何気ない毎日が手の届かない思い出になる。
飛ぶように駆け抜けたあの日々は色のない思い出となってしまう。
この世界が続くかぎり乗り越えなければならないことがあるとすれば、あの人と過ごした日々なのかもしれない。
生まれてきてから一番大切だと思った人。
はじめて自分から幸せにしてあげたいと思った人だったが、その思いを叶えることは出来なかった。
月日は人生に彩りを添えてくれると言うが、私の人生には感じられなかった。
出会いも別れも運命で決まっているというが、もしそれが本当なら私と彼の運命はあの日決まってしまったのだろうか。
あの人と恋に落ちてから自分が変わっていくのを知った。
初めてあの人のため涙を流したのは、あの人を傷つけたあの雨の日だった。
今思えばあの人と過ごした日は私にとって貴重な日々。
恐らくそれは人生が終わる日までそう感じるはずだ。そしてこうして毎日ありふれた日々を過ごしているが、こんな日もいつか思い出に変わって行くはずだ。
小さな出来事まで鮮やかに思い出し、忘れかけていたことも再び思い出し、面影を追うように日々をやり過ごすことしか出来なかった私の元に現れた猫。
今の私は、流れる時を私の猫と共に過ごしています。
あなたの名前をつけた猫と一緒に。
今を生きるために。
道明寺、今日の東京の空はあなたがいなくなったあの日と同じで雨が降っています。
一度私たちが別れを経験した時と同じような雨が__
でもこの街にあなたの面影はありません。
あの笑顔はもう二度と見ることはないのでしょう。
私の日常は相変わらず会社と自宅の往復で猫との暮らしは変わらなかった。
だが変わらない日々と思うのは私だけだったのかもしれない。
そしてある日。電話がかかって来た。
もしもし。と言ったが相手は応えない。沈黙だけが横たわり再びもしもし、と言ったがやはり応えはない。だが私は感じた。この電話は彼からだと。道明寺だと感じた。いや感じたのではない。分かったのだ。息遣いもなにも感じられなかったが感じるものがあった。
「道明寺でしょう?・・ねえ?道明寺なんでしょ!?」
何度も何度も名前を呼んだ。でも返事はなかった。それでも私は言った。
「道明寺!!ねえ、道明寺なんでしょう?お願い何か言って!!道明寺!!」
返事はない。
だが私は語りかけた。そうしなければ電話が切れてしまうような気がしたからだ。
言葉を紡ぐことで繋がっているような気がした。だから話続けた。
「ねえ、道明寺聞いて!あたし猫を飼いはじめたの。黒い猫でね、とってもきれいな子なの!赤い首輪をつけててね、道明寺が好きだった赤い色の首輪なの!それがとてもよく似合ってるの!道明寺は動物が苦手かもしれないけど、この子ならきっと好きになるから。道明寺もきっと好きになるから会わせたいの!」
何も言葉は返ってこなかった。
電話の向うは空気の流れだけが感じられるだけだ。音は何もしなかった。
それでも私はあなただと思った。この携帯電話は彼と私との間の専用電話だからだ。
番号は表示されていない。それでもあなただと思った。
でももしそうならどうして声を聞かせてくれないのですか?あれから7年経ち、会社はあなたのお姉さんのご主人が社長になり、道明寺が自らを犠牲としたあの頃と違い繁栄を続けています。
あなたの消息が途絶えたと連絡をくれたのはお姉さんでした。あなたと私が再び愛し合うようになったとき、影から見守ってくれたのはお姉さんでしたね。
ある日お姉さんは私に言ったのです。
「つくしちゃんの笑顔が見れなくなって淋しいわ」
大切な人を失った人は誰もがそうではないでしょうか?
