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2017
04.01

Collector 31

Category: Collector(完)
憎しみはやがて消える日があることを知った。
心はあの頃と同じようにあることも。

記憶を白紙に戻すことが出来たら。
あの日の記憶を。
そんなことを考える日がある。

別れなどなかったと。
あれは間違いだったと。

そして誰もいない場所で、二人きりで寝転がって星空を眺める。

澄んだ夜空の中空に浮かぶ月の光りに照らされ、天体観測をし、口づけを交わした夜があった。互いの距離を近づけようと考えたあの夜の出来事が思い出されていた。
自分がたったひとり生きてきた孤独な舞台に共演者として現れたあいつに激しい感情をぶつけた夜。まだ幼かった二人の間に初めて起きた男と女としての緊張感があった夜だった。
だがあれから程なくして、あいつは邸を後にした。
あれから何度空を見上げようが、あの時と同じ月を見ることはない。








「・・司、類から聞いた。おまえは・・おまえいったい何考えてんだ?!あいつを、・・牧野を・・閉じ込めてるらしいな?類は・・あいつは牧野に一人暮らしを許したことを随分と後悔してたんだぞ!」

あきらは煙草の煙の向うにいる男から連絡があり、こうして酒を飲める場所で2年ぶりに会うことになったことを喜んだ。だが、先日類から聞かされた話しは衝撃的なものだった。
類は牧野つくしが姿を消したことも、そして司の傍にいることも、つい最近まであきらに話すことはしなかった。

強い酒を多めに注ぎ、無表情のまま胃袋に流し込む男の姿は昔と変わらないが、あきらの前に座るのは、かつて好きな女にがむしゃらな光りを向けていた男だ。
そんな男が好きだった女の尊厳を貶めるようなことをしていることが信じられずにいた。

「・・類は牧野がいなくなったのは、どうせおまえの仕業だってわかってたような口ぶりだったが、おまえがあいつに何をするか心配してたのは事実だ。それにどうせおまえのことだ。自分と別れたあいつが・・類の邸で暮らしてた牧野が許せなかったんだろ?・・けどどうしてあいつが類の邸で暮らしていたかもう知ってんだろ?!おまえの親父さんのせいだってことを!」


あきらは10年前、両親を亡くした牧野姉弟を自分の邸に住まわせた類を不思議に思っていた。
当時、司のつくしに対する異常とも言える情熱の表し方を見ていたが、二人の仲が駄目になったことが信じられない思いで驚いていた。それは二人の仲が運命だと言われればそうかもしれないと思い始めた矢先の出来事で、互いが惹きつけ合うようになっていただけに、別れたと言え、そんなことは簡単に修復できるものだと考えていた。そして類も同じように考えていたと思っていた。
だから例え両親を亡くし、身寄りがないとはいえ、赤の他人を住まわせ面倒を見るといった行動が理解出来ずにいた。だが、類は傷つき、餌を食べない小鳥を安全な巣箱へ住まわせるような行動に出た。

今も思い出すことが出来るが、類は持って回った言い方で結論を言う男ではない。
あのときはっきりと口にしたのは、『牧野は立ち直れないほど傷ついているから。だから元気になるまで俺が見守ってやらなければならないんだ。』

あのとき、類が取ったその行為は決して自分の為ではない。類の行為に特別な感慨はない。
そう感じていたが、まさか司の父親が絡んでいるとは思いもしなかった。だが類はそのことをつい最近まで司に告げることはしなかった。何故ならNYへ渡った司にそんな話をしたところで、聞く耳を持たないと思っていたからだろう。

昔と変わらず強い存在感でその場を支配する男は、牧野つくしと別れNYへ渡り、それから自らを貶めていくように荒んだ人生を歩んでいた。それはまるで見えない檻の中でもがく獣のようで、自らの身体を傷つけているかのようだった。

ビジネスに関しても際どいぎりぎりの線で企業買収を繰り返し、つい最近も花沢物産が手掛けていた化学メーカーの系列化工作の邪魔をしていた。三流週刊誌に載った類の記事にしても、司が書かせたものだと分かっていた。

