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2017
03.27

あの日、あの時 6

会ったことのない父親の突然の帰国。
つくしは焦ることはない、と言ったが司はどうしても我が子に自分が父親であることを一刻も早く伝えたかった。

今日初めて会ったが、それでも我が子からおじさんではなく〝お父さん″と呼んでもらいたいと切望した。そして息子の身体を抱きしめ、抱き上げ、自分の腕の中で笑い声をあげさせたかった。だが7歳になった息子は抱かれるほど小さくはなく、クラスの中でも一番背が高いと聞いた。恐らくだがあの子は自分と同じくらいの背の高さになるはずだ。

そんな息子とその母親の未来は自分と共にある。
司はそれを信じて疑わなかった。
そして父と子といった親子関係を構築するためなら、どんなことでもするつもりでいた。

おじさん、と呼ばれた男が外国に住んでいて帰ってこれない父親と知った息子はどういった反応を示すのか。ついさっきまで母親の友達だと思っていた男が父親だと知る瞬間はどういったものになるのか。

少年の頭は混乱するのではないか。
7歳の少年はこれから話すことを理解することが出来るだろうか。
そしてそれは生まれて初めて会う父親とのドラマチックな対面となるはずだ。
だがいきなり父親になった男は、子供については無知であることは間違いない。
しかし、親子で男同士ともなれば、どこか通じるところがあるのだろう。
実際、マンションの入り口で初めて会った男から握手をしようと言われ、素直に応じたところは、子供の感覚ともいえる直感で、この男の人は大丈夫だ。自分に危害を加えるような人ではないと感じたのかもしれなかった。


「牧野・・航を呼んで来てくれないか?」

二人の間に生まれた息子。
何はともあれ三人が家族になることが第一だ。彼女は航をここまで立派に育ててくれた。
これから先は自分も参加したい。そして航のこれから先の人生を導き、見守ってやりたい。
だが航は迎え入れてくれるだろうか。

自分の子供時代の家庭環境とは全く違う中で成長している息子。
司は使用人にかしずかれるような贅沢な環境の中で育ったが、家庭の暖かさといったものなどなく、冷たい霊廟のような中で成長し、やがて荒んだ人間が出来上がったが、つくしはそれをよく知っている。だからこそ、我が子が特別な存在の子供ではなく、普通の子供として育ったことが羨ましいと思えた。

「・・わかったわ。」

つくしは司の言葉に心を決め、航を呼びに行ったが、会ったばかりの二人がいきなり親子の名乗りをあげることに不安が隠せないようだ。
母親に呼ばれた少年は、大人二人の間に流れる何かを感じとったのか、先ほどまでのはしゃぎっぷりとは打って変わったように静かだった。

「航くん。おじさんから話しがあるんだが聞いてくれるか?」

司とつくしは視線を交わした。

ソファの端に座った航は、隣に腰かけた母親の方へ身体を寄せていた。
こうして息子を見れば、道明寺家の血を、父親である自分の血を受け継いでいることがはっきりと感じられた。大きな瞳は隣に座る母親に似ているが、癖のある髪の毛とキュッと引き結ばれた薄い唇や輪郭は、父親である自分譲りだと感じていた。

「おじさん、さっきのお話しの続き?・・ねえ、おじさんはNYって知ってる?僕のお父さんはその街に住んでるんだ。僕地図で見たけどここからは遠いよね?おじさんはNYに行ったことがある?」

航は自分が呼ばれた理由はおじさんが外国の話しをしてくれるのだと思っているようだ。
司は目の前に座る男の子がまだ会ったことのない父親が住む場所に、いたく興味を持っている様子に心を痛めた。そして、いつか父親に会いに外国へ行くと聞かされ、なぜもっと早くビジネスのケリをつけることが出来なかったかと後悔した。

車の中で交わされた会話の中、お父さんはどんな車が好きなのか、一緒に暮らしていたらどこか連れて行ってくれるのかな、と言われ、思わず自分が、おじさんがどこでも好きな所へ連れて行くと答えていた。
そして行きたい所はどこだと問えば、それはまだ会ったことがない父親がいる街NYだと聞かされ胸が痛んだ。

「NYか?よく知ってるよ。・・おじさんもあの街に住んでたからね。それにおじさんは飛行機を持ってるから行こうと思えばすぐにでも行けるよ。」

「ええっ、おじさん飛行機持ってるの?凄いや!・・でもそれ本物なの?」

「ああ。本物だ。おじさんは仕事が忙しいとき自分の飛行機を使うんだよ。」

「そうなんだ・・凄いね!おじさんってお金持ちなんだね! ねえ、おじさんNYについて教えてよ!お母さんに聞いてもあまりよく知らないって言うんだ!でもおじさんは住んでたんだね?凄いや!・・ねえ、どんな街なの?お母さん、おじさんもしかしたらお父さんのこと知ってるかもしれないね!僕お父さんのこと尊敬してるんだ。まだ会ったことはないけど凄い偉い人で、忙しいお仕事をしてる人で、みんなに好かれている人なんだって!」

航は母親の顔を見たあと、司の口からNYの話を聞くのが待ちきれないといった視線を向けた。
その瞬間、司は感情が激しく揺さぶられていた。
まだ会ったこともない父親に向けられる尊敬と、その天真爛漫さ。そして恐らく母親の影響だろう。他人の言うことを疑うことなく信じる素直な心。その小さな身体から感じられるのは父親に向けられた愛だ。そして自分もまた今まで知らなかった父性愛が芽生えていた。

