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2017
04.23

Collector 46

Category: Collector(完)
司と牧野つくしの未来はこれを機に変化するはずだ。
司の揺るぎない牧野に対する思いと、10年離れていたにもかかわらず自分の事を思っていた彼女の愛情を知った男は、その思いに答えることが出来るはずだ。
そしてその手助けが出来るのは自分たちだと類は思っていた。
あの頃を知る3人なら出来ると_

窓から差し込む朝の光りの中にいる二人の仲睦まじい様子を目にしたとき、あの頃の男が、牧野つくしに対し真っ直ぐだった男がそこにいるのを知った。
その姿は互いを許し合った二人だった。どんな会話も必要ないと思えるほど自然な二人の姿。二人の間にあった降り続く雨は上がり、あの日、窓の外に見える朝の青空が二人の間にはあった。

東京の空には珍しく澄み切った空気の朝の空が。







「まだ痛いんだ?」
「あのね、類。痛いに決まってるでしょ?撃たれたんだから・・イタッ・・」
「そうだよね?どてっ腹に風穴開けられたんだから当然か?」

つくしは類の言葉に微笑んだが、痛みを遠ざけようとするかのように深呼吸した。
狙撃による弾は貫通していた。弾が貫通している貫通銃創は弾を取り出すことがないため、組織を傷付けることなく治療がしやすいと言われ、血管や神経の破損を接合処理し、傷を縫合するといった外科治療と同じだが傷口は痛む。だがある程度日数が経てば、傷口も自然に塞がれてくる。

意識が回復し、枕を背にベッドに起き上がることが出来るようになったつくしは、類が見舞いに持って来たプリンを食べていた。食べないと体力が回復しないと言われたこともあり、差し入れは大歓迎だった。初め頃、食べることが出来なかったが食欲は少しずつ回復していた。

仕事帰りに立ち寄った類は、今では花沢物産の専務となり厳しい表情も見せるが、つくしの前では穏やかな雰囲気の中に知的な眼差しを持つ男だ。
顏に似合わないどてっ腹に風穴を開けられた、と物騒な物言いをしたが、やはりその口調は落ち着いていた。

誰もが心配したつくしの身体。
まさに彼女は九死に一生を得たと言っていいはずだ。たった一発の弾丸で確実に死に至らしめることが出来る銃犯罪。それは運命がもたらした悲劇とでもいうのだろうか。金持ちの少年が貧しい少女を愛したばかりに起きた悲劇。だが、類はそれだけではないことは知っていた。

だがつくしは自分が何故こんな目にあったのか口にしなかった。
普通の人間なら必ず口にするはずの疑問を口にしないことが不思議だが、その理由を知っているからだと類は思った。

追突して来た車の運転手が見つからなかった自動車事故。
父親が口にした『生きようが死のうが金に困ることはない。今後も道明寺から継続的に金が手に入る』の言葉とUSBメモリの内容。
類は司から記録されていた内容を聞いたとき、頷くしかなかった。

両親が亡くなった事故のあと、あのUSBを見つけ、そしてその内容を理解し、そこに父親の言葉を重ね、どうして自分たちが事故にあったのか分かったのだろう。
類はつくしが単なる自動車事故だと考えていると思っていたが、それは類が勝手に思っていただけで、ただの事故ではないとつくしは分かっていた。
そしてそれが道明寺財閥に関係していることから口を閉ざした。
司のために。


つくしが貸金庫に保管していたUSBは、長い歴史を有する名門企業と言われる道明寺財閥の根幹を揺るがす事態になりかねない代物だ。情報漏洩は企業の根幹を揺るがすと言われるが、この情報が漏れたのは、道明寺の株式を発行する主幹事である大日証券からだ。

道明寺と大日証券が手を組み政治家に未公開株という名の賄賂を贈ったとされる記録。
もしそれが本当なら道明寺だけではなく、世界でも有数と言われる大日証券も大きな責任を問われることになる。
しかし記録だけでは証拠にはならない。犯罪事実がはっきりしなければ罪を問うことは出来ないが、どちらにしても金融犯罪、企業犯罪の時効と言われる年月は過ぎていた。
だがもしこれが公のものとなっていれば、当時の内閣が崩壊するような疑獄事件になっていたはずだ。

経済は一流だが政治は二流と言われる日本の政治体制ではあり得ない話ではない。
裏ルールと言われるものが蔓延する日本の政治。戦前から財閥は政党に資金提供をし、自らの利益になる政策を推し進めることをして来た。そして現在それは形を変え、別の方法で行われていたというわけだ。

