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2017
04.15

Collector 42

Category: Collector(完)
三人の男たちの視線が注がれるなか、司が芝居がかかった手つきで背広の内ポケットから取り出したのは、一枚の写真。
それは頭取が裸の若い男と抱き合っている写真だ。
ついほんの少し前まで淡々とした表情だった男は顔色を変え、差し出された写真を掴み取ると、慌てて背広の内側へ収めた。まさか、どうしてと言った顔は、見るも滑稽なほどの動揺が感じられ、脇に立つ二人の男はその表情に何事かとオロオロしていた。

「それからこちらを」

それと同時に封筒がセンターテーブルの上に置かれると、顔色は益々悪く変わっていた。
男はその封筒を掴み、中を取り出し慌てて目を通していた。そこに書かれていたのは、写真が撮られた当日の頭取行動。若い男とどこで待ち合わせをし、どこへ消えたか詳しく書かれていた。

「偶然だったんですが、何故かこんな写真がわたしの手元へ届けられたんです」

司は内ポケットから再び別の写真を取り出し眺めた。

「わたしも見てはいけないものを見てしまったと思いましてね。それにこの写真はごく私事で銀行の業務には関係のないことでしょうが、こんな写真を撮られること自体ご自身の身が不用意な危険に晒されていると思い、お立場上ご注意申し上げた方がよろしいかと思いお持ちしました」

そこで口を閉ざし男が何か言うのを待った。だが男は余程動揺しているのか何も言わない。
言わないのではない。言えないのだ。長年秘密にしていた性的嗜好を知られたことで、自分の社会的立場が脅かされることを恐れているのだ。銀行という保守的な考え方を持つ集団の頂点に立つ男は、自分の秘密が世間に晒されることを恐れているのだ。
司は思わずククッと笑い声をあげた。

「しかし、よく撮れてますね?実に想像力に富んだ体位だ」

言葉はまるで司がその目で見てきたかのように滑らかに口をつく。
そして手元の写真を見ながら視線を男の顔から身体に落とし笑った。
司は銀行相手に喧嘩をしようなど望んでない。ただ、対峙する相手についてはいつも徹底的に調べることにしている。
道明寺司と名乗りこの支店に足を運ぶと決めた時点で頭取が出て来ることは予想していた。
銀行という組織での支店長など、所詮中間管理職だ。そんな人間では話しにならないからだ。それに何事もトップを相手に話しをすると決めている。責任の所在は明確な方がいいからだ。
それにしても頭取の性的嗜好は司にとって思いがけない贈り物だった。

「あなたは若くはないが身体は柔らかいようだ。失礼だがあなたの年齢でこんな格好はなかなか出来ませんよ?若い人が相手ではなかなか大変では?それとも何か薬でも飲まれているんですか? 」

「き、君!な、中村君!せ、席をはずしてくれ!」

わなわなと震える高い声が男の動揺を表していた。
何故わかったのか。どうしてこの若い男が知ったのか。
そんなことが頭を駆け巡っていることは容易に見て取れた。

司は支店長が副支店長を連れ応接室の外へ出るとガラリと声の調子を変え、凄みを効かせ話し始めた。
人の弱みを見つけ利用するのはビジネスではあたり前のこと。相手をコントロールし、思うままにすることが楽しくて仕方がなかったこの10年があった。今の司は自分の持てるその力を見せつけていた。

「この銀行の態度は大したものだ。頭取、あんたの銀行家としての態度はよくわかった。あんたの言い分ももっともだ。間違ったことは言ってねぇ。顧客の情報を外部の人間に教えようとしない態度は立派だ。あんたは正論を述べているに過ぎない」

司は脚を組み、傲然と男を見据え仕事に対する評価をしていた。
集めた情報を使うとき、称賛と貶すことを同時にする。相手を翻弄し、落ち着かない気持ちにさせることが気持ちがいいからだ。

「いつも正論を述べるあんたの態度は取締役会でも他の重役より一目を置かれているらしいな。あんたは偉そうに銀行員としてのモラルを解くらしいが、そんなあんたにこんな趣味があったとは誰も知らないはずだ。そうでなければ頭取なんてやっていられるはずがない」

頭取は60歳前。妻と娘が二人。
全身全霊を銀行に捧げながら、家庭も大事にする男だと思われている。
そんな男に男色の趣味があったとは銀行も、そして家族も知らないはずだ。
男が男を好きだということは司にとってはどうでもいいことだ。どんな性的嗜好があろうが関係ない。ただ、幾ら世の中の考え方がリベラルになって来たとしても、銀行の体質は旧態依然としている。古臭い考え方を持つ重役たちは頭取の性的嗜好をどう思うか。
即座に退陣提案が出されるはずだ。

