「ま、待って!!そんなのあたしに似合うと思う?ねえ・・あたし33歳よ?もっと地味でいいんだけど・・」
「先輩なに言ってるんですかっ!歳なんて関係ありませんから!早く試着して下さい!手直しが必要なところがあるはずですからね?道明寺さんって先輩のことに関しては思い立ったら即行動の方ですから、結婚式をここでやるって決めたら手配も早かったんですけど、ドレスなんて本人がいないのにここまで仕上げるって、本当にお針子さんの腕は大したものです」
感心した様子で言う桜子の腕に抱えられているのは、ウェディングドレスだ。
どちらかと言えばセクシーに見えるかもしれないタイプのドレス。
オフショルダーですっきりと開いた胸元が美しいデコルテを強調し、全体のボディラインを美しく見せるドレス。まさに大人の女性が着るにふさわしいマーメイドスタイルだ。
「でもさすが道明寺さん。夫だけのことはありますね。先輩の体型をしっかり把握されているところは流石です。先輩は鎖骨がきちんとあってデコルテも綺麗ですからこのドレスはまさに先輩のいいところを引き立ててくれるはずです。外国では女性の美しさの条件のひとつに鎖骨の美しさがありますけど、このドレスなら間違いなくその美しさを際立てるはずです」
そう言った桜子は、自分の胸の大きさをつくしと比べていた。
「小柄で細身、小胸・・こちらの女性には絶対に見られない体型ですけどね」
司はつくしと式を挙げることを決め、全ての手配をNYのウェディングプランナーに任せていた。そしてそのプランナーとの打ち合わせは、つくしの親友である桜子と、NYに滞在している滋が行っていた。必要なことは何でもするから!そんな気持ちでいた二人は、司とつくしが入籍だけで済ませてしまっていたことを少し寂しく思っていただけに、司からの連絡に喜んだ。
それにしても、つくしは自分の年齢を気にするが、それは気にし過ぎというものだ。
花嫁が結婚式に着ることが出来る白いドレスは生涯に一度だけ。
主役が幾つだろうが、ウェディングドレス姿の女性は美しいものだ。その身体から溢れんばかりの幸せを感じることが出来る。
「つくし。あんた絶対に似合うから。これこそNYスタイルってものよ?でもこんなの着たつくしを見たら司はどうするんだろうね?あの野獣男、よだれ垂らして飛び掛かってくるわよ?」
滋は笑いながらハンガーに掛けられたドレスを見やって言った。
野獣男と称されるのは、これ以上の結婚相手は世界中どこを探しても、いるはずがないと言われている男。何しろ、″世界で最も結婚したい独身男性″トップ10に選ばれた男だ。
ただし、本人はつい最近まで結婚する気など全くなかった。そしてそんな男と結婚したのは、かつて桜子から、一般庶民選手権で代表者に選ばれること確実と言われたような女。
「そうですよ、先輩。これでまた道明寺さんの先輩を愛する気持ちは一段と高まりますからね?あ、そうそう。滋さんとあたしから先輩にプレゼントがありますから受け取って下さいね?」
「プレゼント?」
「はい。いくらもう入籍を済ませて夫婦として暮らしているとはいえ、結婚式はひとつのけじめですから。それに式を挙げた二人にとっての夜は初夜ですからね。そんな夜に夫を楽しませるのは妻の務めですから。あたしと滋さんとでじっくり選びましたからね?きっと道明寺さんも気に入ってくれますから!それより先輩、早く脱いで下さい?」
「・・うん」
手直しするところがあるはずだと言った桜子の言葉につくしは頷き、ジャケットの上着を脱ぎ、スカートを下ろし、ブラウスを脱いでスリップ姿になると、自分の目の前にある鏡をしげしげと見つめた。女友達の前とはいえ、下着姿になるのは、はやり恥ずかしいものがある。
「じゃあ、着てみましょうか?」
桜子が言いながら、ハンガーから降ろしたドレスを手に近寄った。
「あっ!」
驚いた声を上げた桜子。
「・・先輩!どうしてこんなところにキスマークなんて付けてるんですか!」
キスマーク?
