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2017
02.22

エンドロールはあなたと 66

つくしは笑顔を浮かべたまま、1階ロビーで経済誌の記者を見送った。
取材に来たのは女性記者。″道明寺HDの女性広報の活躍″、と題した取材をしたいと、彼女の元を訪れていた。他にも女性社員はいるのだが、何故か取材を受けてくれと頼まれたのはつくし。広報は記者の質問にきちんと答え、曖昧な言葉を返すのは厳禁だ。それだけに勉強もしなければと思う。それに相手がおやっと思うくらいの知識を持つことが必要だ。
まだ転籍して間もないというのに、本当にいいのだろうかといった思いがあった。だが、上司からの命令なら受けない訳にはいかなかった。

広告代理店勤務だったこともあり、マスコミ四媒体と呼ばれるテレビ、新聞、雑誌、ラジオとの接触に抵抗を感じることはない。今までのつくしは、企業から広告を貰うことを仕事にしていたが、今では立場が逆だ。出来ればうちの新聞に公告を出して欲しいと言われる立場になっていた。だが広報の仕事も広告代理店の仕事も、社会に対し情報を発信するといった点では同じだ。そんなことからやはり、自分にはこの仕事は向いていると感じていた。

つくしは記者と別れると社内報の内容について考え始めていた。
広報には社外広報と社内広報があるが、つくしはどちらの仕事も学んでいた。
それは、今までのキャリアを見込んでやらせてみようとのことなのか、それとも義理の母親である女性から、なんらかの指示があったのか。もし、後者なら広報の仕事のスペシャリストを目指せということだろう。

先ほどの取材は社外広報の担当となる。社内広報が社内への情報発信だとすれば、社外広報は、自社について世間の評判を知り、そしてその情報を収集する。プレスリリースとして報道各社への対応、投資家や金融機関、行政、従業員などと言ったステークホルダー(利害関係者)と良好な関係を築くことも仕事のひとつだ。

これから考えようとしている社内報は、支社長である司の経営に関する考えをまとめ、社員に伝える内容となる予定だ。社内報は社員がそれぞれ広報課のサイトへアクセスし、見ることになっているが、今日は支社長直々のメッセージがあると言われ、指定された時間、余程のことがない限り見るようにとメールが飛んできていた。普段社内でのこうした役割は広報課の担当だが、今回に限り秘書課がその役割を果たしていた。

司はまだNYにいる。
いつの間にそんなメッセージを収録したのかと思っていたが、NYでの撮影だと聞いた。
夫である司の顔が眼に浮かんだが、これは仕事だと気を引き締めた。だが夫の姿を見るのは久しぶりだと実は楽しみにしていた。

左腕の時計を見た。間もなく時間だ。広報室まで戻ろうかと思ったが、どうやら間に合いそうにない。つくしはロビーの片隅へ移動すると、手にしていたノートパソコンをその場で立ち上げた。

それと同時に、ロビーにある普段は道明寺HDの華々しいロゴが映し出されている大型スクリーンの画像が変わった。すると、その場にいた社員も来客も、そちらへと視線を向けた。その先に映し出されたのは支社長である夫の姿。時間通り始まった支社長メッセージに、その場にいた人間は立ち止り、襟を正し、支社長の言葉に耳を傾けた。つくしも、自分のパソコンより大型スクリーンへ目をやった。

「諸君。支社長の道明寺司だ。今日は特別に社員の皆さんにお知らせしたいことがあってこの場を借りることにした。これは所謂ひとつの緊急動議だと思って欲しい」

株主総会でも会議でもないのに緊急動議発令?
ロビーにいた数人の男性は、ただならぬ言葉にいったい何事かと言った表情でスクリーンに見入った。

「いつも社員の皆さんの仕事ぶりには感謝している。先日発表された四半期決算は皆さんも御覧になったと思うが、最終的な損益を示す連結純利益は前年同期に比べ55%増益だ。売上高と純利益は3年連続、営業利益は2年連続の過去最高を更新した。これもひとえに社員の皆さんの努力の賜物だと思っている。ぜひ今後も今期同様に業績が好調に推移することを希望する」

司はそこまで言うと、ひと呼吸置き、言葉を継いだ。

「ここからわたくし事になるが、皆さんにお知らせしたいことがある。わたくし、道明寺司は先日ある女性と結婚した。今日まで公にしなかったが、社員の皆さんには知っておいてもらおうと思う。まず結婚していることを隠す必要がどこにあるか考えたが、何も不利益になるようなことは無いと判断した。ではなぜこれまで結婚を伏せていたかについてだが、ひと言で言えば妻が公表することを望まなかったからだ。わたしも当初はそれでいいと思った。秘密にしておくことで妻の安全が守れるなら話す必要がないと考えた。だがわたしには企業の代表者として社員のみなさんに説明する責任がある。それが例えプライベートな結婚についてだとしてもだ」

