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2017
03.22

あの日、あの時 4

彼女は男の子と手を繋いでいた。
暫く茫然と二人を眺めていたが、同時に二人を見つめようと瞳を凝らした。
女が春らしいコートを着ていることを頭が理解し、男の子はダッフルコートを着せられ、NYヤンキースの帽子を被っていた。

「道明寺・・・」

「お母さん!この人だれ?」

手を繋いでいる男の子が聞いた。
怪訝そうな顏と澄んだ黒い瞳は昔からよく知る顔だ。紛れもなくお母さんと呼ばれた女の遺伝子を引いているのが見て取れた。司は全神経を男の子に向けた。かつて彼が付き合っていた女性には子供がいて、母として暮らしていることを知った。


ああ、なんてことだろう・・。
彼女は、牧野つくしは既に結婚して子供がいるということか?
二人が過ごした6年のあと、俺が結婚していた8年という歳月の間に結婚し、子供をもうけたということか?

客観的に振り返れば、女にとって23歳からの8年は人生で一番輝いている時だ。その時間をどう過ごそうと俺が何か言う権利はない。
だが二人が別れたあの時の彼女の言葉に、愛情を感じたと思った言葉に、彼女の心はまだ自分にあると錯覚していたのか。会いに来るべきではなかったのだろうか。

ビジネスに於いては、母親譲りの鉄の自制心を持って臨むことが出来る。だが、好きだった女性に自分以外の男の子供がいることに、心を搔き乱された。

彼女に触れる男の手は自分以外にあり得ないと、自分以外の男と一緒にいるなど想像すること自体が辛い。
だが、彼女には彼女の人生がある。それを認めるべきなのかもしれない。
二人の間にあった愛はもう二度と息を吹き返すことはないと思うべきだろう。
何かを言いたい思いはある。だが何を言えばいいのか、どうすればいいのかわからなかった。
伝えたい思いもある。おまえには不滅の愛を誓ったと。他の女と結婚している間もおまえだけを思い過ごしていたと。

そして道明寺司としての義務は果たして来たと・・・。


頭の中に彼女と最後に会った日が思い出されていた。
あのとき長い髪をしていたが、今は肩口で切り揃えられた長さだ。地味な印象はあの頃と変わりなく、顔は驚いた様子だが、視線をとらえた途端、少し困ったような顔をした。
彼女に対し紳士的に振る舞うつもりでいるが、今の状況をどう捉えればいいのか。
手を繋いだ子供とはどういった関係なのか。子供がお母さんと呼んだ以上、分かってはいるが、はっきりとした答えを知りたい。
それに、牧野姓でいるなら離婚をしたということか?

その時、まだ幼い顔が司を見た。
そして不思議そうにつくしに言った。

「ねえお母さん!この人誰なの?お母さんのお友達なの?」

NYヤンキースの帽子を被った男の子は母親の手をギュッと握っていた。
臆することなくこちらを見つめる瞳。そして向けられる敵対心は幼いながらも母親を守ろうとする気合いが感じられた。

司は近づいて男の子をじっと見た。
身をかがめ、目を男の子と同じ高さにした。
そしてそのとき、ひとつの疑念が生まれていた。
気付いたことがある。昔からよく知る顔だと思うのも当然だ。毎朝鏡の中で見かける男を子供に戻せば彼と同じ姿になるはずだ。カエルの子はカエルといった言葉があるが、間違いないはずだ。だが確信があるかと言えば嘘になる。

子供は自分に近づいてきた男に眉根を寄せ、視線を跳ね返すかのように見返した。

「ねえ。おじさん誰なの?僕のお母さんに何の用があるの?」

「俺か?俺は君のお母さんの友達だ。君、何歳だい?」

司は、躊躇いがちにほほ笑み、自分によく似た面立ちを持つ子供に言った。
そしてその言葉の中にはある種の期待が込められていた。

「・・7歳よ。」

答えたのはつくしだった。

「お母さん!僕自分で答えられるよ!いつも言ってるでしょ?きちんと自分で答えなさいって。それに自己紹介をするときは名前から名乗りなさいって言ってるよね?」

少年は帽子を脱ぎ、司に挨拶をした。

「僕、牧野航(わたる)。7歳。おじさんは?」

司はその少年の髪の毛が自分と同じ緩やかな癖があることに確信を得ると結論に達した。
そして彼女に再会したこの瞬間、自分が父親になっていたことを知り、少年に手を伸ばさずにはいられなかった。