そして牧野つくしは、当時の道明寺財閥の運命を左右する大きな情報を手にしていた。
時の政権の屋台骨を揺るがすような情報を。

「ねえ牧野?あのUSBの中身、知ってた?」
つくしには貸金庫を開けさせてもらったことを伝えていた。
類が紹介した貸金庫だ。理由は言わなかったが、つくしも文句は言わなかった。
「・・・」
「どうなの?」
「・・うん。知ってた」
プリンを掬っていたつくしの手が止る。
「大学で政治や経済について勉強してたし、初めはなんだろうこれって思ったけど、わかったの・・道明寺の会社のことだって・・」
と、言ったがつくしは黙った。

道明寺貴も親から経営を引き継いだ世襲経営者だ。代々道明寺家の長男が受け継いできた財閥の経営。だが世襲経営トップにありがちな苦労知らずではなかった。
経営を引き継いだ頃の世界経済は右肩上がりではなく、イスラエルとアラブ諸国の間に発生した中東戦争の影響もあり、石油関連事業は思うようにはいかなかった。元々石油事業に弱いと言われた財閥は、その時、世界の石油ビジネスのほぼ全てを支配する石油メジャーと手を組むことにより、業績悪化を免れることが出来た。
だがあの当時、財閥は経営危機に見舞われ司の父親の貴も奔走した。

株式の殆どを有する道明寺家の当主。
傍から見れば教養あふれる紳士に見え、超一流の経営者と言われ経済団体の代表を務めた男。

そんな男が、まさか息子が愛した人を、彼女が財閥にとって不利益となるような情報を持っていることに脅威を抱き殺そうとした。
初めは道明寺家に相応しくない、息子に相応しくないと言った理由から牧野つくしを排除しようとしただけだったはずだ。だが父親の牧野浩が何らかの拍子に財閥にとって不利な情報を手に入れたことによって流れが思わぬ方向へと変わったのかもしれなかった。

もし、牧野つくしがその情報を誰かに渡していたらどうなった?
それを考えたとき、そうしなかったつくしの気持ちを類は考えた。

「牧野。いつ知った?このUSBの存在は?」

「・・あの事故でパパとママが亡くなって・・あたしと進も入院してるとき、類がうちの面倒を見てくれたでしょ?アパートからの引っ越しとか、色々・・。類の家に引っ越してから色々片づけているとき、パパの荷物の中から見つけたの・・・」

退院をし、引っ越し先の類の邸に落ち着いたが、暫く手つかず状態だった両親の遺品ともいえる荷物の中から出てきたUSBメモリ。当時、牧野家にパソコンは無かったが、父親の浩が仕事で使用しているものかと思っていた。

「そっか・・で、誰にも言わず持ってた?」

「うん。類の家にいれば誰かに盗まれたりするはずないし、お世話になってるうちはあたしが持ってても問題ないと思った。でも一人暮らしを決めたとき、やっぱり心配になっちゃって類が教えてくれた貸金庫を借りることにしたの。あの銀行の支店の貸金庫って旧式の手動式でよかったと思ってる。だって本人と委任状を持った代理人以外開けることが出来ないでしょ?あたしの代理人は進になってるから進以外誰も開けることは出来ないし、あの子も銀行員だから貸金庫がどんなものか知ってるから説明しなくても大切なものが入ってるって気付くはずだから・・」

「そうだね、進は気付くだろうね。彼も頭がいいから」

「・・でも進には関係ないことだから・・それにあの子も事を荒立てるようなことは嫌いな子だし、今の立場もあるでしょ?」

類は一人っ子だ。兄弟姉妹はいない。だから進と暮らし始めたとき、正直な話どう接すればいいのか分からなかった。だがつくしが姉の立場で弟にどんな態度を取るのか興味はあった。
牧野つくしの姉としての態度。それは弟には知らせたいことだけを伝えるといった態度だった。つまりそれは弟には余計な心配はかけたくないといった態度。

銀行員となった弟の立場。
弟には弟の人生がある。
出る杭は打たれる傾向にある日本社会では、目立つこと注目されることは嫌われる。
大人しく仕事の流れに身を任せている方がいい。弟の人生まで波立てることはしたくない。
下手に道明寺財閥と関わり、弟の人生を狂わせたくない。そんな思いが感じられた。姉であるつくしは家族が弟と二人だけになったとき、姉として弟を守ると決めたのだろう。

