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2015
09.22

キスミーエンジェル22

つくしが次に目を覚ましたとき、すでに時計は9時を回っていた。
薬の作用で眠っていたつくしはぼんやりとしたまま遠くに聞こえる誰かの声を聞いていた。

誰かの声?
もう一度時計を確認する。デジタルではない時計の短い針が示しているのはやはり9時を指しているのを見て一瞬頭が混乱した。
そしてゆっくりと記憶をたぐり寄せた。
9時って?朝?
いや違う。部屋のカーテンは閉められている。


曖昧な記憶が頭の中を行ったり来たりしている。
つくしは枕に頭をあずけたままぼんやりと考えていた。
あれはいつの事なんだろう・・・

夢の中で道明寺は私を迎えに来たと言っていた。
今まで道明寺が夢に出てきたことなんて一度もなかったのに不思議な夢だった。
例えばビルの屋上から突き落とされるとか、車で引きまわされるとかそういう行為の夢なら道明寺なら考えられそうなことなのに、どうして私を迎えに来ただなんて言ったんだろう。
変な夢だった。


ああ、トイレに行きたい。
つくしはベッドの上で上体を起こすと地味なパジャマの上にブルーの薄手のカーディガンを羽織りふらつく足元に気を付けながら部屋を出た。

そこで私が目にしたのは道明寺がキッチンのテーブルの上でパソコンを叩きながら
携帯電話で話しをしているところだった。

「いいか、ニューヨーク市場が開いたらE社の株を成行(*)で買えるだけ買え。
そうだ、E社だ。遺伝子治療分野での新薬開発が成功間近だ。今が底値だと思って買えるだけ買うんだ。 ・・・・そうだ、うちのファンドを通して買え」
つくしに背中を向けて指示を出している道明寺は「金儲けの極意を知る男」と呼ばれている。

そんな道明寺はつくしが部屋から出て来た気配を感じ取りこちらを振り返ると低い声で呼びかけてきた。
「牧野?大丈夫か?」
「うん。多分、大丈夫・・・」
「牧野、ちょっと待ってくれ・・・」
道明寺はそう言うと電話の向こうの相手と話しの続きを始めていた。

私は道明寺のパソコンの画面に目に止めた。
そこには株式チャートが表示されていた。
E社か・・・これを見る限り今が底値なのかもしれない。
確かこの会社って製薬会社の中じゃ研究開発費がトップクラスだったはず。
ニューヨークが開くのは・・あと1時間と少しか・・・


つくしがトイレを済ませて戻るとキッチンのテーブルに食事が用意されていた。
「どうしたの?これ」
「秘書に用意させた。随分と時間が経っちまったから冷めたみたいだけどよ。
これって温っためられるんだろ?」
「・・・うん。わざわざ用意してくれたんだ・・」
道明寺の秘書が用意してくれたのは保温容器に入れられたスープと白身の魚に色とりどりの温野菜が添えられているひと皿とフルーツが詰められた器だった。

つくしはその場に立ったまま道明寺を見つめた。
「道明寺、あれから・・あたしを連れて帰ってくれてからずっとここにいたの?」
「 ああ 」
「どうして?仕事は?」
「おまえが熱を出しているのに放っておけるかよ。それより腹減ってるだろ?なんか食えよ」
つくしはそれでも道明寺を見つめ続けた。
「牧野、立ってないで座れよ」
道明寺はそう言うと保温容器を不思議そうに眺め、これどうしたらいいんだ?
と呟いている。
「道明寺、あたしがするからいいわよ・・あんたに出来るはずないじゃない?」
だいたい道明寺が電子レンジを扱うなんて想像出来ないわよ。
そう思うとおかしくなってきた。


静寂の中、つくしの食事はいつもと変わらないように思えた。
が、目の前に座る男がそうでないことを表している。
つくしが黙々とスプーンを口に運び、スープを飲み込む様子を見ている男。
「ねえ、そんなふうに見ていられると食べづらいんだけど・・」
チラリと視線を向ければそんなこと気にするなとばかりに肩をすくめてきた。

スープと温野菜が付け合わされた皿を食べ終える頃には牧野の顔色も戻ってきたような気がした。こいつに食欲があるってことは体調がよくなって来たってことだよな。
「うまかったか?」
低い声でそう聞かれつくしは頷いてみせるしかなかった。
「そうか・・じゃあ俺も」


つくしがその意味を理解するよりも前に道明寺は立ちあがるとテーブル越しに彼女のほうへと身を乗り出すとつくしの唇に自分の唇を重ねてきた。
道明寺は唇でつくしの唇をこじ開けると、ゆっくりと舌で口のなかを探りむさぼるようなキスをしてきた。
つくしはぼうっとした頭のままなすすべもなくその行為を受け入れるしかなかった。
「牧野、俺はおまえの記憶を曖昧にさせたくない」
つくしはその言葉の意味を計りかねているかのように道明寺を見つめている。
「俺が・・・こんなふうに・・・」
そういいながらつくしの頬に唇にキスをしてくる。
「こんなことを・・」
そう言うと再び唇を重ねると執拗につくしの口を味わい、舌先でつくしの舌を入念に味わうように絡めてくる。
「ああ、確かにうまい・・」
道明寺はつくしの頭を傾かせると顔中にキスをしてきた。
「・・・牧野」
彼の視線はつくしの目をとらえて離さない。
つくしは自分の呼吸が早まってきているのを感じていた。
「・・・牧野、ベッドに行こう」








*成行(なりゆき)=成行注文(なりゆきちゅうもん) 
株をすぐ買いたい売りたい場合に株価を優先するのではなく、約定(やくじょう)=売買成立を優先する場合に示す注文方法です。

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応援有難うございます。
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コメント
た*や様
拍手コメント有難うございます。
お待たせして申し訳ございません。
やっと動きだしました(笑)
燃えて下さって嬉しいです!
アカシアdot 2015.09.23 22:20 | 編集
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