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2017
04.02

Collector 32

Category: Collector(完)
もし今が物凄く幸福か、あるいは物凄く不幸かと問われれば、なんと答えるだろう。
幸せか、そうでないかと問われたとき、人はなんと答えを返すのだろう。
生きている意味など考えず生きてきたのだから、幸か不幸かなど考えもしなかった。
だが今は考え始めていた。

運命から二人を救わなければならない。
二人の人生を変えてしまった歪んだ運命から。
誰よりも好きだった人のため・・。
そして自分のため・・。

それが例え犯罪にかかわることだったとしても、自分が知らなかった場所から引き出された真実といったものがあるのなら、その真実を知りたい。
余りにも近くで見過ぎたため、気づかないことがあったと言うのなら、高い場所から物事を見下ろし、広く全体を見ろと言うなら、それを実行したい。



愛した人が流した涙を雨が洗い流した夜があった。
あのとき、残酷なほどはっきり聞かされた言葉がある。
それはいつまでも耳に残る声で、耳鳴りのように感じていた。
歩道を激しく叩く雨のなか、全てを捨て、ゆっくりと歩いて行く少女の後ろ姿と共に、あのときの声はいつまでも頭の中から消えることはなかった。

あんたを好きなら出て行かないと言われたあの言葉。

長い間頭の中で馴染んでしまったその言葉と声。
だがそれはわざと馴染ませていたのかもしれない。
いつも記憶が巡るのは、10年前のあの雨の夜。
あの日の出来事は心をズタズタに引き裂き、長い間思考の隙間にあった。
そして再会してからその隙間から湧き出たのは、彼女に対する暴力的だがどこか甘い想い。
自分自身を怒りで煽り、復讐するため抱いたとしても、あの状況で自分が優位だと言ったとしても、いつもどこかやりきれないような殺伐とした思いがあった。

あの日の二人に届けたい思いがある。
自分の気持ちがはっきりとした今、心の中で降り止まない雨を、あの日の雨が降り続くことをもう止めにしたい。







井坂から提出された報告書の中には多くの疑問点があった。
死骸が害を与えることはないと思っていたが、それはどうやら違っていたようだ。
牧野浩は証券会社の支店長付運転手をしていたが、その時、ある情報を手に入れたに違いない。

「おい、司、記憶媒体っても色々あるんだぞ?!DVDとかSDカードとかUSBメモリとか・・おまえが探したいってのは何なんだ?」

「はっきり何ってのは俺にもわかんねぇ」
司は一旦言葉を切った。

「牧野の父親だが、俺の父親はあいつの父親、つまり牧野浩に金を渡しあいつを追い払おうとした。・・あいつは・・恐らくだが家族のため、金を受け取ることで俺と別れた・・」

認めたくはなかったが、それは事実として認めなければならなかった。

「ああ。類が言ってたな。16歳の少女の仕方がなかった選択だろ?おまえと別れることを選ばざるを得なかったってヤツだろ?それと記憶媒体となんの関係があるんだ?」

あきらは考える顔になり、グラスを口へ運び、何気なしに司が広げた牧野浩についての報告書へ視線を向けた。

「・・おい。あいつの父親が働いてたっての、大日証券か?大日って言えばおまえの会社の主幹事じゃねぇか?」

あきらは報告書を手に取った。

「ああ。そうだ。うちの株式の発行はあの会社と他の2社でやってるが、大日が主幹事だ」

「おい、それにしてもなんで牧野の父親がそこの支店長付運転手になってんだよ?」

報告書に目を通していたあきらが司を見た。
タクシーの乗務員の経験があった牧野つくしの父親は、金を受け取ったあと働き始めていた。

「親父だ。親父が口を利いてあいつの父親の就職を助けた。あいつの父親に金を渡して、ついでかなんか知らねぇが運転手になるにあたっての口利きをしたみてぇだ」

「なるほどな。大日は道明寺HDの主幹事から降ろされることを思えば、訳のわかんねぇ男でもおまえの父親から頼まれたら嫌とは言えねぇよな?で、運転手になったってことか・・」

あきらは納得したように頷いたが、まさにそのとおりだ。

「それより問題は母親の千恵子が証券会社に口座を開いてるってことだ。銀行じゃねぇんだ。証券会社に何の目的もなく口座なんて開かねぇだろ?それに投資方針は株式に積極的に投資するの欄に印がつけられていた」

証券会社は顧客の意向に沿わない営業活動を行うことは出来ない決まりがあり、顧客が安全性の高い運用を望むなら株などハイリスクの商品を勧めることは出来なかった。

「けど、そんな口座があることを牧野は知ってるのか?いや、牧野は知らねぇよな?もし知ってるなら類か?で、その口座に金はあるのか?」

「ああ。1千万ほどある」

借金返済後、残された金額がおよそ1千万だ。

「1千万か・・。俺たちにしてみれば小遣い程度だが、牧野家にしてみれば相当な金額だぞ?それに母親が亡くなってるんなら、その金は相続の対象だろ?牧野と弟が相続出来るよな?」

