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2017
04.19

Collector 43

Category: Collector(完)
正体を偽っている悪魔は誰だと言われれば自らの父親だと答える。
だが偽るもなにもない。司には自分の父親の偽りのない姿が見えていた。
既に一線を退いた男だが、それでもまだ権力の座にあり影で財閥を牛耳っていると言われている。未だ強い影響力を持つ男はこの先いったい何をしようというのか。

狡猾で残酷な性格な男。
そんな男に似ていると言われ久しいが、事実似ているのだから仕方ない。
子供の頃よく言われたのは、ひと前で感情を表に出すなということだ。確かに感情を表に出すことはビジネスでは決してプラスにならない、むしろマイナス要素が大きいのは周知の事実。その言葉通りと言っては語弊があるが、この10年感情が動くことはなく、虚無感だけを抱き生きて来た。

金と力があれば不可能はないと。
世の中の全ては金だと。
容赦のないビジネス手法で根性が腐りきってしまった男に成り下がってしまっていた。

それは__あいつに出会う前の自分の姿だ。

鏡に映る己の顔を変えることは出来ない。あの男に似たこの顔は自分自身。
片眉を上げ威圧的に相手を見る目も、酷薄な口元もあの男そっくりだ。
世間は美の定義以上の顔だと言うが、この10年が刻まれた顔は・・人だと言えなかった。

己の顔に興味などない。だがこの顔は_あの男によく似ていると言われるこの顔は自分の一部として受け入れなければ前に進むことは出来ない。
だがあの男の息子に生まれたことを今ほど悔やんだことはない。
あの男は本物の息子が欲しかったわけではない。ただ自分の跡を継ぐコピーが欲しかっただけだ。だから自分の意に沿わない女を認めなかった。
親の役割といったものはいったい何なのか?
物心ついた頃から親の存在が希薄だった子供には親の役割が分からない。
だが父親がどんな役割を果たす人間だとしても、人を殺せと命じるような男は父親ではない。


牧野つくしの意識はまだ戻ってはいない。
意識のない顔は青ざめたように見えた。だが表情は穏やかに感じられた。
手を握ったとき、その手は柔らかく体温が感じられた。今はただ眠っているだけだ。そう感じられた。大丈夫だ。きっと大丈夫だ。命は助かった。生きている。ただ意識が戻らないだけだ。今は彼女が生きていることに感謝しなければ。

だがこうなってしまった責任は自分にある。




10代の頃、学園の頂点に君臨していた男の傍にはいつも仲間がいた。
その頃はまだ子供で、裕福な親に守られていたに過ぎなかった。
それはひとりぽつねんと佇むことが好きだった男にしてもそうだ。
その男が大切な人を10年もの間守ってくれていた。

_だが自分は守れなかった。
彼女の身に危険があることは分かっていた。
それなのに守れなかった。





首都高速が混むのはいつものこと。
自然渋滞か、それとも年がら年中どこか工事をしている関係か。
どちらにしても動かないことはよくある話しだ。司の乗ったリムジンの前にいるのは、大型の貨物車で前方は見えなかった。

ノロノロと進む車の窓を少し開け、煙草の煙を外へと逃す。
隣に座る井坂が視線を向けたが司は黙っていた。
言いたいことがあれば、はっきり口にする男だ。何も言わないということは、さして用はないということだろう。銀行の外で待つ車に控えさせていたのは秘書ではなく井坂だった。

井坂からの報告で知った牧野つくしの父親、浩が大日証券の支店長付運転手をしていた話し。そこから動き出した疑惑。どうして牧野浩が自動車事故で亡くなり、その犯人が捕まらないのか。
そして牧野つくしの日記に書かれていた『生きようが死のうが金に困ることはない。今後も道明寺から継続的に金が入る』の言葉。父親が口にしたこの言葉の意味を知っていたのだろうか?あきらも口にしたが、その言葉が意味するのは牧野浩が道明寺に対する何らかの弱みを握ったとしか考えられなかった。

企業が大きくなればなるほど色々なことが起きるのは当然だ。
脅迫めいたメールが届くこともあれば、誹謗中傷もあるがその殆どは無視してもいいものだ。だが牧野浩は自分の娘が息子に近い立場にいたことから、あの男と接点を持った。