そしてあれほど女に、牧野つくし以外の女に興味がなかった男が、愛人と呼ばれたような女はいなかったにせよ、大勢の女と付き合い、あの当時の思い出を、二人の思い出を打ち消そうとするかのように、何か別のものが己の意識を奪ってくれればいいといった行動を取っていた。


かつて潔癖とも言えるほど、女を近寄らせることをしなかった男のあまりにもの代わり様に信じられない思いがしていたが、今座っている男二人の傍に女の姿はなく、あきらはからかいの表情を司に向けていた。
2年前に会った時、司は冷笑を浮かべ、蔑む目をして女を見ていた。
女の下半身は誰でも同じだと、顔など気にもかけたこともなく、一瞬の解放があればいいといった男だった。

「おまえは牧野と別れてから色んな女と付き合ってたが、やっぱりあいつが忘れられねぇってことだろ?」

あきらが知る牧野つくしという女は、自己犠牲を貫き、友情を重んじ、自分が正しいと思えることを成し遂げようとする少女だった。
二人が出会ってから別れるまで過ごした時間は、いつも口喧嘩ばかりをしていた記憶がある。そしてそんな少女の後をいつも追いかけていたのが司だ。そんな中、少女は司との真剣な交際を望み、そうしたはずだった。

道明寺司という男の気持ちをあんなにも高ぶらせることが出来たのは、後にも先にも牧野つくし以外いなかった。人を従わせることが当然だった男が、欲しくて、欲しくてたまらないと熱望し、少女のため既に決められていた自分の人生を捨ててもいいとまで言った。
だが、そんな少女が司との別れを選んだ理由は金のためだと言った。

だがそうは言っても、それは当時16歳の少女にとってどうしようもない選択のひとつとして突き付けられた結果の答えだ。
今ならそれが理解出来るとまで言わないが、そうせざるを得ない状況といったものは、誰にでもある。決して他人には理解出来ないとしても、どうしようもなく、仕方がない選択があるということも。

あきらが知るのは類から聞かされた司の父親が牧野つくしの命を狙っていたという事実。
今の司は類からその事実を聞かされ、なにかを探しているのがわかった。
心が、司の頑なだった心が揺れ始めたのが感じられた。
しかも司は牧野つくしを求め、まだ愛しているということが分かる。
恐らく司のことだ。この10年そんな思いをどこかに閉じ込めていたはずだ。
偽りの人生を送らなければならなかった10年だったのかもしれない。

決して誰にも見せることのない心の奥底にあるのは、彼女への深い思いだったはずだ。
閉じ込めたと言い換えた言葉だが、事実上監禁状態に置いたはずだ。
それはいくら自分を捨てた女に復讐するためだと言い切ったとしても、傍にいたくて仕方がなかったといった気持ちがあったはずだ。

『あいつが忘れられないんだろ?』
と言ったあきらの問いに答えを返さない司の姿勢が全てを物語っていた。
だがあきらはどうしても確かめておきたかった。

「なあ、司。言えよ?おまえはあいつのことが好きなんだろ?愛してるんだろ?おまえが正気を失ったようにNYで過ごした10年があったとしても、そうだったんだろ?」

まともとは言えない10年を過ごした男は、親友を前に口を開き、最後の言葉をゆっくりと言った。

「ああ。そうだ。俺は・・あいつを愛してる」

修正を加えられた気持ちに嘘はない。
あきらは司の言葉を黙って聞いていた。
あの当時の司の関心はいつも牧野つくしのことだったが、今はそれだけではない何かがあると感じていた。そして2年前に会った時と違う瞳の輝きを感じていた。

「なあ、司。おまえは・・牧野との関係をどうするつもりだ?類の話だとおまえの親父さんは牧野のことを・・」

二人は短く沈黙した。
あきらはその先の言葉を言うことが躊躇われていた。
もしかするとその沈黙の間、二人の頭の中を過った光景は同じ光景だったのかもしれない。

司の父親は母親の楓以上に、二人が付き合っていたことを認めなかったはずだ。
子どもの前でも決して笑った顔を見せたことがないという父親。
感情を晒すことがなかったという父親。
両親ともにそうなのだ。そんな親の元、司が歪んだ人生を歩み始めたのも仕方がなかったと今更だが思う。