「ああ。そのはずだが、証券会社は千恵子が亡くなったことを知らなきゃ相続させるもなにも出来ねぇ」

「まあそうだよな・・昔なら新聞の死亡記事なんてのをチェックして顧客との関係を調べる属性調査なんてのをしたが、今はプライバシーの問題もあってそんな記事も出さねぇからな。相続人からの申し出がない限りそのままってことになるか。だけど、本人と連絡が取れねぇとか郵便物が宛先不明で戻れば何らかの対応をするんじゃねぇの?」

「ああ。だから牧野千恵子名義の口座は、金はそのままで休眠口座扱いだ」

井坂に調べさせたが、当然だが口座に動きはなく、利息だけが上乗せされていた。

「そうか。牧野は母親がそんな口座を持ってることは知らねぇってことか。・・しかしあいつの母親が株をやるって柄か?」

「・・恐らくだが、口座を千恵子名義にしたのは、浩にすれば自分が派遣されている大日との関係を問われるからだ。名義は千恵子だが実際に運用するのは浩だろう。それから千恵子は自分の夫が別の証券会社で支店長付ドライバーをしていることを申告してないはずだ」

上場会社の関係者は、その事実を申告しなくてはならない。
浩は派遣ドライバーだが支店長という内部情報をより詳しく知る立場にいる人間に近い。と、なれば株価に影響するような情報を手に入れることが出来るはずだ。そしてその情報を元に株式を売り買いし、利益を出すなり、売り抜けるなりして損失を免れることが出来る。

だが運用するのは浩だと言ったが、まず無理だ。
銃の引き金を引くのに高い知識は必要ないが、金融の知識がない人間が株を買うことに躊躇いを感じないのは、やはりギャンブル癖が抜けないということだ。

「その状況じゃあインサイダー臭いってわけか・・」

「ああ・・」

「だけど、それとあいつの両親の事故の関係があるのか?あいつの両親はコンクリートの壁に突っ込んだんだろ?類はあの事故はおまえの父親絡みだと言ってたがどういう意味だ?」

「あの頃、うちは系列会社の上場を控えていた。その件と関係があるはずだ。それにその事故を起こした犯人は捕まってない。考えたくはないが、あの男が、父親が関係しているのは間違いないはずだ」

恐らくだが、牧野浩は道明寺HDの主幹事である大日証券支店長付ドライバーという仕事の中、道明寺HDに関するなんらかの情報を握ったはずだ。そしてその情報がどこかにあるはずだ。
それが記憶媒体に収められている。

それは世間に知られては不味い情報だろう。
父親はその情報を取り戻そうとしたはずだ。だが、見つからなかった。
だから娘である牧野つくしを狙っていた。
浩が娘になんらかの話しをしているのではないか。
そのことが公になれば困る。だから始末しようとしたのではないか。
そう考えている。

今の自分には腐るほど金がある。
あの時、高校生だった男には動かすことが出来なかった金が。
そして権力も。そしてそれを使う術も知っている。

「なあ、司。牧野の父親の遺品はどこにある?類のところか?それともあいつが一人で住み始めたアパートか?」

「いや。あいつが一人暮らしを始めたアパートはもう無い。俺が・・帰る場所を取り上げた」

あきらはため息をつき、司を見た。

「それなら牧野の荷物はどこにあるんだ?まさかひとつ残らず処分した訳じゃねぇんだろ?・・それにしてもおまえは自分の行動が極端だってことを認識してるか?」

あきらは今更ながら、司が牧野つくしに対してもだが、類に対してもやきもきする気持ちがあることを知っていた。

「・・ああ。そこまではしてねぇよ。世田谷の邸に保管してる」

少しふて腐れたような物言いに、あきらはあの頃の司を見たような気がした。
牧野つくしを巡って類と争っていた頃を。

「そうか。それならこれから邸の方であいつの荷物を探してみるか?行動を起こすなら早い方がいいに決まってるからな?」






***







男の動きは濡れた山の斜面に足を取られてぎこちなかった。
雪はすっかり溶けていたが、その下にあった濡れた落ち葉は滑りやすく、でこぼこの地面や折れた枝が散乱しているのだから油断すると足を滑らせてしまう恐れがある。
そして滑り落ちた先が谷底だとすれば大変なことになる。

男がこれから向かう山荘は、急斜面の崖にせり出すように立っており、出入り口は崖の反対側にひとつだけだ。
雨が降り出し、凍りつきそうなくらいの寒さだ。
間もなく雪に変わるのではないかという思いがあった。
男の顔は厳しく容赦のない顔かと言えばそうでもない。
ただ、鋭く角ばった顔が特徴的なだけだ。