思考の流れは、あの事故はあの男が仕組んだと考えている。
小さな綻びも大きくなれば取返しのつかないことになることもある。
悪い芽はさっさと掻きとるに限る。
あの男はそう考えたはずだ。

牧野浩が握った情報を取り返そうとし、追突事故を起こした。だが取り返そうとした情報は見つからず、娘が持っているはずだと思ったあの男は次に娘を狙おうとした。それに類が気付いたことで類の邸にいた。類が守っていた。

皮肉なことだが、勘がいいのもあの男に似ていると言われていた。
恐らく間違いない。
ただ証拠はない。

司は思った。
もし、自分の父親が本当に彼女の両親が亡くなった事故に関係しているなら話さなくてはならない。
いつか本当の話をつくしにしなければならないと。
そしてつくしがこんな目に合ったのは全て自分のせいなのだと。
だがどう話しをすればいいのか。
心の中で、頭の中で考えるが話すことが出来るかと。
真実を告げることが出来るだろうかと。
だが躊躇いがあっては物事は前に進みはしない。



牧野つくしが借りた貸金庫にはいったい何が収められているのか。
彼女が大切にしているものは何なのか興味もあった。
大きな自然災害を経験したこの国は、あれ以降貸金庫の利用者が増え、金庫が足りず断ることもあると言う。確かにあそこなら火災や災害から大切な守ることが出来るはずだ。そして盗難からも守ることが出来る。銀行に強盗に入ったとしても、貸金庫を開けろと言った話しはこの日本では今まで耳にしたことがない。

あの支店は昔ながらの古い建物だが、銀行という特殊性から強固な作りになっていた。
彼女が借りた金庫が手動式だったのは良かったのかもしれない。全自動式の場合、カードさえあれば行員と顔を合わることなく金庫室の中に入ることが出来るが、手動式の場合、行員と顔を合わせなければならず、届出印との印鑑照合もあり筆跡も確認される。旧態依然のやり方ではあるが、今回の場合手動式であったことがある意味良かったのだ。つまり、あの金庫の存在を誰かが知ったとしても、本人以外は安易に近づくことができないということだ。

引き出された銀色の箱の中には、いくつかの封筒が収められていた。
そのひとつひとつの中を確認していった。
貸金庫によくある金銭や通帳、土地家屋の権利書、貴金属といったものは当然だがない。厚みのない貸金庫に保管できるものは限られている。最近では位牌が収められるといったことも聞くが、封筒の中から出て来たのは、家族の写真が数枚。まだ子供達が幼いころ写したものから高校の制服を着た姿のものまであった。牧野つくしの両親が若い頃の写真もあり、そこから感じられるのはごく普通の親としての姿だ。もう二度と撮影することが出来ない家族の写真を貸金庫に収めていたのか?他にあるのはやはり思い出の品と言えるようなものばかり。その中には成績表もあった。

そしてひとつの封筒の中から出て来たのは、USB。
それが今、手の中にある。
恐らくこの中にあの男が外部に知られたくない情報が隠されている。
ビジネス絡みには間違いないが、余程知られたくなかったということだろう。
牧野つくしは、この中身を知っているのだろうか?知っているからこそ、金庫に保管したのだろうか。そうでなければ、何故こんなものを金庫に預ける?
だがもう10年も前の情報だ。今さらどうだと思うが、あの男にとってそんな情報が他人の手元に眠っていることが気に入らないのか。

どちらにしても生半可な事実を求めてない。
知りたいのは真実。

もし、本当に自分の父親が口に出せないようなことをしていたとすれば・・・

牧野つくしと対峙しなければならない。
そして犯罪者は罰せられなければならないはずだ。しかし自分がそんなことを言える立場ではないことも知っていた。
皮肉な思いが頭に浮かぶ。
過去の自分は何をした?
もし牧野浩があの男を脅迫するような情報を握り、それを実行したとしよう。
それに対しあの男が何かしたとしても、自分も同じようなことをして来たではないか。事実銀行の頭取相手に弱みを握り、脅したではないか。
策略を巡らせ、会社を乗っ取っては潰して行く。そんなことを繰り返し巨大化していく財閥。
過去、刑罰を受けることはなかったとしても、人としての行いは褒められたものではない。
自分の人生は月並みのものではない。
自分があの男を告発出来る立場と言えるのだろうか。

