもう何年前のことだろう。
あなたが大量のバラの花を贈ってくれたことがあった。今でもそのことを懐かしく思い出すことがある。狭いアパートの部屋を埋め尽くしていた赤いバラの花に正直戸惑った。だが嬉しかったのを覚えている。そして私は、猛スピードで恋におちていた。

あなたがいなくなった頃、お姉さんはたった一人の弟を亡くしたからと言って泣いている暇はなかった。財閥の仕事は待ってくれるはずもなく、弟を失った悲しみより、事業を優先しなくてはならなかった。それは自分の身を犠牲にし、世界各国に大勢いる従業員とその家族のことを考えたあなたと同じ思いのはずだ。

経営者の立場を優先する。その考えはあなたと同じだ。あなたと同じで生まれ持った宿命を理解していたお姉さんは、哀しみに沈む時を削っていた。
あの頃、充分な供養が出来なかった。その思いがそうさせるのだろう。今ではどんなに忙しくても年に2回ある彼岸には必ず足を運ぶ、とあなたの秘書だった男性から聞かされた。
そして、もちろん命日にも必ず訪れると。


「道明寺・・来たわ。道明寺の名前と同じ猫と一緒にね」

私は白い百合の花を飾り、瞼を閉じ、両手を合わせた。

あなたの命日と言われる日は、あなたの消息が途絶えた日だとされていますが、はっきり分かりません。
それでも確かなことがある。
それは地球の裏側である東京では雨の降る季節。
テレビの天気予報はいつも傘か雲のマークが地図の上に置かれていた。
私たちとは切っても切れない雨は、あなたがいなくなってもこうして私に纏わりつくのです。まるで涙のようなその雨は私の心を表しているように思え、あなたが私に泣いて欲しいと言っているようでまた哀しくなる。
道明寺・・
いえ、司。どうして私を置いて一人で逝ってしまったのですか?
なぜ、私を連れて行ってくれなかったのですか?
まるで風のように跡形もなく去ってしまったあなたを思うと今でも泣きたくなります。

雨は、切ないです。
本気で好きになった人に別れを告げたあの日を思い出すばかりです。


そして一途にときめいた心はまるで昨日のことのように私の中にあります。
あなたの笑顔は、私だけに向けられたあの笑顔を忘れることは出来そうにありません。


だが人生はこうして続いていくのだろう。
しかし、私の人生の物語が完結するまでまだ時間がかかりそうな気がする。
あなたは高く広い空のどこかにいて、私を見守ってくれているはずだ。
そんなとき、懐かしい笑顔が浮かんでは消えていく。
私だけに見せてくれたやさしい笑顔が。


帰る場所がある。
その場所で待つ人がいる。
自分を待つ人が。
それがどんなに素敵なことか。
そのことに気付いている人がどれくらいいるのか?
今の私にはそんな人はいない。

だが『司』は静かに私を待っていてくれる。
『司』はいつも冷静な目で私を見る。
尻尾をクエスチョンマークの形にし、首を傾げ、何かあったのかと言わんばかりの姿で、じっと見つめて来ることがある。猫は、黙って飼い主を受け入れてくれるが、その静かな物言わぬ生き物にどれだけ癒されていることか。そしてざらついた猫の舌は、私の唇を舐めるが、そんなことは気にしなかった。
私がキスをするのは、これから先も『司』だけだからだ。

「司はね、あたしの好きだった人と同じ名前なのよ?あなたの本当の名前は道明寺司って言うの」

私は連れてきた猫に話しかけた。
道明寺司はこれから先、恋をするつもりのない私にとって生涯でただ一度愛した男性だ。
決して忘れることはない。

人との出会いは不思議だ。
ほんの少しの時間の擦り合わせが他人同士を近づける。
そして知らない間に恋におちる。
私たちは格差社会の頂点にいる男と、その対極にいる女との恋だった。でもあなたはそんな事は気にしなかった。むしろそんなことを気にする私を厳しい声で叱った。そしてあなたは私に言った。

「おまえのためなら全てを捨てても構わない」と。

あの頃、私たちは空を自由に羽ばたく翼を持ってはいなかった。だが、今のあなたには、あの頃無かった、そして10年間無かった自由があるはずだ。
大きな空を自由に飛び回る翼が。


私はまた来ます。と小さく呟き、心の中に吹きすさぶ淋しさにそっと蓋をした。




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コメント
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dot 2017.05.01 07:07 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
お墓に骨は納められていませんが、つくしちゃんは猫の司とお寺を訪れました。
楓さんもお亡くなりになりました。
司くんはつくしちゃんの前に現れるのか?それとも・・?
ご安心下さい。色々の疑問はすぐに解決するはずです(笑)切なかった・・と思いながら笑顔になって頂けるといいのですが。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.01 21:49 | 編集
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dot 2017.05.02 00:41 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
おおっ、復帰早々夜更かし(笑)アカシア連休を前に現在体力低下中です(笑)
そうなんです。こちらのお話しの猫は「彼女」です。
最終話では、そんな彼女の姿を描写してみましたが、いかがでしょうか?
マ**チ様の「彼女」は恐らく『司』のように上品な猫ちゃんだったのではないかと思ったのです。
切なさが加速していきましたが、道明寺司の名前は・・・消えてません!(笑)
以前「乾いた風」で消しましたが今回は夢でした(笑)
もう最終話が公開されているのでご存知ですよね?
ラストはこんな感じでした^^予想外でしたでしょうか?(笑)
そして道明寺家の一員となった子猫は、つくしと司の生活に彩りを添えてくれるはずです。
司の膝に上がってみゃあみゃあと可愛く鳴いて何かをおねだりしているかもしれません。
25年後の幸せな二人の姿を想像していただければと思っています。
さて、この猫ちゃんはどちらの枕元で寝るのでしょうか。もし「彼女」なら司かもしれません!つくしのライバル?おや?そんなお話し「RAIVALS」で書いていましたね(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.05.02 21:39 | 編集
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