そこまでは、真面目に話をしていた司だが、スクリーンの中の男はまるで気の置けない楽しいお喋りでもするかのように砕けた態度になった。

「皆さんは自分の理想の恋を見つけようとしたことがあるだろうか?俺に言わせれば、そんなモンこの世の中には無い。正直恋だの愛だのと騒いでいる人間に仕事の出来る人間はいない。・・・と、俺も今まではそんなことを考えていたわけだが・・・まあいい。過去の話はいいな。話しを現在に戻そう」

司は一番重要なことに話しを戻すことにした。
そしてその口調は愛情に満ちていた。

「俺は一人の女性に出会ってからその考えも変わった。その女性ってのが真面目な女で仕事熱心。融通が利かないってのか、とにかく真面目だな。おまけに恥ずかしがり屋。目立つことは嫌いってタイプ。けど仕事はバリバリこなす女だ。まさか俺も自分がそんな女と恋に落ちるなんてことは思いもしなかったが恋ってのはある日突然始まるもんだ。・・気づいた時には恋に落ちてた」

大型スクリーンの中に映し出されている男の社内向けメッセージとは全社員に向かっての結婚報告。この状況をどう説明すればいいのか・・・。おそらく殆どの社員は表情を失っているはずだ。何しろ、今まで雲の上の存在と思われていた道明寺支社長が社内とは言え、自らの言葉で結婚報告をしているといった状況。そして自分の恋愛について語る。社員は困惑を隠せないと言った方が正しいだろう。

それにしても、眉目秀麗、クールビューティーと言われる男が自らの恋愛について話しをする。

・・いったい何があったのか?

やがてスクリーンの中の司のハンサムな顔は、ゆるやかな笑顔に変わった。
まさに見ている者がうっとりと見惚れてしまうその表情。恐らくそんな彼の表情は今まで世間に向けられたことはないはずだ。

「つくし!!おい、見てるか?おまえがうちで働くのは全然構わねぇけど、おまえが会社で道明寺つくしと名乗らねぇってならクビにしてやるからな!!よし。俺の話は以上だ。社員の諸君。これからも我社のため、社会のため、今後もよろしく頼む」

最期に意味ありげに片方の眉を上げた男の話は終わった。
と、スクリーンはいつもの道明寺HDのロゴに変わっていた。

・・これはいったいなんの話しがしたかったのか?

ロビーにいた人間はあ然とした表情で暫くその場に佇んでいた。
そして囁かれるのは、道明寺つくし?そんな社員がうちにいるのか?
どこの部署だ?おまえ知ってるか?・・・


「おい!なにぼんやりしてるんだ!」
背後から夫の声が聞えてきて、つくしは振り返った。
「つ、つか・・?な、なに?どうしたの?」

まだNYにいるはずの夫の出現に驚くと同時に、何が何だかさっぱり状況が掴めなかった。
何しろ社内向け支社長メッセージは自分たちの結婚報告。
そして今この場にいないはずの男がここに居ることが。

「どうもこうもねぇ。俺のメッセージは受け取ったか?」
「はぁ?」
「このメッセージの為にNYから帰ってきた」

と、いうことは、あれは収録ではなく生放送だったということだ。

「・・あの・・」

と、口を開いたつくしと同時に喋り出した夫。

「俺は今日を機におまえとの結婚を秘密にすることは止めた。いいか。もしこれから広く世間に知られることになったとして、なぜ今まで言わなかったんだってことになったとき、隠してたと思われることは、おまえとの結婚が後ろめたいからだと思われるはずだ。俺に言わせればそんなことを思われる事が問題だ。それにこれからは夫婦での公式行事の出番が増える。だからおまえとの結婚を秘密にしとくのは今日で終わりだ。つくし、おまえは無用な気遣いをされるだ、仕事がやりにくいだなんて言ったけど、違うだろ?」

司は指摘する。

「だいだいいい年して何が恥ずかしだかしらねぇけど、おまえはもっと堂々としてればいい。それにおまえは賢い。仕事は出来る。おまえは俺がこの目で選んだいい女だ!俺の妻だってことに自信を持て。俺はおまえが好きなんだ。おまえじゃねぇと駄目だ」

つくしの考えはやはり読まれていた。
結婚したものの、自分の様に平凡な女が道明寺司の妻でいていいのだろうかと言った思いがまだどこかにあった。

「なあ。俺はおまえを自分の妻だって知らせたい。出来れば世間に向かって大きく公表したいくらいだ。まあ、そんなことされたらおまえは困るって顔すんだろうけど」

つくしはその言葉に少し罪悪感を覚えた。
確かに会社では結婚していることを言わないで欲しいと言ったが、永遠にというつもりはない。司の言いたいことは理解出来る。これから彼の妻として、道明寺財閥の後継者の妻として、もっと広い世界へと足を踏み入れることはわかっている。それに司がどんな存在であるかを思えば、いつまでも秘密にしておくわけにはいかないとわかっている。