「あっ!・・こんなところにも!こんなんじゃドレス着たら丸見えですよ!・・まったく道明寺さんも先のこと考えなさすぎです!」
鏡を見つめていたつくしは、身体を数歩前に進めると、まじまじと自分の姿を見た。
遠目ではよくわからなかったが、鏡に近寄って見れば、夫によってつけられた愛の証に気付いた。それはまさに散らされたと言っていい赤い痕が、肩から胸のあたりに幾つもあった。
「あ~!ホントだ!つくし。ねぇ、ちょっと!あんたたち、もしかして昨日、ジェットの中でヤッちゃった?」
滋は興味津々だ。
「さすが司だわ。我慢できなかったのね?あの男、なにしろ野獣だから目の前に可愛らしいバニーちゃんがいたら食べずにはいられなかったってことよね?」
近づいて来た滋は面白そうに茶化していた。
図星だけに、滋の言葉につくしは全身が赤くなるのがわかった。
それはまさにゆで蛸状態。耳まで真っ赤になっていた。
「滋さん!そんなこと言ってる場合じゃないですよ?道明寺さんのご両親も先輩のご両親も参列されるんですよ?こんな恥ずかしい姿皆さんの前にご披露出来ません!どうするんです?先輩の肌は白いから目立つし、色白の人はなかなか痕が消えないんですから!」
桜子は、呆然と鏡の中の自分を見つめているつくしの隣で思案に暮れた。
恐らく全身キスマークだらけの女は、鏡の中の桜子に目の表情で訴えかけ、どうしたらいいの?と言っていた。そんなつくしの訴えに気付いた桜子は、ひとつ息を吐くと諦めたような口調で言った。
「・・でも、別にいいですよね?これは道明寺さんの愛の証ですから。先輩のご両親も先輩がこんなに愛されてるってお知になればご安心ですよね?」
「そうよ。つくしが愛されてる証拠なんだから、キスマークくらい別にいいじゃない?」
「滋さん?言っておきますが、キスマークくらいじゃありません!花嫁って言うのは純真無垢なイメージですよ?それなのにこんなにキスマークつけてたらイメージからかけ離れるじゃないですか!」
と、言いながら背中に回った桜子は、つくしの髪の毛を束ねると持ち上げた。
そしてまた息を呑んだ。
「ちょっと先輩!髪の毛アップにするのに襟足にまでキスマークがあるなんてどうするんです?!まったくもう信じられない人たちですね!お二人とも何しにNYに来たか分かってるんですかっ?・・もうこうなったら身体はファンデーションで隠すしかないです。幸いカバー力が強いのがありますから、それを使いましょう。・・ったくいい年した大人が分別なさすぎです!遠足の前の小学生じゃあるまいし、もう少し落ち着いて欲しいですね!」
呆れた口調で話す桜子。
その傍で楽しそうに笑う滋の声。
「それよりさぁ、桜子の口から純真無垢だなんて言葉が聞けるとは思いもしなかったわ。もしかして、桜子って縁起とか担ぐ?」
「ええ!こう見えてもわたし、夢だけは見てますから!いつか純白のウェディングドレスを着てみせます!それより今は先輩のことです!本当にもう、こんなことなら道明寺さんに釘をさしておくべきでした!」
やがて背後に立った桜子の声がだんだんと咎める口調になったとき、つくしは黙って目を閉じた。
そんなつくしは、あたしのせいじゃないわ、と言いたかったが、言えなかった。
***
生まれた時からタキシードを着ていたような男たちが揃えば、その姿は圧巻だ。
「本当におまえらに任せて大丈夫だったんだろうな?」
「司。心配するな。俺たちに任せとけば何も心配することはない」
「そうそう。余裕でクリアしたぜ?なあ、類?」
あきらと総二郎、そして類の3人は、司とつくしの結婚式に参列するためNYにいた。
そして3人は、つくしの家族を空港で出迎えてきたところだ。
「しかし、つくしちゃんの両親も弟も本当に普通の人間だったな」
「ああ。でも弟は大学の研究室で働いてるって言ってたから、頭良さそうだよな?」
「確かにそれは言える。まだ助手だって言ってたけど、そのうちノーベル賞が取れるような人間になるかもしれねぇな」
「そうだな。ねーちゃんが仕事の出来る女ってところを考えてみれば、弟もその道のスペシャリストになる可能性があるってことだ。なあ、類はどう思った?」
あきらと総二郎は、カウチに座って雑誌をめくっている男に声をかけた。