そして銀行というのは全ての事に対しノーと言うことを好む。
簡単にイエスとは言わない体質だ。
ブラフ(こけおどし)をかけたとしても決して屈することがない。
のらりくらりと言葉をかわし、知らぬ存ぜぬを通すことを得意としている。

そんなことから銀行の貸金庫が本人の立ち合いが無いまま、簡単に開けられることはないと初めから分かっていた。
この男も今は動揺しているが、何が悪いと開き直ってもおかしくはない。
だが、どんな人間にも弱みはある。

「しかし真面目な銀行家にこんな趣味があったとは。世間が知ればどうするだろうな?・・それにしてもキレイな男の子だ。・・二十歳くらいか?・・もし未成年ならそれも問題だな」

男同士。そしてその年齢差。それだけでもスキャンダルとして十分だが、未成年者に猥褻行為を強要したとなれば警察沙汰になりかねない。
そしてそれを週刊誌が面白可笑しく書きたてれば、男の頭取としての人格は地に落ちる。
司は類に嫉妬した時もそうしたが、子飼いの記者がいる。記事を書かせるのは簡単だ。

「な、何が望みだ?」
高くうわずった声が言った。
「望みですか?あんた耳が遠いのか?さっき言ったよな?」
ぞっとするほど穏やかな声が言葉を継ぐ。
「俺はあんたの性的嗜好がどうだろうが、立場がどうだろうが関係ない。銀行が潰れようが買収されようがどうでもいい。ただ、お嬢さんは・・間もなく結婚されるとお伺いしましたが?違いましたか?お相手は国会議員のご子息とか。・・それにしても銀行家の娘と政治家の息子ですか。何やら既得権益の匂いがプンプンするお話しですね?」

司は緩慢な動作でテーブルに置かれた蓋付きの湯飲み引き寄せた。
そして蓋を取り、ゆっくりと緑茶を口にした。
ことさらゆっくりとした動作は相手に考える時間を与えているのだろう。

「いったいどういうつもりですか・・。こんなことをしていったい・・」

頭取は頬を引きつらせながら低い声で言い返した。
声が低くなったのは、抵抗しても無駄だとわかったのだろう。
何しろ相手は道明寺司だ。相手が白旗を上げるまで、いやそれでも鉾先を緩めることなく、最後まで攻撃するだろう。そして例え地獄へ逃げたとしても手が届く男だと言われていた。

「別にどうするつもりもありませんよ。俺はただ事務的なお願いをしているだけです。貸金庫の鍵を開けて欲しいと。別にそれ以外のことを望んではいませんが?やはり無理でしょうか?それならこちらにも考えがあります。気に入っていただけるかどうか疑問ですが、楽しんでいただけるようにしたいと思いますよ、頭取?」

ともすれば、脅しとも言えるような言葉だ。
だがビジネスではごく当たり前のこと。今の司はごく簡単な駆け引きをしているに過ぎない。

「今日はわたしのつまらない頼みにお付き合いいただき、お忙しところわざわざ申し訳ございません。これ以上お時間を取らせても申し訳ないのでこれで失礼しますよ、頭取」

司がソファから腰を浮かせかけた瞬間、男は慌てて立ち上がると、支店長を呼んだ。

「中村支店長!すぐに貸金庫室の鍵を持って来い!」





数分後、頭取に命じられた中村は貸金庫室の扉を開けた。
そして支店に保管してある鍵を二つの鍵穴へ差し入れ解錠し、高さ6センチ、間口26センチ、奥行き45センチの貸金庫番号37番の箱を引き抜き、金庫室の端にあるテーブルへ置き、どうぞごゆっくりなさって下さい、と言って出て行った。





***






牧野つくしの死のニュースは耳に届かなかった。
その意味はただひとつ。
前回も失敗したが、今回も失敗したようだ。
頼んだ人間は期待通りの働きは出来なかった。
だがあの女は意識を回復することなく、未だに病院のベッドの上にいる。
何しろ入院先は財閥の病院だ。調べればすぐ分かる。

狙撃した人間からの報告によれば、今回も司が居合わせたということだったが、その息子の目の前で撃たれることになった。聞けば山荘の入口から衝動的に飛び出して来たらしい。
それも司が到着したことを知り飛び出して来た。