でも私から笑顔を奪ったなどと考えないで下さい。
私の笑顔はあなただけのものだったのですから。
あなたが私の笑顔を覚えていてくれたらそれでいい。
そう思っています。
篠突く雨が降る日、奥様は、あなたがいないいまま葬儀を行った。
彼の立場に相応しい会場での立派な葬儀だった。けれど、大勢の参列者に見送られ、亡骸のない空の棺が黒い車で運ばれて行く様子は耐えられなかった。黒い傘を持つ私は信じられない思いでその光景を見つめていた。
そして形だけとは言え、何故そんなことが出来るのかと思った。
それでもそうしなければならなかった理由があったとしても、その理由を私は知る由もない。
その日の雨は私たちが別れを経験したあの日の雨だ。
あの雨はどうしていつまでも私たちに付き纏うのか。
それでも思った。
雨はあなたが流した涙なのではないかと。
この世に未練があったと思う私の勝手な思いかもしれないが、そう感じられた。
そしてその未練が私のことだといいと思った。
暫くして、葬儀が行われたのは、奥様の申し立てにより裁判所から失踪宣告がされたからだと知った。不在者が生死不明になってから7年が満了したとき、死亡したとみなされ、不在者についての相続が開始され、婚姻関係が解消すると知った。
あの人は永遠に戻ってくることは無い。
道明寺司という人間は、もうこの世には存在しない。
今までは、あの人はどこかで生きているのではないかと思っていた。だがそうではない。
そうすると、本物の絶望が私の前に広がり、何もする気がしなくなり、仕事に行くことが嫌になると、体調を崩したといって休暇をとり、部屋でぼんやり過ごすだけの日々が続いた。何もする気がないというのは食欲も無くなるものなのだと知った。食べることも寝ることもどうでもいいと思えるようになる。そんな時、いっそあの人の傍へ行こうかと考えた。
でも、そんなことをすればあの人が怒るのではないかと思った。
きっとあの人は怒鳴っていたはずだ。
そんな哀しみの中、私の傍にいてくれたのはあの黒い猫だった。
この街にも焼け付くような夏が来るのだろうか?
海辺に降る雨は穏やかに感じられ、傘を打つ雨音も優しく感じられた。
道明寺。あなたのお墓は鎌倉にある道明寺家の菩提寺にあります。そこは立派な山門がある歴史のあるお寺で、風の音だけが聞こえ、緑の木々が茂った山が迫ってくるように感じられる場所です。でもあなたはその場所にはいません。空の骨壺が置かれているだけですから。
それでも私はあなたのお墓に花を供えに行きます。
あなたの名前をつけた黒い猫と一緒に。

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はじめて自分から幸せにしてあげたいと思った人だったが、その思いを叶えることは出来なかった。
月日は人生に彩りを添えてくれると言うが、私の人生には感じられなかった。
出会いも別れも運命で決まっているというが、もしそれが本当なら私と彼の運命はあの日決まってしまったのだろうか。
あの人と恋に落ちてから自分が変わっていくのを知った。
初めてあの人のため涙を流したのは、あの人を傷つけたあの雨の日だった。
今思えばあの人と過ごした日は私にとって貴重な日々。
恐らくそれは人生が終わる日までそう感じるはずだ。そしてこうして毎日ありふれた日々を過ごしているが、こんな日もいつか思い出に変わって行くはずだ。
小さな出来事まで鮮やかに思い出し、忘れかけていたことも再び思い出し、面影を追うように日々をやり過ごすことしか出来なかった私の元に現れた猫。
今の私は、流れる時を私の猫と共に過ごしています。
あなたの名前をつけた猫と一緒に。
今を生きるために。
道明寺、今日の東京の空はあなたがいなくなったあの日と同じで雨が降っています。
一度私たちが別れを経験した時と同じような雨が__
でもこの街にあなたの面影はありません。
あの笑顔はもう二度と見ることはないのでしょう。
私の日常は相変わらず会社と自宅の往復で猫との暮らしは変わらなかった。