だが躊躇はないはずだ。
過去10年にわたって自分の人生そのものになっていた牧野つくしに対する復讐、自分を捨てたことに対する憎しみ、そして心の中に巣食った彼女に対する狂気も今はもう無い。
自分にとって大切なものである彼女の心を得たいま、それ以外の事がどうでもいいとさえ思えるようになっていた。今まであった執着は別のものに取って変わっていた。


だが彼女と新しい人生を始めるなら、片づけなければならないことがある。
それと同時に思うことは、早く目を覚まして欲しいということだ。
いつ目が覚めるかわからない不確かな時間が流れているが、必ず目を覚ますと信じている。
二人の間に嘘は必要ない。愛してると言ってくれた言葉に嘘はないと今なら分かっている。だから早く目を覚まし、あの大きな瞳で見つめて欲しい。
それが生きていく上での一番の望み。
この先生きていくためにはどうしても彼女が必要だ。
あてどもない闇を彷徨っていた自分にとっての光りなのだから。





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コメント
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dot 2017.04.19 07:53 | 編集
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dot 2017.04.20 00:20 | 編集
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dot 2017.04.20 00:28 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
ついにUSBメモリを見つけました。
そうですね、つくしちゃんは内容を知っていたのではないでしょうか。
だから貸金庫に預けたような気がします。
つくしちゃん、もしかすると自分でも何か感じ取って類くんのお邸で敢えて過ごしたのかもしれません。
そうです。司くんはつくしちゃんと向き合わなくてはいけません。
親子が似てしまうのは仕方がないですよね?
例えそれが離れて暮らしていても似るんです。不思議ですが仕草や声といったものも、よく似てくるようです。
しかし司にとって自分の父親は憎くしみの対象でしかありません。
さて、この親子どうなるんでしょう・・・
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.20 21:53 | 編集
さと**ん様
遂に見つけたUSBメモリ。
はい。つくしは恐らく内容を知っていると思われます。
つくしは誰にも知られないように貸金庫を選んだのでしょう。
罪を憎んで人を憎まず。そうですよね、つくしの性格から言って色々なことを封印したのかもしれません。
成績表が入っていた!(笑)どうしてでしょうね?進君のものかもしれませんね?
ええ、そうなんです。御位牌を入れられる方もいらっしゃるようですよ?
食べ物や危険物以外ならOKなんです。
確かにあの箱の中には人生が色々詰まってるかもしれませんね?
さて、司。ひと言では言い尽くせない沢山のことを抱えているようですね。
守るべきものは、わかったので、これから先はあの人との対決となりそうです。
自分とよく似た父親。いえ、自分が似ている父親。
その顔は憎い男の顔であり、自分の顔でもある。男同士。親子です。父子対決となるのでしょうか。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.20 22:02 | 編集
pi**mix様
こんにちは^^今週は思った以上に忙しく、頭が回りません(笑)
いつも楽しみにして下さってありがとうございます^^
坊っちゃんのパパ語り。司の胸中は・・こんな親ですから憎いでしょうね。
自分の愛する人を殺せという男なんて親ではありません。でも貴さんにも色々とあったと思いますよ。財閥の跡継ぎとして定められた運命を歩むしかなかった。
楓さんとの結婚も決められたものでしたでしょうし・・・。
ええっ!?司とつくしが兄妹!?(笑)それはありません。断言できます。
少し専門的なことも書いていますが、どうしても道明寺HDのお話しになると経済について書かなくては進まない部分もありまして・・・(笑)少しお付き合い下さいませ。
前回のコメントに1時間以上かかった・・なるほど、″不正″で弾かれたんですね?
お時間をかけてコメントを寄せて頂き、ありがとうございました(低頭)
そうなんですNGワードがあるんです。性的な言葉などが含まれるのですが、どの範囲といった部分は不明ですので、これは!と思った単語があれば伏字などにして頂ければと思います。もしくは別の言葉に置き換えるなどしてみて下さいね。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.20 22:12 | 編集
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