「・・玉ねぎが益々白くなったみたいだった・・あ、でも司は玉ねぎの皮を剥くのが趣味みたいなものだからいいんだね・・」
「類、なに訳のわかんねぇこと言ってんだよ?玉ねぎって何のことだ?」
「うん、司の玉ねぎを見てきたんだ」
以前、つくしのことを玉ねぎみたいだと言った類。
「おい、類。それってつくしちゃんのことか?」
そのことを覚えていたのはあきらだ。
「おい類!おまえつくしのドレス姿を見たのか?!」
あきらの言葉にすぐさま反応した司は類を睨んだ。
「うん。さっきトイレに行ったとき覗いてみたんだ」
類は嬉しそうに言うと「すごくきれいだったよ」と言葉を継ぐ。
「類。てめぇ、なに考えてんだ!」
「あのな、類。花婿より先に花嫁見てどうすんだよ!」
あきらが類を咎めた。
「いいじゃん別に。だって花婿は式の前に花嫁姿を見たらダメだっていうし。それに司とつくしさんってもう結婚して一緒に暮らしてるんだから俺が先に見たっていいと思うけど。それに滅多に会えないんだから挨拶してきただけだよ」
「そりゃそうだけどな、やっぱ結婚式は違うだろ?司の嫁に会いたいならアポ取って行け!」
総二郎が言うと、あきらが話しを継いだ。
「類、花嫁が白いドレスを着て夫の前に姿を現す瞬間ってのは感動もんだぞ?それをおまえが先に感じてどうすんだよ!司の顔見てみろよ?極悪だぞ?」
だが司は、憮然とした表情で類を見ているが、何も言わなかった。
それはまさに結婚した男の余裕の表れなのかもしれない。
そんな司に類は言った。
「・・俺、思ったんだけど、女性は自然体が一番いいと思う。だから司は彼女を選んだんだろ?飾り気がなくて、自然なところがよかったんだと思うよ。あのドレスって司が選んだんだろ?彼女のイメージに合ってると思う。つくしって名前に似合う派手なドレスじゃないところが司のセンスの良さだよね?まあ、30代の女があまりごちゃごちゃしたドレス着てもどうかと思うけどさ」
類の言葉の直球さ加減は昔と変わることはないようだ。
昔からあまり喋らない男だったが、ひとたび口を開けば皮肉も言えば、嫌味も言う。
そして言葉を飾ることはない。ずばり核心を突く眼識の鋭さを持つ男だ。
「類。おまえはいつもひと言多いがよくわかってるじゃねぇか。俺は自分を飾り立てるような女は嫌いだ。それに俺とあいつの結婚は価値のある結婚だと思ってる。何しろ昔の俺の周りにいた女と違って正直だからな。俺たちは互いに隠し事はしないことにしてる。まあ、今回のNYでの式は内緒にしてたが、驚かしてやろうと思ったんだからこのくらいの嘘なら嘘じゃねぇだろ?」
アンニュイ雰囲気を感じさせる男と、片やかつて鋭い刃物のようだと言われていた男。
どちらも完璧な容姿を持つ男だが、より強い存在感を放つのはいつも司の方だった。
そんな全くタイプが違うと言われる二人だが、こうして幼い頃からの友人達と揃って式に参列してくれることが、司には何よりの祝いだ。
「司。改めて言わせてもらうよ。結婚おめでとう」

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感心した様子で言う桜子の腕に抱えられているのは、ウェディングドレスだ。
どちらかと言えばセクシーに見えるかもしれないタイプのドレス。
オフショルダーですっきりと開いた胸元が美しいデコルテを強調し、全体のボディラインを美しく見せるドレス。まさに大人の女性が着るにふさわしいマーメイドスタイルだ。
「でもさすが道明寺さん。夫だけのことはありますね。先輩の体型をしっかり把握されているところは流石です。先輩は鎖骨がきちんとあってデコルテも綺麗ですからこのドレスはまさに先輩のいいところを引き立ててくれるはずです。外国では女性の美しさの条件のひとつに鎖骨の美しさがありますけど、このドレスなら間違いなくその美しさを際立てるはずです」
そう言った桜子は、自分の胸の大きさをつくしと比べていた。
「小柄で細身、小胸・・こちらの女性には絶対に見られない体型ですけどね」
司はつくしと式を挙げることを決め、全ての手配をNYのウェディングプランナーに任せていた。そしてそのプランナーとの打ち合わせは、つくしの親友である桜子と、NYに滞在している滋が行っていた。必要なことは何でもするから!そんな気持ちでいた二人は、司とつくしが入籍だけで済ませてしまっていたことを少し寂しく思っていただけに、司からの連絡に喜んだ。