だが変わらない日々と思うのは私だけだったのかもしれない。
そしてある日。電話がかかって来た。
もしもし。と言ったが相手は応えない。沈黙だけが横たわり再びもしもし、と言ったがやはり応えはない。だが私は感じた。この電話は彼からだと。道明寺だと感じた。いや感じたのではない。分かったのだ。息遣いもなにも感じられなかったが感じるものがあった。
「道明寺でしょう?・・ねえ?道明寺なんでしょ!?」
何度も何度も名前を呼んだ。でも返事はなかった。それでも私は言った。
「道明寺!!ねえ、道明寺なんでしょう?お願い何か言って!!道明寺!!」
返事はない。
だが私は語りかけた。そうしなければ電話が切れてしまうような気がしたからだ。
言葉を紡ぐことで繋がっているような気がした。だから話続けた。
「ねえ、道明寺聞いて!あたし猫を飼いはじめたの。黒い猫でね、とってもきれいな子なの!赤い首輪をつけててね、道明寺が好きだった赤い色の首輪なの!それがとてもよく似合ってるの!道明寺は動物が苦手かもしれないけど、この子ならきっと好きになるから。道明寺もきっと好きになるから会わせたいの!」
何も言葉は返ってこなかった。
電話の向うは空気の流れだけが感じられるだけだ。音は何もしなかった。
それでも私はあなただと思った。この携帯電話は彼と私との間の専用電話だからだ。
番号は表示されていない。それでもあなただと思った。
でももしそうならどうして声を聞かせてくれないのですか?あれから7年経ち、会社はあなたのお姉さんのご主人が社長になり、道明寺が自らを犠牲としたあの頃と違い繁栄を続けています。
あなたの消息が途絶えたと連絡をくれたのはお姉さんでした。あなたと私が再び愛し合うようになったとき、影から見守ってくれたのはお姉さんでしたね。
ある日お姉さんは私に言ったのです。
「つくしちゃんの笑顔が見れなくなって淋しいわ」
大切な人を失った人は誰もがそうではないでしょうか?
でも私から笑顔を奪ったなどと考えないで下さい。
私の笑顔はあなただけのものだったのですから。
あなたが私の笑顔を覚えていてくれたらそれでいい。
そう思っています。
篠突く雨が降る日、奥様は、あなたがいないいまま葬儀を行った。
彼の立場に相応しい会場での立派な葬儀だった。けれど、大勢の参列者に見送られ、亡骸のない空の棺が黒い車で運ばれて行く様子は耐えられなかった。黒い傘を持つ私は信じられない思いでその光景を見つめていた。
そして形だけとは言え、何故そんなことが出来るのかと思った。
それでもそうしなければならなかった理由があったとしても、その理由を私は知る由もない。
その日の雨は私たちが別れを経験したあの日の雨だ。
あの雨はどうしていつまでも私たちに付き纏うのか。
それでも思った。
雨はあなたが流した涙なのではないかと。
この世に未練があったと思う私の勝手な思いかもしれないが、そう感じられた。
そしてその未練が私のことだといいと思った。
暫くして、葬儀が行われたのは、奥様の申し立てにより裁判所から失踪宣告がされたからだと知った。不在者が生死不明になってから7年が満了したとき、死亡したとみなされ、不在者についての相続が開始され、婚姻関係が解消すると知った。
あの人は永遠に戻ってくることは無い。
道明寺司という人間は、もうこの世には存在しない。
今までは、あの人はどこかで生きているのではないかと思っていた。だがそうではない。
そうすると、本物の絶望が私の前に広がり、何もする気がしなくなり、仕事に行くことが嫌になると、体調を崩したといって休暇をとり、部屋でぼんやり過ごすだけの日々が続いた。何もする気がないというのは食欲も無くなるものなのだと知った。食べることも寝ることもどうでもいいと思えるようになる。そんな時、いっそあの人の傍へ行こうかと考えた。
でも、そんなことをすればあの人が怒るのではないかと思った。
きっとあの人は怒鳴っていたはずだ。
そんな哀しみの中、私の傍にいてくれたのはあの黒い猫だった。
この街にも焼け付くような夏が来るのだろうか?