そしてあきらは自分が類の名前を出すたび、男の瞳に嫉妬の火を見ていた。
やはり何年経とうが、類の名前は司にとっていいものではないらしい。
そしてそんな男の瞳の中に、つくしの残影を見たような気がした。
牧野も、司のことを愛しているはずだと。
だからこそ、司はここまで変わったのだと。

「・・なあ、あきら。頼みがある」
司は切り出した。

「・・なんだ?」

あきらは司の瞳に宿った輝きに見惚れていた訳ではないが、ハッとした。

「探して欲しいものがある」

「おお、任せろ。なんだ?」

「記憶媒体だ」






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コメント
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dot 2017.04.01 05:15 | 編集
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dot 2017.04.01 08:49 | 編集
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dot 2017.04.01 15:43 | 編集
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dot 2017.04.02 00:17 | 編集
す*ら様
こちらこそ楽しんでいただき、大変嬉しいです。
連日のこちらのお話しとなりました(笑)
放置ぎみのお話しですので頑張りたいと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.02 06:03 | 編集
pi**mix様
こんにちは^^
連日のお話しで驚かれましたか?(笑)
放置されているお話しにならないようにと思い、書いています(笑)
あきら君が出て来るとホッとします。彼はF4の中で一番安定した人間だと思います。
心配性のあきら君。心配りの出来る人です。
そんな彼が司の変化に気付き、力を貸してくれるはずです。
>・・旦那の前で死んでやる!(^^;
確かに忘れられない女でいること間違いないと思います。
人の心は複雑ですよね・・愛のかたちも色々あるとは思いますが、坊っちゃんの愛は歪んだところから始まっているようです(笑)
愛することを止めるのは難しい。忘れたくても忘れられない人は誰にでもいる・・坊っちゃんにとってそれはつくしちゃんです。
心が傷ついても、どんな時も忘れることは出来なかったことでしょう。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.02 06:19 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
>中立的立場で見てくれるあきら・・
確かに類だけだと、どうしても嫉妬心が抑えられないことがあると思います。
司の気持ちは、はっきりしました。二人が引き裂かれたあの日からやり直すことが出来るでしょうか。
はい。道明寺貴を佐藤浩市さんにお願いしたいです(笑)
もう少し毒を持つ雰囲気が欲しいので、お父様の三國連太郎さんのテイストも欲しいです(笑)
つくしのお父さんは温水洋一さんか斎藤陽介さん(笑)いいですね!
温水さんなら狡猾さも表現してくれる。そんな気がします。(笑)
管理人の木村さんは渡瀬恒彦さん!お亡くなりになり、とても残念です。
安定感のある役者さんでしたね?猟銃が扱え、警察上がりの木村さんにピッタリです!
>4月に入り、早速忙しい日が・・。
年度が変わりましたので、私もまた新しい気持ちでスタートしたいと思っています。
本当に冬の寒さでしたね!コート、いつまで着るんでしょう(笑)
気温の変化に体調を合わせるのが大変です(笑)司×**OVE様もお気を付けてお過ごし下さいませ^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.02 06:34 | 編集
マ**チ様
こんにちは^^
連続のこちらのお話し。
そしてマ**チ様の心の声が届きました。本日もこちらのお話しです(笑)
司の心にも変化が見られるようです。
心の中に降り続いていた雨が止むことを望みました。
早く温かい心を取り戻して欲しいですよね・・。
そして二人で温もりを分かち合って欲しい。しかし道明寺パパの氷の心は溶けるのでしょうか・・
4月になりましたが、夜はまだ寒いですよね?
先日の寒さにブルッと来ました。気温の乱高下に身体は翻弄されています(笑)
マ**チ様もお身体にお気を付けてお過ごし下さいね!
新年度、気持ちも新たに頑張りましょう!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.04.02 06:49 | 編集
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