それにしても、つくしは自分の年齢を気にするが、それは気にし過ぎというものだ。
花嫁が結婚式に着ることが出来る白いドレスは生涯に一度だけ。
主役が幾つだろうが、ウェディングドレス姿の女性は美しいものだ。その身体から溢れんばかりの幸せを感じることが出来る。
「つくし。あんた絶対に似合うから。これこそNYスタイルってものよ?でもこんなの着たつくしを見たら司はどうするんだろうね?あの野獣男、よだれ垂らして飛び掛かってくるわよ?」
滋は笑いながらハンガーに掛けられたドレスを見やって言った。
野獣男と称されるのは、これ以上の結婚相手は世界中どこを探しても、いるはずがないと言われている男。何しろ、″世界で最も結婚したい独身男性″トップ10に選ばれた男だ。
ただし、本人はつい最近まで結婚する気など全くなかった。そしてそんな男と結婚したのは、かつて桜子から、一般庶民選手権で代表者に選ばれること確実と言われたような女。
「そうですよ、先輩。これでまた道明寺さんの先輩を愛する気持ちは一段と高まりますからね?あ、そうそう。滋さんとあたしから先輩にプレゼントがありますから受け取って下さいね?」
「プレゼント?」
「はい。いくらもう入籍を済ませて夫婦として暮らしているとはいえ、結婚式はひとつのけじめですから。それに式を挙げた二人にとっての夜は初夜ですからね。そんな夜に夫を楽しませるのは妻の務めですから。あたしと滋さんとでじっくり選びましたからね?きっと道明寺さんも気に入ってくれますから!それより先輩、早く脱いで下さい?」
「・・うん」
手直しするところがあるはずだと言った桜子の言葉につくしは頷き、ジャケットの上着を脱ぎ、スカートを下ろし、ブラウスを脱いでスリップ姿になると、自分の目の前にある鏡をしげしげと見つめた。女友達の前とはいえ、下着姿になるのは、はやり恥ずかしいものがある。
「じゃあ、着てみましょうか?」
桜子が言いながら、ハンガーから降ろしたドレスを手に近寄った。
「あっ!」
驚いた声を上げた桜子。
「・・先輩!どうしてこんなところにキスマークなんて付けてるんですか!」
キスマーク?
「あっ!・・こんなところにも!こんなんじゃドレス着たら丸見えですよ!・・まったく道明寺さんも先のこと考えなさすぎです!」
鏡を見つめていたつくしは、身体を数歩前に進めると、まじまじと自分の姿を見た。
遠目ではよくわからなかったが、鏡に近寄って見れば、夫によってつけられた愛の証に気付いた。それはまさに散らされたと言っていい赤い痕が、肩から胸のあたりに幾つもあった。
「あ~!ホントだ!つくし。ねぇ、ちょっと!あんたたち、もしかして昨日、ジェットの中でヤッちゃった?」
滋は興味津々だ。
「さすが司だわ。我慢できなかったのね?あの男、なにしろ野獣だから目の前に可愛らしいバニーちゃんがいたら食べずにはいられなかったってことよね?」
近づいて来た滋は面白そうに茶化していた。
図星だけに、滋の言葉につくしは全身が赤くなるのがわかった。
それはまさにゆで蛸状態。耳まで真っ赤になっていた。
「滋さん!そんなこと言ってる場合じゃないですよ?道明寺さんのご両親も先輩のご両親も参列されるんですよ?こんな恥ずかしい姿皆さんの前にご披露出来ません!どうするんです?先輩の肌は白いから目立つし、色白の人はなかなか痕が消えないんですから!」
桜子は、呆然と鏡の中の自分を見つめているつくしの隣で思案に暮れた。
恐らく全身キスマークだらけの女は、鏡の中の桜子に目の表情で訴えかけ、どうしたらいいの?と言っていた。そんなつくしの訴えに気付いた桜子は、ひとつ息を吐くと諦めたような口調で言った。
「・・でも、別にいいですよね?これは道明寺さんの愛の証ですから。先輩のご両親も先輩がこんなに愛されてるってお知になればご安心ですよね?」
「そうよ。つくしが愛されてる証拠なんだから、キスマークくらい別にいいじゃない?」
「滋さん?言っておきますが、キスマークくらいじゃありません!花嫁って言うのは純真無垢なイメージですよ?それなのにこんなにキスマークつけてたらイメージからかけ離れるじゃないですか!」