「よし、行くぞ」
「は?」
「はじゃねぇ。行くぞ!そのパソコン貸せ」
司はつくしからパソコンを取り上げた。
「い、行くってどこに?」
つくしは司に手を取られ歩き始めたが慌てた。
「おい!紺野!こいつの荷物取って来たか?」

つくしの背後から現れたのは、今は夫の秘書のひとりで元部下の紺野。
その紺野がつくしの鞄を手にしていた。

「はい。奥様の机から取ってきました」
「こ、紺野くん?ちょっと、あたしの鞄どうやって・・」
「よし。戻るぞ!」
「えっ?なに?戻る?ど、どこに戻るのよ?」
「おまえをひとり残してNYに戻れるか?せっかくここまで来たのになに寝ぼけたこと言ってんだ?一緒にあっちへ戻るんだ」
「えっ?だってあたしまだ仕事が残ってるのよ?そ、それに司は本当にこの為だけに帰国したの?」

このメッセージだけのために帰って来た。その言葉に嘘はないだろう。
NYと東京を頻繁に行き来することが、日常茶飯事だという夫の世界。
そんな男は世界が狭いはずだ。

「ねえ、司、本当にあたし、仕事が残ってるの!次回の社内報を任されてるの!司の・・支社長の経営に関する考えをまとめる作業があるの!」
何を言おうが無視する夫。ならばとつくしは相手を変えた。
「紺野くん、あたし仕事が残ってるのよ!」

紺野はつくしの鞄を手に司の後ろを歩いていた。
司はチラッと紺野に視線を向け、つくしのパソコンを手渡す。

「奥様、大丈夫です。広報課長は問題ないそうです。何しろ広報課長をはじめとする広報室の皆さんは支社長と奥様のことはご存知ですからご心配なさらないで下さい」

なるほど。
親切丁寧に仕事を教えてくれると思えば、既に二人の関係は知られていたということか。
とはいえ、つくしは夫が突然現れ、NYへ連れて行くといった意味が分からない。

「・・それにもう俺は指輪を外したままだなんてごめんだ!これからは堂々とつけてやる。いいか?俺たちは夫婦だ。これ以上秘密にするつもりはねぇからな!」

二人は指輪をネックレスにして、身に着けていた。
まるで二人だけの秘密だと言えるその行為。

司はつくしの身体を抱き寄せ、次の瞬間、身体を両腕に抱きかかえていた。
それは、はじめて二人が出会ったあの時と同じお姫様だっこと呼ばれるものだ。

「俺と結婚してくれて感謝してる。つくし」

司は腕の中の女を抱きしめ、さらりと言ってのけたが、つくしはふい胸が一杯になり、強い愛情を感じ、思わず涙が溢れそうになり、慌てて目をしばたたいていた。そして、ロビーには大勢の人間が二人のそんな様子を遠巻きに見ていたが、つくしは、そんなことはもうどうでもいいと思っていた。





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コメント
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dot 2017.02.22 12:47 | 編集
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dot 2017.02.22 13:26 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.02.22 13:28 | 編集
とん**コーン様
道明寺HD業績絶好調ですね?
坊っちゃん流石です。
私も雇っていただきたいです(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.22 22:30 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
司、社内発表しましたが、社員に知らしめるため、時間指定をしてまで必ず見るように通達する(笑)
四半期決算の話が自分の結婚報告へ変わり、恋愛観の話に変わる(笑)
社員もどうすればいいのかと、困ったことでしょう(笑)
人前で抱き上げ、キスをするのは当然のようですよ(笑)
何しろアメリカ生活の長い男です。そして情の深い男ですから、愛情表現も大袈裟でしょう(笑)
NYへ連れていかれるつくし。(笑)
なにがあるのでしょう。司×**OVE様流石です^^
紺野くんはつくしのことを知っていますから、つくしも接しやすいと思います。
紺野くん、仕事は順調のようですよ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.22 22:42 | 編集
さと**ん様
社内向けの支社長メッセージが結婚報告だった!(笑)
四半期決算の話がいつの間に!社員も驚いたことでしょう。
愛情のこもった口調で語りながらつくしの顔を思い出し、ゆるやかな笑顔になったようです。
レンズの向うにいるつくしに対しての笑顔。
そんな笑顔を見た女子社員の何人かは、卒倒したかもしれませんね?
みんなに二人のことを、言いたかったと思いますが、つくしが自分のことは内緒にしてと言った本当の意図を汲み取ったようです。
これから起こる社内騒動を後にNYへ向かう二人でした(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.22 22:54 | 編集
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