「俺か?俺は道明寺司。俺の髪と君の髪はよく似てるな。航くん。おじさんと握手してくれないか?」

「うん。いいよ!」
航は黒い瞳を輝かせ司の手をとった。
「おじさんの髪の毛もおじさんのお父さんと同じなの?僕の髪の毛は僕のお父さんと同じだってお母さんが言ってるんだ。・・・でも僕のお父さんはずっと外国に住んでいて帰ってこれないんだ。だから僕はお母さんと二人で暮らしてるんだ。でもいつかお父さんに会いに外国へ行くつもりだよ!」

本当なら誰かと結婚して外国に居るから会えない。
そう言うべきはずだ。


押し黙ってしまったつくしに、司は言った。

「・・・俺の子供なんだろ?」

彼女は、誤魔化しは苦手な性分だ。
事実は事実として伝えるはずだと司は思った。
そして事実を伝えてくれることを願った。

「・・そうよ・・この子は道明寺の子供よ。」

その言葉はどんな熱烈な愛の言葉より、彼女らしいひたむきな愛し方の現れだ。
二人の世界が傾いたとき、その傾きをひとりで支えたとも言える彼女の行為。
恋人の子どもを一人産み育てることが出来る懐の深さとも言える行為は、誰もが出来ることではないはずだ。そして8年という時間は短くはない。その時間を静かに過ごして来たわけではないだろう。子供を一人で育てることが、ましてや他の女と結婚してしまった男の子供を育てることが、どれほど心に負担がかかることか。ある種の感動が、司の心を覆っていた。教えられなかったことを罪だとは思わない。むしろここまで育ててくれたことを感謝したい。突然親となったことに戸惑いがないと言えば嘘になるが、今は彼女が慈しみ育ててくれた子供がいることがただ、嬉しいと思えた。





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コメント
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dot 2017.03.22 05:38 | 編集
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dot 2017.03.22 08:15 | 編集
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dot 2017.03.22 08:25 | 編集
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dot 2017.03.22 10:58 | 編集
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dot 2017.03.22 11:59 | 編集
悠*様
>愛情の種が育つ
司、愛情が溢れて止まらなかったようです。
二人の愛は止められなかった結果なのでしょう(笑)
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2017.03.24 22:10 | 編集
さと**ん様
つくしがバーに行けなかったのは、そうなんです。
航君がいたので行けませんでした。夜、子供を一人になんて出来ませんものね。
帽子を脱ぎ挨拶をする航くん。えらいですよね。
つくしちゃんの教育が行き届いているようですね^^
髪の毛で我が子を確認する司(笑)
自分のことを外国に住んでいて帰ってこれないお父さんと言われ、どう感じたのでしょう。
我が子と握手するお父さん。どんな気持ちだったことでしょうねぇ・・
素直ないい子に育っている航くん。お父さんに会えて良かったね!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.03.24 22:14 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
司に似た男の子を育てるつくしちゃん。
初めて見たとき帽子を被っていたので、顔をじっくり見て確認するまでドキドキしたことでしょう。
そして自分の子供と確信した司は驚いたことでしょう。
お父さんは外国にいて帰ってこれないから、自分が会いに行くと言われた司。
そうですよね、申し訳ない気持ちになったことでしょう。
『いつか晴れた日に』そうなんです。あちらでは航(こう)くんでしたが、こちらは同じ漢字で「わたる」くんです。
航くん、お父さんが帰ってきましたよ~。良かったね^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.03.24 22:18 | 編集
H*様
おはようございます^^
司もつくしが手を繋いだ男の子は誰だ!
と驚いたと思いますが、司の子供で良かったです。
いきなり7歳の男の子のお父さんになった司でした。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.03.24 22:21 | 編集
とん**コーン様
そっちでした(笑)
二人は別れる前、ちゃんと大人の関係でした。
避妊・・しなかったようですね?
愛が溢れてしまったのでしょう(笑)
つくし、素直に司の胸に飛び込んで~ですね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.03.24 22:26 | 編集
じ**こ様
こんにちは^^つくしちゃん、司の子供を産みました。
愛する人が傍にいなくても産み育てる決心をしたようです。
司は航くんの幼少の頃を知りません。いきなり7歳の息子との対面で驚いたことでしょう。
でも産んでくれてありがとう、の気持ちの方が大きかったようです。
そうですね。人生はこれから先の方が長いです。幸せになれると思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.03.24 22:28 | 編集
イ**マ様
こんにちは^^
司くんの辛い展開もこれまで。
つくしちゃんの大きな瞳をもつ我が子に驚いたと思いますが、嬉しかったことでしょう。
つくしちゃんも我が子に司の姿を重ね見て来たと思います。
親子3人が幸せな時を過ごしてくれるといいですねぇ^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.03.24 22:35 | 編集
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