と、言いながら背中に回った桜子は、つくしの髪の毛を束ねると持ち上げた。
そしてまた息を呑んだ。
「ちょっと先輩!髪の毛アップにするのに襟足にまでキスマークがあるなんてどうするんです?!まったくもう信じられない人たちですね!お二人とも何しにNYに来たか分かってるんですかっ?・・もうこうなったら身体はファンデーションで隠すしかないです。幸いカバー力が強いのがありますから、それを使いましょう。・・ったくいい年した大人が分別なさすぎです!遠足の前の小学生じゃあるまいし、もう少し落ち着いて欲しいですね!」
呆れた口調で話す桜子。
その傍で楽しそうに笑う滋の声。
「それよりさぁ、桜子の口から純真無垢だなんて言葉が聞けるとは思いもしなかったわ。もしかして、桜子って縁起とか担ぐ?」
「ええ!こう見えてもわたし、夢だけは見てますから!いつか純白のウェディングドレスを着てみせます!それより今は先輩のことです!本当にもう、こんなことなら道明寺さんに釘をさしておくべきでした!」
やがて背後に立った桜子の声がだんだんと咎める口調になったとき、つくしは黙って目を閉じた。
そんなつくしは、あたしのせいじゃないわ、と言いたかったが、言えなかった。
***
生まれた時からタキシードを着ていたような男たちが揃えば、その姿は圧巻だ。
「本当におまえらに任せて大丈夫だったんだろうな?」
「司。心配するな。俺たちに任せとけば何も心配することはない」
「そうそう。余裕でクリアしたぜ?なあ、類?」
あきらと総二郎、そして類の3人は、司とつくしの結婚式に参列するためNYにいた。
そして3人は、つくしの家族を空港で出迎えてきたところだ。
「しかし、つくしちゃんの両親も弟も本当に普通の人間だったな」
「ああ。でも弟は大学の研究室で働いてるって言ってたから、頭良さそうだよな?」
「確かにそれは言える。まだ助手だって言ってたけど、そのうちノーベル賞が取れるような人間になるかもしれねぇな」
「そうだな。ねーちゃんが仕事の出来る女ってところを考えてみれば、弟もその道のスペシャリストになる可能性があるってことだ。なあ、類はどう思った?」
あきらと総二郎は、カウチに座って雑誌をめくっている男に声をかけた。
「・・玉ねぎが益々白くなったみたいだった・・あ、でも司は玉ねぎの皮を剥くのが趣味みたいなものだからいいんだね・・」
「類、なに訳のわかんねぇこと言ってんだよ?玉ねぎって何のことだ?」
「うん、司の玉ねぎを見てきたんだ」
以前、つくしのことを玉ねぎみたいだと言った類。
「おい、類。それってつくしちゃんのことか?」
そのことを覚えていたのはあきらだ。
「おい類!おまえつくしのドレス姿を見たのか?!」
あきらの言葉にすぐさま反応した司は類を睨んだ。
「うん。さっきトイレに行ったとき覗いてみたんだ」
類は嬉しそうに言うと「すごくきれいだったよ」と言葉を継ぐ。
「類。てめぇ、なに考えてんだ!」
「あのな、類。花婿より先に花嫁見てどうすんだよ!」
あきらが類を咎めた。
「いいじゃん別に。だって花婿は式の前に花嫁姿を見たらダメだっていうし。それに司とつくしさんってもう結婚して一緒に暮らしてるんだから俺が先に見たっていいと思うけど。それに滅多に会えないんだから挨拶してきただけだよ」
「そりゃそうだけどな、やっぱ結婚式は違うだろ?司の嫁に会いたいならアポ取って行け!」
総二郎が言うと、あきらが話しを継いだ。
「類、花嫁が白いドレスを着て夫の前に姿を現す瞬間ってのは感動もんだぞ?それをおまえが先に感じてどうすんだよ!司の顔見てみろよ?極悪だぞ?」
だが司は、憮然とした表情で類を見ているが、何も言わなかった。
それはまさに結婚した男の余裕の表れなのかもしれない。
そんな司に類は言った。
「・・俺、思ったんだけど、女性は自然体が一番いいと思う。だから司は彼女を選んだんだろ?飾り気がなくて、自然なところがよかったんだと思うよ。あのドレスって司が選んだんだろ?彼女のイメージに合ってると思う。つくしって名前に似合う派手なドレスじゃないところが司のセンスの良さだよね?まあ、30代の女があまりごちゃごちゃしたドレス着てもどうかと思うけどさ」
類の言葉の直球さ加減は昔と変わることはないようだ。