もしかするとつくしが自分の邸に身を寄せたのは、弟の幸せのためだったのかもしれない。
他人に迷惑をかけることが嫌いな少女は、持ち前の頑固さが頭をもたげる前に、弟のため決意したのだろう。どこまでも自分を犠牲にするその性格は、類が見たこの10年も変わることはなかった。だからこそ、そんな少女に向けられた司の父親の行為は許せるものではない。

「酷い親を持った司には同情するけど、牧野に銃を向けたことは許せない。俺が司の父親を撃ち殺したらどうする?」

あの狙撃は司の父親の仕業だと分かっているはずだ。
類は冗談めかして言ったが、この言葉の裏にはいくら言っても言い足りない言葉が隠れていた。

司もそうだったが類も学生重役からスタートした男だ。
オーナー経営者の息子として、将来の社長候補として自他ともに認める立場にいれば、ビジネスについては充分と言えるほど理解している。
どこの会社にも汚い部分があるということも。だが司の父親ほど酷い男は見たことがない。

「でも司のことだから、俺が何かするより先に、あの親にしてこの子ありってことをするんじゃないかな?」

その言葉もあながち嘘ではないだろう。
混じりっ気のない傲慢とも言える道明寺司と言う男もかつて好きな女のため、感情を露にし、暴力事件を起こしたことがあった。
だがそんな男が法に触れるような事件を起し、つくしを悲しませるようなことは避けたい思いがある。

「俺のこれからの役目は、あいつが暴走し過ぎないように監視することかな?」

類は、つと立ち上った。

「牧野、そのプリン。冷蔵庫に沢山買っといたから司にも食べさせてやりなよ?いくら牧野が食いしん坊だからってさすがに全部食べると太るよ?あ、でも司はもう少し胸がある女の方が好きかもね?でもあいつの好みってよくわかんないけど、そう言えばNYにいる頃、胸は別として黒い髪と黒い瞳の女が好きだったな」

類はつくしの眉間に皺が寄ったのを見て笑った。
こうしてあの頃と同じような軽口が言えることが嬉しかった。
牧野は司の過去の女関係は納得済みだ。
司も変に誤魔化したり隠したりしない方がいい。過去は過去として受け入れればいい。
それに牧野つくしと言う女は、今さら変えることが出来ないことに拘るような女ではない。

どこか間の抜けた顔つきになることもあるが、それが牧野の魅力のひとつ。
これから二人にどんな事態が待ち受けているにしても、今度は間違っても二人だけにするつもりはない。
誰かが二人の幸せを気にかけてやるとすれば、それは自分だ。
類は恋愛感情を交えなかった女性に純粋な気持ちで幸せになって欲しいと思っていた。





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コメント
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dot 2017.04.23 13:42 | 編集
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dot 2017.04.24 05:17 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
類君視点のお話し。そうですね、この物語は類くんを無視することは出来ません(笑)
類くんは「司は自分の作った地獄で生きている」と言ったほどでした。そんな酷い男だった司も人間になりました(笑)
類くんつくしが過去を蒸し返さない女性だと分かっていても、チラチラと煽るんです。
>軽く嫉妬心を植えつける(笑)
上手ですよね、類くん。
司は甘い物は苦手なのでプリンは食べないでしょう。
でも敢えて言うところがまた類といいますか・・(笑)
え?あの御曹司のその後ですか?西田さんのせいでラブライフがお預けになった司と、司に愛を与えられ過ぎて動けなくなるつくしですか?(≧▽≦)
見たいですか?(笑)えーっと、月末週間でして、色々と多忙で頭が回りませんので、少々お待ち頂ければ・・う~ん(笑)シリアス書きながらの御曹司は切り替えが大変です(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.24 21:56 | 編集
pi**mix様
>本命出て来たな(笑)
類王子の「どてっ腹に風穴」発言(笑)
マダムキラーあきら君もですが類王子が助演男優賞の殿堂入りなんですね?
有難うございます^^
>類は100言わないながら100言っている風にする・・
そしてこのお話しの流れはビー玉time(笑)いいですね。
類王子の本当の思考はよく分かりませんが核心を突いていることだけは確かです。
B型坊っちゃんには考えられないお人です。
アカシアマジック?(笑)滅相もございません(汗)
類くん、つくしちゃんの幸せを願っていることだけは確かなようです。
いえいえ。妄想劇場大歓迎です!ぜひまたお聞かせ下さい。長文OKです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.24 22:06 | 編集
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