貴は毎朝NYタイムズを読むのが長年の習慣だ。
第一面から読み始めるが、最近目につくのは政治的なことよりも、各国で起きるテロや戦争が始まるのではないかといったニュースが多い。

人生は理不尽なことが多い。
特に今の世の中は。
だが仕方ない。世の中は常に変化しているのだから。





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コメント
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dot 2017.04.15 13:35 | 編集
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dot 2017.04.15 16:48 | 編集
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dot 2017.04.15 23:18 | 編集
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dot 2017.04.16 00:21 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
頭取だけをターゲットにしました。
静かに淡々と語る司は怖いかもしれませんね?
頭取も初めは突っぱねていましたが、自分の隠していた性的嗜好が知られ顔面蒼白だったと思います。
貸金庫は開きましたが、探しているものは見つかるのでしょうか。
司の父親の動きもまだわかりません。
親ですが、それは遺伝子の上だけ。生物学的な親というだけの父親ですねぇ。
どうしてこんな父親になってしまったのでしょうねぇ・・。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.16 18:45 | 編集
pi**mix様
貸金庫開きました。坊っちゃんビジネスには非情です。
でもこれはビジネスには関係ないですよね?(笑)
謎1。何故初めの頃のお話にFINがあるのか。この物語は読み切り短編で始めたお話でした。それを連載に変えたため、FINがそのまま残っています。気になさらないで下さい。でも不思議に思いますよね?取った方がいいでしょうか。考えます。
謎2。つくしちゃん病気・・こちらの件は、えー今は何も言えません^^
謎3。父親、貴は屈折したパパ(笑)。そうです、司の父親は親が敷いたレールを歩んだようです。そして今は自分の権力に取りつかれている男です。そして親から引き継いだ道明寺家を繁栄させることが使命と思っています。そんな父親は楓さんと同じく、牧野つくしという女は道明寺の家に相応しくないと排除しようとしています。
Collector坊っちゃんの脳内実写化(笑)どんな坊っちゃんなんでしょう。
人間性を取り戻し、つくしちゃんを愛してると言える坊っちゃんになりました。
ここから先は父親に負けるな坊っちゃん!となるか・・・
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.16 18:53 | 編集
H*様
この物語。ドキドキですか?ありがとうございます。
この先の展開ですが司と父親の対決となるでしょうか?
そしてつくしちゃん、早く目を覚まして欲しいですよねぇ。
拍手コメント有難うございました^^

アカシアdot 2017.04.16 18:56 | 編集
さと**ん様
この頭取、司に写真を見せられさぞ慌てたことでしょう。
頭取、あなたの運命は司に握られてしまいました(笑)
【想像力に富んだ体位】
アカシアもBLには疎いのでどんな体位なのか・・(笑)
司の口から出た言葉なのでアカシアにも不明です(笑)
交渉する司は冷静に追いつめて行く男でしたね。
美しい男の冷たい態度。頭取、もしかすると司に苛めてもらいたいと思ったかもしれません!
そうなるとお話しの行方が・・・
しかし、今はそれどころではありません。自分の身が大切です。
貸金庫の中、目的のものはあるのでしょうか。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.16 18:59 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
まさか!頭取にそんな趣味が!(笑)本当に人は分かりませんね。
この報告書が上がってきたとき西田さんですか?
どんな顔をしてたか・・・男同士、それも年配の男性と若い男のイケナイ写真を見てもやはり鉄仮面だったのか?
ん~どうだったんでしょう?しかしどんな写真だったのか・・
見たい気もしますが、見たくないですね(笑)
シリアスな中にも笑がはさまる(笑)!ありがとうございます!
金庫の中にお目当てのものはあったのか、なかったのか。
そして道明寺パパの出方も気になります!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.16 19:01 | 編集
アー***チョーク様
はじめまして、こんにちは^^
司の父親は余程つくしのことが気に入らないようです。
庶民である、家柄が合わないことが気に入らないようです。
お家第一と考えるような人です。権力に取りつかれ、周りが見えなくなっているような父親です。息子である司をマリオネットのようにしたかった。
そんな人ですから心はありません。
世界は自分の思い通りにならない。本当の仰る通りです。
息子の恋を踏みにじるのが楽しい男です。
つくしちゃんあっての道明寺財閥。
そうなんです。彼女がいなくなったら司は壊れてしまいます。
今までも憎みならがも、心の奥深くの気持ちはあの頃と変わっていませんでした。父親、これからどうなるのでしょうか・・
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.17 01:26 | 編集
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