昔からあまり喋らない男だったが、ひとたび口を開けば皮肉も言えば、嫌味も言う。
そして言葉を飾ることはない。ずばり核心を突く眼識の鋭さを持つ男だ。
「類。おまえはいつもひと言多いがよくわかってるじゃねぇか。俺は自分を飾り立てるような女は嫌いだ。それに俺とあいつの結婚は価値のある結婚だと思ってる。何しろ昔の俺の周りにいた女と違って正直だからな。俺たちは互いに隠し事はしないことにしてる。まあ、今回のNYでの式は内緒にしてたが、驚かしてやろうと思ったんだからこのくらいの嘘なら嘘じゃねぇだろ?」
アンニュイ雰囲気を感じさせる男と、片やかつて鋭い刃物のようだと言われていた男。
どちらも完璧な容姿を持つ男だが、より強い存在感を放つのはいつも司の方だった。
そんな全くタイプが違うと言われる二人だが、こうして幼い頃からの友人達と揃って式に参列してくれることが、司には何よりの祝いだ。
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とん**コーン様
司にキスマーク沢山つけてもらいたいですか?(笑)
わたしも同じくです。でも司に相手にされないような気がします。
幾つになってもつくしちゃん一筋の坊っちゃん。
でも程々にしないと嫌われてしまうかもしれませんね^^
拍手コメント有難うございました^^
司にキスマーク沢山つけてもらいたいですか?(笑)
わたしも同じくです。でも司に相手にされないような気がします。
幾つになってもつくしちゃん一筋の坊っちゃん。
でも程々にしないと嫌われてしまうかもしれませんね^^
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2017.02.25 21:59 | 編集

司×**OVE様
こんにちは^^
「遠足に行く前の子どもじゃないんですからね!」by桜子
司はウキウキワクワク、それこそ遠足前の気分・・
ん?でも司は遠足に行ったことがあるのでしょうか?(笑)
キスマークだらけになったつくし。司は先のことなど考えてませんね?
困った男ですねぇ(笑)
類は相変わらずのマイペースでしたね。そこが類なのでしょう。
TDLに卒業遠足!いいですね!お母様は早朝起床!(笑)
お疲れさまです^^
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
「遠足に行く前の子どもじゃないんですからね!」by桜子
司はウキウキワクワク、それこそ遠足前の気分・・
ん?でも司は遠足に行ったことがあるのでしょうか?(笑)
キスマークだらけになったつくし。司は先のことなど考えてませんね?
困った男ですねぇ(笑)
類は相変わらずのマイペースでしたね。そこが類なのでしょう。
TDLに卒業遠足!いいですね!お母様は早朝起床!(笑)
お疲れさまです^^
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.02.25 22:20 | 編集

さと**ん様
キスマークだらけの花嫁。
そんな花嫁に怒る桜子でした(笑)
「遠足前の小学生じゃあるまいし!」
司の遠足のおやつはバニーちゃん(笑)
我慢出来ずに食べちゃいましたが、特大バナナは・・おやつに含まれない!(≧▽≦)
それをバニーちゃんにあげちゃったんですね?(/ω\)キャ♡
バニーちゃん、喜んだことでしょう!
類は挨拶がてらに花嫁を見に行く。他人に興味を示さない類ですが、かなり気に入った様子。
大人の二人はこれからもこんな感じで年を取って行くのでしょう。
コメント有難うございました^^
キスマークだらけの花嫁。
そんな花嫁に怒る桜子でした(笑)
「遠足前の小学生じゃあるまいし!」
司の遠足のおやつはバニーちゃん(笑)
我慢出来ずに食べちゃいましたが、特大バナナは・・おやつに含まれない!(≧▽≦)
それをバニーちゃんにあげちゃったんですね?(/ω\)キャ♡
バニーちゃん、喜んだことでしょう!
類は挨拶がてらに花嫁を見に行く。他人に興味を示さない類ですが、かなり気に入った様子。
大人の二人はこれからもこんな感じで年を取って行くのでしょう。
コメント有難うございました^^
アカシア
2017.02.25 22:38 | 編集