「・・航くん・・おじさんはね、おじさんが君のお父さんだ。」

少年は少し前まで無邪気な瞳を向けていたが、今は神妙な顔をして司に言った。

「・・えっ?おじさんが僕のお父さんなの?おじさんはお母さんのお友達じゃないの?だっておじさんの名前は牧野じゃないよね?ど、ど・・う・・?」

「おじさんの名前は道明寺司だ。おじさんが、いや俺がおまえの父さんだ。お母さんとはずっと昔は友達だったんだよ。それからおじさんはお母さんと恋人同士になったんだが仕事の関係でNYに住む事になった。だから君がお母さんのお腹の中にいた頃は向うにいた。それからずっと向うで暮らしていた。お母さんとは長い間会えなかったが、やっと今日会うことが出来た。・・それから君にも・・」

司はどんな言葉を使えば、この8年間を我が子に説明できるのか考えられなかった。
頭の中で反芻し、口を開いたが、何を言えばいいのか正直なところ迷っていた。
牧野つくしが、自分にとって唯一無二の存在であることは間違いないが、息子も同じだ。彼の存在は嬉しい驚きとして迎え入れ、出会った瞬間から愛さずにはいられなかった。ただ、残念なのは息子が大きくなっていく成長過程を一緒に過ごすことは出来なかったことだが、これから先、その成長を親として見守りたい。

「・・おじさんが、お父さん・・?」

「ああ。おじさんが、いや俺が航のお父さんだ。ほら、これを見てごらん?」

司は自分とつくしが並んで写っている写真を財布から取り出し、航に手渡した。
そこに写っているのは、まだ10代の二人が仲良く腕を組む姿だった。

「わぁ!これお母さんなの?・・そうなんだね!おじさんがお父さんなんだ!凄いよ!おじさん!僕、お父さんってどんな人かと思ってたけど、おじさんみたいなかっこいいお父さんなら皆に自慢できるよ!」

自分が父親だと司が宣言したあと航は大はしゃぎした。
まだ7歳の航にすれば、二人の婚姻の有無は、理解出来る範疇になかった。

「・・でもどうして帰って来ることが出来たの?お母さんはお父さんはまだ帰れないって言ってたよ?ねえ、どうして?どうして帰れたの?」

上目遣いに司を見る表情はこの子の母親がよくしていた表情にそっくりだ。
だが航の単純な質問にどう答えればいいのか困っていた。

「問題から逃げずに対処することが出来れば物事の解決は早いもんだ。だから父さんは逃げずに対処した結果、帰って来ることが出来たんだよ。」

航の隣に腰かけたつくしは、司の説明に小学生相手に何を?と言った表情を浮かべていたが、黙って聞いていた。おそらく彼女は親子ならあるはずの情の濃さが二人の間に芽生えることを祈っているはずだ。だから父と子の会話に口を挟むことなく、見守っているのだろう。
父親として、子供にどんな態度で接すればいいのか分からない男の初めての父親業を見守っていると言った心境のはずだ。

「いいか航。強い感情ってのを持つことが大切だ。断固たる意志を持って目的を達成する為邁進する。ただ、それをいかに上手くコントロールすることが出来るかが重要だ。感情だけに囚われて動いてるようじゃ、物事は上手く行かないこともある。自分に課せられたことはなんとしてもやり抜くことが重要だ。それが出来てはじめて男として認められるようなモンだ。わかるか?」

「・・・??う~ん・・お父さん、僕、言ってる意味がよく分かんないけど・・凄いね、お父さん!さすが僕のお父さんだ!」

航の眉根が寄せられ、今度は父親である司とよく似た表情が見て取れたが、最後は喜びだけがあった。

司の父親業はまだこれから、と言ったところだろう。
だが3人が家族となり、ごく自然な会話が生まれるのは、そう遠い日ではないはずだ。





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コメント
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dot 2017.03.27 08:13 | 編集
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dot 2017.03.27 10:32 | 編集
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dot 2017.03.27 13:41 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
司くん、航に自分が父親だと告白しました。
初めて会った息子にかける言葉・・。難しいことを言っていましたね!(笑)
なにしろ子供と接したことがありませんでした。
何を言えばいいのか、戸惑っていたようです。(笑)
これから3人で家族としての生活がスタートします。
新米司パパ。どんなお父さんになるのでしょうね・・。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.03.28 21:27 | 編集
とん**コーン様
よかったね、航くん。お父さんが帰って来ました。
しかし、このお父さん、難しい話しをしてしまいました(笑)
司は相手が子供だからといって曖昧な答えを返すことはしませんでしたね(笑)
>さすが道明寺!
短編じゃ勿体ないですか?(笑)
航と司の親子物語ですか?
>お花見とか授業参観とか学芸会参観とか一緒に遠足とか友達が家に遊びに来た時の反応とか家族旅行とか…。
ええっ!多すぎます(笑)でもどんなお父さんなのか・・確かに気になりますね(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.03.28 21:36 | 編集
さと**ん様
連れて行って欲しいところは、お父さんのいる街NY。
お父さんってどんな人なのかな・・と想像を巡らせる航くん。
飛行機を持っている司に、「それ本物なの?」と正直な疑問でした。
普通の人が飛行機を持っているなんて信じられませんよね(笑)
そして苗字の違いに疑問を抱いた航くん。
そうですよね、凄いですね!よく気が付きましたね!(笑)
はい。仰る通り、おそらく深い意味は無いと思われます。(笑)
素直な航くん。お父さんの財布から出された写真を見て、お母さんとお父さんの仲睦まじさに納得したようです。
写真嫌いな司が写したつくしとの写真。仲良く笑う姿が写っていたことでしょう。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.03.28 21:47 | 編集
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