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2015
09.26

キスミーエンジェル26

牧野を問いつめる時間はいくらでもある。
黙っていたいならそうすればいいさ。

「で?俺と結婚する決心はついたのか?」
彼を見つめていたつくしははっとして顔をそむけた。
「・・・お願い。なにか着てくれない?」
彼は立ちあがって服を着はじめた。
つくしの耳には衣擦れの音と、ベルトのバックルを締める無機質な金属の音が聞こえてくる。
身支度を整えるとカフスと腕時計をズボンのポケットにいれ、床に脱ぎ捨てられていた上着を拾い上げた。
「答えろよ、牧野」



沈黙が広がる室内でキッチンのテーブルのうえに置かれていた携帯電話が唸りはじめていた。
その呼び出し音が俺を苛立たせる。
パソコンの画面にはニューヨーク市場でのE社の株価の変動がリアルタイムで示されていた。
売買取引の多さが誰かが大量に買い付けをしているのを示しているかのようだ。
既に市場が開いて2時間が経過している。

道明寺は携帯電話をつかみ取り発信者を確認するとそのままテーブルに戻していた。
放っておけばいい。
「出なくていいの?」
携帯電話はしつこく鳴り続けている。
「ああ、秘書だ」
そして20回近く鳴った後、ようやく鳴るのを止めた。


つくしは大きく息を吐くと顔をそむけたままで答えた。
「一度は私のことを忘れたでしょ?またきっと出来るわよ」
俺は屈み込み目を合わせようとしたが牧野は視線を合わせようとはしない。
道明寺は低い声で話した。
「主導権の幻想にしがみついて時間を無駄にするくらいなら負けを認めろ」


たった今、起こった現実に圧倒されているつくしの頭の中で彼の声がこだまする。
私には主導権もないし幻想もない?

 
彼が一歩前に踏み出したとき、玄関のインターフォンが来客を告げてきた。
「ほら、秘書さんがお迎えに来たみたいよ・・」

つくしは彼がドアまで行くのを待って言った。
「私は自分でルールを決めている。決して恋はしないって」
「牧野・・・」


今度は玄関のドアをノックする音が聞こえてきた。
道明寺はその音を遮るようにドアを開けた。
「支社長、申し訳ございません。ニョーヨーク本社から大至急連絡を取るように連絡が入りました」
「・・・わかった。すぐ行く」
道明寺はタイミングの悪さに腹立しさをこらえた。
「・・・時間切れか。牧野、まだ話は終わったわけじゃない」

彼は手にした上着を羽織ると携帯電話を胸の内ポケットへと収め、パソコンの電源をおとすと秘書に手渡していた。


「おやすみ、牧野」
そう言うと彼の後ろで音をたててドアが閉まった。
その途端、つくしの身体からはどっと力が抜けた。
つくしはドアへと歩み寄ると勢いよく鍵をかけ、ドアに背中を預けるとそのままずるずると床まで滑り落ちるようにしゃがみ込んでいた。



分かっている。
これで終わったわけじゃない。









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