海辺に降る雨は穏やかに感じられ、傘を打つ雨音も優しく感じられた。
道明寺。あなたのお墓は鎌倉にある道明寺家の菩提寺にあります。そこは立派な山門がある歴史のあるお寺で、風の音だけが聞こえ、緑の木々が茂った山が迫ってくるように感じられる場所です。でもあなたはその場所にはいません。空の骨壺が置かれているだけですから。
それでも私はあなたのお墓に花を供えに行きます。
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す**様
ケネディJr.の飛行機事故。
あの事故も彼自ら操縦していましたね。
ケネディ家は、他にも悲劇的な結末を迎えた方もいらっしゃいますね。
航空機事故の確率は低いと言われますが、発生すると、失われる人命の多さは、他の交通機関とは比べ物になりません。
アカシアも飛行機は好きです。空の上から眺める景色には、心を奪われます。
コメント有難うございました^^
ケネディJr.の飛行機事故。
あの事故も彼自ら操縦していましたね。
ケネディ家は、他にも悲劇的な結末を迎えた方もいらっしゃいますね。
航空機事故の確率は低いと言われますが、発生すると、失われる人命の多さは、他の交通機関とは比べ物になりません。
アカシアも飛行機は好きです。空の上から眺める景色には、心を奪われます。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.04.30 22:31 | 編集

司×**ove様
おはようございます^^
色々と想像して下さって有難うございます。
お話はあと少しですので、今は何も語れません(笑)
スマホの代用機があって良かったですね?
やはり無いと不便を感じてしまうでしょうねぇ。
そうでしたか!^^毎日あの方々が出演で目の保養とリフレッシュ!いいですね!
アカシアも会いたかった友人と、久しぶりに会うことができ、リフレッシュ出来ました^^
人生を考えさせてくれる友人です。
明日からもファイトです。頑張りましょうね^^
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
色々と想像して下さって有難うございます。
お話はあと少しですので、今は何も語れません(笑)
スマホの代用機があって良かったですね?
やはり無いと不便を感じてしまうでしょうねぇ。
そうでしたか!^^毎日あの方々が出演で目の保養とリフレッシュ!いいですね!
アカシアも会いたかった友人と、久しぶりに会うことができ、リフレッシュ出来ました^^
人生を考えさせてくれる友人です。
明日からもファイトです。頑張りましょうね^^
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アカシア
2017.04.30 22:48 | 編集

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マ**チ様
お久しぶりです!
アカシアも気力、体力が尽き、何もしたくない時がありますが、そんな時は何もしません(笑)
本日から心機一転なのですね!
また是非遊びにお越し下さいね(^^)
そして紺野くんが降臨したときは、また楽しいお話をお聞かせ下さい。
今のお話は切なすぎますよね(苦笑)
実は、こちらのお話を書くにあたり、マ**チ様のグレースケリーちゃんをイメージさせて頂いた部分があります。そのことをお伝えしたいと思いながら、お伝え出来ずの状態でしたが、このタイミングでお越しいただき、有難うございます。
以前お伺いしたエピソードが余りにも印象的で、その場面が頭の中に浮かび、使わせて頂いた箇所があります。
切ないお話しですが、こちらも間もなく終わります。
二人の愛は永遠ですので、あきらとの恋は考えられません!(笑)
5月です!アカシアも色々とありますが、気持ちも新たに頑張ります!
コメント有難うございました^^
お久しぶりです!
アカシアも気力、体力が尽き、何もしたくない時がありますが、そんな時は何もしません(笑)
本日から心機一転なのですね!
また是非遊びにお越し下さいね(^^)
そして紺野くんが降臨したときは、また楽しいお話をお聞かせ下さい。
今のお話は切なすぎますよね(苦笑)
実は、こちらのお話を書くにあたり、マ**チ様のグレースケリーちゃんをイメージさせて頂いた部分があります。そのことをお伝えしたいと思いながら、お伝え出来ずの状態でしたが、このタイミングでお越しいただき、有難うございます。
以前お伺いしたエピソードが余りにも印象的で、その場面が頭の中に浮かび、使わせて頂いた箇所があります。
切ないお話しですが、こちらも間もなく終わります。
二人の愛は永遠ですので、あきらとの恋は考えられません!(笑)
5月です!アカシアも色々とありますが、気持ちも新たに頑張ります!
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.05.01 21:31 | 編集