あのとき、一か八か一度だけ引き金を引いた。
ヘリが着陸したのが見えたからだ。だが早く決着をつけようとしたばかりに手元が狂った。
まさか、あの時間にあの男が、道明寺司が山荘に現れるとは思いもしなかった。
人と猪を間違えて撃ち殺すという話はよくある。
男もその手法で行くつもりでいた。
だが失敗した。

今では山荘は警備が厳しくなっている。
男は腕時計を見た。大丈夫だ。まだ充分時間はある。
それに流石にこの時間ともなれば、もうあの男はここには来ないはずだ。

今度は、しくじるわけにはいかなかった。





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コメント
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dot 2017.04.02 06:28 | 編集
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dot 2017.04.02 14:04 | 編集
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dot 2017.04.02 14:34 | 編集
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dot 2017.04.02 14:51 | 編集
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dot 2017.04.03 00:08 | 編集
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dot 2017.04.03 00:44 | 編集
悠*様
からくりがあったのか、無かったのか・・。
深くはありません(笑)
スクリーンが下りて来そうですか?有難うございます^^
エンドロールまでお付き合い頂けると嬉しです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.03 21:13 | 編集
H*様
おはようございます^^
切ないお話しがだんだんとサスペンスへと変化していました。
企業犯罪絡みなのか、それとも・・?
拍手コメント有難うございました^^

アカシアdot 2017.04.03 21:16 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
連日こちらのお話しです(笑)
停滞していましたので、いい加減書かなければ放置してしまいそうです(笑)
恋愛小説ではなくサスペンス小説(笑)
本当ですね?いつの間に?(笑)
そうなんです。相手はあのお父さんです。司の何倍も冷酷な人です。
そしてつくしちゃんに魔の手が!
かなり年配の木村さんは大丈夫でしょうか?
司が来るまで・・なんとかなる・・のでしょうか・・?
ここを乗り越えないと幸せは訪れないと思いますが、色々と複雑かもしれません。
え?「エンドロール~」再読ですか?ありがとうございます(低頭)
紺野くんが賑やかなお話しでした(笑)
桜子と紺野くんは今頃どうしているのでしょうねぇ^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.03 21:22 | 編集
とん**コーン様
うれしい悲鳴をありがとうございます(低頭)
まさかの3日連続更新をしましたが、これからはこちらを書かなければ終わらないと思い、書きたいと思っています。
はい。お名前に惹かれ買いました。焼きとうもろこし味です(笑)
はっ!まさかハ*ス食品の回し者ですか?だとすれば、宣伝効果抜群です(笑)
こちらこそ、新年度もよろしくお願いします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.03 21:27 | 編集
さと**ん様
記憶媒体を探す司とあきら。
つくしの父親、浩は困った父親でした。
そしてまたもゴルゴ登場!(笑)
>木村頼む!小説読んでないで・・
わはは(≧▽≦)金持ちの御曹司に登場した木村さんはエロ小説を読んでいましたね?(笑)
よくぞ覚えていて下さいました。有難うございます^^V
それにしても木村さん、まだ読んでいるのでしょうか?
読み込み過ぎてボロボロになっているかもしれませんよね?
つくしを守るのは木村さん、あなたの役目です!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.03 21:31 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
まさかの以心伝心(笑)連続して投稿となりました。
放置されているので、いい加減進めたいと思いますのでお付き合い頂けると嬉しいです^^
牧野パパ。こちらのお話しでは腹黒い人です。そして司のパパもです。
こちらのお話しはサスペンスになってますよね(笑)そうなると、悪い人は必要ですよね?
そして諦めない司パパの手先。またしても現れました。
頑張れSP!頑張れ木村さん!
しかし木村さん大丈夫でしょうか・・年配の男性なので不安が・・。
こちらのお話し、ラストは既に書き上がっている状況です。
それなのに、進まなかったと言う状態でした。
今後は早く春が来るように進めて行きたいと思います。
ちょっぴり夜更かし同盟万歳!^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.03 21:40 | 編集
pi**mix様
3日連続投稿となりました。
火曜サスペンス劇場、好きでした^^
色々シリーズがあり、お気に入りのシリーズは見逃さないようにと見ていました。
2時間のドラマに人間関係を詰め込み、早いスピードで展開して行く楽しさがありました。
こちらのお話しはラブサスペンス部門ですか?(笑)
坊っちゃん、つくしちゃんに「道明寺、愛してるから・・」と言われてから、溢れ出す思いを止めることが出来なくなりました。
残念ながら鬼畜な坊っちゃんはもういません(笑)お好きですか?鬼畜坊っちゃん(笑)
今、歪んだ坊っちゃんが頭の中に居るのですが、いつかお披露目するかもしれません(笑)
こちらのお話しの最終話は既に書き上がっています(笑)
変な話しですよね、最後は書いてあるのに手間取っています(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.03 21:48 | 編集
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